□龍園翔
石崎たちの停学によってー90ポイントのペナルティを受けた状態で試験が始まった。
すぐに気がついた、これがあのいけ好かない生徒会長の狙いだったと。退学を回避し甘い処分だと笑っていた俺たちを、あの会長は笑っていたんだろうな。
だが、この状況が逆に俺に一つの作戦を思いつかせた。
初期ポイント300が試験開始直後に90減らされて210ポイントになった。
これはつまり財布の現金と同じだ。使えば減る。罰金を取られれば減る。最後は0になる。
だが、0になっちまえばそれ以上のペナルティはない。マイナスにならないことは坂上に確認済みだ。
だから俺はまず210ポイント全てを物資に変えた。そして110ポイント分の物資をAクラスに譲渡すると、100ポイント分の物資を使って豪遊し、BクラスとDクラスの猿どもを騙した。
そして初日に送り込んだスパイの金田と、金田にくっついていった椎名とかいう女以外を全員リタイアさせた。34名分のリタイアでペナルティを食らうが財布の中身は0だ。ダメージはない。
そして、そのまま俺は無人島の中に一人で隠れ潜み、誰にも見つからないようにサバイバル生活を始めた。スポットの占有はしない。トイレなどもない。他クラスが占有したスポットを使ったペナルティ、環境破壊・環境汚染ペナルティが与えられるが関係ねえ。
これが無敵の人ってやつか、はっ、笑えねえな。
俺はこのまま一週間潜伏し、スパイの金田からBとDのリーダーの情報を得る。
そして最終日のリーダー当てで両方のクラスのリーダーを当てれば、最後に+100ポイントで試験終了だ。
「坂柳のせいで5000ポイントしか得られねえし、Aクラスのリーダーを指名することもできなくなったのは痛いが、両方のリーダーの情報が手に入れられれば追加で2万ポイントが手に入る」
一人頭2万5千。Aクラスは40人だから100万。
この試験が終われば100クラスポイントと毎月100万のプライベートポイントが俺の手に転がり込んでくる。
「見ていやがれ、生徒会長。俺はこの程度で潰れる男じゃねえぞ」
審議の後に生徒会入りしたDクラスの猿も、生徒会長の妹とかいう生意気そうな女も、Dクラスごと俺が潰してやる……!
□葛城康平
「占有できたスポットは9か所か……」
思ったよりも占有できたとも言えるし、少なかったとも言える。
Aクラスの拠点である洞窟周辺のスポットはこちらが抑えたが、逆にB・D同盟のベースキャンプ周辺は相手に抑えられた。さすがに島中のスポットをAクラスが占有するのは無理があったな。
「だが、それでも最終日までに平均して17ポイント以上は得られる計算だ。スポット占有のボーナスだけで150ポイント以上獲得できる」
Cクラスとの契約で手に入れた物資と、テントを必要としない洞窟という好条件で初期の270ポイントは全て残っている。
これとスポット占有ボーナスを合わせれば420ポイント。更に龍園がBとDのリーダーを突き止めることができれば100ポイントのボーナスだ。
「合計520ポイント。この結果を突きつければ坂柳派も勢いを失うはずだ」
「さすがです、葛城さん! あいつらに誰がこのクラスの真のリーダーなのか教えてやりましょう!」
「声が大きいぞ、弥彦」
「あっ、も、申し訳ありません!」
弥彦はこうしてたまに軽率なところがあるので心配だ。
だが、俺が一番信頼している男でもある。坂柳派の人間がどこに潜んでいるのかわからない中で、こいつ以上に信頼できる相手はいない。
もしも弥彦に裏切られたのなら……所詮、俺はそこまでの男だったということだろう。
「時間だ。スポット更新に向かうぞ」
「はい、葛城さん! すぐにみんなを集めてきます!」
坂柳が半リタイアとなって指揮をとれない今回の試験、このチャンスを活かして必ずや俺がAクラスのリーダーになってみせよう。
□一之瀬帆波
「帆波、デートしようか」
「う、うん……」
晴柀くんにデートに誘われた私は、こっそりベースキャンプから離れて二人で夜の浜辺にやってきた。
「ここに座って」
「ありがとう」
