あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
来週金曜日、いよいよKindle新作『29歳底辺日雇いダンジョンワーカー、事故でTSしたら最強の美少女になったけど死にたくないので安全圏でゆるふわ配信者を目指します(なおFIREは遠のく模様)』が発売します!
1・2巻同時発売でスパッと完結します。
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「う、うぇっ!?」
ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが微かに聞こえる、爽やかな夏の朝。ふかふかの高級マットレスの上で目を覚ました優莉は、自分の鼻先わずか数センチのところに迫っていた物体を見て、思わず変なカエルのような声を漏らした。
それは、半開きになった口からうっすらとヨダレを垂らし、完全に無防備でだらしない顔をして爆睡している由愛の寝顔だった。
「……びっくりした。心臓に悪い」
優莉は小さくため息をつき、周囲を見渡す。
(そうだ、昨日はこの広大なベッドルームに備え付けられた巨大なキングサイズのベッドを二つくっつけて、五人全員で川の字になって寝たんだったな)
右を見れば由愛が布団を蹴っ飛ばして大の字になっており、左を見れば琴音が丸まってすやすやと心地よさそうな寝息を立てている。足元の方では、なぜか寝相の悪い玲奈が雫に足を乗せ、雫は無表情のまま微動だにせず眠っていた。
(年頃の女子高生たちと同じベッドで寝るなんて、中身が四十八歳のおっさんである俺にとっては完全にコンプライアンスの危機だったが……寝顔はみんな、子供みたいで無邪気なもんだな)
優莉は元・総務部長としての理性を総動員し、親のような温かい目線で彼女たちを見下ろした。
みんなが起きてきてドタバタし始める前に、自分だけそっと抜け出してしまおうと優莉は音を立てないようにベッドから滑り降りると、クローゼットから持参したリラックスウェアを取り出し、洗面所で手早く着替えと洗顔を済ませた。
スッキリとした気分でベッドルームに戻ってくると、四人はまだ夢の中だった。
(よし。せっかくの合宿だし、記念に一枚撮っておくか)
優莉はスマホを取り出し、カメラのシャッター音を消すアプリを起動すると、寝乱れた無防備な四人の姿をパシャリと写真に収めた。
「ふふっ、後で由愛に見せてからかってやろう」
悪戯っぽく微笑みながら、優莉は広々としたアイランドキッチンへと向かった。巨大な冷蔵庫を開け、昨日買い出しをしておいた食材を取り出す。
「朝は軽く、ベーコンエッグとトースト、それにフレッシュサラダでいいかな」
優莉は手際よくフライパンを火にかけ、慣れた手つきで調理を進めた。ジュージューとベーコンが焼ける香ばしい匂いと、コーヒーメーカーから漂う芳醇な香りが、静かなコテージのリビングに満ちていく。
その匂いにつられたのか、十分もすると、奥のベッドルームから足音が聞こえてくる。
「んぁ……おはよぉ、スグ……。なんかめっちゃいい匂いする……」
寝癖で髪を爆発させた由愛が、目をこすりながらフラフラとリビングに現れた。
「おはよう、優莉ちゃん。朝ごはん、作ってくれてたの? 私も手伝うよ……ふわぁ」
琴音も目をこすりながらキッチンに近づいてくる。玲奈と雫も、あくびを噛み殺しながらそれに続いた。
「おはよう、みんな。もうできるから、顔洗ってテーブルに座ってて」
優莉の完璧な朝食の仕切りにより、五人の合宿二日目は美味しく和やかにスタートした。
朝食と片付けを済ませると、午前中は昨夜に引き続き『課題をこなす時間』に設定されている。昨日の夜は、主に由愛の夏休みの宿題を終わらせるためのスパルタ指導タイムだったが、今日の午前中はそれぞれが自分の残りの課題を進める時間だ。
