あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜 作:高山 虎
ひと言でも気軽に書いていってください!
そして、Kindle本読んでくれた方もありがとうございます!
みんなも読んでね!(ダイレクトマーケティング)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0H97FW8SN
「一年越しの渋学祭、楽しんでこー、おー!」
「「「「おーっ!」」」」
秋の気配が少しずつ深まってきた十月の講堂。ステージ横に作られた薄暗い待機スペースで、五人の手が力強く重なり合った。
由愛の底抜けに明るい声に合わせて、四人がそれぞれの熱量で声を上げる。幕の向こう側からは、全校生徒たちが放つ熱気と、文化祭特有の浮き足立ったざわめきが地響きのように伝わってきていた。
いよいよ、ステージへ上がる時だ。暗い階段を一段ずつ上りながら、優莉は今の特殊な立ち位置について考えていた。
(……やっぱりどこかの芸能事務所に所属しなくて正解だったな)
もし、大手の事務所や既存のレーベルに所属していれば、デビュー前の『商品』として徹底的な管理下に置かれていただろう。学校の文化祭で自分たちの意思で演奏することなど、契約違反やイメージ戦略の壁に阻まれて絶対に不可能だったはずだ。
自らで会社を立ち上げ、顔出しNGの覆面バンドとしてプロ契約を結んだからこそ、こうして普通の女子高生としての青春も一切犠牲にすることなく謳歌できている。元・総務部長としてのリスクヘッジと契約交渉の成果が、こういう形でも活きていることに優莉は密かな達成感を覚えていた。
とはいえ、渋学祭のステージは参加団体がひしめき合っているため、一つの団体に与えられる持ち時間は極端に短くなっている。バンド演奏の枠は、一組当たりたったの十五分しか与えられていない。アンプの接続やドラムセットの準備、撤収の時間を計算に入れると、演奏できるのは実質二曲に限られる。
あまりにも短い時間だ。だが、このたった十五分間という時間は、由愛が去年からずっと目標にしてきた大切なステージなのである。
数千万の予算が動くCMタイアップや、プロの世界のシビアな数字とは全く違う。純粋に「学校のみんなの前で歌いたい」という、女子高生・由愛の素朴な夢の一つを叶えるための、特別な時間だった。
「お待たせしました! 次は二年C、D組混合、八坂由愛さんほか四名によるバンド演奏です!」
司会の生徒の威勢のいい紹介とともに、五人がまばゆい照明が降り注ぐステージへと躍り出た。
うおおおおっ!という凄まじい大歓声が講堂を揺らす。その熱狂的な視線の多くは、ステージのセンターに立つ優莉へと集中していた。
その規格外の美貌は、学内において一種のアイドルのような凄まじい人気を生み出している。ただステージに姿を現しただけで、客席のあちこちから感嘆のどよめきや、男子生徒たちの熱を帯びた声援が飛び交っていた。
由愛が満面の笑みで客席の端から端まで手を振り、雫がギターのボリュームノブを静かに回す。
一曲目は、焦燥感を極限まで煽るようなハイスピード・パンクロック――『ゴールデンタイム・セラミド』。
琴音のカウントと同時に、BPM180超えの爆速ビートが講堂の空気を一気にぶち抜く。雫の鋭利で攻撃的なギターリフが空間を切り裂き、玲奈のベースが地を這うように疾走する。
観客たちはその圧倒的な音圧に度肝を抜かれながらも、すぐにノリの良さに引き込まれて拳を突き上げ始めた。
この曲のモチーフは、およそロックンロールの反骨精神とはかけ離れた、優莉の「切実すぎる日常」の光景にあった。
去年の年末、北関東の地方都市に由愛を連れて帰省した時のことだ。実家のお風呂に二人で入った後、彼女は脱衣所で血相を変えて洗面台の前に陣取っていた。
