白翼の機械人形になった転生者は海賊(人助け)をしながら、世界を見守る。 作:キング・クリムゾン!!
新世界の予測不能な気候は、時に航海士の経験則すらあざ笑う。
つい先刻までロックス海賊団との死闘で沸騰していた海は、数日も経てば何事もなかったかのように、今度は底冷えするような極寒の濃霧に包まれていた。
「冷えるねぇ、レオン。新世界の冬島周辺の霧は、ただの水分じゃない。船の油まで凍らせる悪意が含まれている」
オーロ・ジャクソン号の操舵室の横で、スコッパー・ギャバンが厚手のコートに身を包み、白い息を吐き出しながら呟いた。
その視線の先で、レオン・ユイは普段と変わらない緑のインナー姿のまま、甲板の片隅に胡坐をかいていた。彼の十八歳の姿で固定された肉体は、ガンダムフレームと同化したことで、環境の激変に対して異常なまでの適応力を示している。凍えるような潮風に晒されても、その肌が鳥肌立つことすら配置されたシステムが許さない。
レオンの膝の上には、分解されたばかりの『オーロ・ジャクソン号』の予備の駆動歯車が並んでいた。
前世の精密機械工学の知識と、この世界の船大工トムの豪快かつ繊細な木工技術。その二つを融合させ、レオンは独自の「効率化」を船の各所に施している最中だった。
『周辺の環境データを解析……温度マイナス4度。霧の濃度82%。視界不良による座礁確率が14%に上昇。……また、前方1.2海里に位置する孤島から、未知の、しかし極めて規則的な電磁波の放射を感知』
脳内の『ゼロシステム』が、冷徹な機械声でレオンの網膜に緑色のレーダー図形を投影する。
「……ロジャー。前方に島がある。ただの無人島じゃない。人工的なエネルギーの残滓を感じる」
レオンは立ち上がり、工具を腰のホルダーへ収めながら、船首で霧の先をじっと見つめていた船長に声をかけた。
「ガハハ! やっぱりお前には見えてるんだな、レオン! 俺の『万物の声を聞く』力でも、あそこから何だか妙に細かくて、理屈っぽい声が聞こえてくるんだよ!」
ロジャーが麦わら帽子を片手で押さえ、嬉しそうに歯を見せて笑う。
「理屈っぽい声……? 船長、それはまた妙な表現だな」
レイリーが船長室から出てきて、眼鏡の位置を直しながら霧の先を睨む。
「とにかく、寄ってみようじゃねェか! レオンが反応するってことは、お前好みの『鉄クズ』が転がってる島かもしれないぞ!」
ロジャーの思いつきにより、オーロ・ジャクソン号はゆっくりと濃霧の島へと接岸することになった。それが、世界の科学の歴史を根底から狂わせる、二人の天才の邂逅になるとは、この時はまだ誰も知らなかった。
島は、一面の氷と岩に覆われた極寒の土地だった。
しかし、その中央にそびえ立つ奇妙な形の研究施設からは、規則的な蒸気と、どこか不気味な青い電流がパチパチと漏れ出している。
「な、なんだこの場所……。気味が悪いぜ。お宝の匂いもしねェ」
見習いのバギーが、シャンクスの後ろに隠れながらぶるぶると震えている。
レオンを先頭に、ロジャー、レイリーの一行が建物の錆びついた鉄扉を押し開けると、そこは無数の歯車、液体が入ったガラス管、そして山積みの設計図で埋め尽くされた異様な空間だった。
「――静かにしてくれ! 今、この回路の電圧をコンマ5ボルト上げるか下げるかで、私の脳内の『未来都市』が完成するかどうかが決まるんだ!」
部屋の奥から、ボサボサの頭をした一人の青年が飛び出してきた。
年齢は二十代前半ほど。大きな眼鏡の奥の目を血走らせ、手には怪しげな溶接機を握っている。彼こそが、未だ世界政府にその存在を見出される前、後に世界のすべてを書き換える天才科学者――若き日のベガパンクだった。
「おわっ!? なんだ君たちは! 海賊か!? 私の貴重な研究費(わずかな貯金)を奪いに来たのか!?」
ベガパンクが慌てて溶接機を構える。
「ガハハ! 安心しろ青年、俺たちは略奪をしに来たわけじゃない。面白い島を見つけたから寄っただけだ」
ロジャーが豪快に手を振る。
しかし、レオンの目は、ベガパンクの背後の机に広げられた「自立型蒸気兵器」の設計図に釘付けになっていた。前世でモビルスーツの構造を嫌というほど叩き込まれた(アニメやパンフレットで)レオンの頭脳が、その設計図の「致命的な非効率さ」を瞬時に見抜く。
「……青年」
