あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
十二月二十九日。年末の帰省ラッシュで混雑する東京駅を抜け、優莉と由愛は北関東へ向かう新幹線の座席に並んで座っていた。
一月三日までの、五泊六日の帰省旅行である。
窓の外を流れる冬の景色を眺めながら、由愛が駅弁の包みを開けつつケラケラと笑った。
「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、無事に来られてよかったよー。うちのお母さん、最初は『お正月くらい家で大人しく勉強しなさい!』って大反対だったんだよね」
「そうだったんだ。まあ、由愛は歌手になるって公言してるし、ご両親も将来のことが心配なんだよ」
「うん、過干渉気味で困っちゃうんだけどさ。でも、あーしの将来を心配してくれてるのは分かるから、しょうがないなって思ってる。……でもね!」
由愛は得意げに胸を張り、隣に座る優莉の肩をバンバンと叩いた。
「今回一緒に帰省する相手が、あの渋学で学年上位五パーセントに入ってて、東大と京大の模試でA判定出してる『佐藤優莉ちゃん』だって分かった瞬間、お母さんの態度がコロッと変わったの! 『そんな優秀なお友達なら、ぜひご一緒させていただきなさい! 勉強の仕方も教えてもらうのよ!』だってさ。もうウケるよねー!」
「あはは……私の成績が役に立ったならよかったよ」
優莉は苦笑しながら、持参した温かいお茶をすする。自分の成績がまさか友人の親を説得するために水戸黄門の印籠のように使われるとは思いもしなかった。
「そういえばさ、スグの田舎ってどんなとこ?」
焼売を頬張りながら、由愛が尋ねてくる。
「うーん……駅前はそれなりに開けてるけど、少し車で走れば田んぼや畑ばっかりの、なーんもないとこだよ」
優莉は窓の外の遠くの景色に目を細め、静かに微笑んだ。
「でも……私にとっては、世界中のどこよりも落ち着ける場所なんだ」
その言葉には、十五歳の少女の顔に隠された、四十八歳の男としての深い郷愁が込められていた。
やがて新幹線は目的の駅に到着した。改札を抜けて駅前のロータリーに出ると、冬の冷たい風が頬を刺す。
そこには、見慣れた国産のセダンが一台停まっており、ダウンジャケットを着た温和な顔立ちの年配の男性が手を振っている。優莉の本当の父親であり、戸籍上は『祖父』となっている人物だ。
「あっ、おじいちゃん!」
優莉は駆け寄り、満面の笑みを見せた。(父さん、少し白髪が増えたか……?)と内心で少しだけしんみりしつつも、設定を崩さないように無邪気な孫娘を演じる。
「おお、よく来たね、優莉。えーっと……そちらのお嬢さんが、由愛ちゃんかな?」
祖父が目尻を下げて由愛を見る。由愛は立ち止まると、普段のギャルのノリをピシッと封印し、両手を前に揃えて深くお辞儀をした。
「初めまして! 優莉のクラスメイトの、八坂由愛です。今日から数日間、しばらくお世話になります。よろしくお願いします!」
その完璧で礼儀正しい挨拶に、祖父は「おお、なんて礼儀正しいお嬢さんだ」と感心しきりであった。優莉は内心で(由愛、TPOをわきまえてたんだな)と少しずれた感想を抱いていた。
車に揺られて実家に到着すると、今度はエプロン姿の祖母(という体の母親)が玄関で出迎えてくれた。由愛が先ほどに負けない丁寧な所作で頭を下げると、祖母も大喜びで二人を家の中へ招き入れた。
「ささ、優莉の部屋は二階の奥だからね。掃除はしておいたわよ」
「ありがとう、おばあちゃん。由愛、こっちだよ」
優莉は由愛を連れて階段を上がり、自室のドアを開けた。
そこは、優莉がまだ『佐藤卓(すぐる)』という四十八歳の男だった頃、高校を卒業して家を出るまで使っていた部屋である。今は優莉の帰省用の部屋として整えられているが、壁紙の雰囲気や備え付けの本棚には当時の面影が残っていた。
「へー! なんかタワマンのスグの部屋と全然雰囲気違うね。なんだろ……ちょっと男の子の部屋って感じ!」
部屋を見回しながら、由愛がもの珍しそうに言った。少し慌てた様子で優莉は、わざとらしく咳払いをして誤魔化そうとしていた。
「あ、ああ。ここ、私の『父さん』が高校時代まで使ってた部屋だったんだって。だから、なんとなく男っぽい名残があるのかもね」
「そっかー、スグのお父さんの部屋かぁ。なんか歴史を感じるね!」
由愛はベッドにダイブし、「ふかふかー!」と無邪気に足をバタバタさせた。
その夜。祖母が腕によりをかけたご馳走を腹一杯に平らげ、こたつでぬくぬくとくつろいでいた時のことであった。
食器の片付けを終えた祖母が、居間に入ってきて二人に言う。
「お風呂、沸いてるわよ。せっかくだから、二人一緒に入っちゃいなさいな。背中の流しっこでもして、しっかり温まるといいわ」
「はーい、ありがとうございます! スグ、一緒に入ろー!」
由愛は当然、何の疑いもなく立ち上がる。しかし、優莉の背筋には冷たい汗が流れた。
(なっ……一緒に入っちゃいなさい、だと!?)
