あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
十二月三十一日、大晦日。北関東の冬を象徴するような、乾燥した冷たい空気が街を包み込んでいた。
帰省してからというもの、優莉と由愛は二人で連れ立って地元の観光地や商業施設を巡り、あっという間に数日が過ぎ去っていた。由愛の底抜けの明るさがあれば、どこへ行っても新鮮な驚きがあり、寒さなどまったく気にもせずに楽しむことができる。
(由愛と一緒にいると本当に退屈しないな。時間が経つのがずっと早く感じる)
優莉は実家の居間のこたつでみかんの皮を剥きながら、心からそう実感していた。
そうして夜の十一時を回った頃。テレビでは恒例の年越し音楽番組が佳境に入り、実家の居間にはゆったりとした大晦日特有の空気が流れていた。
「ねえ、由愛。そろそろ出かけよっか」
優莉がふとこたつから這い出しながら声をかけると、テレビ画面に夢中になっていた由愛が「えっ?」と目を丸くして振り返った。
「今から!? もうすぐ年明けちゃうよ?」
「うん。実は私も行くのは初めてなんだけど、私の『お父さん』は昔、近くの神社で二年参りをしてたんだって。だから、一緒に行ってみない?」
「二年参り?」
聞き慣れない言葉に、由愛が首を傾げる。
「そう。除夜の鐘を聞きながら神社で年を越して、そのまま初詣も済ませちゃうんだって。小さい神社だけど、出店もいくつか出るみたいだよ」
優莉はあくまで「以前に父親から聞いた話」という体裁を取り繕いながら説明した。だが、その脳裏には四十八歳のおっさんだった頃の記憶が鮮明に蘇っていた。
(中高生の頃は、大晦日の夜中になると近所のダチと連れ立って、あそこの神社に集まったっけな。甘酒飲んで、年が明けたらおみくじ引いて……懐かしいな)
そんな優莉のノスタルジーを知る由もない由愛だったが、「出店」という単語に即座に反応した。
「へー! なんかそれ、めっちゃ楽しそう! 行こ行こっ!」
即答した由愛は、弾かれたように立ち上がって着替えに向かった。二人でしっかりと着込み、ダウンコートにマフラー、手袋で完璧な防寒対策を整える。
「おばあちゃん、ちょっと近くの神社まで二年参りに行ってくるね」
「はいはい。夜は冷え込むから、風邪ひかないように気をつけるのよー」
居間で茶をすする祖母に見送られ、二人は実家を後にした。
家から少し歩くものの、十分に徒歩圏内にある地元の小さな神社。普段は宮司すら常駐していないような無人の鎮守の森であったが、今夜ばかりは入り口に提灯が飾られ、参道には煌々と明かりを灯す出店がいくつも並んでいる。
「おーっ! こぢんまりしてるけど、なんかすごく雰囲気あるね!」
由愛が白い息を吐きながら、はしゃいだ声を上げた。
「そうだね。とりあえず、まずは鐘つきに行こうか」
優莉が指差した先には、木造の古い鐘楼があり、十人ほどの参拝客が列を作っていた。二人はその列の最後尾に並ぶ。
「あーし、除夜の鐘つくの初めてだよ! 楽しみー!」
ぴょんぴょんと足踏みをする由愛の横顔を、優莉は保護者のような温かい眼差しで見守っていた。
(本当にささやかな地元の行事で、こんなに喜んでくれるなんてな。連れてきて本当に良かった)
二人の順番が回ってきた。法被を着た地元の世話役の年配男性から「一人一回だけだからねー、二人で一緒についてもいいよ」と声をかけられる。
「はい! いくよ、スグ。せーのっ!」
二人は太い綱を一緒に握り締め、後ろに引いてから勢いよく撞木を打ち付けた。
――ゴォォォォン……!
