あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
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「地味すぎるっ!」
玲奈の鋭いツッコミが、夏の青空の下、超高級コテージのウッドデッキにこだました。
――時間を少しだけ遡る。
サージョトレーディングの福利厚生をフル活用して手配した、プライベートビーチ付きのVIP向けコテージ。到着して荷物をそれぞれのベッドルームに置いた優莉たち五人は、さっそく海へ繰り出すために水着への着替えを始めていた。
広いベッドルームの中で、女子高生たちが躊躇いなく服を脱ぎ捨てていく。
中身が四十八歳の元・総務部長である優莉にとって、女子の着替え空間というのはコンプライアンスと道徳の審判場であったが、年末の実家帰省の際、由愛と一緒にお風呂に入った経験から、多少は女子同士の裸の付き合いに対する耐性がつき始めていた。
(動揺するな、俺。もう慣れたはずだ。過剰に反応する方が逆におかしいんだから自然に、ごく自然に振る舞えばいい……)
優莉は壁の方を向きながら、無心になって服を脱ぎ、水着へと着替えていった。しかし、優莉の背後では、由愛を除く三人が、信じられないものを見るような目で完全に固まっていた。
「…………っ」
普段の体育の授業の着替えなどで、優莉の下着姿までは見慣れていたはずの三人である。しかし、そこから水着に着替えるために下着を脱ぎ捨て、一切の布地がなくなったその一瞬の姿に、玲奈、琴音、雫は声もなくざわめいていたのだ。
透き通るような白磁の肌。無駄な脂肪が一切なく、それでいて女性らしい柔らかな曲線を描くウエストとヒップのライン。スラリと伸びた長い脚。
神がすべての計算を尽くして作り上げたかのような『国宝級美少女』の圧倒的なプロポーションが、夏の陽光が差し込む部屋の中で暴力的なまでの美しさを放っていた。
「……優莉ちゃん、スタイル良すぎない……?」
「顔だけじゃなくて、体型まで完璧って……なんかもう、同じ人間として自信なくすわね」
琴音がため息をつき、玲奈が呆れたように呟く。雫も眼鏡を押し上げながら、無言で優莉の背中を凝視していた。
「えっ? な、なに?」
振り返った優莉が身につけていたのは、先日渋谷で由愛と一緒に選んだ、淡いミントグリーンに控えめなフリルがあしらわれた、なかなかに可愛らしいビキニだった。普段のクールな優莉の印象を良い意味で裏切る、年相応の可憐さが際立っている。
「もう、スグは本当に素材が良すぎるんだから! ほらほら、みんなも着替えたっしょ? お互いの水着チェックしよ!」
由愛が元気いっぱいのオレンジ色のビキニ姿で場を仕切り直す。そこからは、女子高生特有のキャピキャピとした水着の品評会が始まった。
「玲奈、めっちゃ似合ってる! 大人っぽい!」
玲奈が選んだのは、ネイビーを基調としたスタイリッシュなモノキニだった。持ち前のモデル体型とクールな顔立ちにぴったりと合っており、まるでファッション誌のグラビアのようだ。
「琴音……意外と、その……大きかったんだね」
優莉が思わずおっさん目線を封印しつつも驚いたのは、琴音だった。清楚で家庭的な印象の彼女だが、パステルピンクのビキニに包まれた胸元は、メンバーの中でも群を抜いて豊満だったのだ。琴音は「もー、恥ずかしいよぅ」と顔を真っ赤にして身をよじっている。
そして、雫はといえば、装飾の一切ない黒のシンプルなセパレート水着だった。体型は小柄でツルペタだが、その真っ白な肌と無機質な表情が相まって、どこか妖しくミステリアスな魅力を漂わせている。
「よーし! みんな準備おっけーだね! それじゃあ、プライベートビーチにレッツゴー!!」
由愛の号令で、五人は部屋を飛び出した。
――そして、冒頭のシーンへと繋がる。
コテージのウッドデッキに出た瞬間、振り返った玲奈が優莉の姿を見て放ったのが、「地味すぎるっ!」という容赦ないツッコミだった。
可愛いミントグリーンのビキニを着ていたはずの優莉は、今や首元までしっかりとチャックを上げた真っ黒な長袖のラッシュガードを羽織り、頭にはつばの広い麦わら帽子、さらには顔の半分を覆う巨大なサングラスという、完全防備のスタイルに変貌していたのだ。
「なによその格好! さっきの可愛い水着、欠片も見えてないじゃない!」
「だ、だって仕方ないでしょ!」
優莉はサングラスの奥で目を三角にして反論した。
