誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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恋愛サバイバル

□坂柳有栖

 

「坂柳。晴柀とのやりとり、随分と楽しそうだったじゃない」

「ええ、神室さん。晴柀くんが私の想像を超えてきたのがとても楽しかったです。わざわざ無理を言って今回のバカンスに同行した甲斐がありました」

「……やっぱりあんた、この旅行で特別試験が行われると知っていたのね」

「先生方の態度は大変分かりやすかったですよ」

 

 ただのバカンスのはずなのに私の病気を理由に欠席することを勧められましたからね。一学期中にクラスポイントが大きく変動するようなイベントがなかったことと合わせて、このバカンス中に特別試験が開催されるというのは当然の帰結です。

 

「葛城くんへの牽制のついでにお友達の晴柀くんへ少しばかり支援をして差し上げようと思っていましたが、逆に葛城くんの失態を教えてもらうことになるとは思いませんでした」

「でもリーダーだと見抜いたのは晴柀じゃないし、櫛田たちと島の散策中に運良く戸塚の失敗を目撃したクラスメイトのお手柄って感じだけど」

「確かに今回の功績は晴柀くんではなく櫛田さんと堀北さんの能力があってものでしょう。あの二人は学年でもトップクラスに優秀な人材、Aクラスに配属されていてもおかしくないです。ただ二人とも天才ではなく秀才、生まれ持った天才である私には敵いませんが、それでも二人がかりなら私の遊び相手くらいにはなれるでしょう」

「はいはい。相変わらず自信たっぷりね、天才様は」

「事実ですから」

 

 この学校に入学した時は『彼』に会いに行くまでの三年間を、どうやって暇を潰そうかと悩んでいたものです。

 ですが幸運にもお友達の晴柀くんと、遊び相手になれそうな櫛田さんと堀北さんに出会うことができました。

 意外と退屈せずにすみそうです。

 

「早く次の特別試験が始まらないでしょうか」

「まだ試験の途中で終わってすらいないのに何言ってんのよ」

 

 今回の試験でこれ以上私ができることはほぼ皆無なんですよ。

 今から次の特別試験が待ち遠しいです……。

 

 

□椎名ひより

 

 龍園くんがクラスのポイントを使い切ってから全員でリタイアをすると言った時、私は豪華客船で本を読もうと考える前に、Dクラスの晴柀くんたちのところに遊びに行こうと考えていました。

 

 不思議です。中学時代の私は人付き合いは必要最低限しかせず、常に本のことだけを考えて過ごしていました。

 この学校でも同じです。クラスには読書が好きそうな人が居らず、友達も作らずにずっと図書室で本を読んでいました。

 

 そんな私が、自由に行動していいと言われて真っ先に頭に浮かんできたのが晴柀くんと堀北さん。Dクラスにいる読書友達のお二人だったのです。

 

「……いつの間にこんなに変わってしまったんでしょう」

 

 本を読むことより、お二人と本の感想を語り合う方が楽しい。

 それが本と関係のない話をするようになり、一緒に過ごす時間を好ましいと感じるようになった。

 

「私に本よりも大切な物ができるなんて……」

 

 新たな自分の発見に驚きながらも、不思議と胸の奥が温かくなるのでした。

 

 ――そして、金田くんがスパイになってB・Dクラスの合同キャンプに向かった時に私も一緒についていきました。

 晴柀くんたちは金田くんがスパイだとすぐに見抜きましたが、それでも私のことを快く受け入れてくれました。皆さんには感謝しかありません。

 

 それなのに、私は……。私は……。

 

「……晴柀くんに、私も名前で呼んでほしいです」

 

 堀北さんたちはみんな名前で呼び合ったりあだ名で呼んでいます。

 それなのに私だけ未だに『椎名さん』と呼ばれるのは寂しいです。

 

「じゃあ、これからはひよりって呼ぶね」

「はい! よろしくお願いします、渉くん!」

 

