□金田悟
BクラスもDクラスも愚かですねぇ。
龍園氏の策にあっさりとハマり、ベースキャンプ内に僕と椎名氏を招き入れるとは信じられない不用心さです。
そして椎名氏の協力もあり誰がキーカードを所持しているのかも判明しています。
Bクラスのキーカード所持者は一之瀬氏、Dクラスのキーカード所持者は晴柀氏です。ですが、彼らはキーカードを預かっているだけで真のリーダーは別の生徒のようですね。
リーダーが実際にスポット更新でカードを使う場面を撮影するか、二人の目を盗んでキーカードを撮影するか、キーカードそのものを盗み出す必要があります。
ですが、スポット更新時は当然のように厳重に警戒しています。キーカードを直接手に入れる方法を考えた方がいいでしょう。
今日はもう6日目。試験は明日で終了です。
雨が男子テントを叩く音を聞きながら、僕はどうやってキーカードを手に入れるか考えていました。
「な、なあ神崎! あの噂知っているか? 一之瀬が……」
僕が思索にふけっていると、Bクラスの柴田氏がなにやら焦った様子で神崎氏に話しかけていました。
何かのアクシデントでしょうか。耳をそばだてます。
……下らない話でしたねぇ。
一之瀬氏と晴柀氏が自分たちのクラスの生徒に隠れて交際しているという話でした。
どうやらこの話を言いふらしているのがDクラスの生徒の軽井沢という女子生徒だったそうで、二人が人目を避けて毎晩どこかに消えていくのを見たそうです。
「い、一之瀬が晴柀と……。それが本当だったら俺は……。俺は!」
「落ち着け柴田。ただの噂だろう。心配するな」
「だけど神崎ぃ……。一之瀬と晴柀が楽しそうに話しているところを俺も見たことあるんだよ……」
「とにかく落ち着け」
柴田氏は一之瀬氏のことが好きだったようですねぇ。
僕はああいう社交的なタイプではなく、落ち着いていて頭の良い人が好きですが……。まあ、それは置いておきましょう。
それよりも、この話を利用できるのはないでしょうか。
「失礼。話は聞かせていただきました」
「……金田か。何の用だ?」
「その噂が真実か嘘か、真相を確かめないことには柴田氏も安心できないではないですか?」
「……それは、そうかもしれんが。どうやって確かめると?」
「簡単ですよ。本当に一之瀬氏と晴柀氏が二人で抜け出しているというのなら、我々が彼らの後をこっそりと尾行し、何をしているのか確かめればいいのです」
「そうだ! それだ! 金田、神崎! 俺、今晩確かめてみる! 噂は嘘っぱちだって俺が証明してやるんだ!」
「……仕方ない。そういうことなら俺も柴田に同行しよう」
「僕も同行します。一番最初にこの提案をしたのは僕ですからね」
「悪いな! よろしく頼む、神崎! 金田!」
夜までに雨が止むかどうか次第ですが、本当にあの二人がキャンプから抜け出しているのならチャンスがやってくるかもしれません。
柴田氏たちと一緒に尾行を行い、首尾よくキーカードを盗むことができたならそのまま逃亡し、龍園氏と葛城氏にキーカードを渡してリタイアですね。
チャンスが来なかった時は仕方ありません。運が良かったと諦めましょう。
あとは忘れずに椎名氏にも作戦を伝えおかないといけませんね。僕が逃亡した後に椎名氏が針の筵に置かれるのは間違いないでしょう。このキャンプまで戻ってくることはできないでしょうから、いざとなったら一人でキャンプを抜け出してリタイアしてもらうことにしましょう。
椎名氏……。龍園氏にわざと殴られて怪我をした僕を心配して、こうしてB・Dクラスのベースキャンプまで付き添ってくれた天使のような女性です。
僕を置いて一人でリタイアしても構わなかったのに、一週間近くサバイバル生活に突き合わせてしまい、大変申し訳なく思います。
彼女の献身に応えるためにも、必ずやこの任務を成功させてみせましょう……!