「三分が勝負だ……!」
目にも留まらぬ速さで導入美容液を肌に叩き込み、続けて高保湿の化粧水、乳液、美容オイル、最後に全身へボディクリームと重ね付けしていく。元・総務部長としてのタスク処理能力を全開にした、完璧かつ無駄のない保湿工程であった。
優莉がそこまで必死になっていたのは、玲奈やサージョの研究員たちから、脅迫的なまでに徹底的な美肌管理を叩き込まれ、完全に洗脳されているせいだ。
一方の由愛はといえば、安いオールインワンの化粧水を顔にバシャバシャと塗り、「よし、完了!」と適当に済ませていた。そのあまりにも雑な手入れを見た優莉は、自分の中の『親心』と『美肌管理の鬼』が目を覚まし、彼女の肩を掴んで鏡の前に強制的に座らせたのだ。
「冬の乾燥を舐めちゃいけない。今は若さでごまかせてるかもしれないけど、五年後、十年後に確実にツケが回ってくるんだからね!」
半ば部下を指導する上司の気分で、頬をペチペチと叩きながら念入りなお手入れを手伝った。
後日、雫からこの曲のデモ音源を渡された時、由愛は目を輝かせてこう言ったのだ。
「スグ! あーし、雫のこの速いメロディ聴いた瞬間、あの年末のお風呂上がりの洗面所がパッて頭に浮かんだの! 三分以内に乳液塗らなきゃツケが回ってくるー!って焦ってるスグの顔がさ!」
そうして出来上がったのが、この曲だ。由愛がマイクスタンドを握りしめ、弾けるようなハイトーンで言葉を詰め込んでいく。客席の生徒たちは、まさかそれが『洗脳に近い過酷すぎるスキンケアルーティンへの強迫観念』を歌ったものだとは露知らず、ただ圧倒的なスピード感に酔いしれてジャンプを繰り返していた。
怒涛の一曲目が終わり、一瞬の静寂。そして、空気が一変する。
哀愁漂うマイナーコードのアルペジオに、琴音の刻む重たいビートが乗るミディアムロック。タイトルは、『ロンリー・コンプライアンス』。
「本当はもっと近づきたいのに、見えないルールの壁が邪魔をする」
由愛がノートに書いてきたのは、そんな切ない片思いの恋愛ソングだった。相手に手が届かないもどかしさを描いた、いかにも女子高生らしい純粋な歌詞だ。
しかし、その作詞を手伝うよう由愛から意見を求められた際、つい優莉の中の『四十八歳のおっさんの魂』から出る本音がポロリとこぼれて、混ざってしまったのである。
女子高生の身体になってからというもの、新しい生活は肉体的な接触が多すぎる。体育の時間のクラスメイト同士の密着に始まり、日常的に躊躇なく抱きついてくる由愛、お泊り会でのメンバーたちとの無防備すぎる距離感……。
中身が中年男性の彼女にとって、それは嬉しさよりも、現代社会における倫理的葛藤と、理性という名の巨大な壁との戦いだった。
(うかつに女子高生と接触したら、倫理的に、いや人間的に終わる……)
そんな、日常的な密着に対するコンプライアンス的な葛藤が、恋愛の比喩の形をとって曲に混入してしまったのである。
結果として、その言葉は曲に異様なほどの説得力と切実さを与えていた。もちろん、メンバーの誰もその真の意図には全く気づいていない。全員が「スグが手伝ってくれたおかげで、すごく切なくて大人っぽい恋愛ソングになった!」と大絶賛していたくらいだ。
優莉は、誰にも言えないその葛藤と哀愁を噛み締めながら、マイクに向かって情感たっぷりにコーラスを重ねる。声楽仕込みの湿り気を帯びた声が、由愛のストレートな声に絡みつき、講堂の空気を震わせていく。
切なさに満ちた最後の和音が響き渡り、やがて音が完全に消えると――講堂は一瞬の静寂の後、割れんばかりの大歓声と拍手に包まれたのだった。
「……ぷはーっ! 最高に楽しかったーっ!」
ステージを降りて機材を運び出した後の、講堂裏の静かなスペース。冷たい秋の風が吹き抜ける中、由愛が持っていたスポーツドリンクを天高く掲げて叫んだ。