広大なダイニングテーブルに、五人がノートや問題集を広げる。
「よし。私は昨日の残りの数学と、英語の長文読解を終わらせるわ」
玲奈がシャーペンを握り直し、秀才らしい集中力で問題に向かい始める。優莉も自分のカバンから、学校から指定された分厚い問題集の束を取り出した。
(さて、と。一学期の復習と二学期の予習を兼ねた課題か。まあ、今の私にかかれば、こんなものはただの作業だ)
優莉は一つ深呼吸をすると、問題集のページを開き、シャーペンを走らせ始めた。
――カリカリカリ、カリカリカリ……。
数式を読み解き、現代文の論理構造を整理し、英単語の穴埋めを的確に埋めていく。サージョ開発部のバケモノ研究員や雫のような『真の天才』の閃きには及ばないものの、東大A判定の学力と、元・大企業管理職の事務処理能力が合わさった優莉のペースは、極めて順調かつ高速だった。
そして、お昼前。
「……よし。今日のノルマと、明日の分まで終わりっと」
優莉がパタンと問題集を閉じ、小さく伸びをする。その瞬間、テーブルを囲んでいた四人の動きがピタリと止まった。
「……ちょっと、優莉」
玲奈が、引きつった顔で優莉の手元の分厚い問題集を指差す。
「あんた、もうこの合宿でやる予定だった課題、ほとんど終わらせたわけ?」
「えっ? うん、まあ。基礎的な反復問題が多かったから、処理のロジックさえ組めればあとは手を動かすだけだし」
優莉が涼しい顔で答えると、玲奈はこめかみを押さえて深いため息をついた。
「……ほんと、あんたの事務処理能力どうなってんのよ。機械みたいだわ」
「スグ、マジですごいじゃん……!」
由愛が呆れたように呟く。
「あはは……みんなも分からないところがあったら教えるから、頑張ってね」
呆れ返る四人をよそに、優莉は優雅に紅茶をすすりながら、午後のバンド練習に向けて密かにイメージトレーニングを開始していた。
昼食を挟み、午後。いよいよ、この合宿の本当の目的である『バンド練習』の時間がやってくる。
「まさか、コテージの地下に防音スタジオまで完備されてるなんてね……」
地下の重厚な防音扉を開けた玲奈が、感嘆の声を漏らした。
そこには、優莉のタワーマンションのスタジオに勝るとも劣らない、完璧な音響設備が整った空間が広がっている。プロ仕様のミキサー、壁一面の防音材、そしてハイエンドなアンプやドラムセット。
「サージョトレーディングの役員向け保養所だからね。仕事のストレスを発散するために、楽器を演奏したり映画を大音量で観たりするエグゼクティブが多いらしいんだ」
優莉の解説に、四人は「資本主義の力ってすごい」と再び圧倒されながらも、さっそくそれぞれの楽器の前に陣取った。
「……新曲。持ってきた」
アンプにギターを繋ぎ終えた雫が、手書きのタブ譜と五線譜の束をみんなに配り始めた。
「おっ! 待ってました雫先生の新曲!」
由愛が身を乗り出してスコアを覗き込む。
「どんな感じの曲なの?」と琴音が尋ねると、雫は無言のままギターを構え、ジャーンと最初のコードを鳴らす。
そこから紡ぎ出されたのは、夏の焦燥感と、駆け抜けるような爽快感が同居した、疾走感あふれるロックチューンだった。複雑なコード進行でありながらメロディラインはキャッチーで、聴く者の心を一瞬で掴む引力がある。
「うわぁ……すっごくかっこいい!」
優莉は目を輝かせた。雫の作曲センスは、聴くたびに洗練されている。
「……でしょ。今回は、八月のライブハウス向けにチューニングした。お客さんを煽りやすいテンポ感にしてある」
「最高! めっちゃアガる曲じゃん!」
由愛がピョンピョンと跳ねて喜んだ後、ふと腕を組んで唸り始めた。