レオンが無表情のまま、ベガパンクの横を通り過ぎて設計図の前に立った。
「おい、勝手に見るな! それは私の最高傑作の――」
「関節部の油圧比率が間違っている。この構造では、自重による金属疲労で3回目の稼働時に右膝のフレームが破断する。それに、エネルギーの伝達に蒸気パイプをそのまま使うのは非効率だ。なぜ『流体パルス』、あるいは『電気駆動のサーボモーター』を使わない?」
「……え?」
ベガパンクの動きが、完全に止まった。眼鏡の奥の目が、これ以上ないほど大きく見開かれる。
「君……今、何と言った? 流体パルス……? サーボモーター……? それは一体、どんな理論の――」
「お前の脳内にある『無限のエネルギー』の概念は正しい。だが、それを具現化するための基礎工業力が、この世界は遅れすぎている。例えば、骨格にはチタン合金、あるいはこれを使うといい」
ガシャイン。
レオンが静かに右腕を前に出すと、皮膚の表面から硬質なウイングゼロのガンダムフレームが部分的に展開された。白銀の美しく、しかし圧倒的な硬度を持つ未知の金属装甲。
「な、なんだこれは……!!!?」
ベガパンクは持っていた溶接機を床に落とし、這いつくばるようにしてレオンの右腕に顔を近づけた。鼻血が出るのも構わず、その金属の分子構造を、まるで宝物を見るような瞳で見つめる。
「素晴らしい……! 分子が完全に規則正しく整列している! しかも、持ち主の『覇気』に反応して硬度を変化させているのか!? 君、これはどういう技術なんだ!? どこで手に入れた!? 月の文明か!? 空白の100年の遺物か!?」
「……ただの、メカメカの実の能力だ」
レオンは冷淡に腕を引く。しかし、お人好しな彼の性分が、目の前で未知の技術に飢えている青年の姿を無視することを許さなかった。
レオンは机の上の白紙の紙を一枚取ると、ペンを走らせ始めた。
彼が描き出したのは、前世の記憶にある『ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉』の極めて簡易的な概念図、および『ガンダムフレームの流体駆動システム』の基礎理論だった。この世界のベガパンクなら、その「ヒント」だけで、数百年先の未来へ到達できると確信したからだ。
「これを持っていけ。お前の進むべき道の、少しばかりの効率化にはなるはずだ」
手渡された紙を見たベガパンクの身体が、小刻みに震え出した。彼の頭脳の中で、これまで繋がらなかった無数のピースが、レオンの描いた「宇宙世紀の技術」によって一瞬で結びついていく。
「信じられない……。私の理論の遥か先をいく『答え』が、ここにある……! 君は一体何者なんだ……レオン・ユイ!!」
「ただの、効率主義のお人好しだ」
レオンはフッと静かに自嘲気味に微笑むと、背中の白い羽を少しだけ羽ばたかせた。「ロジャー、長居は無用だ。海軍の追手がこの島に向かっている。……生存確率を高めるため、即座の離脱を推奨する」
「ガハハ! 了解だ、レオン! おい青年、またな! お前の未来の技術、楽しみにしてるぞ!」
ロジャー海賊団は、嵐のように現れ、嵐のように去っていった。
残されたベガパンクは、レオンの残した紙を胸に抱きしめ、涙を流しながら呟いていた。
「私は行くぞ……世界政府に魂を売ってでも、予算を手に入れ、この『白き死神』が魅せてくれた未来を、この手で本物にして見せる……!!」
この日の邂逅が、後にベガパンクが造り出す人間兵器『パシフィスタ』、およびエッグヘッドの超科学のベースとなる。レオンの優しさが、歴史に巨大すぎるバグを打ち込んだ瞬間だった。
しかし、島を出たオーロ・ジャクソン号の前に、最悪の壁が立ち塞がった。
濃霧が晴れた海原を埋め尽くしていたのは、数十隻に及ぶ海軍本部の精鋭艦隊。そしてその先頭の軍艦の船首には、まだ二十代後半の、血気盛んな海軍の若き二大エースが並び立っていた。
「見つけたぞ、ロジャー!!! 今日こそお前の首を毟り取って、海軍の飯を美味く食わせてもらうぞ!」
軍艦の舳先から身を乗り出し、凄まじい武装色の覇気で拳を真っ黒に染めているのは、若き日のモンキー・D・ガープ。
「ガープ、一人で突っ走るなと言っている。……ロジャー、それに手配書にある【白翼の死神】レオン・ユイ。貴様たちの不条理な航海も、ここまでだ」
