白翼の機械人形になった転生者は海賊(人助け)をしながら、世界を見守る。   作:キング・クリムゾン!!

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新作です。ゆっくりしていってね。


第一話:『ターゲット確認、排除する。』

東の海(イーストブルー)の波は、新世界のそれとは比べものにならないほど穏やかだった。

しかし、その美しい青を血に染めるのは、いつの時代も海の怪物の牙ではなく、人間の果てなき強欲と理不尽である。

 

48年前――後の世に『大海賊時代』と呼ばれる狂乱の夜明け前。

その小さな港町、ココヤシの木々がそよぐ海岸線に、数隻の海軍軍艦が不気味な影を落としていた。

 

「おい、ぐずぐずするな! 今月分の『天上金』の未納分、および海軍への特別治安維持費だ! 出せないとは言わせんぞ、この泥泥(どろどろ)の田舎者が!」

 

白地に『正義』の文字を背負った海軍の将校が、砂埃の舞う地べたで平伏する年老いた町長を、泥のついた軍靴で無慈悲に踏みつけている。

周囲では、銃を構えた海兵たちが怯える町民たちを取り囲み、わずかな蓄えや食料を強引に荷車へと積み込んでいた。海軍という名の、合法的な略奪者。それが、世界政府という巨大なシステムの末端が示す、この世界の生々しい現実だった。

 

その喧騒から少し離れた、港の倉庫の影。

一人の少年が、錆びついた鉄格子の柵に背を預け、冷めた瞳でその光景を見つめていた。

 

少年の名はレオン・ユイ。

見た目は十八歳を過ぎたあたり。ボサボサとした無造作な茶髪に、鋭すぎるほどに研ぎ澄まされた眼光。衣服はどこか異国風の、深い緑色のインナー(タンクトップ)に黒いズボンという、極めてシンプルな身なりだった。

 

彼の瞳は、激しい怒りに燃えているわけでも、絶望に曇っているわけでもない。ただ、凍りついた湖面のように静かで、冷徹だった。

 

(……前世の記憶が、まともに機能しているのは幸いか)

 

レオンは心の中で、誰にも聞こえない呟きを漏らす。

彼は転生者だった。かつて科学と硝煙、そして巨大な人型兵器――『モビルスーツ』のロマンに満ちた世界で、ガンプラとメカニズムを狂おしいほどに愛していた男。それが気付けば、この広大な、悪魔の実と覇気が支配する『ONE PIECE』の世界の片隅に放り出されていた。

 

しかし、ただ放り出されたわけではない。

彼がこの世界に生を受け、やがてその肉体に宿した『悪魔の実』。それこそが、今彼の脳内で奇妙な電子音を響かせている元凶だった。

 

動物(ゾオン)系幻獣種――『メカメカの実 モデル“ウイングゼロ”』。

 

世界政府の図鑑にすら載っていない、失われたオーバーテクノロジーを肉体と同化させる神の果実。いや、この世界においては『悪魔の呪い』そのもの。

 

『警告。前方の生命反応、および周囲の状況を解析……演算終了』

 

レオンの脳内に直接、感情の剥ぎ取られた冷徹な機械声が響く。ウイングゼロの代名詞にして、搭乗者の精神を極限まで追い詰める予測システム――『ゼロシステム』の稼働音だった。

 

『このまま海軍による過剰徴収、および民衆の肉体的損壊を放置した場合――3分24秒後に町長の生存確率は0%。1時間以内の町民の精神的崩壊確率は87%。レオン・ユイの戦域離脱による生存確率は99.99%。戦域への介入による世界政府との敵対確率は300%に上昇。即座の離脱を推奨する』

 

数億通りの未来を瞬時に計算し、最も「合理的」かつ「生存確率の高い」答えを弾き出す脳内アプリ。システムは冷酷に、この場を見捨てて逃げろと告げている。それがレオン・ユイという個体を守るための、絶対的な正解だと。

 

「……システム」

 

レオンは低く、硬い声で脳内の声に応じる。その表情はピクリとも動かない。ヒイロ・ユイのごとき冷静沈着な仮面。

 

