サバイバル生活三日目。
今日もスポット更新の後に池たちは食料集めに向かっている。ただ平田は男子グループから追い出されてしまったようだ。平田が一緒にいると『全部平田のお陰じゃないか』と言われてしまうことに気がついたらしい。
平田本人は池と綾小路の成果だと言っているのだが、これまでの信頼の積み重ねと顔面偏差値の差からどうしても池の活躍が低く見積もられているようだ。
そんなわけで男子グループから追い出された平田は軽井沢達と一緒にベースキャンプの近くで果物や野菜を集めている。この状況を知ったら池は涙を流して悔しがりそうだな……。
かくいう俺は朝から工作に励んでいる。
池たちが大量に魚を獲ってきてくれるので、『燻製器』を作って魚の燻製にしようと思ったのだ。燻製器で一番重要なのは煙を逃さない『箱』をどうやって用意するかだが、ちょうど非常用トイレの段ボールが余っている。一度も使用していない綺麗な新品だ。
それを燻製器に加工して、試しに島で見つかったトウモロコシを燻製にしてみたところ、非常に美味しくできた。途中から興味深そうに見学していた女の子たちにも試食してもらったけど好評で、頑張って作った俺も嬉しくなる。
「渉くん、次は何を作っているの……?」
「ちょっと閃いてね。これから椅子を作ろうと思うんだ」
「椅子? 木の棒とビニール袋で……?」
「ビニール袋がいくらでも貰えるから、こうして裂いてしまえば……ほら、紐の完成だ! 紐と木の棒があればいろいろと作れるようになるよ!」
愛里たちが見ている前で一番簡単な椅子、三本の短い木の棒を組み合わせた三脚チェアを腰掛ける部分にはビニール袋を使用して、体重を乗せても外れたり避けたりしないように工夫をした。
「完成っと。愛里、良かったら座ってみてもらえる?」
「う、うん……。――わぁ……。こんな簡単な椅子なのに凄くしっかりしてる。それに座ってもお尻が痛くないし……。す、すごいよ、渉くん」
「なら良かった。硬い地面や椅子に座っているとしっかり休めないからね。その椅子はそのまま愛里が使ってね」
「あ、ありがとう。大切にするね」
椅子作りはブッシュクラフトの基本なんだけど、これだけ喜んで貰えるなら作った俺も嬉しい。
そして、俺が愛里に椅子をプレゼントしたことで周りで見ていた子たちも自分にも作ってほしいとお願いしてきた。
「作るのはいいけど俺一人で全員分を作るのは難しいから、手伝ってくれる人を募集するよ! 俺の作業の手伝いに数人だけ残って、他の人はそれぞれの仕事をやってくれるかな?」
俺がそう告げると、俺と普段から仲のいい女の子たち以外は自分の仕事に戻っていった。ちゃんと人数分を作るから心配しないでくれ。
椅子製作担当チームは愛里、みーちゃん、椎名さんの3人。鈴音や桔梗は体力のある女の子たちと一緒に少し遠くまで探索に出かけている。
3人に手分けしてもらって、椅子を作るのにちょうどいい長さの木の棒を集めてもらったり、ビニール袋を先生たちから貰ってきて紐状に裂く作業をやってもらう。材料集めが大変だけど、俺の作業スピードも考えると3人くらいでちょうどいいだろう。
「もっとお手伝いできればと思いましたが、晴柀くんの手際の良さが凄まじいですね」
「は、晴柀くんがどんどん作っていくから、3人で材料を集めているのに足りないよぉ」
「薪用の枝を置いている場所から木の棒を拝借しましょう。佐倉さん、ご同行をお願いできますか?」
「う、うん……! わかった……!」
「二人とも早く帰ってきてね! このままだと紐がなくなっちゃう!」
愛里たち3人だけだと少し厳しかったかもしれない。
それでも3人が材料集めをがんばってくれたお陰で椅子作りは順調に進み、30脚ほど作ることができた。途中から木の棒がなくなって材料集めに回っていたので、明日にはクラス全員分、79脚の椅子を作ることができるだろう。
ちなみに作った椅子のうち、B・Dクラスの女子たちへ10脚ずつ渡し、残りの10脚は他の男子たちには申し訳ないが池たちのグループに渡した。一日3回、スポット更新で動き回って食料調達までしている池たちの負担が大きいので、ここは優先的に椅子を使ってもらうべきだろう。
「あ、ありがとうな、総理。正直、女子たちの方が先だと思っていた」
「何言ってるんだよ。池たちはDクラスのみんなのためにポイントを稼いでくれているんだぞ。このくらいしかできないけど、スポット更新ありがとうな。ほら、魚の燻製もいい感じにできたし遠慮しないで食ってくれ」
