あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜   作:高山 虎

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【お知らせ】
Kindle完全新作『29歳底辺日雇いダンジョンワーカー、事故でTSしたら最強の美少女になったけど死にたくないので安全圏でゆるふわ配信者を目指します(なおFIREは遠のく模様)』の発売まであと2週間となりました!

全2巻同時発売なので、週末の一気読みに最適です。
Kindle Unlimited会員の方は無料で最後まで読めます。

いつもの青春やり直しものとは違う、ダンジョン配信ならではの爽快感を目指しましたのでお楽しみに!


第三十二話 誕生日を彩るハッピーバースデー

 一月二十三日。

 この日は、佐藤優莉の誕生日である。

 

 十五歳の美少女の肉体を得てから初めて迎える誕生日。しかし、この記念すべき日を、バンドメンバーである由愛たちは誰一人として知らなかった。優莉が意図的に隠していたからである。

 

 なぜなら、優莉の中身は「四十八歳の元・総務部長」だからだ。

 

(四十八にもなった大人の男にとって、自分の誕生日なんてものは『また一つ老いに近づいた』という絶望のカウントダウンでしかないからな……)

 

 会社員時代は誕生日に後輩からちょっと高めの栄養ドリンクを貰ったり、家に帰って一人でコンビニのショートケーキをかじったりするだけの、ひたすらに虚無な一日だった。よって、自身の誕生日には関心が全くないのである。

 

 年齢を重ねることは、体力低下と健康診断の数値悪化、そして責任だけが重くなっていくことを意味している。だからこそ、優莉にとって「誕生日=お祝いされて喜ぶ日」という概念は、とうの昔に失われて久しいのだ。

 

 放課後。優莉の住む超高級タワーマンションの一室、一千七百万円を投じて魔改造されたスタジオの中には、今日もいつもの五人が集まり、熱心にバンドの練習に打ち込んでいた。冬の寒さを微塵も感じさせない快適な空調の下、アンプから放たれていた重低音が止む。

 

「ふう、そろそろ休憩にしよっか」

 

 ドラムスローン(椅子)に座っていた琴音が、スティックを置いて額の汗を拭った。

 

「おっけー! 喉乾いたーっ」

 

 由愛がマイクスタンドから離れ、スタジオの隅に設置されたミニ冷蔵庫を開ける。中には高級フルーツジュースがぎっしりと詰まっており、在庫が少なくなればフロントに電話を一本入れるだけで、コンシェルジュがすぐに不足分を部屋の玄関まで届けてくれる便利なシステムであった。

 

 五人はそれぞれ好きな飲み物を手に取り、フロアの真ん中で車座になって座り込む。楽器の熱気がほんのりと残る中、他愛のないおしゃべりが始まった。

 

「そういえばさ」

 

 琴音が、高級なアップルジュースをストローで飲みながら、ふと思い出したように口を開いた。

 

「来月って、由愛ちゃんの誕生日だよね? みんなでどこかでお祝いとかする?」

 

「えっ! 琴音、覚えててくれたの!? 嬉しいーっ!」

 

 二月生まれの由愛が、パァッと顔を輝かせて琴音に抱きつく。

 

「当たり前じゃない。由愛ちゃんの大事な日だもん」

 

「じゃあ、みんなで駅前のファミレスで誕生日パーティーでもする?」

 

 玲奈が提案すると、由愛は「やるやる! あーし、ジャンボパフェ食べたい!」と大はしゃぎだ。雫も無言でコクコクと頷いている。優莉も「うん、いいんじゃないかな」と微笑ましく相槌を打った。

 

 その時だった。ジャンボパフェのことで頭がいっぱいになっていたはずの由愛が、ふと首を傾げて優莉の顔を覗き込んできた。

 

「そーいえばさ。スグって、誕生日いつなの?」

 

「…………えっ」

 

 優莉は持っていたグラスをピタッと止めた。

 

 まったく予期していなかった質問に、元・総務部長の優秀な頭脳がわずかにフリーズする。

 

(自分の誕生日なんて全く意識していなかったな。ええと、誤魔化す必要も特にないし、今日は何日だっけ。あっ……)

 

「……今日、かな」

 

