あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
悲しい!
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(ダイレクトマーケティング)
「ねえ、みんな。八月って空いてる?」
期末テストが目前に迫り、じめじめとした梅雨の空気が教室を包んでいる七月上旬のお昼休み。いつものように五人で机をくっつけてお弁当を食べていた最中、唐突に話題を変えた由愛の言葉に、四人は箸を止めた。
「どうしたの? どこか出かける? もしかして旅行とか?」
優莉が首を傾げて尋ねると、玲奈や琴音、雫も不思議そうに由愛の顔を見つめる。
「ううん、旅行じゃないんだけどね。実はさっき、春に出たライブハウスの店長さんから直接メッセージが来てさ」
由愛は得意げにスマホの画面を四人に向けて見せた。
「春のライブ、あーしたちのステージが予想以上にすっごく盛り上がったでしょ? だから、八月に行うライブハウス主催のイベントに、ぜひゲスト出演してくれないか、だって!」
「「「ゲスト出演!?」」」
優莉、玲奈、琴音が同時に声を上げる。無口な雫でさえ、ピクッと肩を揺らして目を丸くしていた。
「日程は、お盆のちょいあとの週末なんだけど。みんな、予定どうかなって」
「私は大丈夫だけど……」
「私も、実家への帰省はお盆のド真ん中だから、その時期なら空いてるよ」
優莉と琴音が答え、玲奈と雫も頷いて全員の予定が空いていることが確認された。しかし、冷静なツッコミ役である玲奈が、少しだけ眉をひそめて由愛に問う。
「ちょっと待って。この前はヘルプだから免除されたけど、今度はチケットのノルマがあるんじゃないの? それに、私たちまだオリジナル曲も少ないし、集客力なんて全然ないわよ」
高校生バンドにとって、ライブハウスのチケットノルマは死活問題だ。玲奈の当然の懸念に対し、由愛はニカッと笑ってピースサインを作った。
「それがね! 今回のイベント、そのライブハウスの『十五周年記念ライブ』なんだって。だから、出演者へのチケットノルマは一切なし! 集客もチケット販売も、全部ライブハウス側がさばいてくれるらしいの!」
「……ノルマなし。それなら、私たちに金銭的な負担もないし、やってもいいんじゃないかな?」
優莉が元・総務部長としてのそろばんを瞬時に弾き、ノーリスク・ハイリターンな案件であると結論づけた。
「出演の持ち時間は何分くらいなの?」と琴音が尋ねる。
「えーっと……」
由愛がスマホの画面をスクロールして確認する。
「二十五分、だってさ」
「二十五分か。MCを挟むにしても、四曲か五曲は必要ね」
「……なら、新曲も用意しないと」
雫が、眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせて呟いた。
「じゃあ、出演おっけーってことでいいよね!?」
由愛の元気な確認に、四人は顔を見合わせて、力強く頷いた。
「それならさ、さっきの旅行の話じゃないけど、ライブの前にみんなで合宿でもしない?」
玲奈が、ふと思いついたように提案した。
「新曲の合わせもあるし、何より夏休みの山のような課題、早めに集まって終わらせちゃいたいでしょ」
「あっ、それいいね! みんなで泊まり込みで練習して、勉強して……青春って感じ!」
琴音が両手を合わせて喜び、由愛も「賛成賛成ーっ!」と諸手を挙げて賛同する。雫も小さくコクコクと頷いた。
「予定、いつなら空いてる? 八月のライブ前なら、七月下旬の夏休み入ってすぐがいいよね?」
五人でスマホのスケジュールアプリを見せ合い、終業式を終えた直後の週末に日程がすんなりと決まった。
「よし。じゃあ、合宿の場所や宿のセッティングは私がやっておくよ」
優莉が、総務部長時代に培った『社員旅行や研修合宿の手配』という得意分野を活かすべく、自信満々に胸を叩いた。
――しかし、その瞬間。玲奈と琴音の瞳が、スッと細められ、絶対零度の冷たさを帯びた。
「……ちょっと、優莉」
「優莉ちゃん、まさかとは思うけど……」
二人は優莉の両肩をガシッと掴み、凄みのある低い声で釘を刺した。
「あんたのその『バグり散らかした金銭感覚』で、一泊何十万もするような超高級ホテルとか、執事付きのスイートルームとか絶対に用意しないでよ。高校生の合宿なんだから、予算は常識の範囲内。ポケットマネーでこっそり払おうなんて考えないこと」
「うひぃっ!? だ、大丈夫だよ、大丈夫! いくら私だって、合宿にそんな見当違いな予算の使い方はしないってば!」
優莉は冷や汗を流しながら、ぶんぶんと首を横に振った。
「……本当でしょうね?」
疑いの目を向ける玲奈と琴音だったが、「そこまで言うなら……」と、ひとまず優莉に手配を任せることで折れたのだった。
そして、一学期が終わり、夏休みへと突入した合宿当日。
都内から列車に揺られること数時間。車内でトランプをしたり、駅弁をつついたりして女子高生らしい賑やかな道中を楽しんだ後、優莉たち五人が降り立ったのは、関東近郊の海沿いにある、豊かな自然に囲まれたリゾートエリアだった。
タクシーに乗り込み、海沿いのパームツリーが並ぶ道を抜けて到着した『本日の宿』を前にして――。
「……ちょっと、優莉。これの、どこが『常識の範囲内』なのよ!!」
玲奈の怒号が、夏の青空にこだました。目の前にそびえ立っていたのは、どう見ても富裕層向けの超高級コテージだった。
白を基調とした洗練された外観。広大なウッドデッキにはBBQセットとジャグジーが完備され、ガラス張りの広々としたリビングからは、キラキラと輝く海が一望できる。