「そ、総理ぃ……!!!」
池たちがとても喜んでくれたので譲って良かったと思う。
それともちろんスポット更新班の平田にも椅子を一つ上げたが、平田は軽井沢に譲ったようだ。自分の椅子を手に入れた軽井沢を椅子を貰えなかった女子が羨ましそうに見ていた。
ちなみに愛里、みーちゃん、椎名さんの3人には椅子を作っている間に先にプレゼントしている。自分たちで作ったのに自分の椅子がないなんて悲しいことにはならない。
それと鈴音と桔梗、帆波と神崎はクラスのまとめ役として頑張ってもらっているからと理由をつけて椅子を渡している。
たかが椅子だが、こういうところでちゃんと特別扱いするのが大事だ。神崎はおまけだが、特別な相手を特別扱いするのは当たり前のことで、他の生徒たちと一緒の扱いをするなんてあり得ない。今後も恋人(恋人候補)と他の生徒はしっかりと区別するつもりだ。
□堀北鈴音
今日でサバイバル生活は四日目。
私は一之瀬さんと櫛田さんと一緒にAクラスの拠点に足を運んでいた。
「食料の交換だと?」
「ええ。こちらのスポットで確保した果物、野菜、それと魚の燻製を出すことができるわ。これをあなたたちのスポットで手に入るものと交換したいの」
布を敷いて持ってきた食料を並べていく。この中だと手間がかかっている魚の燻製だけは少し高値で交換をしたいわね。
「Aクラスは食料に困っていない。交換をする必要を感じないな」
「私たちも葛城くんたちがお腹を空かせているとは思ってないよ? でも、毎日同じ食べ物ばっかり食べてたらそろそろ飽きが来ちゃうんじゃないかなって思ったんだよ!」
「食材の種類が増えたらお料理にも使えるかもしれないし、Aクラスのみんなも喜ぶと思うんだけど……ダメかな?」
「むう……、それは一理ある、か……」
一之瀬さんと櫛田さん。一年生の中でも最もコミュ力の高い二人を前にすると葛城くんでもタジタジね。
――『Aクラスとの交渉』を言い出したのは渉くんだった。
私たちとAクラスはこの無人島試験のライバルだけど、いがみ合うだけじゃなく必要なところでは手を取り合った方が得になる、と。
様々な食材が採れるこの島なら、他のスポットを占領しているAクラスにも多種多様な食材が集まっているだろうし、それを手に入れられれば料理のレパートリーが増えると彼が言ったのだ。
……渉くんの手料理、悔しいけど美味しいのよね。アウトドアでの調理にも慣れているみたいで焚火やバーベキューセットでも美味しい料理を作ってしまうし、料理担当の子たちに混ざっていろいろと教えているのを見かける。
昨日作ってくれた椅子も、石に座っているより楽で……。慣れると簡単だよと言っていたけど、彼のサバイバル能力が非常に高いことが分かったわ。
そして、そのサバイバル能力だけではない、もう一つの彼の能力もこの試験で判明した。
Bクラスの一之瀬さんと話をしてすぐに同盟を結んでしまったこと。
綾小路くんからいつの間にか聞きだしてAクラスのリーダーを見抜いたこと。
Cクラスの椎名さんがキャンプにやってきて金田くんがスパイだと教えてくれたこと。
Aクラスの坂柳さんと交渉してAクラスとCクラスの密約の情報を手に入れたこと。
『人脈』、あるいは『人望』と呼ばれる力。それを渉くんは持っている。
思い返してみたら、この無人島試験が始まる前に兄さんから特別試験の情報を得ていたのも『人脈』だし、私が彼に推測を話しているのも『人脈』の一部と捉えることができる。
私が持っていない力。一人で何でもできるようになろうとしてきた私が切り捨ててきた力。
渉くんという人間を間近で見ていた私は、ようやくそのことを理解できてきた。
人一人ができることは限られているけれど、大勢の人間が集まれば大きなことを成すことができる。
そして、私が知っている一年生の中で、これまで見てきた各クラスのリーダーの中で……渉くんが最も大きな力を集めることができる。
「――わかった。食糧交換に応じよう。今渡せるものを見せるから、そちらの希望の品を教えてくれ」
ついに葛城くんが食料の交換に応じた。
これは私の力ではない。一之瀬さんと櫛田さんを動かしたことで葛城くんを動かしたのは、間違いなく渉くんの力だった。
堀北、仲間の大切さを思い知るの回。
原作の挫折とは別の展開で一人では何もできないと考える。