あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜   作:高山 虎

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第五十四話 『女子高生社長説』の真実

「ねぇねぇ、これ見て!」

 

世間がゴールデンウィークの連休に浮かれる中。渋ガのメンバーはいつものようにタワーマンションのリビングに集まり、来たるべき大学受験に向けた勉強会を行っていた。

 

 数時間に及ぶ日本史と英語の集中特訓を終え、ソファで伸びをして休憩していた時のことだ。スマホでSNSを開き、すでに習慣となっているエゴサ(エゴサーチ)をしていた由愛が、何かを見つけたようで弾かれたように顔を上げ、みんなに画面を見せてきた。

 

「ネットの特定班に、あーしたちの楽曲管理会社の『とーき』ってやつがバレたみたい!」

 

『登記』の意味もよく分かっていなさそうなキョトンとした顔で、由愛が言う。画面を見ると、どうやら音楽配信サービスの楽曲クレジット欄に記載されていた権利会社名から、法人情報に辿り着いたらしい。

 

「……優莉、あんた本名で堂々と代表取締役になってるんでしょ? ラジオで名前言っちゃったし、本人だって特定されるんじゃないの?」

 

 玲奈が眉をひそめ、険しい顔で優莉を睨む。

 

 まあ、それがバレるのは時間の問題だった。優莉は特に焦ることもなく、手元のタブレットでSNSのタイムラインの流れを確認する。

 

『渋ガの権利会社の代表、佐藤優莉ってなってるぞ!』

 

『ラジオでボーカルが優莉って名乗ってたよな? まさかの女子高生社長!?』

 

『いやいや、いくらなんでも高校生が法人設立とか無理だろ。社長が自分の名前をボーカルの芸名にしてるだけじゃない?』

 

『登記の法人住所検索したら結城総合法律事務所が出てきた。ここは企業法務に強いとこ。代表者住所は港区までしか出てないから場所はわからんな』

 

『そういえば作詞は由愛/優莉ってなってたな。ボーカルと同一人物?』

 

 ネット民は断片的な情報からアレコレと好き勝手に噂しているが、見事に核心からは逸れている。その正体までは全く掴めていないようだった。

 

「わわわ……優莉ちゃんが社長だって、バレちゃわないかな?」

 

 琴音がオロオロと両手を組み、心配そうに優莉を見る。

 

「問題ないよ。今出ているのはバレても問題ない情報だけだからね。それにこの情報で完全な特定は不可能なんだ」

 

 優莉はタブレットを置き、自信満々に微笑んだ。

 

「えっ、でも名前出ちゃってるのに?」

 

「いい。他人の名前を借りる『名義借り』は、脱税や権利トラブルの温床になりうる。だから私は祖父母の同意を得て、正々堂々と本名で社長になった。……確かに、日本の法人登記簿には、代表取締役の氏名と住所は載る。だけど、住所は『区』までしか載せないようにできるし、『年齢』や『性別』、それに名前の『読み仮名(フリガナ)』すら記載されないんだよ」

 

「あっ……!」

 

 その説明を聞き、法学部志望の玲奈がハッとしたように目を見開いた。

 

「しかも、登記した法人住所は玲奈のお母さんの法律事務所の一室を借りている。物理的な居場所の特定も不可能だよ。いくらネットの連中が騒いでも、『佐藤優莉』という名前の文字列だけで、十七歳の女子高生である私本人に完全に結びつける客観的証拠(エビデンス)はどこにも存在しないんだ。所詮は噂止まりだね」

 

「……なるほど。完全な証明は不可能」

 

 雫がポツリと、彼女のロジックを的確に補足した。

 

「そういうこと。ネット民が『ボーカル本人が高校生社長かも!?』って勝手に盛り上がってくれれば、私たち『渋ガ』のミステリアスな魅力は増していく。これは話題性を煽るための、無料の極上プロモーション(バズの種)なんだよ」

 

 あえて噂を否定も肯定もせず泳がせることで、世間の関心を惹きつけ続ける。優莉の完璧なリスクマネジメントと、バズをコントロールするしたたかな計算を聞き、リビングは一瞬の静寂に包まれた。

 

「……あんた、本当に高校生? 社会の仕組みに馴染みすぎてて引くわ……」

 

「スグって、たまに悪いお代官様みたいな顔して笑うよねー。それでもサマになるのはズルい」

 

「失敬な。ルールの中で、利益と安全を最大化しているだけだよ」

 

 呆れ顔でこめかみを押さえる玲奈や、感心したように笑う由愛を前に、優莉は一人、してやったりとほくそ笑んでいた。

 

 数日後。ネット上で『女子高生社長説』のプチバズが起きているこの絶好のタイミングで、ある大手Web音楽メディアから取材のオファーが舞い込んできた。現在の話題性とちょうどいいタイミングのオファーだったため、優莉は即座に受諾の返信を送った。