6日目、夜。
噂の通りに一之瀬氏と晴柀氏が二人でキャンプを抜け出すのを確認しました。
柴田氏、神崎氏と一緒に後を追いますが、どうやら浜辺に向かっているようです。
「一之瀬、嘘だろ……。お前はそんなことしないよな……。なあ……」
柴田氏がブツブツと呟いていますが、距離があるので二人に聞かれる心配はないでしょう。
その代わり、二人が何を話しているのかこちらにも聞き取れません。クラスリーダー同士の話し合いの可能性は否めません。
「「「――っ!?」」」
そう思っていたところで、突然晴柀氏がジャージを脱ぎ捨てました。その下に来ていたシャツも脱いで……あれは、水着でしょうか。
どうやらジャージの下に水着を着こんでいたようです。
そして、晴柀氏が一之瀬氏に何か声をかけて……一之瀬氏が恥ずかしそうにジャージを脱ぐと、やはり彼女も水着姿になりました。
「一之瀬……一之瀬ぇ……そんな、そんなぁ……」
「気をしっかり持て! 柴田! おい!」
柴田氏が地面に崩れ落ち、すすり泣く声が聞こえてきました。
夜の浜辺で、男女が隠れて二人きりで海水浴を楽しむ……。どう考えても二人は『親密な仲』で間違いないでしょう。
「柴田、帰ろう。俺たちのテントに戻って今日はゆっくりと休むんだ」
「神崎ぃ、どうしてあそこにいるのが俺じゃないんだ……。なあ、神崎ぃ……」
神崎氏が柴田氏に肩を貸して立たせると、ゆっくりとベースキャンプへの道を戻っていきます。
――まさに今が、千載一遇のチャンス!!!
「神崎氏、僕はもう少しだけあの二人の様子を確認してから戻ります。もしかしたら何か新しい情報が得られるかもしれません」
「……そうか。それなら後は頼んだ。俺は先に戻って柴田を休ませておく」
神崎氏たちが森の奥に消えて、物音ひとつ聞こえなくなるまで待ちました。
愚かですねぇ。本当に愚かです。
周囲に人影がないことを確認します。一之瀬氏と晴柀氏は楽しそうに海で泳いでいますね。
二人が脱いだジャージはちょうど岩陰に置かれていて、回り込めば二人に気がつかれないように接近できそうです。
僕はできるだけ静かに、素早く近づくと、二人のジャージの間から無事にキーカードを手に入れることができました。
Bクラスのリーダーは『白波千尋』。
Dクラスのリーダーは『平田洋介』。
キーカードにバッチリと名前が書かれています。
あとはこれを持ち帰るだけですね。カメラのフラッシュを焚いたら沖にいる二人に気づかれる可能性があります。リスクを考えればこのまま持ち去るのが一番確実です。
最後に二人を確認したところ、海の中で抱き合っているようでした。
誰も見ていないと思って随分と大胆なことをしています。
「これが恋愛脳というものでしょうか。まさか特別試験の最中にクラスのリーダーがこんな間抜けを晒すとは思いませんでしたねぇ。恋愛とは恐ろしいものです」
彼らが海から上がってきてキーカードがなくなっていることに気がついた時にどんな顔をするのか気になりましたが、そんな無駄なリスクを負うわけにもいかないのですぐにその場を離脱して龍園氏に連絡を入れました。
これでAクラスとの契約も上手くいくでしょう。
ただ、椎名氏がちゃんとキャンプから離脱できるのか。それだけが心配です。
□
――その後。
森の中から晴柀たちに向かってチカチカとライトの光が瞬いた。
事前に決めていた通りの『計画成功』の合図である。
だが、金田はとっくにこの場から離れていたので、この光に気がつくことはできなかったのだ。
金田は実はCクラスのスパイだったんだよ~!(知ってた)
金田氏、怪我をした自分に寄り添ってくれた()椎名氏に対して好感度が急上昇。椎名氏にいいところを見せようとがんばった模様。恋愛脳ですねぇ。