「うーん……でも、このメロディにどんな歌詞が合うかなぁ。作詞、あーしの担当だけど、結構難しそう……」
このバンドのオリジナル曲は、基本的に雫が作曲し、由愛が作詞を担当しているのだ。
「夏の夜空みたいなエモい感じがいいかな? それとも、海辺を走るような元気な感じ?」
悩む由愛に対し、優莉が優しくアドバイスを送る。
「由愛の素直な気持ちをそのまま言葉にすればいいと思うよ。私たちが今、こうして五人で音を鳴らしている時の楽しさとか、未来への期待とかさ」
「あーしたちの今の気持ち……そっか。うん、なんか浮かんできそう!」
由愛がノートとペンを握りしめ、目を輝かせる。
そこからは、五人で音を合わせる濃密なセッションが始まった。雫のギターリフに玲奈のベースが絡み、琴音のドラムがビートを刻む。その上に、由愛が思いついたフレーズを乗せ、優莉がハモリのラインを探っていく。
何度も何度も失敗し、意見をぶつけ合い、少しずつ曲の形が鮮明になっていく。
(ああ……最高だ。一つのものをみんなで創り上げていくこの熱量。会社でのプロジェクトのものとは全く違う、『青春』の一体感だ)
防音ルームの中で汗だくになりながら、優莉は八月のライブに向けた五人の一体感が、かつてないほど深まっていくのを感じていた。
夕方になり、みっちりと数時間の練習をこなした五人は、満足感と疲労感に包まれながらリビングへと戻ってきた。
「ふーっ、疲れたぁ! でも新曲、いい感じになりそうじゃん!」
由愛がソファにダイブする。
「そういえば、夕飯どうする? 昨日はBBQで豪華だったけど、今日は簡単なものにする?」
琴音がキッチンに向かいながら尋ねると、優莉がニヤリと笑ってスマホの画面を見せた。
「実は、夜は近くの神社で地元の夏祭りがあるってリサーチ済みなんだ。屋台もいっぱい出るみたいだから、夕飯はそこで食べ歩きにしない?」
「えっ! 夏祭り!? 行く行くーっ!」
由愛が即座に跳ね起きる。
「でも、夏祭りでしょ? 私たち普通の私服しか持ってきてないわよ?」
玲奈が首を傾げると、優莉はコテージの奥の和室を指差した。
「クローゼットの中に、宿泊客用の備品の浴衣が何着も用意されてるんだ。色も柄も豊富だったから、みんなで着替えていこうよ」
さすがサージョトレーディングのVIP保養所。至れり尽くせりである。
女子高生五人の浴衣へのお着替えタイムというイベントをなんとかやり過ごし、五人は色とりどりの浴衣に身を包んでコテージを後にした。
提灯の明かりが灯る、海沿いの小さな神社の境内。浴衣姿の五人の美少女集団は、明らかに目立っていた。そこに優莉の国宝級の美貌が加わることで、すれ違う地元の人々が思わず振り返るほどのオーラを放つ集団となっている。
優莉が選んだのは、白地に薄紫の朝顔が描かれた清楚な浴衣で、長く美しい髪をアップにまとめたそのうなじは、玲奈たちでさえ見惚れるほどだった。
(……なんかみんなの視線を感じるぞ。首筋がスースーして落ち着かん。おっさん時代は加齢臭を気にしていた場所を、まさか同級生に凝視される日が来るとは)
居心地の悪さに思わず首をすくめ、手元の巾着をぎゅっと握り直した。夏の夜の熱気に当てられた由愛が、我慢できないとばかりに参道の奥へと駆け出していった。
「わーっ! りんご飴だ! あとイカ焼きも食べたい!」
屋台の並びを見て目を輝かせる。
「ヨーヨー釣りもあるよ。やってみる?」
琴音が優しく微笑み、五人で屋台を冷やかして歩く。そんな中、一軒の屋台の前で、雫の足がピタリと止まった。
「……型抜き」
「えっ、雫ちゃん、型抜きやるの? あれ結構難しいよ?」
琴音が心配するのもよそに、雫は百円玉を支払い、ピンク色の薄い板と楊枝を受け取った。そして、屋台の台に屈み込み、異常なまでの集中力で楊枝の先を動かし始めた。