 だから、彼が私のことを『ひより』と呼んでくれたことがとても嬉しくて。

 『渉くん』と呼ぶのは少し照れくさかったですけど、名前で呼び合うことで二人の距離が縮まったような……そんな気がしました。

 

 

□櫛田桔梗

 

 イライラする。

 

「晴柀くん、なんでも作れて凄いよね~」

 

 イライラする。

 

「食材が増えたからって新しい献立も考えてくれたし、料理も上手すぎ!」

 

 イライラする。

 

「でもね、晴柀くん、一之瀬さんといい感じらしいよ。夜に二人きりでキャンプを抜け出す姿を見かけたって……」

「え、あの一之瀬さんと!」

「一之瀬さんなら勝ち目ないよー」

 

 イライラ、する……!

 

 この無人島試験が始まってから、私は晴柀くんと二人きりになれる暇がなかった。

 船上では池に呼び出されて告白された。断ろうかと思ったけど私のイメージではないし、告白だと気がつかなかった振りをして寛治くんと呼ぶことになった。

 桔梗ちゃんと嬉しそうに呼んでくるけど、私はもうとっくに渉くんのものだから。その事実を池が知ったらどんな顔をするのかなって想像したら少しだけ胸がスッとした。

 

 島について試験が始まった後、渉くんはBクラスとの同盟に動いた。もちろん私もその考えに賛同したけど、本当はあの一之瀬と一緒にいるのは嫌だった。

 私よりも勉強ができて、私よりも胸が大きくて、Bクラスのみんなから慕われているいい人なのに演技には見えなくて。Dクラスのみんなも一之瀬に自然と信頼を寄せている。私はみんなから信頼されるために一生懸命我慢して頑張っているのに。

 渉くんが一之瀬と仲良くする姿を見る度に胸がチクチクしてムカムカして嫌な気分になる。

 

 渉くんが活躍した後の女子たちに反応も気に入らない。

 本当はみんなに渉くんの凄さを知ってほしい。でも私以外の誰にも知られたくない。

 

 王の奴は尻尾振った犬みたいに渉くんの後をおいかけているけど、最初の頃にお前が渉くんを避けていたの知ってるんだからな。「入学してすぐの頃に親切にされたけど、怖い人だと思っていてお礼を言えなかった」だって。ずっとそのまま避け続けていれば良かったのに。

 

 長谷部も男嫌いで人付き合いが嫌いって態度だったくせに。料理の準備をしている時に渉くんに話しかけて「お礼が遅れたけど、水泳の補習を受けられるようにしてくれてありがと」だって。あざとい。

 勉強ができて運動もできて、今回の試験でも大活躍している渉くんの魅力に今頃気がついたんでしょ?

 

 他にも佐藤も松下も、Cクラスの椎名も、他の女子も……。どいつもこいつも渉くんに色目を使って……。

 

 イライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラする――。

 

「桔梗。ちょっといいかな?」

「うん、大丈夫だよ! なにかな、渉くん?」

 

 渉くんに呼ばれて彼の後をついていく。今は不機嫌そうな顔は見せない。彼に甘えるのは二人きりの時だけって決めているし、実際にこうしてほんの少しの間だけでも一緒に居られるのが嬉しいから。

 

 でも、私に何の用だろう? また軽井沢さんたちが暴走しないように注意してくれって話かな?

