端末を回収して4日間鍵をかけて保管するという作戦をクラスのみんなに説明したところ、当然のように猛反対が出た。
だが、この豪華客船の船内で過ごすなら端末は別に必要ないのだ。
船内の施設は全てポイントを使わずに利用可能だ。レストランやカフェ、プールやジム、劇場やエステなどを無料で楽しめる。
友人との連絡が取れずに困るという問題もあるが、いくら大きな船とはいえ生徒が入れる場所は限られている。船の中を探し歩けば絶対に会えないなんてことはないだろう。
そんなことよりも、今回の報酬で配布される50万プライベートポイントを集めて、『クラス貯金』を確保することの方が重要だ。
2000万あれば『退学を撤回することができる』。
もしも今後、特別試験のペナルティなどでクラスの誰かが『退学』しなければならない事態に陥った時に、この2000万があればペナルティを無効にできるのだ。
「僕は晴柀くんに賛成するよ。2000万プライベートポイントをクラス貯金として確保しておいて、誰かが退学させられそうになった時の保険にしたい」
「私ももちろん賛成だよ! みんなで一緒に卒業したいから、誰かが退学になっちゃうなんて嫌だよ!」
「……平田くんがそう言うなら」
「さっすが桔梗ちゃん! マジで天使みたいに優しいよな!」
平田と桔梗が真っ先に2000万ポイントを貯金することに賛成した。
すると軽井沢さんのグループと池たちも賛成に回り、クラスの意見が賛成に傾く。
ただ、こういう時に必ず反対して輪を乱す人間がいる。もちろん高円寺だ。
『私に与えられたプライベートポイントをどうしてクラスに差し出す必要があるのかね?』とか言い出すに決まっている。
面倒くさいが、高円寺だけ集金を免除した場合は他のクラスメイトも集金を拒むのが目に見えていた。50万というのはそれだけ大金だから当然だ。
なので、事前に高円寺とは個別に話をつけてある。根回しという奴だ。
高円寺は無人島でAクラスのリーダーを見抜いたように今度の試験でも優待者を見抜く自信があったようだ。だが、生徒全員がメールを見れないようにして『自分が優待者かどうかわからない』状態にしてしまえば、いくら高円寺でも優待者を見抜くことはできない。
端末を封印することで高円寺の独断による裏切りを封じることができるのだ。
そして、その上で試験を実質的に終了させて煩わしい『話し合い』を回避させるという条件で高円寺の協力を取り付けた。
「ふっ、晴柀ボーイとの約束だから仕方ないね。今回だけは私も協力しよう」
あの問題児の高円寺が素直に端末を差し出したことで、俺たちのクラスは一つにまとまった。
やっぱり話し合いの前に事前に根回しをするって大事だよなぁ。
□龍園翔
鈴音たちにしてやられた。
今回の試験、優待者を見抜く方法は二つあった。
一つは話し合いで優待者がボロを出すのを見抜くこと。もう一つは学園側が設定していただろう優待者の法則に気づくこと。
もし優待者の法則に真っ先に気づくことができたら一気に俺たちのクラスのポイントを増やすことができたってのに。
まさか試験が始まる前にクラスポイントの獲得を諦めて、全クラスで大量のプライベートポイント獲得を目指す大馬鹿野郎がいるとは思わなかったぜ。
しかも携帯の管理も徹底してやがる。
一度あいつらの提案に合意したフリをして他クラスの優待者を探そうと考えていたが、全クラスの携帯を鍵付きロッカーに保管して鍵を担任も持たせるなんて手段を打ってくるとは思いもしなかった。
俺たちが動かせるのは精々坂上の野郎だけだが、さすがにこの状況で坂上がロッカーの鍵を寄越すわけがない。どうせ携帯にもロックが掛かっているだろうしな。
となると、後は試験後に手に入る2000万ポイントの使い道だ。
2000万ポイントを支払えば他クラスへの移動が可能になる。
言い換えれば『他クラスからの引き抜き』が可能というわけだ。
狙い目は葛城のハゲだろう。坂柳との対立でクラス内で孤立している。葛城派も壊滅状態だし俺の右腕として使ってやってもいい。
……だが、問題は今の俺たちのクラスポイントが192ポイントしかないということだ。
Aクラスのポイントは1074ポイント。しかも坂柳の独裁状態なので今後はクラス内での混乱も少なくなるだろう。
今のままではあまりに差が大きすぎる。もっとクラスポイントの差が縮まるか、葛城がAクラスを完全に見限るような決定的な出来事がない限り、しばらく様子見に回るべきだな。
場合によっては葛城以外にも良さそうな候補が入ればスカウトしていいが……。
Bクラスは一之瀬の元で纏ってやがるし無理だろう。ならば鈴音たちのクラスか。