「紫外線は、肌の最大の敵なんだよ! 私が毎日毎日、どれだけの時間と労力と高い化粧水を費やして、この肌の白さとキメを維持していると思ってるの!? これほどの美肌への莫大な投資が、夏の海辺の紫外線ごときで台無しになるなんて、絶対に許されないリスクだよ!」
冬に玲奈と琴音から「少しでも手入れをサボったらボロボロになる」と脅されてすっかり植え付けられてしまった美肌への異常な執着と、中身のおっさんが抱く費用対効果への執念が、優莉を黒ずくめの不審者へと変えていた。
「もっと夏を楽しみなさいよ! あんた、それでも高校生!?」
「そうだよ優莉ちゃん、せっかく海に来たんだから、少しは日に当たらないと」
玲奈と琴音が両脇から詰め寄る。
「そうだよスグ! そんなに綺麗なんだから、もっと見せていかないともったいないって!」
由愛にまでジッパーを無理やり下げられそうになり、優莉は「ひぃっ! や、やめて!」と抵抗したものの、多勢に無勢。結局、帽子とサングラスは外され、ラッシュガードの前を全開にするというギリギリの妥協案で海へと引きずり出されることになった。
プライベートビーチは、文字通り彼女たち五人だけの貸切状態だった。
透き通るような青い海に飛び込み、水を掛け合って無邪気にはしゃぐ。浮き輪に乗って波に揺られる琴音や、砂浜で綺麗な貝殻を拾い集める雫。
「スグ! 玲奈! ビーチバレーやろー!」
由愛がどこからか持ってきたボールをトスしてくる。
「いいわよ、受けて立つ!」
二対一に分かれてのビーチバレー対決。優莉は身体能力の最適化が完了し、男子のトップ層と変わらない程度に跳ね上がった身体能力を無意識に発揮しそうになり、強烈なスパイクを打ち込みかけては「いかんいかん、男子顔負けのパワーで打ち込んだら不自然すぎる」と慌てて威力を殺すという、高度な調整を強いられていた。
それでも、砂浜を駆け回り、太陽の下で声を上げて笑い合う時間は、四十八年間の人生で決して味わえなかった、眩しすぎる青春そのものだった。
遊び疲れ、太陽が水平線に沈みかけた夕暮れ時。コテージの広大なウッドデッキで、お楽しみのバーベキュー(BBQ)が始まった。
「ここは私の奢りだから!」
優莉がクーラーボックスから取り出したのは、美しい霜降りがびっしりと入った大量の高級ステーキ肉や海鮮の山だった。
「……ちょっと」
玲奈がこめかみを押さえてジト目を向ける。
「宿代は会社の福利厚生だったって言ってたけど……結局、あんたがお金出してるじゃない!」
優莉は必死に取り繕うが、玲奈は「またあんたは……」と呆れたように頭を抱えている。
「まあまあ、いいじゃん玲奈! 美味しければなんでもおっけー!」
「……お肉。早く焼いて」
由愛と雫はすでに紙皿と割り箸を構え、文字通りヨダレを垂らしながらグリルの前で待機していた。
「じゃあ焼いていくよ。琴音、野菜のカットお願いできる?」
「うん、任せて!」
琴音の家庭的で見事な包丁さばきで、色鮮やかな夏野菜が次々とグリルの端に並べられていく。
そして、ここから優莉の『元・総務部長としてのBBQ奉行スキル』が火を噴いた。会社員時代、社員の慰労会や取引先とのキャンプ接待で、幾度となく肉を焼き続けてきた経験とロジックが、美少女の肉体を借りて完璧に再現される。
「いい、みんな。高級な肉は頻繁に裏返しちゃだめだよ。メイラード反応を最大限に引き出すために、まずは強火で表面のタンパク質をコーティング。その後は炭を避けた弱火エリアに移動させて、内部温度を六十度前後に保ちながらじっくりと火を通す。これが究極のミディアムレアを生み出す肉の温度管理のロジックなんだ!」
トングをカチャカチャと鳴らしながら熱弁を振るう優莉。
「さあ、焼けたよ! 一番美味しい温度のうちに食べて!」
優莉が切り分けたステーキ肉を皿に取り分けると、由愛と雫は即座にそれに飛びついた。
「んんんん〜っ! やばい、とろける! うまい、超うまいっ!」
「……最高。肉汁が爆発してる」
二人は乙女にあるまじき猛烈なスピードで肉にがっつき、ひたすら咀嚼しては一瞬にして皿を空にしていく。
「ちょっと二人とも、もっと味わって食べなさいよ……って、本当に美味しいわねこれ」
玲奈も一口食べて目を見張り、琴音も「優莉ちゃん、お肉の焼き方天才的だね!」と絶賛した。
仲間たちが美味しそうに食べてくれる姿を見て、優莉はトングを握りしめながら、総務部長としての至福の喜びを噛み締めていた。
しかし、そんな楽しいBBQの片付けが終わった夜。はしゃぎ疲れた五人の前に、冷酷な現実が立ちはだかった。
コテージのリビングのテーブルにどさりと積まれた教科書と問題集の山。そう、『夏休みの宿題』である。