 正直あいつらの相手をするのは面倒なんけど、軽井沢が晴柀くんを目の仇にしているって話もあるし私が気をつけて――。

 

「これを作ったんだ。背もたれの部分に苦労したんだけど、自分でもよくできたと思うんだよね。どうかな?」

 

 そう言って渉くんが見せてくれたのは三脚チェアとは段違いに大きな椅子だった。1メートル以上の長さの棒を何本も組み合わせて、背もたれの部分にビニールを使ったリクライニングチェアみたいな椅子。

 

「わあ、凄いね! こんな大きな物まで作っちゃうなんてさすが渉くん!」

「ありがとう。座ってみてくれる?」

「うん! ……しっかり背中を預けて座れるのに、体全体を包まれているみたいな不思議な感触がするね」

「窮屈だったりしない?」

「大丈夫だよ! でも、座り心地が良すぎてこのまま眠っちゃいそうかも」

 

 三脚チェアは背もたれがない。テントなら横になって足を延ばせるけど、地面の硬さは気になっていた。

 でも、この椅子なら背中を預けることもできるし、地面の硬さに悩まされることもない。本当にこのまま眠ってしまえそうな気持ち良さだ。

 

「このまま眠っちゃってもいいよ。クラスの面倒を見るのに大変だったでしょ。頑張ってくれた桔梗に俺からのプレゼント」

「え?」

 

 驚く私に渉くんが優しく微笑んでくれた。

 

「桔梗に負担をかけていたからさ。少しでも癒してもらおうと思ってこの椅子を作ったんだよ」

 

 ああ……。

 そっか。渉くんは、やっぱりちゃんと私のことを見てくれているんだ……。

 

 安心した途端に急に眠気がこみ上げてきた。

 疲れが溜まっていたんだと思う。テントの中だとあんまり眠られなくて睡眠不足気味だったし、椅子の心地よさと渉くんが隣にいてくれる安心感で、力が抜けてしまった。

 

「お休み、桔梗」

「うん……おやすみなさい、渉くん」

 

 渉くんが優しく頭を撫でてくれるのがとても心地よくて、私はストンと意識が落ちるように眠りについた。

 

 ――目が覚めるとすぐ隣で渉くんが何か作っていて、その周りには木の棒やビニールを持った佐倉さんたちがいた。

 また女の子に囲まれている……。でも今は気分がいいから見逃してあげよう。今だけね。

 

 

 □一之瀬帆波

 

 とても楽しい毎日だった。

 サバイバル生活に苦労している子たちには申し訳ないけど、この島でみんなで協力して困難を乗り越えようとする毎日が私は好きだ。

 Bクラスのみんなだけじゃなくて、Dクラスの子たちともこの無人島生活で仲良くなれた気がする。

 

 それはもちろん、今こうして私の隣に座っている晴柀くんも同じなんだけど……。

 

 夜の浜辺で二人きり。付き合っている振りをするために、毎晩ここで晴柀くんと一緒に時間を過ごしている。

 最初は晴柀くんからのスキンシップに緊張したり照れたり大変だったけど、いつの間にか彼の隣にいることに安心感を抱くようになった。……それでもドキドキはするけど。

 

 男の子と付き合ったことはないし、誰かと交際するつもりもないけど、晴柀くんの彼女になったらこんな感じなのかなぁ、とかちょっと考えてしまったりして。……ちょっとだけだよ?

 

 でも、晴柀くんは私以外の女の子に優しいし、平気で口説くし、なんだったら一夫多妻制にするとか言っちゃう人だから、私にも軽い気持ちで付き合おうとか言っているのかもしれない。……想像したら、少しだけ胸の奥がモヤっとしたけど、今は気がつかない振りをしておく。

 

「……晴柀くんはどうして私に付き合おうって言うの?」

 

 気がついたらそんな言葉が私の口からこぼれていた。

 

「付き合う気になった?」

「違うよっ。……ちょっと疑問に思っただけ」

 

 純粋な疑問だからね。付き合おうとか思ってない。断じて違う。違うからね。

 

「晴柀くんは私以外にも仲のいい女の子がたくさんいるし、実際にクラスの女子も晴柀くんのことをよく話題にしているよ。私じゃなくてもいいんじゃないかな?」

「好意を持ってもらえるの嬉しいけど、俺って『頑張っている子』が好きなんだよね」

「頑張っている子? それが私ってこと?」

「うん」

 

 頑張っている。確かに私は中学時代の反省からいろんなことを頑張ろうって考えているけど、晴柀くんはそういう子が好きってこと?

