あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜   作:高山 虎

45 / 70
誤字報告ありがとうございます!
Kindle本予約頂いた方も大感謝です!!


第四十四話 ミステリアス・マーケティング―

「大丈夫だったー!」

 

タワーマンションの自室。インターホンのチャイムが鳴り、優莉が玄関のドアを開けたその瞬間だ。元気いっぱいの声と共に、由愛がそのまま勢いよく優莉の胸へと飛びついてきた。

 

「おっと……!」

 

 優莉は大理石の敷かれた広い玄関で由愛の華奢な身体をしっかりと受け止めながら、安堵の息を吐いた。

 

「お母さんたちにデビューの話したんだけど、最初はすごい渋ってたでしょ。でも、優莉が言ったことをそのまま何度も説明したら、『成績を落とさなければOK』だって!」

 

「おお、よかったじゃない」

 

 優莉は自分に抱きついたままピョンピョンと跳ねる由愛の頭をポンポンと撫で、目を細めた。これでようやく、全員のクリアランプが灯ったのだ。

 

実は、優莉はすでにメンバー四人全員の親に対する説得(プレゼン)に直接赴いていた。

 

 まず最初に玲奈の家へ行き、玲奈の母親である企業法務専門の弁護士に、分厚い事業計画書と法人設立の定款案を突きつけて詳細な事業説明を行った。十五歳の少女が持ち込んだあまりにも完璧なビジネススキームに玲奈の母は舌を巻き、すぐさま顧問弁護士契約を締結してくれた。

 

 そして、その『現役の弁護士』という最強のカードを連れ立って、琴音、雫、そして由愛の家を回り、親たちに「法的な安全性」と「学業優先の確約」を論理的に説明して回ったのだ。

 

 琴音、雫の親からはその場で承諾を得られたものの、由愛の家だけは娘がプロという道に進むことに対して慎重であり、その時点での即答を避けられ、決めきれなかった。そのため、由愛自身が引き続き、優莉から教え込まれた完璧なロジックを使って、数日がかりで親の説得を続けていたのである。

 

「これで、相楽さんと交渉する土台が整ったね」

 

 優莉の言葉に、由愛が力強く頷いた。

 

 数日後。優莉は事前にアポイントを取り、玲奈の母と共に、都内の一等地にそびえ立つ大手広告代理店『博王堂』の本社ビルへと足を運んでいた。

 

 通されたのは、東京の景色を一望できる、重厚な革張りのソファが置かれた広々とした応接室だ。

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

 現れたECDの相楽に対し、優莉は立ち上がって深く一礼し、隣に立つスーツ姿の女性を紹介した。

 

「本日はお時間をいただきありがとうございます。こちらは、今回の契約にあたり弊社の顧問をお願いしている弁護士です」

 

「結城と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

 玲奈の母――結城が名刺を差し出すと、相楽は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐにプロの笑顔を取り繕って名刺を交換した。

 

「弊社? まあいい、今回のオファーを受けてくれたこと、まず感謝しよう。君たちの音楽がCMに乗る日を、私も今から楽しみにしているよ」

 

 相楽はソファに腰を下ろし、さっそく本題へと切り出した。

 

「それでは、まず君たちの所属事務所についてだが。うちと懇意にしている大手の――」

 

「お待ちください、相楽様」

 

 優莉が、静かに、しかし断固とした口調でストップをかけた。

 

「ご提案は大変ありがたいのですが、私たちは既存の芸能事務所やレコード会社には一切所属いたしません」

 

「……ほう?」

 

「先日、私が代表取締役を務める楽曲管理会社を設立いたしました。本件につきましては、私の法人と博王堂様との『直接の業務委託契約(BtoB)』とさせていただきたく存じます」

 

 高校生の口から飛び出した「直接の業務委託契約」という生々しいワードに、相楽はピクリと眉を動かした。

 

「……素人の高校生に、法人の責任が負えるのか? ……いや、なるほど。そのために優秀な弁護士をつけているのだね」

 

 相楽は結城をチラリと見て、ひとまず納得を示した。優莉はそのままの流れで、最大の要求を突きつけた。

 

「契約にあたり、弊社からは一つ譲れない条件がございます。メンバーの将来の進路とプライバシーを守るため、テレビ出演、CM映像への本人出演、雑誌などのメディアへの『顔出し』は一切行いません。私たちは完全な覆面バンドとして活動します」

 

「なんだと?」

 

 相楽の顔から余裕が消え、厳しいビジネスマンの表情に変わった。

 

「君、自分が何を言っているのか分かっているのか? 君のその圧倒的なビジュアルを利用しないということは、楽曲の売り上げとCMの宣伝効果を半分にすることと同義だぞ」

 

 当然の反応であった。優莉の国宝級の美貌は、それ単体で数十億円の価値を生み出せるほどの強力な武器なのだから。

 

 しかし、優莉は全く怯むことなく、広告マンである相楽の心をくすぐるロジックで真っ向からプレゼンを打ち返す。

 

「いいえ、逆です。単に『顔を出したくない』と言っているわけではありません。『素性不明の覆面女子高生バンド』というミステリアスな設定こそが、今のSNS時代において最もバズるマーケティングの強力な武器になるのです。圧倒的な楽曲の力と、正体不明の女子高生という情報のアシンメトリー(非対称性)が、若年層の考察と拡散を強烈に誘発します」