さらに極めつけは、コテージの目の前に広がる、一般客の立ち入りが制限された美しい『プライベートビーチ』であった。
「優莉ちゃん! 約束破ったでしょ! こんなの、どう見ても一泊何十万コースじゃない!」
琴音がプンプンと頬を膨らませて優莉に詰め寄る。
「えーっ!? すっごーい! あーし、こんな豪華な別荘初めてきたーっ!」
玲奈たちの怒りなど全く気にしていない由愛は、キャリーケースを放り出してウッドデッキを走り回っている。
「……海、きれい」
雫は日差しを避けるようにコテージの軒下に立ちながら、透き通るような青い海を静かに見つめていた。
「ち、違うってば二人とも! 誤魔化そうったってそうはいかないって顔してるけど、怒る前に最後まで話を聞いて!」
玲奈と琴音から鋭いジト目を向けられた優莉は、コホンと一つ咳払いをし、なぜかドヤ顔で胸を張った。
「信じられないかもしれないけど。実はここ、二泊五人で『十万円』、つまり『一人一泊一万円』です!」
「「…………は?」」
玲奈と琴音が、間の抜けた声を漏らす。
「マジで?」
「どうせ、残りの数十万を優莉ちゃんが裏で払って、私たちには一万円って嘘ついてるんでしょ。そうはいかないんだから!」
「だから違うって! ポケットマネーなんて一円も出してないよ。これ、正真正銘の正規ルートで取ったんだから!」
優莉は慌ててスマホを取り出し、予約完了のメール画面を二人に突きつけた。そこには確かに、五人で十万円(二泊分)という決済金額が表示されている。
「どういうこと……? こんなプライベートビーチ付きの超高級コテージに、なんで一泊一万円で泊まれるのよ」
訝しむ玲奈に対し、優莉はあらかじめ用意しておいた『完璧な言い訳(事実)』を披露した。
「実はね。ここ、私の『父』の会社の福利厚生を利用して借りた、会社の保養施設なんだよ」
「お父さんの……会社の?」
「うん。私の父、サージョトレーディングの社員なんだけど、海外出張中に行方不明になっちゃって、って前に話したよね? でも、法的にはまだ会社に籍がある扱いになってるから、家族である私は、社員用の福利厚生システムをそのまま使えるの」
優莉は流れるように説明した。
そう、この施設は、世界最大のエネルギー企業であるサージョトレーディングが、役員や上級管理職向けに保有している超VIP用リゾート保養所である。
元・総務部長であった優莉は、この保養所の存在も、家族利用の正規の申請手順も、当然ながら完璧に把握していた。家族が利用できる正当な権利を使って社員割引を適用させた結果、一泊一万円という破格の値段でこの極上コテージを確保することに成功したのだった。
(ふははは! どうだ、金に物を言わせたわけじゃない! 会社員が正当な権利として福利厚生をフル活用して何が悪い! ポケットマネーを切るのは三流、制度を使い倒すのが一流だ。これぞ総務部長の真骨頂よ!)
内心で高笑いする優莉の説明を聞き、玲奈と琴音はようやく納得したように息を吐いた。
「……なるほど。そういう事情なら、確かに不思議じゃないわね」
「サージョトレーディングって、あの世界一の会社だもんね。福利厚生の規模が違うんだなぁ……。優莉ちゃんのお父さん、すごい会社で働いてたんだね」
二人の怒りが収まり、優莉がホッと胸を撫で下ろした、その時だった。
「……待って。優莉の、お父さんが……サージョトレーディングの……?」
背後から、信じられないものを見るような、震える声が聞こえた。
振り返ると、いつの間にか由愛と海を眺めるのをやめていた雫が、顔を紅潮させ、眼鏡の奥の瞳を極限まで見開いて優莉を凝視していた。
「えっ? う、うん。私の父(実は自分自身だが)、サージョの総務部で、一応『部長』をやってたんだ」
優莉が何気なく答えた瞬間、雫は「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げて、その場にへたり込みそうになった。
「ど、どうしたの雫!?」
「……あり得ない。あそこの就職難易度、世界中の天才が集まるから、東大の首席レベルでも普通に落ちる異常なレベルなのに……」
将来サージョトレーディングの研究開発部に入社することを本気で夢見ている雫だからこそ、その企業の凄まじさと、内部の熾烈な出世競争の過酷さを誰よりも正確に理解していた。
「その中で、部長、まで上り詰めるなんて……。どれだけの業績を上げて、どれだけのプロジェクトを成功させてきた、生ける伝説みたいな偉人なの……? 優莉のお父さん、とんでもなく素晴らしい人……っ!」
頬を赤く染め、瞳をキラキラと輝かせながら、祈るように手を組んで熱弁する雫。
(いや、その偉人……目の前でフリフリの可愛い夏服着てる、私なんだけどね。私は会社が急成長する直前、まだ採用が甘かった頃に滑り込んだから入社できたようなもんなんだけど……)
優莉は、未来のサージョ社員志望である友人から向けられる異常なまでの熱烈な尊敬の念に、なんとも言えない複雑な表情で頬を引きつらせた。
「もー! そんな小難しいことはどうでもいいじゃん!」
経歴や大企業のヒエラルキーに一切興味のない由愛が、ウッドデッキから大きく手を振って叫んでいる。
「ほら、早く中に入ろ! 荷物置いたら、まずは水着に着替えて海にダイブだよ! 合宿スタート!!」
由愛の底抜けに明るい声が、波の音に混じって夏の海辺に響き渡る。
プロのボーカルへの第一歩となる、八月のライブに向けた五人の熱い(そして少しセレブな)夏合宿が、今、幕を開けようとしていた。
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