 

「帆波はBクラスのリーダーとして頑張っているよね」

「う、うん。確かに頑張っているよ。でもそれは――」

 

「でも、帆波はリーダーとしてみんなを引っ張っていくのはあまり得意じゃない。サブリーダーとしてリーダーの補佐をする方が向いているタイプだと思う」

「にゃっ!?」

 

 私がサブリーダーに向いていると言われて驚いた。でも、確かに晴柀くんの言葉がストンと私の胸に収まった。

 そっか……。私、サブリーダーの方が向いているんだ……。

 じゃあリーダーは神崎くんに任せて、私が神崎くんを補佐する方がいいのかなぁ?

 

「ただ、神崎もサブリーダー向きなんだよね。積極性が足りなくて受け身になりやすいから、やっぱりリーダーに向いていない。Bクラスはサブリーダーは複数はいるけどリーダー不在のクラスだと思ってる」

「にゃっ!?」

 

 神崎くんもサブリーダー!?

 いや、確かに言われてみるとその通りだし、私の足りないところを補ってくれるけど。

 私たちのクラス、リーダー不在でサブリーダーたちだけで運営していたの!?

 

「そんな状態でもクラスのリーダーとして振舞って、ちゃんとみんなを纏めている帆波は凄いね。Bクラスの誰よりも頑張っているよ」

「……そ、そんなこと、ないよ。みんなが支えてくれるお陰だから……」

 

 不意打ちで褒めてくるのがズルい。

 確かにクラス運営なんて慣れないことばっかりで、これでいいのかなってずっと不安で、それでもみんなが私をリーダーに選んでくれたから頑張らないとって思っていた。

 

「そういう風にすぐにクラスのみんなのお陰だって考えるられるのも帆波の美点だね。素敵なところがたくさんある、とても魅力的な女の子だ」

「晴柀くん……」

 

「――そんないい子じゃないよ、私」

 

 晴柀くんが私のことをたくさん褒めてくれて、素敵な女の子だって言ってくれる度に、私の胸が痛くなる。

 私は晴柀くんを、クラスのみんなを騙している。

 こんな風に優しい言葉をかけてもらえる価値なんてない。

 犯罪者で、家族を悲しませた悪い人間だから。

 

「ごめんね。今までずっと黙っていて――騙していて。でも、晴柀くんには嘘をつきたくない……。これ以上、嘘をつけないよ……」

「嘘?」

「坂柳さんに教えるはずだった私の過去。私の罪を、晴柀くんにも聞いてほしいの。私は――」

 

 どうして坂柳さんとの取引で私の秘密を差し出したのか。

 誰にも知られたくない過去を彼女に話そうと思ったのか。

 それはきっと晴柀くんがいたから。

 私の中で晴柀くんの存在がこれ以上大きくなってしまう前に、本当の私を知られて減滅されて、彼に否定されて傷つく前に、自分から全部ぶちまけて距離を取りたいと思ったから。

 

 あの頃から何も変わらない。私は自分の罪悪感から逃げるために、晴柀くんに全てを話してしまった。




坂柳→お友達。他の有象無象と違って少しだけ気にかけてあげる相手。自分より下。ペット。
 →遊び相手。高育の三年間で自分を楽しませてくれる相手。自分より下。暇つぶしの玩具。

椎名 他の生徒がリタイアして船に戻っているのに自分がリタイアしていないことに驚いている。友達と一緒なら過酷なサバイバル生活すら楽しいと気がついた。

櫛田 晴柀が作ってくれた椅子でお昼寝してスッキリ爽快。他の子にも椅子を快く貸してあげる天使の櫛田。

一之瀬 晴柀に口説かれる度にドキドキしつつ、『彼を騙しているんじゃないか』と罪悪感を感じていた。本当は悪い子なんです。
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