あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
全2巻同時完結のKindle新作『29歳底辺日雇いダンジョンワーカー、事故でTSしたら最強の美少女になったけど死にたくないので安全圏でゆるふわ配信者を目指します(なおFIREは遠のく模様)』、発売日8/7までもうすぐです!
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「まとめてみると、こんな感じかな」
八月下旬。夏休みも残り少なくなったある日の午後、優莉の住む超高級タワーマンションの広大なリビングは、さながら企業の重役会議室のような空気に包まれていた。
優莉が手に持ったリモコンのボタンを押すと、備え付けの高性能プロジェクターから、壁に下ろされた大型スクリーンへとスライドが投影される。
映し出されたのは、先日、博王堂のECD・相楽から提示された自動車メーカーのCMタイアップという超特大のオファー内容と、それに伴う契約の選択肢を、バンドメンバー全員が理解しやすいようにまとめた資料だった。
総務部長として数え切れないほどの社内プレゼンをこなしてきた経験を持つ優莉の手にかかれば、複雑な契約条件を図式化して見やすく整理するなど朝飯前である。
「まず、一番の根本的な問題。玲奈、琴音、雫が私たちと一緒にデビューするのかどうかだけど……ここについては私に一つ考えがあるから、一旦後回しにするね」
優莉がレーザーポインターでスクリーンの一角を指し示した。
「今、私たちが決めなくてはならないのは『契約の形態』について。相楽さんのオファーを受けるにあたり、私たちはどこかの既存の音楽レーベルに所属するか、あるいは、自分たちでインディーズレーベル、若しくは楽曲管理会社を新たに設立する必要があるんだ。これは、楽曲の権利とお金の流れを管理するための『法人格(窓口)』が絶対に必要なためだね」
「えっ……か、会社作るの!?」
由愛と琴音が、目を丸くして同時に声を上げた。
「高校生なのに、社長さんになるってこと……?」
「そうなるね。そしてもう一つ。もし私たちがテレビCMや音楽番組で『顔出し』をして活動していくなら、肖像権やスケジュール管理の関係で、レーベルとは別途『芸能事務所(プロダクション)』にも所属する必要が出てくる。これらの事務所やレーベルについては、必要であれば相楽さんが大手の手堅いところを紹介してくれるってことになってるんだ」
「ほえーっ! 芸能事務所に、レーベル! なんか一気に芸能人って感じじゃん! テレビ出れちゃうかも!?」
由愛は一人、ついにプロになれるという喜びにソワソワと身をよじり、目をキラキラと輝かせている。
しかし、残りの三人――玲奈、琴音、雫の表情は対照的だった。
「……由愛。喜ぶ気持ちは痛いほど分かるけど、少し落ち着いて」
玲奈が冷静な、しかしどこか重苦しい声でたしなめた。
「CMのオファーは本当に信じられないくらい凄いことだし、嬉しいわ。……でも、私たち三人の将来の夢、進路はどうなるの?」
「うん……。私、将来は学校の先生になりたいし。顔を出してテレビとかに出ちゃったら、普通の大学生活とか、教育実習とか、難しくなっちゃうかもしれないよね……」
琴音が不安そうに眉を下げる。
「……サージョの採用試験。身辺調査、厳しい。芸能活動の経歴、研究職の適性とみなされるか、不透明」
雫も眼鏡の奥の瞳を伏せ、現実的なリスクを口にした。三人の言葉に、由愛の笑顔がスッと消え、ハッとしたように俯いた。
「あ……ご、ごめん。あーし、自分の夢が叶うかもってことばっかりで、みんなのこと……」
由愛にとってプロのボーカルは絶対の夢だが、他の三人にとっては違う。進路の不一致という、高校生バンドが必ずぶつかる現実の壁が、重くのしかかった。
「――うん、そうだよね。普通なら、そこで夢がぶつかり合って、バンドは解散するか、メンバーを入れ替えるしかない」
優莉は優しく微笑むと、リモコンを操作して次のスライドに切り替えた。
「でも、安心して。誰の夢も諦めなくていい、完璧なプランを考えたんだ」
スクリーンにデカデカと映し出されたのは、『自社設立&顔出しNG覆面バンド化計画』という見出しだった。
「まず、相楽さんの紹介で大人の事務所やレーベルに入った場合の話をするね」
優莉の瞳の奥に、元・総務部長としての冷徹なビジネスロジックの光が宿る。
「他所の事務所に入れば、プロモーションの名目で顔出しを強要され、プライバシーは完全に消滅するのは間違いない。それに何より恐ろしいのは収益構造なんだ。一般的に、CMのタイアップ料やCD、ストリーミングの売り上げのうち、アーティストである私たちに入る『実演家印税』は、全体のほんの数パーセントに過ぎない。残りの九十パーセント以上は、原盤権を持つレーベルや、マネジメント料として事務所に流れることになる」
「きゅ、九十パーセント以上も……!?」
琴音が信じられないというように口元を覆う。
「えげつないわね。大人の世界って……」
玲奈が眉をひそめる。
「だから、私が出資して会社(法人)を作るのはどうだろうか、と提案したいんだ」
優莉は力強く宣言した。
「私が代表取締役として楽曲管理会社を設立し、博王堂と直接、業務委託および楽曲使用許諾の契約を結ぶ。そして、私たちはその会社に所属する『顔出しNGの覆面バンド』として活動するんだ」
「顔出しNGの、覆面バンド……?」
由愛が首を傾げた。
「そう。テレビにも出ない、ミュージックビデオはイラストやアニメーションを使う。一切素顔を明かさず、純粋に『音』だけで勝負するんだ。そうすることで、みんなにとって絶大なメリットが生まれる」
優莉はレーザーポインターで、スライドの項目を順番に追っていく。
