誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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『語られざる試験』
アニメよう実のBD特典ドラマCDより。
1年生編の無人島試験直後に行われた、堀北学が主催の宝探しゲーム。たぶんほとんどの人は知らない。


晴柀渉の試験

「堀北くん、例の試験は開催しなくて良かったんですか?」

「ああ」

「折角いろいろと調べていたのに……」

 

 夏休みの真っ最中。一年生の無人島試験が終了した頃、堀北兄と橘の二人が話をしていた。

 

 実は堀北兄が一年生たちが休暇を過ごしている豪華客船を訪れ、賞金10万ポイントを賭けた『堀北兄主導の特別試験(宝探しゲーム)』を開催するという計画が存在したのだ。

 

 このゲーム、AからDの4クラスに2個ずつ、合計8個の『宝のヒント』が配られるのだが、実は全てのヒントを揃えないと宝が見つからない。

 DクラスとBクラスのヒントは『宝が隠されている場所』が、AクラスとCクラスのヒントは『宝の鍵の在処』が書かれていて、全クラスが協力することでようやく『宝の場所と鍵の在処』が判明するという仕組みになっていた。

 堀北兄がこのようなゲームを開催したのは『時にはクラスの対立を越えて協力し合う必要がある』ということを一年生たちに教えたかったから――というのはただの建前だ。

 

「鈴音には晴柀がついている。今更あの試験を開催せずとも奴なら上手くやるはずだ」

「ふふ。本当に堀北くんは晴柀くんのことがお気に入りなんですね」

「かもしれんな。だが、俺の見込み通りの男かどうかは今回の試験の結果が出た時に分かるだろう」

「勝てるといいですね、晴柀くんと妹さんのクラス」

「ああ」

 

 宝探しゲームのテーマは『協力』。

 孤高と孤独をはき違えていた妹に周りと協力する必要性を教えたい。それが試験と称して不器用な兄から妹に伝えたかったメッセージである。

 

 だが、今の堀北妹には晴柀がいる。そして晴柀はすで周囲と協力することの重要性を認識している。

 だから堀北兄が主催するはずだった試験(ゲーム)は実行されなかった。

 堀北兄からの支援がないまま、晴柀は自分の力だけで次の船上試験を乗り越えなければならなかった。

 

 □

 

 船上試験・0日目。夜8時。

 

 翌朝から始まる試験を前に、俺たち全クラスのリーダーと教師たちがカフェに集まっていた。

 彼らを前に、俺は全グループを結果①で終わらせたいという自分の計画を披露した。

 

「はっ、その為に俺たちに協力しろだと? バカバカしい」

 

 このままではDクラスに落ちることが確定している龍園がせせら笑う。

 

「確かに一人50万のプライベートポイントは惜しいがな。知っての通りうちのクラスはこのままじゃDクラスなんだ。お前らと仲良くプライベートポイントを分け合うより、少しでもクラスポイントを稼ぎたいんだよ。俺がお前らの話に乗ってやるメリットがねえな」

 

 12グループで4クラスに3人ずつ優待者がいた場合、他のクラスの優待者を全員当てることができれば450クラスポイントを得ることができる。

 192ポイントしかない龍園クラスにとって、大量のクラスポイント獲得のチャンスを見逃すのはずがなかった。

 

「……俺も反対だ」

 

 重々しい空気で龍園に同調したのは葛城だった。

 

「現在トップのAクラスのポイントは1074。二位のBクラスが972ポイントと差を詰めてきているので、今回の試験でポイントを稼ぎBクラスとのリードを広げておくべきだと考えている。

 ……まあ、Aクラスのリーダーは俺ではないがな」

 

 無人島試験の失態で大量のポイントを失った葛城はその影響力をほとんど失ったらしい。

 戸塚などの数人は今でも葛城派として残っているが、それ以外のほぼ全員は坂柳さんをリーダーとして支持している。

 そして、葛城はそんなクラスの状態で自分の意見を無理に押し通すほど頑迷ではなく、自分の意見を述べはするものの、最終的には坂柳さんの判断に従うようだった。

 

「龍園くんと葛城くんは反対ですか。私は晴柀くんの考えに賛成しますよ」

「私たちBクラスも賛成するよっ!」

 

 貪欲にクラスポイントを求める彼らに対し、坂柳さんと帆波はプライベートポイントの大量獲得が狙える俺の案の賛成してくれるようだ。

 

「はっ、だが俺の協力がなければ全グループを結果①にするのは無理だぜ?」

 

 龍園は二人の言葉を前にして余裕の態度を崩さない。

 龍園クラスの協力がなければ不可能だから、交渉の余地があると勘違いしているんだろう。

 

「その時はあなたが一人で損をするだけよ、龍園くん」

「ああ? それはどういう意味だ、鈴音」

「言った通りよ。もう既にこの試験の盤上は決している。あなたには二つの道しか残されていないわ」

「二つの道……? ――まさか、お前らっ!」

 

 そう、龍園に残っているのは『協力する』か『協力しない』かのどちらかだけ。

 

「もしもあなたが協力を拒むのなら、私たちはBクラスとAクラスと組んであなたのクラスを狙い撃ちにするわ」

「私たちが自分たちのクラスの優待者を交互に指名して、クラスポイントの収支が0になるように終わらせちゃうよ~」

「残りは元Cクラスの優待者だけ……恐らく3名が残っているので、それを一人ずつ分け合ってこの試験は終了ですね」

 

 A・B・Cクラスの3クラス協力体制。

 例えば俺たちがAクラスの優待者を指名し、AクラスがBクラスの優待者を指名し、Bクラスが俺たちのクラスの優待者を指名して処理する契約を交わし、残った龍園クラスの優待者を美味しくいただいたとしよう。