「えーっ! やだやだやだ! あーそーぶー! せっかく海に来たのに、なんで勉強しなきゃいけないのー!」
由愛がソファに突っ伏して、手足をバタバタさせて駄々をこねていた。
「ダメよ。合宿の目的の一つは、課題を早めに片付けることだって最初に決めたでしょ」
玲奈が容赦なく由愛の腕を掴み、優莉と琴音も加勢して、無理やりテーブルの椅子へと引きずり座らせた。
「ほら、由愛。ここの微分の問題からやるよ」
ここからは、東大A判定の頭脳を持つ優莉と、一ツ橋志望の秀才・玲奈による、由愛のためのスパルタ教育タイムの始まりである。進学校の二年生ともなれば、出題される課題も容赦がない。
「いい? この微分の問題は公式を丸暗記するんじゃなくて、導関数がグラフ上で何を意味しているのか、そのロジックを理解しないと応用が利かないの」
「こっちの英語の長文は、パラグラフリーディングの基本構造を意識して。接続詞の後に筆者の主張が来るパターンだから」
優莉の開発部仕込みのアルゴリズム的な解法と、玲奈の極めて論理的な指導が交互に飛んでくる。
「あわわわ……頭が、頭がショートするぅぅっ!」
結局、深夜近くになるまで由愛の悲鳴がリビングに響き渡り、なんとか本日のノルマの課題を終わらせることに成功した。
シャワーを浴び、全員がパジャマに着替えて、一つ屋根の下、広大なベッドルームに敷き詰められた布団に潜り込む。修学旅行や合宿の夜といえば、女子高生特有の『パジャマトーク』の時間だ。
「はー、疲れたけど、すっごく楽しかったねー」
天井を見上げながら、由愛が満足げに伸びをする。「うん。ライブの練習も明日からみっちりやらないとね」と琴音が返す。
「あーし、八月のライブでは絶対にもっとお客さんを沸かせたい! スグと一緒に、プロになるための本格的な第一歩にするんだから!」
由愛がゴロゴロと寝返りを打ちながら、力強く宣言した。春のライブ以来、由愛のプロへの思いは日に日に熱を帯びている。
「由愛も優莉も、本気でプロのボーカル目指すって言ってるもんね。でも、プロの世界なんてそう甘くないわよ。まあ、だからこそ、私たちがしっかりリズム隊で支えてあげないとね」
玲奈が冷静なトーンで言いながらも、その言葉には確かな熱がこもっていた。
「ふふ、玲奈ちゃんもなんだかんだ言って、バンド活動本気だよね」
琴音がクスクスと笑うと、玲奈は「べ、別にそういうわけじゃ……ただやるからには完璧にやりたいだけよ」と照れ隠しのようにそっぽを向いた。
そこへ、隣の布団から雫がぽつりと呟いた。
「……私も、もっと曲作る。二人の声に合う、最強の曲」
「雫〜っ! マジありがとー! あーし、雫の作る曲だいすきだよっ!」
由愛が雫の布団にダイブして抱きつく。「……重い」と雫が少しだけ顔をしかめるが、その口元は微かに緩んでいた。
「私は弁護士、琴音は先生、雫はサージョの研究員。で、由愛と優莉はプロのミュージシャンかぁ」
玲奈が改めて五人の夢を並べ立て、静かに息を吐いた。
「みんな、バラバラの夢を持ってるけど、今はこうして一緒に一つのバンドやってるって、なんか不思議だし、すごくいいよね」
「うん。大人になっても、ずっとこうして集まれたらいいな」
琴音の優しい言葉に、由愛も雫も「絶対集まる!」と大きく頷いた。
女子高生たちの眩しすぎる、純粋な青春の語らい。そのキラキラとした「将来の夢」の熱量を隣で聞いていた優莉は、暗闇の中で天井を見つめながら、一人静かに戦慄していた。
(みんな、本当に自分の未来を真っ直ぐに見据えて輝いている。……それに引き換え、四十八歳だった俺はどうだった? 毎日会社と家の往復で、夢なんてとうの昔に忘れて、ただ惰性で生きていたんじゃないか?)
中身が人生経験豊富な大人であるにも関わらず、優莉は彼女たちの純粋な熱意に圧倒され、男時代の枯れた自分と比較して内心で激しい焦りを覚えていたのだ。
(いかん、大人の俺が女子高生に感化されて焦ってどうする! ……でも、俺も負けていられないな。奇跡的に得られた二度目の青春、この子たちと一緒に本気で夢を追いかけないと、バチが当たるぞ)
優莉は布団の中で両手をギュッと握りしめ、プロのボーカルという新たな目標への決意を密かに燃やし直した。
隣から聞こえてくる親友たちの穏やかな寝息と、夜の波音に包まれていると、不思議と心は落ち着いていた。
「……おやすみ、みんな」
優莉は小さく呟き、静かに目を閉じた。波乱と笑いに満ちた、二度目の青春の夏合宿。その最初の夜は、甘く心地よい疲労感とともに、穏やかに更けていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!