 優莉がポツリと呟いた瞬間。

 スタジオの空気が、ピシッと凍りついた。

 

「「「ええええええええええっ!?」」」

 

 最初に悲鳴を上げたのは由愛だった。続いて琴音が両手で口を覆い、玲奈が目をひん剥き、普段は表情を変えない雫でさえ「……嘘」と呟いて目を見開いている。

 

「きょ、今日!? 今日なの!? なんで言ってくれなかったのさーっ!」

 

 由愛が慌てふためいて優莉の両肩を揺さぶる。

 

「だって、今日って……私たち、何も準備してないよ!? プレゼントも、ケーキも……どうしよう、玲奈ちゃん!」

 

「わ、私に言われても! いくらなんでも急すぎるわよ、優莉のバカ! なんで黙ってたのよ!」

 

 大パニックに陥る四人を見て、優莉は慌てて両手を振った。

 

「いやいやいや、いいんだよ! 気にしないで! 私、そういうの本当に求めてないから!」

 

「そんなわけにいかないでしょ!」

 

「いや、ほんとに。……だって、年を取るのって、そんなに手放しで喜べるようないいもんじゃないしね」

 

 優莉の口から、ふいに、十五歳の可憐な少女の容姿からは絶対に発せられるはずのない『四十八年間、社会の荒波に揉まれてきた中高年の重みと哀愁』が滲み出た。

 

 そのあまりにも達観した、どこか遠い目をした優莉の凄まじい説得力を前に、パニックになっていた玲奈と雫がピタリと動きを止める。

 

「……ま、まあ。本人がそこまで言うなら、無理に騒ぐのもアレだし……」

 

「……真理」

 

 玲奈が戸惑いながら引き下がり、雫が深く頷いてしまった。

 

「ダメだよっ!!」

 

 しかし、そんなおっさんの哀愁を、ギャルの真っ直ぐな光が切り裂いた。ビシッ!と、由愛が優莉の鼻先に人差し指を突きつける。

 

「年を取るのがどうとか、そういう小難しいことはあーしには分かんない! でもね、誕生日は『優莉が生まれた大切な日』なんだよ!? それを何もしないでスルーするなんて、親友として絶対許せないんだから!」

 

 由愛の瞳は真剣そのもので、怒っているようで、今にも泣き出しそうでもあった。

 

 ――優莉が生まれた大切な日。その純粋すぎる言葉が、四十八歳のおっさんの干からびた心に、温かいお湯のように染み渡っていく。

 

(……そうか。この子たちは『俺が年を取ったこと』を祝いたいんじゃない。『俺がここにいること』を喜んでくれているのか)

 

 男時代には決して味わえなかった、友人からの無償の親愛。優莉は、自分を心配そうに囲む四人の顔をゆっくりと見渡し、ふっと柔らかい笑みをこぼした。

 

「……そっか。ありがとう、由愛」

 

「う、うん。だから、今日はお祝いさせてよ。でも、本当に急すぎて、ケーキとか買いに行く時間もないし、どうしよ……」

 

 しょんぼりと肩を落とす由愛に、優莉は首を横に振った。

 

「プレゼントもケーキもいらないよ。でも、もしお祝いしてくれるなら……一つだけ、お願いしていい?」

 

「えっ? なになに? なんでも言って!」

 

 優莉はスタジオに並ぶ楽器たちに視線を向け、照れくさそうに言った。

 

「――『ハッピーバースデー』、歌ってよ」

 

 その提案に、四人の顔がパッと明るく輝いた。

 

「……任せて!」

 

 玲奈が弾かれたように立ち上がり、ベースを肩にかける。雫が愛用のギターを構え、琴音が嬉しそうにドラムのスティックを握り直す。そして、由愛がマイクスタンドの前に立った。

 

「いくよーっ! ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

 琴音のカウントとともに、スタジオに極上のサウンドが響き渡った。

 

 雫が即興でおしゃれなロックアレンジのコードを刻み、玲奈のベースがうねるようにグルーヴを生み出し、琴音のドラムが力強く全体を支える。

 

 そして、優莉の特訓を受けて見違えるように上達した由愛の、圧倒的に明るくパワフルな歌声が乗る。

 

