誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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怪物を生み出したのは誰なのか(2回目)


新たな怪物の産声

 桔梗なら俺の隣で寝てるよ。

 一糸纏わぬ生まれたままの姿で、天使のような寝顔ですやすやと夢を見ているところだ。

 

 ふぅ……。

 

 俺が少し褒めるだけで真っ赤になっていた桔梗の姿はとても可愛かった。これからもどんどん彼女を褒めていこうと思う。もちろん、お世辞じゃなくて本心からの言葉で彼女の素敵なところをいっぱい見つけていきたい。

 

 まあそれはともかく……。

 昨夜聞いた桔梗の話で気になったことがあったのだが、「人気者であるために嫌なことも進んでやった」らしく、その『嫌なこと』とやらの内容を教えてもらった。

 

 曰く、掃除当番で『桔梗以外の全員』が用事があったので、桔梗が一人で残って教室を掃除した。

 曰く、女子グループ7人に所属していたが、ジュースの買い出しに行く時は桔梗が『一人で』7人分のジュースを買いに行っていた。

 曰く――。

 

 これ、都合よく利用されてないか?

 

 セクハラ教師と不倫、パパ活女子、万引きの常習犯、妊娠三か月、アイドルの握手会出禁など――元からモラルの低いクラスメイトたちだと思ったが、『いい人』だった桔梗を『都合のいい人』として利用したのなら、桔梗を追い詰めたのはクラスメイトたち自身と言えるだろう。

 その結果、桔梗に反撃されてクラスが崩壊したのだとしても……正直あまり同情する気にはなれない。

 

「渉くん、何を考えているの?」

 

 そんな風に考え事にふけっていたせいか、いつの間にか桔梗が目を覚ましていたことに気がつかなかった。

 

「桔梗が悪い奴に騙されないか心配だなぁって考えていた」

「……それならもう手遅れだよ」

 

 ぎゅっ。

 

「とっくに悪い人に、騙されちゃってるもん……」

 

 桔梗が可愛すぎる。天使か。

 

 □

 

 一日中ベッドの中で桔梗とイチャイチャしていたい気分だったが、残念ながら俺にも桔梗にも予定が入っていた。

 テスト勉強から解放された初めての週末。桔梗はクラスの子たちと一緒にケヤキモールに行く予定。俺は鈴音と一緒に出掛ける予定だった。

 

「……私を放って堀北さんとデートするんだ。ふうん……」

 

 デビル桔梗が少しだけ顔を覗かせていたが、こういう嫉妬をする姿も可愛いな。ちなみにクラスのアイドルの『いい人』の方がエンジェル桔梗だ。

 

「ねえ、渉くんはいい子の私と悪い子の私、どっちが好き?」

「どっちも好き」

「もう……真剣に聞いているのに……」

 

 本心なんだが。俺はどちらの桔梗でも愛せる。

 ただ、一つ言わせてもらうとだ。

 

「クラスのアイドルとして男子たちの視線を集めている桔梗の本当の姿を、俺だけが知っている――というのは正直非常にそそる」

 

 性癖である。

 性癖には嘘をつけない。男だから。

 

「そっか。それならいい子にしてるね」

「桔梗の負担なら無理しないでいいよ」

「別に、負担じゃないよ」

 

「――いい子にしてたら、その分いっぱい渉くんが可愛がってくれるんでしょう?」

 

 そう言って小悪魔のように笑う桔梗の姿がとてもエロ可愛く。

 もしかしたら新たにサキュバス桔梗が誕生してしまったのかもしれない……。

 

 □

 

 というわけで、鈴音との待ち合わせで図書館にやってきた。

 今回の目的はズバリ『鈴音の友達獲得』である。

 

 中間テストの過去問の一件で鈴音の印象も回復しており、今なら友達作りのハードルも下がっているのは間違いない。

 だが、そもそも鈴音本人の対人能力、コミュニケーション能力不足が否めない。下手に女子の中に放り込んでもかえって浮くだけだろう。

 

 そこで、鈴音の趣味である『読書』を活かし、共通の本の話題で盛り上がれる『本好きの友人』を作ってコミュ力を鍛えようというのが今回の目的なのだ!