「……物理学的な応力集中の原則に従えば、このカーブの頂点にかかる負荷を最小限に抑えつつ……」
パキッ。
「……割れた。おじさん、もう一枚」
理数系ギフテッドの頭脳をフル回転させて型抜きに挑むも、砂糖菓子の脆さの前にあえなく散る雫。ムキになって何度も百円玉を投入する彼女の背中を、優莉たちは苦笑しながら見守っていた。
一方、たこ焼きやベビーカステラを両手に抱えた優莉の脳内では、元・総務部長としての別の思考が勝手に火を噴いていた。
(ふむ……このベビーカステラ、一袋五百円か。小麦粉と砂糖の原価率を考えれば、十パーセント未満。場所代と人件費を差し引いても、脅威の利益率だな。お面なんて原価数十円のプラスチックが千円……ボロ儲けのビジネスモデルじゃないか。……いや、しかし少ない営業日で一年分の固定費を稼ぎ出すリスクプレミアムを考えれば、この価格設定はP/L(損益計算書)的にも妥当な着地点なのかも)
せっかくの風情ある夏祭りだというのに、ついつい屋台の商品の原価率と損益分岐点を計算してしまう、悲しき元・社会人の性であった。
「なんか人、多くなってきたね。どこか落ち着いて食べられるところ探そっか」
玲奈の提案で、五人は神社の裏手にある、海が見渡せる防波堤近くの静かなベンチへと移動した。遠くからお囃子の音が微かに聞こえる中、波の音をBGMに、それぞれが買った屋台のメニューを分け合う。
「ん〜っ、やっぱり外で食べる焼きそばは最高だね!」
「雫、結局型抜き一枚も成功しなかったわね」
「……あれは、材質の不均一性が計算を狂わせた。次こそは」
クスクスと笑い合う五人。
ふと、由愛が焼きそばを食べる手を止め、海の方を真っ直ぐに見つめた。
「ねえ。あーし、今日みんなで新曲合わせた時、すっごくワクワクしたんだ」
由愛の声は、いつものおどけた調子ではなく、真剣な熱を帯びていた。
「絶対、八月のライブ、成功させたい。この五人で、お客さんみんなを熱狂させたい。あーしたちの音楽で、最高のステージを作ろうね」
その言葉に、玲奈も、琴音も、雫も、そして優莉も、静かに、しかし力強く頷いた。
「うん。私たちの音なら、絶対にできるよ」
優莉が力強く答えた、その直後だった。
――ヒュルルルルルゥゥゥ……。
夜空に向かって、一筋の光が昇っていく音が聞こえた。
ドンッ!!次の瞬間、五人の頭上の夜空に、巨大な大輪の花火が咲き誇り、海面を極彩色に染め上げた。
「うわぁっ……!」
「花火だ……!」
五人はベンチから立ち上がり、夜空を見上げた。立て続けに打ち上がる花火の光が、少女たちの瞳にキラキラと反射する。
ドーン、ドーンと腹の底に響く音。優莉は、隣で花火を見上げて歓声を上げる由愛たちの横顔を見つめながら、強く、強く心に誓った。
(俺の二度目の青春……いや、私たちの青春は、まだ始まったばかりだ。絶対に、この五人で最高の景色を見に行くぞ)
花火の光に照らされた五人の心は、八月のライブに向けて、完全に一つに結びついていた。
――翌日の朝。
「あーあ、合宿終わっちゃったねー」
帰りの特急列車の座席で、由愛が名残惜しそうに窓の外の海を見つめた。
「でも、すごく充実した三日間だったわ。課題も終わったし、新曲の形も見えたし」
玲奈が満足げに頷く。
「うん。これで、あとは本番に向けてスタジオで詰めていくだけだね」
優莉が優しく微笑み、五人は互いに顔を見合わせて力強く頷き合う。合宿の充実感と、確かな手応えを胸に。佐藤優莉と仲間たちの熱い夏は、いざ八月のライブへ向けて、さらなる加速を始めようとしていた。
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