……よし、クラスの連中に命令してまたちょっかいかけてやるか。
それであいつらがどう動くか、見極めさせてもらうぜ。
□葛城康平
やはり俺は坂柳に一歩及ばないのか……。
無人島試験が始まった時、体調に不安のある坂柳が半リタイアとなり、俺がクラスの主導権を握った。あの時が最大のチャンスだったというのに、俺はそれを無駄にしてしまった。
龍園の持ちかけてきた契約。110ポイント分の物資を譲渡する代わりに毎月1万1千プライベートポイントを龍園に譲渡するという内容だった。
正直迷ったのだが、俺が断れば龍園は他のクラスに――Bクラスにこの契約を持ちかけるのは目に見えていた。
Bクラスとのリードを確保することだけを考え、プライベートポイント欲しさに物資を売りつける龍園を軽蔑していた俺は、何も考えずに契約を結ぶところだった。
だが、そこで待ったをかけたのが坂柳だ。
坂柳派の生徒たちを纏めて龍園との契約の問題点を指摘し、条件の改定を求めてきたのだ。
特に大きかったのが『龍園たちはAクラスのリーダーを指名してはいけない』という条件だろう。俺は龍園が裏切る可能性を失念していた。
更に、月々の支払い金額を5000ポイントに値切ったり、龍園が持ってきた他クラスのリーダー情報が誤っていた場合にAクラスはポイントを譲渡しないという条件を盛り込んだり、かなりAクラスに有利な条件を盛り込むことができた。
その代わりと言っては何だが、龍園が持ってきたリーダー情報が正しかった場合は1万ポイントの増額を約束し、最大で2万5千ポイントを毎月龍園に支払うという契約にしたのは見事だった。
初期の契約であった1万1千ポイントの2倍以上の金額だ。龍園の働き次第でポイントが増えるという点を強調し、相手のプライドを刺激して挑発混じりの交渉をこなした坂柳の方が一枚上手だったと言える。
――そして、無人島試験最終日。
ずっと島に潜伏していた龍園が0ポイントにとなり、俺たちのクラスが70ポイントしか手に入れられなかった瞬間に、俺は自分の敗北を悟ってしまった。
もしも龍園の持ってきた契約をそのまま受け入れていれば、俺たちは他クラスに大差をつけられた上で龍園に毎月1万1千ポイントを支払い続けることになっていた。
だが、それを坂柳が覆した。
体のハンデを背負い、半リタイアという状態で浜辺から動けないまま、Aクラスの損害を防いで見せた。
更に、試験後に一之瀬から聞き、俺と戸塚の二人が洞窟のスポットを占有した瞬間を目撃されていたと知った。
Aクラスのリーダーが当てられたのは完全に俺のミスだ。俺のミスで100クラスポイントも減らしてしまった。
そして今回のグループ試験も坂柳がAクラスの代表となり、堀北や一之瀬と協力してすぐに試験を終わらせてしまった。
クラスポイントの変動はないが、Aクラスがトップなことに変わりはなく、更に2000万ポイントをこえる大量のプライベートポイントが手に入る。
「知っていますか、葛城くん。この学校では2000万ポイントを支払うと退学を一回だけ回避できるのですよ」
「なんだと!? そんな話、聞いたことがないぞ!」
「先生方が自分から吹聴する話ではありませんからね。ですが、聞けば教えてくれる情報です」
坂柳が今回の試験で2000万ポイント獲得を優先した理由。それはクラスの誰かが退学することになった時に、回避できるだけのポイントを確保しておくためだったのだ。
そのことを知り、俺は完全にリーダーとしての能力で坂柳に劣っていることを自覚した。
今でも俺を慕ってくれている戸塚たちには悪いが……。今後のクラス運営のことを考えるなら、俺は坂柳の補佐に回り、サブリーダーに徹する方がいいだろう。
「ふふふ。これからの働きを期待していますよ、葛城くん」
小さな女王に恭順の意を示す。俺と坂柳のリーダー争いはついに終わりを迎えたのだった。
問題児の高円寺は既に根回し済み。
高円寺としても50万ポイントは惜しいが、1日2回の話し合いが回避できるならまあいいだろう、と晴柀の提案に乗った。
その後、先生方と交渉してグループの話し合いをしないですむように晴柀が頑張った。
龍園は裏切る気満々だったが鍵付きロッカーや担任教師に手を出せずに諦める。
2000万ポイントを手に入れてから暗躍する方向に考えを改めた。
葛城は無人島試験と今回の船上試験で心が折れてリーダー争いを諦めた。実績が段違いだから仕方ないね。
坂柳は次の試験に向けて足場固めを終わらせたので、早く晴柀や堀北たちと遊びたくてウズウズしている。葛城イジメより楽しい玩具を見つけてしまった。