 

 そうすると優待者を当てたボーナスとして3クラスが200万プライベートポイントと、クラスポイント50を得る。

 そして一人だけ負けた龍園クラスはプライベートポイントを得られず、クラスポイント-150となって試験が終了する。

 

「わかったかしら龍園くん。『クラスポイントを諦めて全クラスが2150万プライベートポイントを得る』か、『龍園くんのクラスだけクラスポイントを失って終わる』か。既にこの試験はこの二つの結末しかないのよ」

「クソが……っ!!!」

 

 ガン、と龍園の拳がテーブルを荒々しく叩いた。

 だがすぐに思考を切り替えて交渉を続けようとする。タフだなぁ。それに頭の回転も速い。

 

「待て、よく考えろ! 俺のクラスを狙うよりAクラスを狙った方がいいだろう? 今のトップを俺たち3クラスで引きずりおろす! Bクラスだってその方がいいんじゃないか?」

「にゃはは。なるほど、確かに一理あるね~」

 

 AとBの差は102ポイント。Aクラスを狙い撃ちすれば確かにBクラスがAに繰り上がることができる。

 一番先頭を走るAクラスを狙うのは俺たちのクラスとしても悪い選択ではない。

 

「でもね、龍園くん。さっきも言ったけど私は全グループを結果①で終わらせたいんだよね。そして、坂柳さんは私と晴柀くんの考えに賛成してくれているの」

「クラスポイントの増減がないということはAクラスのトップは変わらないということです。そして大量のプライベートポイントが入手できるのですから、反対する理由はありません」

 

 チラリと坂柳さんが横に座っている葛城さんを見上げた。

 

「――反対したら真っ先に狙われるのはAクラスですしね。それなら晴柀くんの提案に賛成しますよ」

「くっ。……確かに坂柳の言う通りだ。俺も賛成しよう」

 

 俺たちと帆波たちのクラスが強固な協力体制を敷いている以上、狙い撃ちをする相手はAクラスでも龍園クラスでも構わない。

 そしてトップのAクラスとドベの龍園クラスなら、Aクラスを狙って引き摺り下ろした方が今後有利になる。

 その事態を回避するために坂柳さんは真っ先に俺たちへの協力を示したんだ。

 

「というわけで、Bクラスは龍園くんが協力を拒んだ場合でも晴柀くんと坂柳さんと手を組むよ!」

「Aクラスは今言った通りです」

「これでわかったかしら龍園くん」

 

 Aクラスに標的を逸らすことに失敗した龍園が苦々し気に顔を歪め、吐き捨てるように言った。

 

「……チッ。わかった、俺たちも結果①に協力しよう。これでいいか」

「ええ」

 

 鈴音が神妙な様子で頷き、龍園の言葉を受け入れた。

 その隣に座っている俺は鈴音の成長に感動していた。

 

 入学当初の鈴音だったら、ここで『最初からそう言っておけばよかったのに時間の無駄だったわね』などと毒を吐いていただろう。

 無駄に敵を作るような物言いをしなくなったのは大きな進歩だ。堀北会長、鈴音はしっかり成長していますよ……!

 

 □

 

「だが、今回の試験では誰かが裏切者になってもわからないぜ。匿名制だからな。ここで結果①にすると決めても、こっそり裏切者が出てくる可能性はあるんじゃないか?」

「さすがだな、龍園。そういう悪巧みがすぐに出てくるとはな」

「お前はもう少し頭を使った方がいいと思うぜぇ、ハゲ」

「ふん、余計なお世話だ。だが龍園の指摘は尤もだろう。その対策はどうなっている?」

 

 クラスポイントを諦めると口で言っても、裏でこっそりと他のクラスを出し抜こうとするかもしれない。

 龍園や葛城の指摘は当然想定済みだ。

 

「その為に今日、この場に集まってもらったんだ」

 

 明日から試験が始まってしまう前の、僅かな準備期間。

 ここで全てを終わらせる。

 

「俺の提案はこうだ。試験が始まる前に『生徒全員の端末を取り上げて鍵付きのロッカーに仕舞う』。『試験中、誰一人として端末に触れることができない状態にする』。これが俺の考えた裏切者対策だ」

 

 物理的にメールも見えないし、メールを送ることもできない状態する。

 優待者本人すらメールを見れないので自分が優待者かどうかもわからない。だから絶対に秘密が漏れない。

 

「それと、ロッカーはクラスごとに4つに分けて、各クラスのリーダーの立会いの下で全員分の端末が揃っていることを確認してから鍵をかけて、先生方に鍵を預ける。Aクラスのロッカーの鍵は星之宮先生、Bクラスのロッカーの鍵は坂上先生――という風にね」

 

 この鍵の保管と合わせてもう一つ先生たちにはお願いした。

 

「それと、全員分の端末がしっかりとロッカーに入れられたのを確認したら、あとは最終日の4日目の試験終了まで自由時間――1日2回の話し合いも免除にしてもらったから好きにしていいよ」

 

 メールを確認することができず、優待者が誰かも分からない状態でグループを集めて話し合っても意味がない。

 実質的に試験は終了しているので自由時間してほしいと要望を出し、それが通った形になる。

 

「他に質問とかある? 質問がないなら今から生徒全員集めて端末を回収するけど、いいかな?」

 

 ――こうして今回の特別試験、船上試験は明日の試験開始を待たず、0日目で終了したのだった。




船上試験終了RTA。記録は0日目で終了です。
生徒全員の端末を取り上げてしまえば裏切りしたくてもできないよね(脳筋)

ちなみに鍵付きロッカーはドラマCDの『語られざる試験』で船内に存在している。
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