 

「……」

 

「それに、将来的に顔出しを解禁するカードを残しておくことで、第二弾以降のプロモーションでさらに大きな話題をさらうことも可能です。いかがでしょうか?」

 

 相楽は腕を組み、深く目を閉じた。

 

「……なるほど。近年、ネット発の覆面アーティストは確かにスタンダードになりつつある。いけるか……。いや、むしろCMとしての話題性を煽るティザーに使えるな……」

 

 相楽がぶつぶつと考え込んでいる隙を突き、優莉はすかさず次のカードを切った。

 

「続いて権利関係ですが、楽曲の命である『原盤権』は、弊社の100%保有といたします。博王堂様や自動車メーカー様に権利を買い取っていただくことはいたしません」

 

「買い取り不可か。強気だな」

 

「はい。あくまで、CM放映期間という特定期間における『独占使用許諾(シンクロ権)』をご提供する形とさせていただきます」

 

 相楽は少し顎を撫でながら答えた。

 

「その点については納得しよう。しかし、将来的に企業イベントや復刻CMで楽曲を使用することもある。その際は、規定の使用料を支払うのみで『再許諾は不要』であるという条項を入れることを確認したい」

 

「……承知いたしました。それで問題ありません」

 

 優莉はポーカーフェイスを保ちながらも、心の中で特大のガッツポーズを決めていた。

 

(よしっ! 原盤権の防衛に完全成功した! これで、CM放映後に発生するストリーミング再生やダウンロードの莫大な利益は、中抜きされることなくすべて私たち会社のものになる!)

 

「では、肝心の契約金(シンクロ権料)についてですが」

 

 優莉は一拍置き、相楽の目を真っ直ぐに見据えた。

 

「大手自動車メーカーの全国ネットCMであれば、本来、メジャーアーティストに支払う予算として数百万から数千万円規模が確保されているはずですよね?」

 

「……確かにその通りだが、君たちはまだ無名の新人だぞ?」

 

 相楽が牽制してくるが、優莉は元・大企業管理職のシビアな相場観で切り返した。

 

「ええ、その通りです。ですが、我々は間に芸能事務所を挟んでいないため、余計なマージン(中抜き)が発生しません。その分、予算を抑えつつも高品質な楽曲を提供できます。つきましては、妥当なラインとして『八百万円』を提示させていただきます」

 

 トップアーティストであれば破格だが、無名の新人としてはかなり高めの設定だ。値下げ交渉されることを十分に考慮に入れたアンカリング(基準値の提示)である。六百万程度まで下げられても御の字だ、と優莉は計算していた。

 

 しかし、相楽は少し考える素振りを見せた後、あっさりと頷いた。

 

「その点についてはスポンサーに確認する必要があるが……おそらく問題ないだろう。私が責任を持って通す」

 

(ま、マジか! 一発で通った! さすが日本最大手の自動車メーカー、CMの予算規模はバグってるな……!)

 

 想定以上の好条件での承諾に、優莉は内心で驚愕しつつも、表面上は当然のことであるかのように「ありがとうございます」と涼しい顔で頭を下げた。

 

「最後に、納品スケジュールの調整です」

 

 優莉は持参したタブレットを操作し、タイムラインを表示させた。

 

「曲のデモ提出までに一ヶ月。その後、レコーディングに一ヶ月。最終的なマスター音源の納品を、本日から計二ヶ月後とさせてください」

 

「少しタイトだが、放送には十分間に合うな」

 

「彼女たち……いえ、私たちはあくまで現役の高校二年生です。二学期には中間テストや期末テスト、模試、学校祭、それに修学旅行などの学校行事が控えています。学業と両立させるため、レコーディングは週末を中心に行う、無理のない日程を組ませていただきました」

 

 優莉が提示した、学業とプロの仕事を完璧に両立させる工程表を見て、相楽はもはや反論する気も失せたように苦笑した。

 

 こうして、すべての重要な交渉が済んだ。相楽は手元の資料をテーブルに置くと、深い感嘆の息を吐きながら優莉を見つめる。

 

「……それにしても、君と話していると、目の前にいるのが高校生だとはとても思えんな。どこか大企業のベテラン担当者とやり取りしている気分だったよ」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 優莉が完璧な営業スマイルで返すと、隣に座っていた結城が、フッと小さく笑い声を漏らした。

 

「ふふっ。実は私も、事務所で最初に彼女から事業計画を聞かされた時に、相楽様と全く同じことを思いました」

 

「ははは、やはりそうでしたか。結城先生もさぞ驚かれたでしょう」

 

 大人二人が、目の前の「美少女の皮を被ったやり手ビジネスマン」に対して奇妙な連帯感を醸し出しながら笑い合っている。

 

 相楽からのオファー、そして元・総務部長の知識をフル動員した完璧な条件交渉。何一つ妥協することなく、誰の夢も犠牲にすることなく、すべての実利をもぎ取った。

 

 こうして、プロとしての『渋ガ』の時計の針は、力強く動き始めたのであった。




突然ですがこの小説は全88話(0話を除く)です。
ついに折り返しまで来ました!

ここからランキングで巻き返してできるだけ沢山の人に読んでほしいと思っています!
「あさおん!」が少しでも楽しんでいただけましたら【☆マーク(評価)】や【作品お気に入り】おねがいします!

【作者お気に入り】も大歓迎です!

では、後半もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。