 

 今回のオファーは、顔出しNGという条件を考慮し、送られてきた事前質問にテキストで回答する方式のインタビューである。

 

「さて。今回受けたインタビュー記事の質問事項、みんなで考えていこうと思うんだけど」

 

 優莉はノートパソコンをリビングの大型テレビに繋ぎ、ワープロソフトの画面を映し出した。

 

「はーい! インタビューとか、マジプロっぽい!」

 

 由愛が両手を挙げてはしゃぐ。

 

「うん、変なこと言わないように、ちゃんとしたこと書かないとね」

 

 琴音が少し気負った様子で頷く。先方から送られてきた一つ目の質問が映し出される。

 

【Q1.結成の経緯について】

 

「デビュー曲『青のオーバーライト』が大型CMソングに大抜擢され、瞬く間に日本の音楽シーンを席巻していますが、皆さんのプロフィールは依然として謎に包まれています。ずばり、『渋ガ』というバンドはどのようにして結成されたのでしょうか? どのような志を持ったメンバーが集まっているのか教えてください」

 

「えーっと……同級生の集まり?」

 

 由愛が首を傾げながら、身も蓋もないことを言った。

 

「そういう事聞いてるんじゃないでしょ。同級生の集まりなんて書いたら、ただの素人の部活みたいでミステリアスな魅力なんて台無しになるわよ」

 

 玲奈がすかさずツッコミを入れる。

 

「うーん……由愛ちゃんがみんなに声をかけて集まった、って感じだよね?」

 

「……なりゆき」

 

雫は真面目なのか冗談なのかわからないトーンで呟く。

 

「よし、分かった」

 

 優莉は三人の意見を聞き、キーボードをカタカタと叩き始めた。

 

『現在の音楽シーンに革新をもたらすため、プロジェクトを立ち上げ、集結した異なる専門性を持つクリエイター集団です』

 

「堅い、堅すぎるわ! しかも嘘だし! 社内新聞じゃないんだから、もっとエモいこと書きなさいよ!」

 

 優莉の書いたビジネスライクすぎる文章に、玲奈が呆れたように声を上げた。

 

「……面白さが必要」

 

 雫からの指摘も入り、優莉は仕方がなくバックスペースキーを押した。

 

「仕方ない。バンドを組む前からの友人同士で、当初は学校祭の出場を目標としていた学生バンドです、と素直に回答しておくしかないかな。これなら嘘はないし、少しくらい学生らしさを出してもいいでしょ」

 

【Q2.音楽的ルーツと、驚異的なアレンジ能力について】

 

「楽曲の構成やアレンジ、特に雫さんの変則的で高度なギタープレイや、玲奈さん・琴音さんの強靭なリズム隊は、新人離れした凄みを感じます。皆さんの音楽的なルーツや、普段インスピレーションを受けているものを教えてください」

 

「……音楽は数列と式で成り立ってる。構成したい解を導くだけ」

 

 雫が真顔で意味不明な回答をし、全員が困惑した顔を見合わせた。天才の思考回路はメディア向けではない。

 

「私は『スーパー行った時流れてる音楽』がルーツかなぁ。あのポポーポポポポって曲とか、リズムが良くて」

 

 琴音がスーパーの呼び込む君のメロディを口ずさむ。

 

「私は、小さい頃から親がロックが好きでよく聴かされていたから、それね」

 

 玲奈の回答が一番まともに聞こえるが、全体的にバラバラすぎた。優莉は頭を抱えながらも、どうにか彼女たちの回答を組み込み、『数列的な構築美(マスロック的アプローチ)と、日常に溢れる環境音、そしてクラシックなロックの衝動を融合させています』と、“プロっぽい文章”に無理やり翻訳して入力することでお茶を濁した。

 

「なんか優莉ちゃん、勝手にカッコよくしちゃってない?」

 

「ちょっと盛りすぎじゃないかしら」

 

 みんなが少し文句を言うが、優莉は「メディアには見栄えが大事なんだ」と強引に推し進める。

 

【Q3.奇跡のツインボーカルについて】

 

「由愛さんの太陽のように明るく突き抜ける歌声と、優莉さんの透明感がありながら芯のある力強い歌声。この2つの声の『ギャップと共鳴』こそが渋ガの最大の武器だと感じています。ボーカルのパート分けや、お互いの声の魅力をどう感じているか教えてください」

 

「はいはい! ここはあーしから!」

 

 由愛が嬉しそうに身を乗り出して口を開いた。

 

「スグ(優莉)の声はマジで天使! 最初っからスゴかったよね。思わず師匠って呼んじゃったりしてさ!」

 

「……師匠?」

 

「優莉ちゃんが師匠なの?」

 

 玲奈と琴音が困惑した声を上げる。

 

「由愛、メディアのインタビューで師匠はないよ」

 

 優莉は軽く息を吐き、彼女の顔を見て大真面目に答えた。

 

