誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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動き出す歯車

□真鍋志保

 

 グループ試験が始まる前に終わった後、龍園がまたDクラスにちょっかいをかけろとか言い出した。

 須藤の一件で石崎たちが停学になってクラスポイントがかなり減ったのにまだ懲りないらしい。暴力以外に何のとりえもない男がうちのクラスのリーダーをしているなんてマジで最悪。

 

 どうせスマホも取り上げられて連絡も取れないんだし、適当に命令に従っているフリをして誤魔化そうと思っていた。

 だけど、たまたま入ったカフェで騒いでいた女子たちを見て気が変わった。

 

「あいつ、もしかしてリカが言っていた奴じゃない? ほら、夏休み入る前にモールで突き飛ばされたとか言ってた」

「あ、そういえば! 金髪でポニーテールってその通りじゃん!」

「リカを連れてきて確認したいけど、スマホがないから面倒だね」

「ちょっとCクラスの子に声かけてリカを呼んできてもらうわ」

 

 私たちが探していた相手を偶然見つけられた上に、ラッキーなことにアイツはDクラスの一員だった。

 これでリカを突き飛ばしたことを謝らせることができるし、Dクラスにちょっかいをかけろという龍園の指示もこなすことができる。まさに一石二鳥だ。

 

「ねえ志保。アイツにいつ声かける?」

「そりゃもちろん、周りの取り巻きがいない時でしょ」

 

 グループ同士でぶつかり合うより、アイツ一人を囲んだ方が話が楽だもの。さすがに四六時中仲間と一緒にいるとは思えないから隙を見て接触するつもりだ。

 

「これで素直に謝れたら拍子抜けだけど、どうなるかな?」

「そん時は諦めてこっちも引くわよ。でも、向こうが反抗的な態度を取ってきたら、その時はね?」

 

 Dクラスにちょっかいをかけろと言ったのは龍園だし。先にリカを突き飛ばしたのはアイツの方なんだから。少しくらいなら問題ないでしょ。

 だから、私は悪くない。

 

 

 □軽井沢恵

 

 私は寄生虫だ。

 誰かに寄生しないと生きていないから、入学してすぐに平田くんに私の過去を打ち明けて偽の彼氏になった。『平田くんの彼女』という立場が私の後ろ盾になってクラス内で確固たる地位を築けると考えたから。

 

 でも、『平田くんの彼女』という立場は少しずつ価値を失い始めていた。

 晴柀渉がクラスの中で存在感を増していくことが恐怖だった。

 

 Bクラスのリーダーの一之瀬と隠れて付き合っていると噂を流して疑いの目を向けようとしたけど、結局無人島試験でDクラスは一位を取った。二位のBクラスと比べても100ポイント以上多い大差をつけた圧勝。

 クラスのみんなが喜びに沸く中、私は晴柀の地位が更に盤石になる恐怖に身をすくめていた。

 私が一生懸命広げようとした噂なんて一瞬で吹き飛んでしまった。今回の試験で最もDクラスに貢献したリーダーが晴柀だとみんなが認めてしまったから。

 

 その後も晴柀を狙ってどうにか評判を下げられないか考えたけど、私のグループメンバーの反応が鈍い。教室で晴柀と仲良く話していることが多かった佐藤は消極的に反対してくるし、松下もやる気がないみたいで動きが鈍い。

 

 ――明らかに私の影響力が落ちている。

 

 だから私は、他の子たちとの間に大きな溝が生まれることを恐れて、晴柀の悪評を流す作戦はやめた。これ以上晴柀への攻撃を続けたら、私が彼女たちの標的にされる。

 

 これからどうしたらいいのか……。グループのみんなから離れて一人で考えているところに、あいつらがやってきた。

 Cクラスの真鍋というか女に、眼鏡をかけた大人しそうなリカという女。他にも取り巻きに二人。

 

 私がリカって子を突き飛ばしたから謝れって言ってきた。

 それを突っぱねたら、真鍋たちの嫌がらせが始まった。弱みを見せたら終わりだと思って私は必死に心を奮い立たせ、平田くんに真鍋たちの嫌がらせを相談した。

 

「――話はわかったよ。でも、暴力で解決したいなんて君らしくない」

 

 私らしくない? 私らしくないってどういうこと!?

