あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
いつもお読みいただきありがとうございます!
実は8月7日、Kindleで完全新作を個人出版することになりました。
現在連載中の『あさおん!』とは少し毛色を変え、今回は『可変TSダンジョン配信』ものです。「全2巻同時発売・完全完結」でお届けしますので、続報をお待ちください!
「あー、もうっ、わかんないよー!」
ファミレスのボックス席に、由愛の情けない声が響き渡る。彼女は手元の数学のテキストを睨みつけながら、わしゃわしゃと明るく染めた髪をかきむしっている。
大盛況のうちに幕を閉じた『渋学祭』の熱狂から一週間。十月の下旬を迎え、私立渋谷学林中学高等学校の生徒たちには、無情にも『二学期中間テスト』という現実が突きつけられていた。
今日は休日の午後。優莉(卓)たちいつもの仲良し五人組は、駅前のファミレスに集まり、ドリンクバーを頼りに中間テスト対策の勉強会を開いていた。なぜ、静かで広い、快適な優莉のタワーマンションを使わないのか。それには、極めて分かりやすく物理的な理由があった。
――現在、優莉の自宅マンションの一室は、絶賛『防音レコーディングスタジオ』への改装工事中なのである。
「それにしても……。マジで家の中にスタジオ作っちゃうなんて、本当に信じられないんだけど」
向かいの席で参考書を開いていた玲奈が、呆れたような、そしてどこか戦慄したような目で優莉を見た。
「あはは。まあ、どうせ作るなら早い方がいいかなって」
優莉はブラックコーヒーの入ったマグカップを片手に、涼しい顔で笑った。事の発端は、由愛の夢を応援するため(自分が歌う場所が欲しいとの建前で)、優莉がスタジオ建設を提案したことにある。
その後、優莉はダメ元でサージョトレーディングの九条社長に「タワマンの一室をスタジオに改装したいんですが、どこか腕のいい業者のツテはありませんか?」と尋ねてみたのである。すると、数日後には社長から紹介を受けたプロの施工業者がマンションにやってきて、「機材込みで一千七百万で防音室からミキシングルームまで妥協なしに仕上げますよ」と見積もりを出してきたのだ。
夏の投資で数億円を運用し、すでに莫大な含み益と配当金を得ている優莉にとって、一千七百万はまさに『ポケットマネー』であった。「あ、じゃあそれでお願いします」と、優莉はその場で即決(サイン)してしまったのである。
「学祭のライブのためだけに、一千七百万のスタジオを即金でポンって……。優莉ちゃん、もう『お嬢様疑惑』とかそういう次元じゃないよね。どこの石油王なの……」
琴音が引きつった笑いを浮かべる。友人たちの間で、優莉が「一人暮らしのフクザツな家庭事情の学生」ではなく「とんでもない超絶大富豪のお嬢様(確定)」であるという認識は、もはや覆しようのない事実として深く刻み込まれていた。
「まあまあ、スタジオの完成を楽しみにしててよ。……それより由愛、そこは公式に当てはめるだけじゃ解けないよ。ほら、こっちの補助線を引いてから」
優莉がペンで由愛のノートにサラサラと書き込みを入れる。
「ああっ! そっか、ここで三角形の相似を使うのか! スグ、マジ天才!」
そもそも、この『渋学』という学校は、都内でも屈指の超進学校である。卒業生の大部分が東大(東都大学)や旧帝大、早恵(早田大学、恵応大学)などの有名私立に進学し、さらに優秀なトップ層は海外のアイビーリーグなどへ直接進学していく。どんなに成績が悪くても、いわゆる『MARCH』クラスの大学には最低限引っかかるだろうと言われている、超高水準な環境なのだ。
だから、今こうして頭から煙を出して「わかんないー!」と泣き言を言っている由愛だって、世間一般の高校生という枠組みで見れば、十分に優秀な層に分類されるのである。しかし、周囲のレベルが高すぎるこの環境において、日々の試験を乗り切るのはやはり辛いらしい。
そこで結成されたのが、この『由愛救済のための鉄壁フォーメーション』であった。玲奈と優莉が全般的な教科の解説と思考のプロセスを教え、琴音がスケジュール管理や暗記の反復練習を優しくサポートする。そして、数学と物理に関しては、普段は無口な雫が『特化型コーチ』としてマンツーマンで由愛に指導を行っていた。
「……由愛。ここの微分、計算が三行飛んでる。プロセスを省くからミスをする。もう一回」
「ひぃっ、雫コーチ厳しい! やります、やりますぅ!」
眼鏡を光らせる雫の指導に、由愛が半泣きになりながらシャーペンを動かす。頭から煙が出ているかのようなオーバーヒート寸前の様子の由愛だが、隣で見ている優莉の目(元・管理職の目)から見れば、進捗は非常に順調であった。このままいけば、テスト当日までに赤点を回避するどころか、平均点付近まで確実に点数を上げられるだろう。
(ふふっ、なんだか受験生の娘を見守る親の気分だな)
優莉はブラックコーヒーを一口飲み、むーむーと唸っている由愛を微笑ましく見守った。とはいえ、優莉自身も他人の世話ばかり焼いている余裕はなかった。
(前回の夏休み明けテスト……。あの『歴史のジェネレーションギャップ』による68点という屈辱、二度と繰り返すわけにはいかない!)
