僕が感傷というか走馬灯にひたっていると吉良先生の声がした。
「最後に吉井君」
「あ、はい! 吉井明久です。文芸部と美術部兼部してます。興味がある方は部誌「ワイニーダット?」もしくは「もってく?」をどうぞ」
井上ともう一人の幼馴染に誘われて入った文芸部は、先輩がごっそり抜けたせいで廃部寸前になっていたから大変だったなぁ。部誌の発行の手順から全部僕たちでやったし。文芸部って名乗れるだけでも感慨深いや。美術部? 普通に活動してます!
僕がいろいろ考えながら席に着くと、吉良先生が待ってましたと言わんばかりに話始めた。
「なんかみんな観察処分者がって思っているみたいだけど違うからね。観察処分者っていうのはね――――――」
吉良先生が観察処分者の制度について説明している。うわぁ……追いつけないよ。初めの時に聞いたとはいえわけがわからないなぁ。っていうかクラスのほとんどの人がポカーンとしてるし。
「え、えっと……つまり吉井くんは凄く特殊な例ってことですか?」
さっき僕に話しかけてきたヘアバンドの子がおずおずと先生に声をかけた。話の途中で声かけるってすごい勇気だよね。
「特別性が……あ、そういうことだね。観察処分者は決してバカの称号じゃないんだよ。わかったかな?」
「「はーい」」
皆が返事をしていると、さらにもう一人ガラガラと教室の後のドアを開けて入ってきた。茶色の肩に着くくらいの髪をした黒縁の眼鏡の男子だ。パッと見ると井上の男子版に見えなくもない。というか、
「八神君、遅刻だよ」
「すみません。あ、俺は八神
そう自己紹介をして星が頭を下げた。八神星は僕のもう一人の幼馴染だ。文系っぽい見た目に反して、足癖とかがかなり悪い。実は中学で裏番してました、なんて聞いても驚かないくらいには武闘派だ。まあ、普段は大人しいから知ってるの井上と僕くらいだけど。
で、も星が遅刻って珍しいなぁ。いや、朝が結構弱いのは知ってるけど遅刻はしない主義だしなんかあったのかな?
「先生」
教室の前方に歩いて行って、吉良先生に真剣な顔で言い出した。本当になにかあったのか。
「八神君どうしたの?」
「実はさっき教室前でFクラスの生徒と会って、試召戦争を申し込まれて……」
「「「「はぁ?!」」」」
クラスメイトの声が重なる。それもそうだ。ルール通りじゃないのだから。
試験召喚戦争、略して試召戦争はこの文月学園独特の制度で、細かいルール付けがされている。その中に宣戦布告という制度がある。戦争と言っても奇襲をかけることは(大体)許されていなくて、宣戦布告という形で相手方のクラスに「何日の何校時から戦争を仕掛けます」と宣言しないといけないとされている。その場合、宣戦布告の使者と呼ばれるものが送られてくるんだけど……。
「あー、俺に言ったことで満足したらしくて戻ったんです。これって無効ですか?」
「うーん、去年までは無効だったんだけどね。実は下級クラスが上級クラスに戦争を申し込みに行って使者の生徒が文字通り死者になりかけてね。それで今年からそういうのも有効になるようになったんだ」
なんてこったい、思わず顔が引きつる。確かに上位クラスにとって、下位クラスからの宣戦布告はただの邪魔にしかならないけど、文字通り死者になりかけるって。ウチの上級生なにやってるんだ。
もしも僕がFクラスに行っていたら、使者にされてたかも。最悪な想像が浮かんで、気分が悪くなりそうだ。ふと井上の方を見るとばっちり目が合い、それからあちらからアイコンタクトで話しかけてきた。
『良かったな。死者になりかけなくって、Fクラスの代表は赤いのらしいぞ』
『うん、坂本君が代表なら確実だよね』
坂本雄二君、井上に言わせると赤いの、もしくは筋肉達磨、しょっちゅう僕らに絡んでは井上と喧嘩になってる。それから僕の扱いがぞんざいだから、かなり苦手なんだよね。
『つか島田もFじゃないか?』
『うげ、島田さんもか』
島田さんは僕にしょっちゅう暴力を振るってくる。というか、去年の六月くらいから急に暴力を振るってくるようになったんだけど、なんで?
『木下と土屋も決定だろ?』
『あーあの二人の成績ならありかな?』
木下秀吉君、女子と見まごうばかりの可憐な容姿で性別「秀吉」なんて判断されている。演劇部に所属していて文芸部に台本頼んできたことで知り合った。
土屋康太君、何やら学校の裏社会では知る人ぞ知る有名な写真屋らしい。写真屋って言っても盗撮らしいけど。それで帝や円、井上の写真を高値で売っていたのが運の尽き、制裁されて以上の三人と僕、星の写真を売るのを禁止させたとのこと。何で僕のまで入っていたのかは知らない。で、二人の成績は下から数えた方がいい感じなぐらい悪い。
あの二人、普通じゃないからなぁ。味方の時は頼もしいけど、敵だと怖いところがいっぱいだ。
『不味いかもな』
『どうしてさ、僕らの方が一つ上のクラスだよ?』
やっぱりクラス間の差って大きいんだよね。いくら何とかできる要素がいくつかあっても、難しいんじゃないかな?
『坂本ができない勝負するか?』
『……ないです』
そうだった、坂本君はかなり抜け目がないタイプで絶対に負ける勝負はしないんだよね。
保体なら土屋君がかなり行けるとは思うけど他にはなにかあるのかな? 井上を見ると、ちょっと考えてからこっちを向いてきた。
『例えばの話だがAクラスに行ける実力の人物が振り分け試験を受けられずFクラスに行ったとしたら?』
『……不味いね』
本当にそんな人物がいるとしたら大変だ。
二人で会話していると吉良先生が井上を呼んだ。