「お前の演算はいつも完璧だ。だが……致命的に、俺の気分が悪い」

 

『理解不能。感情による判断は生存確率を著しく低下させます』

 

「俺は、お前が計算を諦めるほどの『バカ』を、前世の画面越しに嫌というほど見てきたんでな。……それに、俺の根っこは、お前が思うよりずっとお人好しだ」

 

レオンは鉄格子の柵から背を離し、ゆっくりと、海兵たちの円陣へと歩みを進める。

口では非効率だ、任務に支障が出ると言い訳しながらも、目の前で泣いている老人や子供を見捨てることができない。その不器用な優しさこそが、彼が前世から持ち越した、システムでは数値化できない唯一の「バグ」だった。

 

「おい、そこらのガキ! こっちへ来るな、下がってろ!」

近づいてくるレオンに気付いた海兵の一人が、不機嫌そうに銃口を向ける。

 

レオンは立ち止まり、ただ静かに、眼前の海軍将校を見据えた。

「その足を退けろ。それは、お前たちが守るべき民衆の頭だ」

 

「あァ? なんだこのクソガキは……。世界政府の者である我々に口を出すか? 反逆者として拘束しろ!」

 

将校の冷酷な命令と共に、十数人の海兵が一斉にレオンを取り囲み、銃の引き金に指をかけた。

町民たちが「逃げて!」と悲鳴を上げる。しかし、レオンの瞳は、コンマ一秒後に彼らが放つであろう弾丸の軌道を、すでにゼロシステムによって視覚的に捉えていた。

 

「了解した。……これより、任務を開始する」

 

ガシャイン!!

 

突如として、港の空間そのものが凍りつくような、重厚な機械の駆動音が響き渡った。

レオンの背中から、衣服の繊維を裂いて、四枚の巨大な、鋼鉄の白い天使の羽が爆発的に展開される。それは柔らかな鳥の羽などではない。極限まで練り上げられた「武装色の覇気」を伝達・拡散させるために構造化された、白銀のナノラミネート装甲の結晶だった。

 

「な、何だそれは……!? 背中から、白い鉄の羽……!?」

「悪魔の実の能力者か!? いや、あの金属音は――」

 

海兵たちが驚愕に目を見開いた瞬間、レオンの四肢が、衣服の上から硬質なガンダムフレーム(白と青の装甲)に覆われていく。完全な獣型(モビルスーツ形態)ではなく、人間のサイズを保ったまま出力を引き上げる人獣型(ハーフモード)。

 

同時に、レオンの両腕には、体内の熱エネルギーと覇気を物理的に圧縮・収束させるための巨大な二挺の銃――ツインバスターライフルが生成され、ガチリと強固に連結された。

 

「ターゲット確認」

 

レオンの細い指が、ライフルの引き金にかかる。

ゼロシステムが脳内で、敵の配置、風向き、潮の満ち引き、そして最も効率的に敵の戦力を無力化する射線を網羅した照準(ロックオン)マークを、青い光となってレオンの視界に投影する。

 

「ま、待て! その武器は何だ! 貴様、海軍に刃を向ける意味が分かって――」

 

「……排除する」

 

ドォォォォォン!!!

 

刹那、東の海が、かつて経験したことのない純白の閃光によって支配された。

激しい爆発音ではない。空気が、大気が、空間そのものが一瞬で焼き切れるような、高密度の熱線による「轟音」だった。

 

連結されたツインバスターライフルから放たれた光の濁流は、レオンの正面にいた海軍将校の身体をかすめ(レオンのお人好しゆえの手加減により、命までは奪わない軌道で)、その後方に停泊していた海軍の巨大な軍艦数隻のど真ん中を、一文字に貫いた。

 

光線が海を割り、水平線の彼方へと消え去った数秒後。

港に凄まじい衝撃波の突風が吹き荒れる。海兵たちが爆風に吹き飛ばされ、砂埃が収まった時、そこにいた全員が息を呑んだ。

 

海軍の誇る頑強な軍艦の群れが――文字通り、中心から綺麗に『消滅』していた。

融解した鉄くずがジュウジュウと海水を蒸発させている。海原には、巨大な光の刃によって切り裂かれたような、深い海溝の跡がしばらくの間、残っていた。

 

