学園長室で井上の怒声が響く。
「つーわけだ。ババア、旧校舎の改修工事やりやがれ」
えー。あの後すぐに学園長室に殴り込みをしました。井上が怒ってるから普段以上に口が悪くなってる。
サッカー部の二人はどっかに行っちゃった。というか外から練習してる声がするから普通に部活しに行ったって感じか。そういえば、後で美術室行かないと。
「全く口の減らない小娘だねぇ」
ババ……学園長、藤堂カヲルがわざとらしくため息をつく。豪華で大きなテーブルに肘をついて偉そうにしているから、悪役にしか見えないんだけど。生徒にこんな態度しているけど、この人ウチの学園長なんだよね。
とりあえず、平行線どころか乖離してる話し合いをどうにかしないと。学園長室行くならと、カバンから持ってきておいた資料を取り出す。
「あー、学園長? ちょっといいですか」
「なんだい」
「こ「(ちょっと黙れ)」
井上が僕に紙切れを見せてきた。ん? 井上の方を見ると、口にチャックする仕草をした。本格的に黙っておけってことか。井上が学園長にも同じ仕草を示す。すると学園長も黙って頷いた。
なにをするのか見ていたら、井上が星に目配せをした。それに頷いた星が部屋の隅によってなにかを踏む。パキンと小さな音がした。小さな箱のようなものを持ってくる。
「盗聴器だ。学園長の会話録音して何に使いたかったのか?」
「まさかこんなものまで仕込むとはね」
学園長の口調はまるで狙われていることを分かっている感じだ。井上が学園長を見る。
「犯人の目星は?」
「ついてるよ、教頭さね」
「あー、やりそうな人相してるか」
井上、その言い方はないんじゃないかな?
竹原教頭先生、クールな外見が女子に大人気の先生だ。個人的にはあんまり好かないけどね。観察処分者=バカって法則作ったあの人だし。確かになんか最初から胡散臭い感じはしてたんだよなぁ。
「ま、いいか。とりあえず明久、見せようとしていた資料は?」
「あ、これ? Fクラスの環境調査」
「なんでお前さんがそれを持ってくるんだい」
「……業者の手伝い無理やりやらされてたんです」
「「は?」」
井上と星の声が重なる。学園長の表情も険しい。
しかも報告するのも投げられたし。観察処分者の仕事って学校の実験の手伝いだけじゃなかったけ? 少なくとも去年の冬まではそれくらいで済んでたのに。
「で、結果は?」
「とりあえず、人間の住める環境じゃないです。すぐに体調を壊しますね」
学園長に資料を渡す。学園長が資料を確かめながら呟いた。
「そうかい、全く教頭の奴は……」
「なるほどな。盗聴器は学園長の失脚かなんかを狙って報告を盗み聞きしようとしたわけか」
「というか、西村先生だと盗聴器に気づくから明久に無理やり報告させようとしてたとかか?」
星、流石の鉄人でも盗聴器は気づかないんじゃないかな?
井上が真剣な表情になる。なんか考えている顔だ。
「多分、観察処分者に作業させていたのもババァ長の評価を落とすためだな」
「え?」
なんでそんな発想になった。唖然としていると星が納得したように頷いている。え、二人とも本気で考えてるの?
「それ十分ありだと思う。生徒を労働力にする教師とか常識じゃ考えられないし、漏れたら学園が親に訴えられる」
井上と星の会話を聞きながら、学園長がため息をついた。
「お前さんたち、頭がよく回るねぇ」
「で、どうする?」
「
「それがいいな」
あ、これは確実に教頭が失脚するなぁ。アイツの一言でわかる僕も大概っていう感じはするけどね。
「それが上手くいったなら、旧校舎の改築を前向きに検討するよ」
前向きに検討なんだ。まあ、校舎改築ってスケールが大きいからなー。
学園長室を出た僕たちは、それぞれの用事で分かれた。とりあえず美術室寄っていこう。
☆
「こんにちはー」
「あ、吉井君。来たのね」
見慣れた部室には同学年で部長の香川希さんがいた。一年の時は同じクラスだったからそこそこ仲は良いんだよね。
「今日はクロッキー帳取りに来ただけだよ。香川さん、クラスどこになったの?」
今日の戦争でも見かけなかったからF以外のクラスだよね。
「Dクラスよ。吉井君はEクラスだっけ?」
「うん、よく知ってるね」
「ま、あれだけ派手にやればね」
まあ、新学期当日に試召戦争とか目立つに決まってるか。Dクラスってことは僕らより一つ上、戦争になることはないだろうけど。
「派手だった自覚はあるよ。あ、クロッキーあった」
部活用ロッカーの中からクロッキー帳を取り出す。家にも一応あるんだけどやっぱり部活の題材は部活用で描かないと。
「じゃあね」
「あれ、香川さんまだ残る気?」
「もちろん!」
そうだった。香川さんって作品作ると止まらない人だ。春になったとはいえ、まだ日が落ちるの速いしなぁ。
「……僕もなんか描いてこ」
「あら、いいの?」
「まあね」
後で怒られるだろうけど、女の子一人で帰らせたら男がすたるってやつだよね。
そんな会話をしていると、部室のドアがガラガラと開いた。そちらの方を向く、そこには赤っぽい金髪をした男子生徒が立っていた……どこかで見覚えが。
「! キサ先輩」
その子は僕を見つけると、うれしそうに駆け寄ってきた。あれ、この独特な呼び方ってもしかして。
「つばさ君?」
「うん、ひさしぶり」
びっくりした。つばさ君にこんなところで会えるなんて。突然の訪問者にびっくりしていた香川さんも我に返ったようで、僕に怪訝そうな顔で聞いてきた。
「吉井君、知り合い?」
「あ、うん。知り合いの子だよ」
「こんにちは、岸間つばさ……です」
つばさ君、相変わらず敬語苦手なんだね。なんだか親戚の子に会ったときに気分が似てるなぁ。
「吉井君、今日は帰ったら?」
「え、いや」
「親戚の子なんでしょ? 新入生みたいだし、いろいろ案内してあげたら」
あれ、なんか妙に誤解されている気が。気が付いたら香川さんに背中を押されてつばさ君共々部室の外に追いやられていた。
「オレ、別に親戚じゃないんだけど」
「だよね。でも、香川さん入れてくれないだろうし学校案内もかねて一緒に行く?」
「いいの?」
「うん、同じテイマーだしね」
そう、この子は別に親戚ではない。それに同じ学校の後輩とかでもない。僕たちをつなぐのは『テイマー』という特別な事情だ。あ、テイマーで思い出した。
「連絡入れないと。ごめん、ちょっと待って」
「? わかった」
僕はとある人物に電話をかけるため携帯を開いた。