その隣で、すでに黄金の大仏の姿へと変身を始め、圧倒的な衝撃波の圧力を周囲に放っているのは、若き日のセンゴクだった。
「げぇっ!? ゲンコツのガープに、大仏のセンゴクじゃねェか!!」
バギーが白目を剥いて叫ぶ。ロジャー海賊団の面々も、流石に表情を引き締めた。海軍の全盛期の怪物が二頭、同時に現れたのだ。退路は無い。
「ガハハ! ガープにセンゴク! 新世界の真ん中で俺を待ち伏せするとは、いい度胸じゃねェか!」
ロジャーが剣を構え、黒い稲妻を走らせる。
だが、レオンの脳内のゼロシステムは、かつてないほどの危険度を示していた。
『警告。モンキー・D・ガープ、およびセンゴクの同時戦闘による、オーロ・ジャクソン号の損壊確率が84%。……推奨案:レオン・ユイが囮を務め、全出力を解放。敵陣形を崩壊させた後、ネオバード形態での離脱』
「……ロジャー。船の舵をレイリーに預けろ。ここから先は、俺の『自爆(限界突破)』の領域だ」
レオンが冷徹な声で前に出る。
「おいおいレオン、無茶すんなよ!」ロジャーが止めるが、レオンの背中からはすでに四枚の鋼鉄の白い天使の羽が最大展開されていた。
「ゼロ……俺の全出力を受け止めろ。ターゲット確認――排除する」
レオンの身体が光の中に包まれる。彼は両腕のツインバスターライフルを連結させると、海軍の艦隊のど真ん中に向かって、その銃口を固定した。
「させんと言っている!!」
センゴクの大仏の掌から、空間を歪めるほどの超巨大な衝撃波が放たれる。同時に、ガープが軍艦を蹴って空中に跳躍し、山をも砕く覇気の拳をレオンの頭上へと振り下ろした。「くらえ、死神ィ!!」
「ローリングバスターライフル――最大出力、照射」
ドガァァァァァァァン!!!!!!!
センゴクの衝撃波と、ガープの拳、そしてレオンの放ったツインバスターライフルの「純白の熱線」が、海の上で正面衝突した。
世界が真っ白に染まり、海が数百メートルにわたって完全に割れる。衝撃の余波だけで、周囲の海軍の軍艦がドミノ倒しのように転覆していく。
「ぬぅおおおおおっ! なんて力だ、このガキィ!!」
ガープの拳が、ウイングゼロのウイングシールドと激突し、激しい火花を散らす。装甲が金属疲労の悲鳴を上げるが、レオンの瞳は一切ブレない。
「……ガープ。お前の拳は確かに合理的(強い)だ。だが、俺にはこれがある」
レオンは至近距離から、胸部のマシンキャノンを斉射し、ガープの体勢を強引に崩した。同時に、ライフルの出力をさらに一段階引き上げる。
「センゴク、ガープ! 今日のところは、これで失礼する!」
レオンの声と共に、純白の光線が周囲の海を大爆発させた。その爆風と水蒸気を利用し、レオンは瞬時に『ネオバード形態』へと変形。白銀の美しい鳥型の巡航形態となった彼は、オーロ・ジャクソン号の船をその爪で掴むと、海軍の包囲網を音速を超える速度で、文字通り「飛び越えて」離脱していった。
「待てェ、レオン!! 逃げるなァ!!」
遥か後方で、ガープの悔しそうな絶叫が響く。
割れた海と、ボロボロになった海軍の陣形の中で、センゴクは大仏の姿を解き、冷や汗を流しながら空の彼方を見つめていた。
「あの男……レオン・ユイ。ただの能力者ではない。海軍の戦術をすべて『先読み』していた……。恐ろしい怪物を、ロジャーは仲間に引き入れたものだ……」
海軍の歴史にも、その名を深く刻み込んだレオン。彼のお人好しな強さが、伝説の時代をさらに加速させていく。
それから数年の歳月が流れ、ロジャー海賊団はついに『偉大なる航路(グランドライン)』を制覇し、ロジャーは『海賊王』となった。
しかし、その栄光の終わりは早かった。ロジャーの不治の病。そして、海賊団の解散。
「みんな、今までありがとうな! 最高の冒険だった!」
オーロ・ジャクソン号のデッキで、クルーたちが涙を流しながら別れを告げる中、レオンだけは、4年前と全く同じ「十八歳の姿」のまま、静かにマストに背を預けていた。
ロジャーが、ゆっくりとレオンの前に歩み寄る。その身体は病に侵されているはずなのに、その瞳は最後まで力強かった。
「レオン。お前は老いねェ。この先、何十年も先の未来を見るんだろ?」
ロジャーが、自分の麦わら帽子に手をかけ、少し寂しそうに、だが最高の笑顔で微笑む。
「……ああ。お前たちが全員骨になっても、俺のシステムは稼働を止めない。不条理だがな」