「私は由愛のエネルギーこそがこのバンドの推進力だと思う。やっぱりガンガン前に出るところは、由愛のリードが一番だよね」

 

 そう言って優莉が文字を打ち込もうとすると、由愛が「えへへ」と照れくさそうに笑う。

 

「なんか、お互いに面と向かって褒め合ってるみたいで照れくさいね」

 

「でもまあ、事実だから仕方ないよね」

 

 二人して照れていると、玲奈が「はいはい、ごちそうさま」と冷めた声で先を促した。

 

【Q4.新曲『無敵のスタートライン』に込めた想い】

 

「2ndシングル『無敵のスタートライン』は、前作から一転してスタジアムが似合うストレートな応援歌(アンセム)ですね。この曲はどのようなテーマで制作されたのでしょうか?」

 

「あーしたちのプロデビューや、大学受験に向けた応援歌! 聴いた人が勇気づけられてくれるとうれしいよね!」

 

 由愛が元気よく答える。

 

「そうだね。新しい環境に飛び込むすべての人の背中を押すための詩だもんね」

 

 優莉が同調して綺麗にまとめていると、横から雫がボソッと呟いた。

 

「……大衆にも理解しやすいアンセム」

 

「「雫、それは上から目線すぎるから削るよ!」」

 

 みんなで総ツッコミを入れ、雫の呟きは回答から綺麗に削除された。

 

【Q5.ネットの噂(優莉お嬢様説、社長説)について】

 

「ラジオ出演時に、現役女子高生バンドであることを公開した渋ガさんですが、SNS等でラジオの内容からボーカルの優莉さんがどこかのお嬢様ではないか? 楽曲管理会社の登記を見たら、社長の名前が優莉さんだった! 凄腕の若手プロデューサーなのでは? といった驚きの噂まで飛び交っています。こうしたネットの熱狂的な考察や噂について、ご本人たちはどう受け止めていますか?」

 

 この話題が出ることはわかりきっていた。メディア側もネットのバズを拾ってPVを稼ぎたいのだろう。

 

「私はお嬢様じゃない。普通の会社い……い、いや、高校生だよ」

 

 きっぱりと否定するが、玲奈がジト目で優莉を見た。

 

「いやいや、否定できる要素がないでしょ。普通の高校生が千七百万のスタジオをポンと作るわけないって。やっぱ金銭感覚バグってるわ」

 

「この超高級タワーマンションで一人暮らしって言ったら、そりゃあお嬢様だってみんな思うよぉ」

 

 琴音も周囲の豪華な調度品を見回しながら言う。

 

「……資本主義のバケモノ」

 

 雫からの一言が突き刺さる。そうこうしているうちに、由愛が勝手にキーボードを叩き始めた。

 

『優莉は超お嬢様です! もしかしたら社長も優莉かも?』

 

「バカ、由愛! 余計な情報を与えるな!」

 

 彼女は慌てて由愛の打った文章を全消去し、慎重に言葉を選んで書き直した。

 

『様々な考察をしていただき光栄です。私たちもネットの反応を楽しく拝見しています。真実はいつか明らかになるといいですね』

 

 肯定も否定もしない。さらにミステリアスさを煽る、優等生的な回答であった。

 

【Q6.初ライブとなる「夏フェス」への意気込み】

 

「この夏、国内最大級のフェス『FUJI PUNK』『SUMMER SMASH』での初ライブが発表され、音楽ファンの期待は最高潮に達しています。顔出しNGを公言されていますが、一体どのようなステージを見せてくれるのでしょうか? 最後にファンへのメッセージをお願いします」

 

 「めちゃめちゃ楽しみ!」と、底抜けに明るい由愛。「できる限りの音を届けるから、しっかり聴いてほしいわ」と、ベースとしてのプライドを見せる玲奈。

 

「失敗しないように頑張ります……」と、少し震えながらも気合いを入れる琴音に、「……実験、楽しみ」と、もはやライブを物理法則の検証か何かだと思っている雫。

 

 そして、優莉が最後に文章を締めくくった。

 

『紗幕(スクリーン)を使ったシルエット演出になりますが、その分、視覚情報に頼らない純粋な音を届けたいと思います』

 

「よし、これで完成っと」

 

 こうして、彼女たちはああだこうだと揉めながらも、なんとか初のテキストインタビューの回答を作成し終え、担当者宛にデータを送信することに成功した。

 

 翌日、このインタビュー記事は大手音楽メディアのトップニュースとして即日掲載されることとなった。

 

 ネットの考察で温まっていた話題性と相まって、記事は凄まじい勢いで拡散されていく。「本当に、女子高生なのか?」「社長なのか?」「どんなライブをするのか?」。

 

 謎が謎を呼び、初ライブとなる夏フェスへの集客とファンの期待値は、天井知らずに高まっていくのであった。




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