上着を脱いで地面に敷いてくれる。ジャージだし、下は砂浜だからそのまま座っちゃってもいいんだけど、こういう優しいところに嬉しくなってしまう。
「ほら」
「うん……」
晴柀くんに促されて肩を寄せる。男の子とこんな近くで寄り添ったことがないからドキドキしてしまう。
「ね、ねえ、晴柀くん。本当に恋人の振りをしないとダメなのかな? 普通にしてたら……」
「ダメだよ。金田を騙すためには帆波と俺が恋人同士だって思わせないといけないんだ」
「うぅ……理屈はわかったけど……」
坂柳さんに教えてもらったAクラスとCクラスの密約に、Cクラスが物資を譲渡した痕跡。
これだけの証拠があるんだから、金田くんがCクラスのスパイだっていうのは本当なんだろう。
椎名さんもスパイなのかなって思ったけど、晴柀くんは椎名さんは違うと言うから違うみたい。確かに私の目から見ても普通にキャンプを楽しんでいるように見える。
「俺が常に肌身離さず持っているキーカードを金田は狙っている。キーカードを盗むか、デジカメで写真を撮って葛城に見せないと葛城は信じないからね。証拠がないと信じない」
「うん、葛城くんは慎重な人だから確実な証拠がなかったらリーダーを指名しないと思う」
「だから、俺たちは隙を見せないといけないだ。肌身離さず持っているキーカードを手放しても不自然じゃないと思う『罠』を張る。そして金田にキーカードを盗ませる」
「……うん」
理屈は分かる。分かっている。だけど……。
「……やっぱり、恥ずかしいよぉ……」
「大丈夫。可愛いよ。帆波」
「あうぅぅ……」
夜の浜辺。人工的な灯りはなくて月明りと星の瞬きだけ。
暗い海に無数の星が光ってすごく綺麗。
こんな場所に男の子と二人でいるって、なんだか、凄く恥ずかしい。
「帆波。キスしていい?」
「にゃっ!? だ、ダメだよ! え、演技……! 恋人のフリなんだからっ!」
「残念だ」
冗談とも本気とも分からない。私だけ緊張しているみたいで不公平じゃないかな!?
そういえばいっつも女の子に囲まれているし……。しかもみんな可愛い子ばっかり……。
さっきまでドキドキしていたはずなのに、なんだか胸がモヤモヤしてきたかもしれない。
「どうしたの?」
「……なんでもないよっ!」
顔を背ける。これはただのお芝居なんだから。
明日も、明後日も……金田くんを罠に嵌めるために、恋人のフリをするだけなんだからね。
□綾小路清隆
自然はいい……。俺の悩みなんて雄大な大自然の前ではちっぽけなことだったんだ……。
あの施設でVRでの研修は受けたが、本物の自然に触れたことはなかった。空も、海も、魚を獲って料理して自分たちで食べることも、あの施設には存在していなかった。
「綾小路の獲った魚、めっちゃ美味いな!」
「明日もまた海に行こうぜ! 綾小路と池の二人がいるなら大漁間違いなしだろ!」
山内や須郷と一緒にバーベキューコンロを囲む。Cクラスが使っていたらしく金網もついていて一度に大量の魚を焼ける。
その中から一つ取り出し、口に運んだ。
「――美味い」
「だろ! やっぱりアウトドアの醍醐味はこれだよ! 自分で獲った魚を自分で食うのが美味いんだって! いっぱいあるからもっと食えよ、綾小路!」
「ああ……。おかわりをもらうぞ」
池の言うとおりだ。これがアウトドアの醍醐味……。こんなに美味い魚は食べたことがない。
「明日は軽井沢とか篠原も連れて行ってよー、あいつらの目の前で大量の魚を獲って見せつけてやろうぜ!」
「……そうだな」
クラスでも池と篠原が口論するのはよくあることだ。みんなまたかと思って誰も気にしていない。
だが、池のがんばりを俺は知っている。この無人島で誰よりも率先して行動をする姿を見ている。
「……明日が楽しみだな」
「綾小路もやる気満々か! ああ、楽しみだな!!」
池の雄姿をあいつらに見せつけてやろう。俺の中で、何かが少しだけ動いたような気がした。
試験開始直後に0ポイント作戦を考えたのはめちゃくちゃ凄い龍園。
坂柳がいない間に優位に立ちたいが戸塚の失敗に気がつかない葛城。
悪い男に騙されている一之瀬。
アウトドアで友情を深める綾小路。
リーダーがみんなポンコツだ……!