自分の記憶にある三十年前の常識が、現代の教育においていかに時代遅れになっているかを痛感した優莉は、今回の中間テストに向けて、ひたすら『暗記科目(現代の歴史や社会)』の再インストール(復習)を徹底的に行っていた。
有名国立大卒のプライドをかなぐり捨て、最新の教科書をマーカーで真っ赤に塗りつぶしながら、優莉は現代の女子高生としての教養を必死にアップデートしていたのである。
そして、迎えた中間テスト本番から数日後、すべての教科のテストが返却され、学年順位が発表された日のこと。
「っしゃあああああっ! なんとか順位ど真ん中! ……って、順位は真ん中なのに点数は平均ちょい下なんだけど!? 上位層のバケモノ連中、点数稼いで平均点押し上げすぎっしょ!」
教室で自分の成績表を見た由愛が、歓喜とツッコミの入り混じった雄叫びを上げた。超進学校である渋学では、上位の天才たちが満点近い点数を連発するため、得点分布がいびつになりこうした現象がしばしば起きるのだ。それでも、由愛にとっては赤点ギリギリからの大躍進である。
「みんな、マジでありがとーっ! スグも玲奈も琴音も、そして鬼の雫コーチも! あーし、みんなのおかげで生き延びたよーっ!」
由愛が感極まった様子で、四人に次々と抱きついていく。
他のメンバーの結果も、それぞれが見事なものだった。玲奈は安定して上位20%以内に食い込み、琴音も全教科まんべんなく平均点以上を取って上位40%入り。
特筆すべきは雫で、彼女は数学と物理で驚異の『100点満点(学年トップ)』を叩き出していた。他が平均点程度だったため総合順位こそ琴音と同じ上位40%付近だったが、理数系における彼女の才能は完全に突き抜けている。
そして、優莉の成績はというと――。
(よし。総合で学年上位5%以内。上出来だな)
手元の成績表を見つめ、優莉は内心で静かにガッツポーズをした。前回の歴史の失点を取り戻し、すべての教科で90点台後半を揃えた結果である。
(とはいえ、学年トップの壁は厚いな……)
優莉は冷静に上位層の顔ぶれを分析した。この『渋学』の上位1%に君臨して平均点を押し上げている連中は、サージョトレーディングの開発部や経営企画室にいるような『生まれついてのバケモノ級の天才(ギフテッド)』たちと同じレベルの頭脳を持っている。
いかに優莉が四十八年分の人生経験と、開発部直伝の理数系アルゴリズムを持った「二周目のプレイヤー」であったとしても、地頭の処理速度が違いすぎる真の天才たちに、ペーパーテストで単純に勝つことは難しい。
過去に有名国立大を卒業しているとはいえ、サージョのバケモノたちを前にして自分はあくまで努力型の『秀才』止まりだという自己認識を持つ優莉にとっては、この「学年上位5%」という順位は、十分に、いや過剰なほどに満足できる最高の結果であった。
「スグ! 順位どうだった!?」
由愛が背後からひょっこりと顔を出して成績表を覗き込む。
「げっ、上位5%!? ヤバっ、スグってばマジで軍師じゃん! 歴史もちゃんと90点台取れてるし!」
「ふふん、今回は教科書と資料集の隅から隅まで暗記し直したからね」
優莉は得意げに胸を張った。(おっさん時代の古い知識を捨てて、現代の常識にアップデートするのに血の滲むような苦労をしたとは絶対に言えないが……)と、内心で冷や汗を拭いながら。
友人同士で成績表を見せ合い、「この数学の問題エグかったよね」「古典の現代語訳、完全に勘で書いたわ」などと、あーだこーだ言い合って盛り上がっていた、その時だった。
ピロンッ。
優莉の制服のポケットの中で、スマートフォン(メッセージアプリ)が鳴った。
「ん? 誰からだろ」
優莉がスマホを取り出し、画面を開く。そこには、自宅の一室をスタジオへリフォームしている施工業者の担当者から、一通のメッセージと、数枚の写真が添付されて送られてきていた。
『佐藤様。お世話になっております。先ほど、レコーディングスタジオの防音工事および全機材の搬入・セッティングが完了いたしました。お引き渡しの準備が整っております』
添付された写真には、優莉のタワーマンションの一室が、まるでプロの音楽レーベルの拠点かのように、完璧な防音材とLED照明、巨大なミキシングコンソール、そしてピカピカのドラムセットやアンプ群で埋め尽くされている様子が写っていた。
「…………みんな」
優莉はスマホの画面を友人たちに向け、ニヤリと国宝級の笑みを浮かべた。
「うちの自宅スタジオ、完成したってさ」
その言葉と画面の写真を見た瞬間、由愛の瞳がカッ!と見開かれた。
「ええええええええっ!? ヤバいヤバいヤバい! なにこれ、マジでプロのスタジオじゃん!!」
由愛がバンバンと机を叩き、テンションが限界を突破して飛び跳ねる。
「行く! 絶対行く! スグ、今日このまま見に行ってもいい!?」
「もちろん。どうせテストも終わったし、みんなで打ち上げがてらうちにおいでよ。今日はデリバリーでピザでも頼んで、スタジオの完成祝いパーティーにしよう」
優莉が大人の余裕を見せて提案すると、玲奈や琴音、そして雫までが「行く!」「絶対行くわ」と目を輝かせて頷いた。
「よっしゃあああ! テストも終わったし、最強のスタジオも完成したし! あーしたちの青春はこれからっしょ!!」
由愛の元気いっぱいの号令とともに、五人の女子高生たちはカバンをひっつかみ、一千七百万の夢が詰まったタワマンスタジオへと向けて、足取りも軽く駆け出していくのだった。
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