 

 中間試験の前は図書館で勉強をするグループが多かったが、テスト明けの今の時期に図書館にやってくる人間は間違いなく本好きに違いない。あとは誰に話しかけるかだ。

 

「ねえ、渉くん。いきなり声をかけたりしたら不審がられないかしら。そもそも誰に声をかけたらいいの?」

 

 俺発案の『友達作ろう作戦』を聞いて渋々ついてきた鈴音だが、用もないの誰かに話しかけるということに慣れていないから最初から及び腰だった。

 だが、誰に声をかけるかなんて簡単だ。ただ己の直感を信じればいい。

 

「こんにちは」

「……? 私ですか?」

 

 近くのテーブルに座って本を読んでいた灰色の髪の綺麗な女の子に早速声をかけた。

 

「本が好きな人と友達になりたいと思って声をかけさせてもらったんだ。俺は1年Dクラスの晴柀渉。君は?」

「私は椎名ひよりと申します。1年Cクラスです」

 

 俺が名乗ると椎名さんは嬉しそうに自分が読んでいた本を見せてくれた。

 レイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき女よ』。

 

「確かフィリップ・マーロウだっけ? ミステリーの」

「そうです! 読んだことはおありですか?」

「残念ながらその本は読んだことがないな。ミステリー系だと明智小五郎やコシャーロック・ホームズシリーズはほとんど読んだんだけど」

「まあ! 本当ですか!」

 

 どうやら彼女は推理小説愛好家のようだ。俺が読んだ本のタイトルをいくつか挙げると目を輝かせた。

 

「あ、もう一人紹介していいかな。この子は同じDクラスの堀北鈴音。最近は『罪と罰』を読んでるみたい」

「……堀北鈴音よ。ミステリーも嫌いではないわ。好きな作品はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』よ」

「そうなんですね! 私も読みましたが本当に素晴らしい作品ですよね!」

 

 椎名さんは本当に本が好きなのだろう。楽しそうに鈴音に話しかけているし、鈴音も自分と同レベルの会話ができる椎名さんに対して緊張が解れたようだ。

 二人が名前を挙げている作品は俺も名前くらいしか知らない作品が多かった。俺はジャンル問わず興味がある本を読むタイプだが、鈴音は教養とされるような格式と歴史のある名作を好み、椎名さんは推理小説全般を好んでいるようだった。

 

「本格ミステリーじゃないけど、この作品は随所に伏線が散りばめられていて、最後の最後で全ての伏線が上手に回収されていて面白かったよ」

 

 俺が最近出たばかりのおすすめの本を紹介し。

 

「文章力の高さや表現の美しさ、作者のセンスが感じられる一冊なの。日本語訳もいいけどできれば二人には原文の完成度を味わってほしいわ」

 

 鈴音が洋書を持ってきてこれがどれだけ素晴らしい作品なのかを熱弁し。

 

「この作品で使われたトリックの出来が本当に素晴らしいんです。でも周りに本の話をできる人が居なくて……ぜひ感想を聞かせてください」

 

 椎名もこれぞという一冊を選び、一緒に感想を語ろうと誘う。

 誰がどういう順番でどの本を借りて読むのか。それが問題だ。

 だってそんなに面白い本なら、読んだ後に絶対語りたくなるだろう。それに俺がオススメした本を読んだ後にどんな感想を抱いたのか非常に気になるに決まってる。

 

「どうしてこの図書館には蔵書が1冊しかないんだ……」

 

 2冊あれば、二人に同時に借りてもらって三人で読書感想会ができたのに……。

 

「在庫の種類は豊富なだけに残念でありません」

「……普通の図書館はわざわざ同じ本を2冊も入れないと思うわよ」

 

 この学校の図書館の意外な欠点が判明したもの、椎名さんとの図書トークは非常に楽しかった。

 しっかりと連絡先を交換して、今日借りた本を読み終わったらまたみんなで集まろうと約束した。

 鈴音も椎名さんと仲良くなれたみたいだし、『友達作ろう作戦』大成功だ。




エンジェル桔梗・デビル桔梗・サキュバス桔梗(NEW!!)
渉に食べられた一人目。

アニメ2期の8話の中学時代の桔梗のシーンを見ると『クラスの人気者』より『虐め被害者』に見える。
一人で教室掃除している姿と大量のジュースを一人で抱えて運んでいる姿はクラスの人気者にはとてもではないが見えない。
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