優莉は慌てて立ち上がり、祖母の腕を引いて台所の隅へと連れて行った。そして、由愛に聞こえないよう、極限の小声で抗議する。
「ちょっと母さん! 俺が元男だって知ってるだろ!? 年頃の女子高生と一緒にお風呂なんて、道徳的にも倫理的にもまずいんじゃ……!」
すると、母親は呆れたように小さくため息をつき、同じく小声でピシャリと言い返した。
「だからでしょ。あんたのことだから、東京でもそういう女子同士の付き合いみたいなのは全力で避けてきたんでしょうけど……女の子になった以上、修学旅行とか温泉とか、いつかは絶対に通る道なんだから。今のうちに、気の置けないお友達とさっさと済ませちゃいなさい」
「ぐっ……」
母親のあまりにも正論すぎる指摘に、優莉は二の句が継げなかった。
「ほら、由愛ちゃんが待ってるわよ。楽しんできなさい」
居間に戻ると、由愛がすでに脱衣所へ向かう準備を整えてウキウキと待っている。もはや、断りきれる空気ではなかった。
――そして、脱衣所。
暖房が効いているとはいえ、優莉の身体は別の意味で震えていた。
(落ち着け、俺……。相手は十五歳の女子高生だ。俺の娘であってもおかしくない年齢だぞ。邪念を捨てろ、俺は木だ、森の木なんだ……)
優莉は壁の方を向き、恐る恐る、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。
「あはは、やっぱり優莉って恥ずかしがりやだよねー。体育で着替える時も、いっつも隠れてるし」
背後で由愛が屈託なく笑いながら、躊躇いなく服を脱ぎ捨てていく気配がする。優莉の限界はもう目前だった。
「お、男は度胸だ!!」
「えっ? 男?」
「な、なんでもない! 先に入ってるね!」
優莉は意味不明な捨て台詞を吐き、一気に服を脱ぎ捨てると、逃げるように浴室へと駆け込んだ。シャワーでお湯をかぶり、必死に心を無にしようとしていると、ガラガラと扉が開いて由愛が入ってきた。
「ふー、寒っ! 早く温まろー!」
隠すそぶりすら見せない由愛の健康的な裸体が視界の端に入り、優莉の心臓が大きく跳ねる。
(見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ……!)
優莉は首がもげるかと思うほど真横を向き、誤魔化すようにゴシゴシと自分の体を洗い始めた。しかし、そんな優莉の苦悩など知る由もない由愛は、無邪気に背後から近づいてきた。
「スグ、背中流してあげるよっ!」
「ひゃああっ!?」
突然背中に柔らかいスポンジの感触と、由愛の手が触れ、優莉は変な声を上げてびくついた。
「ちょ、ちょっと待って由愛、自分で洗えるから!」
「いいからいいから! 今日ぐらい、あーしに甘えてよ」
由愛に肩をグッと抑えられ、逃げ道を塞がれてしまう。
優莉は真っ赤になりながら縮こまるしかなかったが――由愛の手つきは思いのほか優しかった。丁寧に背中を滑るスポンジの感触と温かいお湯に、極度の緊張で強張っていた身体が少しずつ解れていくのを、優莉は感じるのだった。
(……人に背中洗ってもらうなんて、何十年ぶりだろう……。こういうのも、案外悪くないよな……)
「はい、おっけー! 綺麗になったよ!」
「ありがとう……。で、でも、私は洗わないからねっ!」
少しほっこりしていたものの、これ以上この空間にいては危ういと判断した優莉は、顔を真っ赤にしつつ立ち上がり、再び逃げるように湯船へと飛び込んだのであった。
「ぷっ、スグってばほんと可愛いんだからー」
由愛は一人で洗い場に座り、ご機嫌な鼻歌を歌いながら自分の体を洗い始める。
優莉は湯船の縁に顔の下まで浸かり、目をギュッと逸らしていたが……どうしても気になってしまい、薄目を開けてチラチラと由愛の姿を見てしまう。
(いかん……おっさんの本能が……。いや、これはただの親目線の見守りだ。そうだ、健全な見守り……)
「お待たせー!」