この前のライブハウスでの演奏のように「業界の大物が見ている」という、人生を左右するような巨大なプレッシャーもない。最近のCMタイアップのような、数千万の予算が動くビジネスの仕事でもない。
ただ純粋に、同世代の生徒たちの前で、自分たちの音を鳴らす。その「文化祭の出し物」としての演奏は、信じられないくらいに伸び伸びとできて、最高に楽しかったのだ。
「由愛、最後の方、声が完全にゾーンに入ってたわね。こっちまで引っ張られたわ」
玲奈が首元の汗をタオルで拭きながら、珍しく興奮した面持ちで言った。
「へへっ、アドレナリン出まくりっしょ! てか、雫のソロも練習の時よりエグかったよね! めっちゃギュイーンってなってた!」
「……会場の音響と熱量に合わせて、歪みのパラメーターを微調整。最適なパフォーマンスができた」
雫が眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げ、僅かに口角を上げて満足げに頷く。
「琴音のドラムも、今日が一番キレてたよ。『セラミド』の時、速すぎて私の運指が追いつかなくなるかと思ったくらい」
玲奈が笑いかけると、琴音が照れくさそうに首をすくめた。
「ご、ごめんね。由愛ちゃんの熱気が伝わってきちゃって、ちょっと走っちゃったかな……。でも、みんなの音がぴったり重なって、叩いててすっごく気持ちよかったよ!」
「優莉も、コーラス最高だったよ! 『ロンリー・コンプライアンス』の時、なんか……すごく説得力あったっていうか、マジで切ない恋してます! って感じで、胸にグッときた!」
由愛が満面の笑みで、私の腕にギュッと抱きついてきた。
「おわっ」
女子高生の柔らかい感触と甘い香りが密着し、優莉の『コンプライアンス警報』が脳内で鳴り響くがすでに慣れたものである。彼女は悟りを開いた僧侶のような無の表情を作りながら、由愛をそっと引き剥がした。
「……まあ、あの曲は、いろいろと思うところがあるからね。気持ちがこもるのは当然だよ」
「なにそれー! やっぱりスグ、あーしらに内緒で誰かに秘密の片思いとかしてるんでしょ! 教えて教えてー!」
「馬鹿をいわない。そんな暇があるわけないでしょ。……っていうか、あんまりくっつかないの。それこそコンプライアンスに触れる」
「あはは! またそれ出た! スグの口癖!」
五人で笑い合う、つかの間の休息。過去の優莉が決して手に入れられなかった、損得勘定も大人の打算もない、純粋な充足感が胸を満たしていた。
しかし、彼女の脳内に描かれた工程表には、すでに次のタスクが冷徹に指し示されていた。
この楽しい学園祭の余韻に浸れるのも、今日だけだ。今週末からは、いよいよタワマンの自室スタジオにプロのエンジニアを招いての、『青のオーバーライト』の本番レコーディングが待っている。
全国のテレビで流れる自動車CMのマスター音源を作る、一切の妥協が許されないプロフェッショナルな戦いが幕を開けるのだ。
「みんな、文化祭モードは今日まで。しっかり喉と身体を休めておいてね。……週末からは、本番のレコーディングに入るんだから」
優莉が元・総務部長の顔に戻って全体をき締めると、四人は「はーい!」と元気よく声を揃えた。
赤く染まり始めた秋の空の下、彼女たちの顔には、先ほどまでの無邪気な「女子高生」の顔と、これからプロの現場に挑む「表現者」の顔が、絶妙なバランスで混ざり合っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる!」「TSやり直し、良いな」など、少しでも楽しんでいただけましたら【☆マーク(評価)】や【作品お気に入り】で応援していただけると、毎日の投稿の励みになります!
次回もお楽しみに!