「井上さん、悪いけど自己紹介と開戦前の音頭よろしく」
「了解」
井上が立ち上がって、教卓へと向かう。なんで、歩き方からして雄々しいのかな。っていうか、星と目配せしてるし。なんか考えてるのかな?
それから、正面を向いて堂々とした態度でこっちを見た。うん、教卓で丁度スカートが見えないから男っぽい。井上が重々しく口を開く。
「クラス代表、井上遠子だ。よろしく、そっちの二人と同じく文芸部所属だ。さて、まあ正直みんな実感はないだろうが最初の試召戦争ということになってしまったわけだが……」
そこで井上が一息おく、相変わらず間合いがうまい。それから真顔になって。
「底辺クラスにやられるなんて屈辱じゃないか?」
井上の一言でそれまで地味にくすぶっていた不満が爆発する。
『そうだそうだ!』
『なんでFクラスなんかにやられなくちゃいけないのよ!!』
うん、下位クラスの扱いがこうだから使者が文字通り死者になっちゃったんじゃないのかな?
「それから、使者が言ったらしいがウチのクラスに攻め込む理由はそこの『観察処分者』がいるからなんだとさ」
目配せの原因はそれか! 井上の奴なんてこと言いやがる。そんなこと言ったら、僕がクラス中から袋叩きに……
バンッ! 見ればヘアバンドの子が机を叩いて立ち上がっていた。何事?!
「……上等じゃない、仲間を馬鹿にされて黙ってられるもんですか!」
「当然だろ! Fクラスになったような奴が実力でEに入った奴を馬鹿にするな!!」
「クラスメイトを馬鹿にするんだったら、FクラスはEクラス全体を馬鹿にしてるも一緒だ!」
「ぇ―――――?」
ついうっかり声が出ちゃったよ?!え、え、え、ええぇっ?!
僕が何もできないでオロオロしていると、井上が口元をニッと釣り上げる。あ、なんか悪いこと考えてる顔だ。
「つーわけだ。クラスの奴を馬鹿にしたんだ。おれ個人的には坂本がむかつくのもある。派手に戦争やるぞっ!」
「「「「おおおっ!!!」」」」
うそだぁ。こういうことになったら基本的に僕が罵倒されるのがテンプレパターンなのに
いつの間にか纏まっているクラスメイト達に唖然としていると、目の前の席の椅子が引かれて星が座わる。空席だとは思ってたけど、丁度星の席だったのか。
「明久、お前のこと馬鹿にしないでちゃんといい奴だって思う奴は、沢山いるぞ?」
目の前に座った幼馴染が笑顔で言う。そうかもしれない……かな。
僕が感動していると、さっきまでと同じ穏やかな笑顔のままのはずなのに、怖い声をした星が物騒なことを呟いた。
「さーて、
……見慣れたはずの幼馴染が一瞬怖くなった。背筋がぞっとしたんだけど。というか、目が笑ってないよ?目が!! 顔だけ笑顔のお面を張り付けたみたいな感じの顔になってる。教室中を熱気が渦巻いているはずなのに、なんか僕だけめちゃくちゃ寒いんだけど!?
☆
それから二校時が試召戦争のことでかなり早く終わったので、井上と星が嬉々として作戦を考え始めた。時々、蹴飛ばしてとか暗殺とか物騒な単語が聞こえてくるし普通の作戦じゃないっていうことだけは確かだろう。
たまにクラスメイトが二人の会話に参加したり、井上以外だとこのクラスのリーダー格だったらしいヘアバンの子こと、中林さん(さっき名前を聞いた)が混ざって全体の動きを確認している。
「おーい、円堂」
「どうかしたかー、八神」
「手伝ってくれるか?」
「おーう!」
あ、円が参加し始めた。うん、もうこれは坂本君ご愁傷様としか言いようがなくなってきたよ。井上と星が作戦を組んだらそこそこ普通の物になるのに、円が入ると途端に台風みたいな事態になるから手に負えない。中学時代の円のあだ名と言えば『雷門の台風』だしなぁ。台風みたいにあれこれ引っかき回しては去っていくってことで教師に滅茶苦茶警戒されていたし。
「えっと、何でこんなことに……」
「まあ、あいつらを怒らせたらこうなるだろ」
帝がしみじみと言う。うん、身をもって知ってるんだけど。なんで、中学の頃より大人しくなったはずのあの三人はパワーアップしているようにしか見えないんだろう。もういいやと携帯を確認してみたら、もうお昼休みだ。
「あ、お昼後に開戦らしいから。お昼にしないと」
「だな。三十分はああやってるし、止めるか」
「うん、ちょっとは休憩した方がいいよね」
僕らは井上たちに声をかけて昼食にすることにした。
「じゃーん、どう?」
僕が弁当を広げると、他のみんなからざわめきが起きた。それもそのはず、今日はちょっと頑張って、一からおかずを作ってきたのだ! コロッケとかオムレツとか色々頑張ったもんね。
「お、美味い」
「うまー」
僕の作ったオムレツを食べた井上が唸るし、円も満足そうな表情をしてる。井上も円もいいとこのお嬢さんだから、この二人を食べ物で驚かせるっていうのは簡単なことじゃない。思わず顔がにやける。
「でしょー、頑張ったもん」
「俺にもくれないか?」
「もちろん」
帝が嬉しそうな顔でコロッケを頬張るのを見て、作ってよかったなって思った。ただ僕の食べる分がものすごく減ってる。そう思ったら、星に声をかけられた。
「明久、俺のも食べるか?」
「星、サンキュー」
僕たちが弁当を食べていると、井上が急に何かを思いついたらしく顔を上げた。
「お前ら、」