やがて洗い終えた由愛が、ざぶんと湯船に入ってきた。家庭用の湯船に二人で入れば、当然距離は近くなる。お湯の中で二人の肌がふいに触れ合い、優莉は「ひゃっ」とまたしてもあたふたとお湯を波立たせてしまった。
しかし、由愛はそんな優莉を気にするふうでもなく、ふぅーっと息を吐いてお湯の温かさに身を委ねた。
「……ねえ、スグ」
「ん?」
「今回、あーしを連れてきてくれてありがとうね」
由愛が、ふと真面目なトーンで言った。
「おじいちゃんもおばあちゃんも、すっごくいい人たちだし、ご飯も美味しいし。一人で東京の家で過ごすより、ずっとずっと楽しいよ。ほんとによかった」
由愛の顔には、心からの感謝と、安堵の笑みが浮かんでいた。その素直な言葉を聞いた瞬間、優莉の中で暴れ回っていた四十八歳のおっさんの羞恥心や煩悩が、まるで冬の空気に溶けるようにスッと消え去っていった。
(……そうか。この子は本当に、私を頼って、ここに来てくれたんだな)
優莉は小さく微笑み、湯船の中で自分の膝を抱えた。
「私も、由愛が来てくれて嬉しいよ。明日からはこたつでみかん食べながらテレビ見たりして……地元の神社に初詣にも行って、ゆっくりしようね」
「うんっ! あーし、お餅いっぱい食べる!」
しっとりとした湯気の中で、いつしか二人は、ごく普通の女子高生同士として、たわいもない会話に花を咲かせていた。
「ふー、温まったー!」
そろそろ出よっか、とお風呂を上がった二人。優莉は脱衣所でパジャマを着る前にすぐに洗面台の前に陣取り、冬の過酷な肌のメンテナンス・ルーティンを開始した。
「三分が勝負だ……!」
優莉は目にも留まらぬ速さで導入美容液を肌に叩き込み、続けて高保湿の化粧水を重ね付けする。さらに乳液で蓋をし、乾燥しやすい目元や口元に美容オイルを馴染ませ、最後に全身にくまなくボディクリームを塗りたくっていく。
元・総務部長としてのタスク処理能力を全開にした、完璧かつ無駄のない保湿工程である。
一方の由愛はといえば、タオルで適当に髪を拭いた後、ドラッグストアで売っているオールインワンの安い化粧水を顔にバシャバシャと塗り、「よし、完了!」とばかりにパジャマのボタンを留めていた。
そのあまりにも雑な手入れを見た優莉は、ピタッと動きを止めた。
「……由愛。それでおしまい?」
「えっ? うん。いつもこんなもんだよ。あーし、別に乾燥とかあんまり気にならないしー」
その言葉に、優莉の中の『おっさん』ではなく、『親心』と『美肌管理の鬼(玲奈たちから受け継いだもの)』が目を覚ました。
「それじゃダメだよ」
優莉は由愛の肩を掴み、洗面台の鏡の前に強制的に座らせた。
「冬の乾燥を舐めちゃいけない。今は若さでごまかせてるかもしれないけど、五年後、十年後に確実にツケが回ってくるんだからね。ほら、まずはこの高保湿の化粧水をもう一回、ちゃんと肌の奥まで浸透させるように優しく押し込む」
「ひゃあ!? スグ、なんか急にお母さんみたいになってる……!」
「いいから、じっとしてて。次は乳液。保湿の基本は水と油のバランスだよ。で、腕と脚にはこのボディクリームをしっかり塗る」
「わ、わかった! わかったから自分でやるってばー!」
「甘い! そんな雑な塗り方じゃ、肘と膝がカサカサになるのが目に見えてるよ!」
もはや完全な親の気分――あるいは部下を指導する上司の気分で、優莉は由愛の頬をペチペチと叩きながら、念入りなお手入れの手伝いを始めた。
地方都市の静かな冬の夜。元おっさんの美少女と、明るいギャルの賑やかな声が、洗面所から家中に響き渡っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる!」「TSやり直し、良いな」など、少しでも楽しんでいただけましたら【☆マーク(評価)】や【作品お気に入り】で応援していただけると、毎日の投稿の励みになります!
次回もお楽しみに!