重厚で腹の底に響くような鐘の音が、冬の夜空に吸い込まれていく。
「うわぁ、近くで聞くと音大きかったねー!」
「うん、でもいい音だった」
鐘楼から離れながら、二人はジンジンと手に残る振動の余韻を楽しんだ。
その後、世話役の人たちが配っていた熱々の甘酒を紙コップでいただき、二人は出店が並ぶエリアへと向かった。
「あーし、あれ食べたい!」
由愛が一直線に指差したのは、なぜか『イカ焼き』の屋台だった。
「えっ? 大晦日の夜中にイカ焼き?」
「うん! なんか急に無性に食べたくなっちゃった!」
優莉は苦笑しながら、由愛のリクエスト通りにイカ焼きを買い、さらに隣の屋台でステーキ串と、食後のデザート代わりにベビーカステラを購入した。
境内の端にあるベンチに座り、二人でそれらを分け合って食べる。
「ん〜っ! おいしー! 外で食べる屋台のご飯って最高だよね!」
口の周りに少しタレをつけながら、由愛が満面の笑みを浮かべている。優莉は自分のポケットからウェットティッシュを取り出し、由愛に手渡した。
「ほら、ついてるよ。口拭きなよ」
「ありがと! ……んー、でも、なんかさ、今年はいい年だったなー」
もぐもぐと咀嚼しながら、由愛がふと、夜空を見上げて呟いた。
「そう?そんなにいい年だった?」
優莉がステーキ串をかじりながら問い返すと、由愛は隣に座る優莉の方を向き、とびきりの笑顔で答えた。
「そりゃそうだよ。だって、優莉と会えたんだもん」
「…………えっ」
不意打ち気味に飛んできた、あまりにも真っ直ぐで純粋な言葉。優莉は面食らい、ステーキを咀嚼する口をピタリと止めてしまった。
(なっ……なんだこの子は。こんなの、おっさんの心臓には刺激が強すぎるだろう……!)
由愛の向日葵のような笑顔の破壊力に、優莉の胸の奥が熱くなる。危うく涙腺が緩みそうになったのを、優莉は必死で咳払いをして誤魔化した。
「……そ、それなら、私の方こそいい年だったよ」
優莉はベビーカステラを一つ口に放り込み、照れ隠しのように言葉を続けた。
(いきなり謎の魔導具で性転換して、おっさんから美少女になったり、慣れない女子の身体に四苦八苦したり……本当に、とんでもなく大変な一年だったけど)
「私も、由愛やみんなと出会えて、こうやって一緒にいられる今がすごく楽しいから。……今年は、間違いなく良い年だったよ」
「えへへー、でしょでしょー! 来年もいっぱいいいことあるといいね!」
二人はベンチに座ったまま、互いの今年一年の良かった出来事や、他愛のない思い出話に花を咲かせた。
食べ終わって温かいお茶を飲んでいると、ふいに周囲の空気が少しだけざわめき始めた。
「あ、おめでとうございますー」
「あけましておめでとう!」
あちこちから、参拝客同士の弾むような声が聞こえてくる。同時に、本殿に向かって人々がぞろぞろと列を作り始めた。
「あっ、もしかして、もう年越したのかな」
優莉がダウンコートのポケットからスマホを取り出して画面を確認すると、時刻はちょうど『1月1日 0:00』を示していた。
「本当だ。年、明けたね」
優莉が顔を上げると、由愛もスマホの画面から目を離し、優莉の方を真っ直ぐに見つめていた。
二人はベンチから立ち上がり、自然と向かい合う。
「優莉。あけましておめでとうございます! 今年もよろしくね!」
由愛が元気いっぱいに頭を下げる。優莉もまた、背筋を伸ばして丁寧に頭を下げた。
「あけましておめでとう。こちらこそ、今年もよろしくね、由愛」
新年の挨拶を交わし、顔を上げて笑い合った後。
「それじゃ、私たちもお参りしよっか」
優莉が促し、二人は本殿へと続く参拝の列に並んだ。地元の小さな神社ということもあり、数分も待てばすぐに順番が回ってきた。
本殿の前に立ち、お賽銭箱を覗き込む。由愛は財布からご縁があるようにと「五円玉」を取り出し、チャリンと投げ入れた。
一方の優莉は、おもむろに財布から渋沢栄一が印刷されたお札をスッと抜き出し、そのまま躊躇いなくお賽銭箱へと滑り込ませた。
「えっ!? ちょっ、スグ!? 今、万札入れなかった!?」
「うん。神様への投資は、惜しまない主義だから」
「投資って……! 相変わらず金銭感覚バグってるよ!」
目をひん剥く由愛を横目に、優莉は極めて冷静な顔でガラガラと鈴を鳴らし、二礼二拍手を行った。
由愛も慌てて隣で手を合わせる。冷たい夜気の中、優莉は目を閉じ、静かに心の中で神様に語りかけた。
(神様。去年は突然女体化するというトンデモない事態に見舞われて色々大変でしたが……終わってみれば、決して悪くない年でした。この身体と、今の環境には感謝しています)
優莉は隣で熱心に祈っている由愛の気配を感じながら、さらに祈りを込めた。
(今年一年、この子たちともっと楽しく過ごせますように。そして……中身は四十八歳のおっさんですが、この二度目の青春の中で、俺自身が心の底から夢中になれる『何か』が見つかりますように)
最後に深く一礼をして顔を上げた優莉の表情は、新年の清々しい空気に洗われ、どこまでも晴れやかだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる!」「TSやり直し、良いな」など、少しでも楽しんでいただけましたら【☆マーク(評価)】や【作品お気に入り】で応援していただけると、毎日の投稿の励みになります!
次回もお楽しみに!