レオンは冷淡に返す。しかし、その拳は、爪が皮膚に食い込むほどに強く握られていた。お人好しの彼は、目の前の「最初の友人」の死を止められないことに、激しい悔しさを抱いていた。
「ガハハ! だったら、こいつをお前に託すよ」
ロジャーが指差したのは、自分たちの旅を支え続けた最高の船――『オーロ・ジャクソン号』だった。
「俺の死後、世界は大きく動き出す。新しい時代が来る。……その時まで、この船を隠しておいてくれ。そして、次に『世界がひっくり返る時』が来たら……またこの船に、お前の最高の旗を掲げて海を走ってくれよ、レオン!」
「……了解した。海賊王(船長)の、最後の任務だ」
レオンは静かに右手を上げ、ロジャーと固い握手を交わした。18歳の少年の冷たい手のひらに、ロジャーの熱い意志がしっかりと受け継がれた。
数日後、ロジャーは海軍に自首し、ローグタウンの処刑台で『大海賊時代』の幕を開けた。
仲間たちが散り散りになり、世界が狂乱へと向かう中、レオンは一人、オーロ・ジャクソン号を世界の誰も知らない秘密のドックへと格納した。
「システム。……これより、長期休眠(冬眠)任務に入る。次回の起動タイミングは?」
『演算終了……。世界がひっくり返る特異点――モンキー・D・ルフィという少年が東の海を出航する、40数年後を推奨します』
「了解した。……おやすみだ、ロジャー。次の時代で、またお前の意志に付き合ってやる」
コックピットハッチが閉まるような音と共に、レオンの瞳から光が消える。
18歳の姿のまま、彼は深い、深い眠りへとついた。新時代という名の、終わりなき円舞曲(エンドレス・ワルツ)の真の始まりを待つために。
そして、40数年の歳月が流れた――。
現在のグランドライン、サボテン岩が立ち並ぶ賞金稼ぎの町『ウイスキーピーク』。
麦わらの一味のルフィ、ゾロ、ナミたちが、バロックワークスの賞金稼ぎたちを相手に大立ち回りを演じた翌朝のことだった。
「おい、ルフィ! 大変だ、港に……港に、とんでもねェ船が停泊してやがる!!」
ウソップが、鼻を真っ白にして、ガタガタと震えながら町長の家に飛び込んできた。
「あァ? なんだよウソップ、飯の邪魔するなよ」
ルフィが骨付き肉を口に咥えたまま、不思議そうな顔をする。
「冗談じゃねェんだよ! ナミ! ロビン! お前らも来て見ろ! あの船……あの船のデザイン、海賊の伝説に出てくる、あの『海賊王の船』にそっくりなんだ!」
「え……?」
ナミの顔から血の気が引く。ロビンも持っていたコーヒーカップを止め、険しい表情になる。
一味が大急ぎで港へと向かうと、そこにはウソップの言葉通り、宝樹アダム特有の美しい輝きを放つ、伝説の『オーロ・ジャクソン号』が、堂々と波に揺れていた。
しかし、そのマストに掲げられているのは、ロジャーの旗ではない。
骸骨の背後に二挺の巨大な銃(ビームライフル)がクロスし、それを包み込むように硬質な白い天使の翼が描かれた、見たこともないほどスタイリッシュな海賊旗――。
「うおーーーっ!! なんだあの旗! めちゃくちゃカッケーじゃねェか!!」
ルフィが目を輝かせて叫ぶ。
「おいおい、待てルフィ。あの船のデッキを見てみろ……」
ゾロが刀の柄に手をかけ、冷や汗を流しながら前方を見据えた。
オーロ・ジャクソン号の舳先。そこに、緑のインナーを身にまとい、48年前と全く同じ「十八歳の姿」のまま、冷徹な瞳で海を見つめている少年が立っていた。
「……演算通り、モンキー・D・ルフィの手配書との合致を確認。バロックワークスの追手の排除確率、99.8%」
レオン・ユイ。
【白翼の死神】と呼ばれた伝説の男が、自身の海賊団『白翼海賊団』を率いて、ついに新時代へと再臨した。
「お前がルフィか」
レオンが静かに視線を下ろす。「口では面倒だと言いたいところだが……お前のおじいさん(ガープ)や、元・弟分(シャンクス)には世話になったんでな。……これより、白翼海賊団は麦わらの一味との『同盟』任務を開始する」
「お、お前ロボなのか!? 仲間になれーーー!!」
「人の話を聞け、このバカ」
冷徹なヒイロ顔の裏に、溢れんばかりのお人好しを隠したレオンと、新時代の主人公ルフィ。二つの運命が交錯し、現代編の怒涛の進撃が、今ここに幕を開ける!
次回:第四話 『白翼の再臨と、バグだらけの砂漠の宴』