白翼の機械人形になった転生者は海賊(人助け)をしながら、世界を見守る。 作:キング・クリムゾン!!
アラバスタの灼熱の砂漠を後にし、麦わらの一味と完全に袂を分かったレオン・ユイ。
彼の駆る『オーロ・ジャクソン号』は、ゼロシステムが弾き出した世界政府の極秘実験施設が存在する、冬島――「アイスベルク島」の周辺海域へと到達していた。
激しい吹雪が吹き荒れ、海面すらも巨大な流氷が埋め尽くす極寒の世界。
「……システム、ターゲットの座標を固定しろ」
船のデッキに立つレオンは、激しい寒風に晒されながらも、いつもの緑のタンクトップ姿のまま微動だにしない。彼の肉体はすでに悪魔の実の能力によってウイングゼロのフレームと構造化されており、生物的な「寒さ」などに左右される領域をとうに超越していた。
『演算終了……。前方3.2キロメートルの氷層地下に、世界政府直轄の不条理(兵器開発データ)を感知。……なお、本海域の流氷上に、最大級のシステムエラー(戦力)が接近中。……捕捉:海軍本部大将『青雉』クザン』
「……青雉。あの時の男か」
レオンの鋭い瞳が、流氷の向こう側を捉える。
そこには、白いコートを羽ばたかせ、自転車(青チャリ)にまたがって凍りついた海の上を悠然と走ってくる一人の高大な男の姿があった。
キィィィ……と、寒々しい音を立てて自転車が止まる。
クザンは気だるげにアイマスクを額に上げると、白い息を吐きながらオーロ・ジャクソン号を見上げた。
「あらら……。やっぱりあんただったか、白翼のレオン・ユイ。48年前、ロジャーの船のデッキで見た姿と、1ミリも変わっちゃいねェな。幽霊ってのは歳をとらなくて羨ましいねぇ……」
「逆にそちらは、海軍本部大将青雉か。お前と戦うのは非効率だ。そこを退け」
レオンが冷淡に言い放つ。
「そう言いたいところだけどね、こっちも仕事でね。あんたが狙ってるあの地下施設は、政府が『新型パシフィスタ』の出力を上げるためのコアを隠してる場所なんだわ。これ以上、あんたに世界の均衡を壊されると、政府のお偉いさん方がうるさくてね……」
クザンが自転車から降り、一歩を踏み出す。その瞬間、彼の足元から凄まじい冷気が爆発的に広がり、周囲の海が一瞬で完全な氷原へと変貌した。
「――『氷河時代(アイス・エイジ)』」
バリバリバリ!!!と、空間ごと凍りつかせるような絶対零度の冷気がオーロ・ジャクソン号を襲う。しかし、船体が凍りつく寸前、レオンはデッキから音速で飛び出していた。
背中から四枚の鋼鉄の白い天使の羽を展開し、氷原へと着地する。
「あらら、やっぱりその羽、いつ見ても冷たそうな鉄の塊だねぇ」
クザンが身構えると同時に、その右腕が完全な氷の刃へと変化する。「『アイスサーベル』!」
凄まじい速度で踏み込んできたクザンの氷の剣が、レオンの首筋を目がけて一閃された。
ガシィィィン!!!
鈍い金属音が響く。レオンは避けることすらせず、ただ左腕のナノラミネート装甲でその刃を受け止めていた。絶対零度の冷気がレオンの腕を包み込み、ガチガチと凍らせようとするが――。
『警告。外部からの熱量奪取(凍結)を確認。……内部ウイングゼロフレームの動力炉(エイハブ・リアクター)より、毎秒4000度の熱エネルギーを表面装甲へパルス放射。……結論:凍結確率、0%』
「何……!?」
クザンの気だるげな表情が、初めて驚愕へと変わる。
レオンの腕を凍らせるはずのクザンの氷の刃が、レオンの肉体から放たれる圧倒的な「内部熱量」によって、ジュウウウ……と悲鳴を上げるように一瞬で水蒸気へと蒸発していく。
「お前の『氷』の不条理は、熱量保存の法則によって相殺される。――システム、最大パワーの10%を右拳へ収束」
レオンの右腕の骨格が、ガチガチと機械的な音を立てて駆動する。
「俺は、任務の妨げになる者を容赦なく排除する。――どけ」
ドォォォォォン!!!!
レオンの放った、ただのストレート。
悪魔の実の能力でも覇気でもない、純粋なウイングゼロフレームの出力が引き起こした「衝撃波」が、クザンの身体を直撃した。
クザンの上半身が衝撃の風圧だけで木っ端微塵の氷の破片へと粉砕され、その後方にあった巨大な氷山が、何キロメートルにもわたって一文字に真っ二つに叩き割られた。
割れた氷山の奥から、パラパラと氷の粒子が集まり、再びクザンの身体が再生していく。しかし、その額からはうっすらと冷や汗が流れていた。
「……ハァ、とんでもねェな。覇気も使わねェで、ロギアの俺をここまで物理でバラバラにする執念の塊かよ。おまけに凍りつきもしねェ……。化け物か」
クザンはこれ以上の戦闘が「無駄」であることを、その鋭い海軍大将としての勘で悟っていた。レオンは最初からクザンの命を奪うつもりはない。ただ、非効率な障害を退けただけだ。
レオンはすでにクザンに背を向け、地下施設へと続く氷の裂け目へと歩を進めていた。
「クザン。政府の施設は、俺がすべてスクラップにする。お前はそこで、これでも飲んでいろ」
レオンが懐から、ウイングゼロの排熱を利用して作った「特製ホット・レモネード」のボトルを氷の上にコト、と置いた。
「……ハハ、お人好しの幽霊が。ありがたく頂いとくよ」
クザンは苦笑しながらボトルを拾い上げ、それ以上の追跡を止めた。
裂け目の奥深くへと消えていく白き翼の少年。
王下七武海、そして海軍大将の妨害すらも合理的にねじ伏せ、レオン・ユイの「世界の」の航海は、世界の闇の奥深くへとさらに加速していく。
次回:第八話 『闇の炉心と、死神のガトリング』