あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
「みんな、手を叩いて! 一つになろう!」
優莉がマイクを客席に向ける。
五万人のクラップがドームに響き渡り、それに合わせて全員の腕のシンクロライトバンドが激しく点滅する。
この曲は、彼女たちが高校一年生の春休みに初めて立った小さなライブハウスで、優莉が感じた「圧倒的な一体感」がそのまま歌になったものだ。ステージの五人と、客席の観客の脈拍(パルス)が完全に同期して一つになる瞬間を歌う。この曲で、東都ドームは一つの巨大な生命体へと変貌を遂げた。
怒涛のキラーチューン連発。視覚的にも聴覚的にも限界まで刺激された五万人のボルテージは、最高潮へと達していた。
そして、ライブの終わりを告げる、最後のMCが始まった。
「えーっと、すごく、すっごく早いけど……次が最後の曲です!」
由愛が汗を拭いながら宣言すると、客席からは「ええええええーっ!」「ヤダヤダ!」という名残惜しむブーイングが嵐のように巻き起こった。
「あはは、ごめんね! でも、今日、めちゃくちゃ楽しかったよ! みんなのおかげ! だから最後まで、全力で突っ走って行こーぜ!」
由愛が満面の笑顔で叫ぶと、歓声がそれに応える。
優莉は、センターマイクから一歩下がり、ステージ上のメンバー全員の顔をゆっくりと見渡した。
汗だくになって笑う由愛、やり切ったような表情の玲奈、息を切らしながらも嬉しそうな琴音、そして、相変わらず無表情だが瞳の奥に確かな充実感を宿している雫。
優莉の視線に、四人が力強く頷き返す。
優莉は再びマイクの前に立ち、凛とした声で五万人の観客に語りかけた。
「……それじゃあ、これが本当に最後の曲です。聴いてください。『未完成アンサンブル』」
優莉の宣言とともに、ライブの最後を締めくくる新曲がスタートした。
『未完成アンサンブル』。それは、ライブの最後に会場の全員で合唱できるように設計された、優しくも力強いミドルテンポのアンセムだった。
『まだまだ未熟で、欠点だらけの私たちだけど。不器用でもそれぞれの音を重ね合わせれば、どこまでも響く無敵のアンサンブルになれるはず』という五人の決意を込めた歌だ。
今日、ついに自分たちの足でこの巨大なステージに立った彼女たちのこれまでの絆。そして顔出しを解禁して、ここから始まる渋ガの「第二章」を象徴する、輝かしい未来への讃歌であった。優莉と由愛のリードに導かれ、五万人の観客が大合唱を響かせる。
会場を見渡すと、大勢のファンが涙で顔をくしゃくしゃにしながら、枯れる寸前の声で一緒に歌っていた。
ドーム全体を包み込むような、温かく、そして揺るぎない音楽の奔流。
そして、曲のラスト。サビの最大の盛り上がりに合わせて、特効音とともにステージの両サイドから無数の銀色のテープがキャノン砲から打ち上げられる。アリーナ席の頭上へと星の雨のように降り注ぐ、きらきらと宙を舞う銀テープを見上げながら、会場は言葉にできないほどの圧倒的な多幸感とカタルシスに包まれていた。
運のいいファンは舞い落ちてきた銀テープをしっかりと握りしめ、ステージ上の五人に向かってありったけの拍手を送っていた。
「みんな、今日は本当にありがとう! また会おーねー!」
由愛の元気いっぱいの叫びが響く。
「ありがとうございましたー!!」
優莉が深く一礼し、玲奈、琴音、雫もそれに続く。
割れんばかりの拍手と歓声、そしてありがとうという無数の叫び声が飛び交う中。五万人の熱狂の渦の中心で、日本の音楽史に新たな伝説を刻み込んだ女子高生バンド『渋ガ』の初めてのドームライブは、大団円のうちに終演を迎えた。
鳴り止まないアンコールの声と、全身を包む圧倒的な熱気。
ステージ袖へと下がった『優莉』――いや、俺は、込み上げてくる熱いものに思わず視界を滲ませていた。
(……まさか、本当にここまで来れるなんてな)
胸の奥で高鳴る鼓動が、これが夢ではないと教えてくれる。
こんな眩しすぎる青春のド真ん中で、五万人のファンと心を震わせ、感動の涙を流している美少女。
だが、約三年前までの俺は、ただの「48歳のハゲ散らかしたおっさん」だった。
ある朝。目覚めたら超絶美少女になっていて、手元には15億円の莫大な資産。
中身は枯れたおっさん。外見は奇跡の歌姫。
これは、俺が「大人のズルさ」と「莫大な資金力」をフル活用しながらも、最高の仲間たちと出会い、共にこの巨大なドームステージへ上り詰めるまでの、約三年にわたる波乱万丈な二度目の青春の記録である。
――さあ、時計の針を、すべてが始まったあの日に戻そう。