「ハッピーバースデー、トゥーユー♪ ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 

 フロアの真ん中に座ったまま、優莉は自分に向けられる最高の演奏と歌声に、ニコニコと顔をほころばせて聴き入っていた。

 

「ハッピーバースデー、ディア、スグリーっ! ハッピーバースデー、トゥーユー!!」

 

 じゃーん!と派手なアウトロが鳴り響き、演奏が終わる。

 

「スグ! お誕生日おめでとーっ!」

 

 由愛がマイクを放り出して優莉に抱きつき、玲奈たちも笑顔で拍手を送った。

 

(……ああ、悪くないな。いや、最高だ。誕生日って、こんなに温かくて、いいものだったんだな……)

 

 優莉は由愛の背中に腕を回しながら、心からの幸せを噛み締めていた。

 

 心のこもったハッピーバースデーの演奏を終え、再び練習をこなした後の帰り際。

 

 四人を見送るため、優莉が一緒に玄関へと向かう廊下で、話題は自然と「他のメンバーの誕生日」へと移っていた。

 

「ちなみに、玲奈と琴音と雫は、いつが誕生日なの?」

 

 優莉が尋ねると、三人が順に答えていく。

 

「私は七月十一日よ」

 

「私は四月十日。春休みが明けてすぐだね」

 

「……六月三日」

 

「そっか。みんなの誕生日、ちゃんとメモしておかないとね」

 

 優莉はスマホを取り出し、スケジュールアプリに三人の誕生日を入力した。

 

(ふふふ……これからの彼女たちの誕生日。元・総務部長として、そして総資産十五億の圧倒的資本力を活かして、最高のプレゼントを用意してやろうじゃないか。まずはハイブランドのアクセサリーか、それともプロ仕様のカスタム楽器か……)

 

 優莉が内心で「大人の財力に物を言わせた完璧なプレゼント計画」を練り始め、一人でニヤニヤと悪徳代官のような笑みを浮かべていた、その時である。

 

「ちょっと、優莉」

 

 玲奈が、優莉の肩をガシッと掴み、凄みのある低い声で呼び止めた。

 

「……なんか今、すごく嫌なこと考えてなかった?」

 

「えっ? いや、別に何も……」

 

「言っておくけど、私たちの誕生日に、あんたのそのバグり散らかした金銭感覚で、何十万もするような時計とか楽器とか、絶対に買わないでよ。冗談抜きで引くからね」

 

 玲奈の鋭すぎる観察眼に、優莉はギクッと肩を揺らした。

 

「でもさ、どうせなら本当に欲しい高価な物を貰った方が嬉しくないかな? 投資対効果(ROI)的にも、安いものをたくさんより、一生モノをドンと一つあげた方が……」

 

 優莉がもっともらしい(?)ビジネス理論で反論しようとした瞬間、四人から一斉に強烈なツッコミが飛んできた。

 

「高校生の誕生日プレゼントにROIとか持ち出さないで!」

 

「高価な物貰った方が、逆にビビるわ! 親に何て説明するのよ!」

 

「そうだよスグ! プレゼントはお金じゃなくて気持ちなんだからね!」

 

「……資本主義のバケモノ」

 

 琴音、玲奈、由愛、雫の四方向からの総攻撃を受け、優莉は「ひぃっ、す、すみません……」とタジタジになって縮こまった。

 

「……ほんと、優莉ちゃんって完璧に見えて、常識がズレてるところあるよね」

 

「私たちがしっかり手綱を握って、少しずつ普通の女子高生の金銭感覚に矯正していかなきゃダメね……」

 

 ため息をつく玲奈と琴音の言葉に、由愛と雫も深く頷く。

 

 一千七百万のスタジオを備えた超高級タワーマンションの広々とした玄関で、靴を履きながら、四人の少女たちは「この国宝級美少女のポンコツな金銭感覚を正す」という、新たな使命感に静かに燃えていた。

 

 そんな友人たちの呆れ顔を前にして、優莉は怒られながらも、胸の奥がくすぐったくなるような温かさを感じていた。

 

(ああ……やっぱり、悪くないな)

 

 新しい少女の身体で迎えた、初めての誕生日。それは、四十八年の人生の中で間違いなく、一番騒がしくて、一番幸せな誕生日であった。




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