 

「彼女が困っているんだよ! 彼氏なら助けてくれるのが普通じゃない! あいつら、絶対諦めてない……。次は何されるか……」

「一緒に考えよう。どうすれば真鍋さんたちと仲良くできるか」

 

 そんなこと求めてない。私は私を助けてほしいだけ。私を守ってくれればそれでいいの。

 

「守る。助けるよ。軽井沢さんは大切なクラスメイトの一人だ」

 

 それなら――!

 

「だけど、その為に誰かを傷つけることはできない」

 

 え……。

 

 どうしてそんなこと言うの?

 

 私を守ってくれるって言ったのに。

 

 嘘だったの!?

 

「嘘? 僕は一貫して同じ態度のつもりだよ。付き合うふりをするのは構わないけれど、君一人に肩入れをするようなことは絶対にしない」

 

 なにそれ。なんで今それを言うの……?

 

「もういい! 私の願いを聞いてくれないなら、あんたなんか必要ない!!」

 

 私を守ってくれるって言ったのに――!

 嘘つき!!!!

 

 

 

 □綾小路清隆

 

 茶柱からの再びの接触があった。

 無人島試験でDクラスが圧勝しただけでなく、その後のグループ試験で2000万ポイントという大量のポイントを手に入れられたが、それでもまだ茶柱は満足できないようだ。

 

 晴柀や堀北が試験中にクラスを主導していたが、茶柱は『俺が本当の実力を発揮すれば更なる成果を上げられたはずだ』と考えているようだった。

 

 茶柱の要求には際限がない。今のまま、晴柀たちに任せて俺が普通の生徒として過ごしている状態を良しとする女ではなかった。

 だが、俺には表舞台に出てクラスの指揮をするつもりはない。

 

 だから誰にも知られず、かつ茶柱を満足させるために、俺の代わりにクラスを動かしてくれる『駒』が必要だった。

 

「――もういい! 私の願いを聞いてくれないなら、あんたなんか必要ない!!」

 

 そして、そんな俺に絶好のチャンスが転がってきた。

 

 偽装カップルだった平田との破局。

 Cクラスの真鍋からの嫌がらせ。

 クラスカーストのトップの位置から転落しかけ、軽井沢は自分を守るはずのグループとの関係も危うい状態にある。

 

 平田から話を聞いた俺は軽井沢を『駒』にすることに決めた。

 

 だが、今はまだ手を出すには早い。軽井沢の心を完全に折るには入念な準備が必要だ。

 

 携帯端末がないので少し面倒だったが、外村がちょうどビデオカメラを持ってきていたので借りた。どうせ水着の女子を盗撮するために持ってきたのだろう。

 

 軽井沢を呼び出すのは簡単だった。「平田が軽井沢と二人きりで話がしたいと呼んでいる」と伝えれば嬉しそうな顔ですぐに待ち合わせ場所の地下に向かっていった。あんな啖呵を切ってもまだ平田に依存しているようだ。

 

 真鍋たちは軽井沢を執拗に狙っていたので、軽井沢が一人で地下に歩いていくのと見たとそれとなく吹き込んでやればすぐに餌に食らいついた。

 

「あははは……! これ、楽しい……!」

 

 そして、俺の計画通りに真鍋たちの虐めが始まった。

 これでいい。

 

 一度徹底的に壊してもらった方が、手間が省ける。




クラスカーストの変動

試験前 平田・櫛田・軽井沢 > 晴柀・堀北
試験後 晴柀 ≧ 櫛田・堀北 > 平田・軽井沢

無人島試験で特に目立つ活躍をした&Dクラスを1位に導いた晴柀がトップに躍り出て、補佐をしていた櫛田&堀北のカーストも上昇した。相対的に平田と軽井沢が下がった。
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