「まず、玲奈、琴音、雫の三人。顔がバレないということは、将来、弁護士や教師、サージョの研究員というキャリアに進むにあたって、経歴に一切の傷や影響が出ないということ。メディアへの露出や撮影もないから、拘束される時間も少なくて済む。つまり、これまで通り学業を最優先にしながら、音楽活動を続けることができる」
「あっ……!」
玲奈たちの顔がパァッと明るくなった。それなら、今のままの五人で、何も諦めずにステージに立ち続けることができる。
「そして、由愛。顔が出せないのはボーカルとして不満かもしれないけど、プロとしての圧倒的な実績――『自動車メーカーのCMタイアップ曲を歌った』という強力な名刺だけを、純粋に積むことができるんだ」
「あーしの、実績……」
「そう。将来、高校を卒業して本格的にどこかの大手の芸能事務所に所属したくなった時でも、この実績があれば、完全に自分に有利な条件で移籍先を探せる。つまり、大人の都合で使い捨てられることなく、長期的に安定して歌手活動ができる土台になるんだよ」
「なるほど……!」
由愛が感心したように深く頷く。
「それに、最近の音楽業界では、『顔出しNGのネット発アーティスト』は完全に主流のプロモーション手法として確立されている。ミステリアスな方が若者の間ではバズりやすいし、将来、タイミングを見て『実はあの曲を歌っていたのは私たちでした!』と顔出しを解禁すれば、さらに大きく話題をさらうこともできるしね」
優莉の理路整然とした、しかし夢と希望に満ちた完璧なプレゼンテーションに、四人はすっかり引き込まれていた。
「それに、このプランならメンバーの時間的な負担が少ないから、学校の成績も落とさずに済む。由愛、お母さんに『プロを目指すなら大学に行きなさい』って言われてるんでしょ?」
「うん……」
「顔出しNGで学業に専念できる環境なら、ご両親も説得しやすいはずだよ。それに――」
優莉はそこでふっと悪戯っぽく笑い、スライドを最後のページに切り替えた。そこには、棒グラフと共に具体的な『予測収益』の数字が躍っていた。
「大人の事務所を通さず、自分たちで会社を作って原盤権を百パーセント保有するということは、CMの契約金やストリーミング再生の収益が、中抜きされずに直接うちの会社に入ってくるということ。もし今回のCMがバズって何百万回も再生されれば、経費を引いても、メンバー全員に分配できる額は……数百万円、あるいは千万円単位になるかもしれない」
「「「「ええええええっ!?」」」」
リビングに、四人の悲鳴のような声が響き渡った。
「い、いっせんまん……!? 女子高生が、そんな大金……!」
「これだけ大きく稼いでプロとして自立した結果を出せば、ご両親だって音楽活動を反対しなくなるはずでしょ。それにそのお金は、みんなの進学資金や、夢を叶えるための投資に使えばいいんだから」
そこからは、怒涛の質疑応答タイムとなった。
「でも、会社を作るお金ってどうするの?」という琴音の疑問には、「私の手元にある元々の資産から資本金を出すから心配いらない。法人設立の費用くらい全く問題ないよ」と即答。優莉はサージョトレーディングからは生活費と学費の支給を受けているのみだが、それとは別に莫大な個人資産を有しているのだ。
「レコーディングの費用はどうするの?」という玲奈の質問には、「このタワマンの防音スタジオを使えば、高いスタジオの場所代はタダ。プロの技術スタッフだけを派遣してもらう費用で済むし、それも会社の初期投資として私が計上する。みんなに借金は背負わせたりしないよ」と断言。
「……税金対策、どうする」という雫の鋭すぎる質問には、「顧問税理士をつけるから大丈夫」と元・管理職の余裕で返り討ちにした。
優莉の提示したプランは、情熱だけでなく、圧倒的な論理とお金(ロジック)に裏打ちされた、文字通りの『無敵の選択肢』だった。
「……すごい。優莉、あんた本当に何者なのよ。完璧すぎてぐうの音も出ないわ」
玲奈が深いため息をつきながら、白旗を上げるように両手を挙げた。
「あーし、やる! スグのプランなら、みんなと一緒にずっとバンドできるし、プロとして歌も歌える! 最高っしょ!」
「私も……顔が出ないなら、先生の夢を目指しながらでも頑張れる気がする!」
「……異論なし。最適なアルゴリズム」
琴音と雫も、力強く頷いた。
みんなの意思は、完全に優莉のプランに固まったのだ。
「よし、決まりだね。それじゃあ、さっそく会社設立の準備と、相楽さんとの契約交渉に進むんだけど……」
優莉はそこで少し申し訳なさそうに玲奈の方を見た。
「契約書の法務チェックや法人の設立登記では、やっぱり未成年だと色々と壁があるんだ。……玲奈、お母さんに手伝ってもらえないかな?」
「えっ、うちの親に?」
「うん。玲奈のお母さん、弁護士だよね? 正規の依頼料はうちの会社からきっちり払うから、顧問弁護士的な立ち位置でお願いできないかと思って」
玲奈は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにフッと頼もしい笑みを浮かべた。
「……そういうことなら、任せて。うちは企業法務がメインの事務所だから、法人の設立登記から契約書のリーガルチェックまで、そういうのは一番の得意分野よ。今日の夜、お母さんに相談してみるわ」
「ありがとう、助かるよ! じゃあ、決まりだね」
玲奈の親という最強のリーガルバックアップも確保し、懸念事項はすべてクリアされた。
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素顔を隠した最強の覆面バンド――『渋ガ』の新しいステージが、今、ここから確実に動き出したのだった。
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