「ひ……、ひぃぃぃぃぃっ!!」

地面に腰を抜かした将校が、股間を濡らしながら、信じられないものを見る目でレオンを見上げていた。

 

島を穿ち、海を消し飛ばす圧倒的な火力。それを、たった十八歳前後の、冷徹な瞳をした少年が個人でぶっ放しているという事実。

 

レオンは連結していたライフルを静かに分離させると、背中の白い羽をゆっくりと折り畳んだ。駆動音が静かに消えていく。

 

「……任務完了。これ以上の抵抗は非効率だ。怪我人を連れて、早く消えろ」

 

冷淡に言い放ち、レオンは懐から取り出した手製の布で、ライフルの銃口を静かに拭い始めた。

この事件は、数日と経たずに聖地マリージョア、および海軍本部の最深部へと届くことになる。まだ世に名も知られていない一介の少年が、海軍の艦隊を一撃で壊滅させたという前代未聞の凶報。

 

世界政府(五老星)は恐怖した。

「あの破壊力、島を消し飛ばす閃光……あれは『空白の100年』の巨大な王国からタイムスリップしてきた、本物の古代兵器の生き残りではないか!?」

 

こうして、まだ海賊団すら結成していないレオンの手配書が、異例中の異例である『初手から30億ベリー』という超破格の金額、そして【白翼の死神】という不吉な二つ名と共に、世界中の海へとばら撒かれることになった。

 

だが、その狂乱が世界を駆け巡るほんの数時間前。

軍艦を消滅させ、町民たちから神仏のように拝まれるのを煙たがって、一人港の裏手で船の修理(前世のメカニック知識による、自作の小型ボートの整備)をしていたレオンの前に、一隻の「異質な船」が滑り込んできた。

 

赤いマストに、豪快で波打つようなドクロの旗。

トムが宝樹アダムで造り上げた、伝説の『オーロ・ジャクソン号』。

 

その船の舳先に立ち、自らの麦わら帽子をグッと掴みながら、腹の底から大爆笑している男が一人。

 

「ガハハハハハ!! おいおいおい! レイリー、見ろよ! さっきの美味そうな光の帯は、このガキが撃ったのかァ!?」

 

若き日のゴール・D・ロジャー。その瞳には、世界をひっくり返すほどの好奇心と、圧倒的な覇気が満ち満ちていた。その隣では、まだ20代後半の、鋭い眼光を持ったシルバーズ・レイリーが、苦笑しながら腰の刀に手を置いている。

 

「おい、少年。お前がさっきの『天使の羽』の主か? 面白い能力だな。海軍の軍艦があっさり溶けてやがったぞ」レイリーが声をかける。

 

レオンの手が止まる。

脳内のゼロシステムが、かつてないほどの最大音量で警告アラートを鳴らし始めた。

 

『警告。眼前の個体――ゴール・D・ロジャー、およびシルバーズ・レイリー。計測不能の戦闘力を感知。現在の出力での勝率、0.02%。即座にネオバード形態に変形し、最大速度での大気圏、あるいは水平線彼方への離脱を推奨する』

 

脳内で鳴り響く赤色灯。だが、レオンはただ静かにツインバスターライフルを自身の肉体へと収納し、タンクトップの裾を直すと、冷徹な視線をロジャーへと向けた。

 

「……レオン・ユイだ。用が無いなら話しかけるな。俺は今、ボートの整備という任務の最中だ」

 

「ハハハ! 名前もカッケーな! よし決めた、お前、俺の船に乗れ! 一緒に世界の果てを見に行こうじゃねェか!」

 

「断る。非効率だ」

 

出会って数秒での、冷酷な拒絶。

しかし、そのお人好しな性格ゆえに、この「無鉄砲で最高なバカ(ロジャー)」にレオンが押し切られ、伝説のクルーとして歴史の裏側を駆けることになるまで――あと、ほんの数分の辛抱だった。




次回:第二話 『若き怪物たちの狂宴』
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