あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜   作:高山 虎

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感想、嬉しいんだけど先が読まれてしまっている!
でも書ききってから投稿なので変更はできないのです。
許して。




第八十話 優莉の悪魔的ドーム集客術

「でも、五万人なんて本当に集まるのかしら?」

 

 サージョトレーディングの九条社長という圧倒的な後ろ盾の存在を知り、雫の異常なパニックもようやく収束した頃。メンバーが東都ドームでのワンマンライブ開催に向けて前向きになり、ミーティングが再開された矢先、玲奈からもっともな疑問が投げかけられた。

 

 東都ドームの収容人数は約五万人。国内のアーティストにとって、そのステージに立つことは一つの到達点であり、同時に「五万人を動員できる人気と集客力」を証明する残酷な試験場でもある。初のワンマンライブを行うような場所ではないのだ。

 

「確かに……心配だね」

 

 琴音が不安そうに同調する。いくら夏のフェスで五万人規模の観客を熱狂させたとはいえ、フェスは他の有名アーティストとの「合わせ技」での集客である。単独で、しかも自分たちのような覆面の新人バンドが、いきなりドームを満員にできる保証などどこにもない。

 

「うーん、客席がガラガラだと、うちらのテンションも下がっちゃうし、盛り上がらないかも……」

 

 由愛も腕を組みながら、少しだけトーンを落として呟いた。ドームのような巨大な会場で空席が目立つ光景は、アーティストにとって精神的なダメージが計り知れない。

 

しかし、そんなメンバーたちの不安を他所に、優莉は口元に不敵な笑みを浮かべていた。

 

「集まるよ。――というか、『集める』。今からその説明をするね」

 

 優莉は自信たっぷりに言い放つと、手元のタブレットを操作し、スタジオの壁面に設置された大型モニターに新たな資料を映し出した。

 

 そこに表示されたのは、チケットの販売スケジュールではなく、自社レーベルである株式会社オプティマ・アーツが運営するオンラインストアの『特設ECサイト』の画面設計図だった。

 

「まず大前提として。今回、チケットの一般販売、つまり大手のプレイガイドを使った先着販売や抽選販売は一切行わない」

 

「えっ? じゃあ、どうやって集客するつもり?」

 

 玲奈が目を丸くする。

 

「ライブは『完全招待制』で行う」

 

 優莉はポインターで画面を指し示し、その悪魔的とも言える完璧なビジネスモデルの全貌を語り始めた。

 

「うちの会社の特設ECサイトで、ドームライブ記念の限定オリジナルグッズを五千円分購入するごとに『一回』、デジタルチケットの即時抽選が行われるシステムにしたんだ」

 

「五千円で一回……?」

 

 琴音が首を傾げる。

 

「そう。グッズを買えば、その場ですぐに『当たり』か『ハズレ』がわかるシステムを用意した。当選確率は『八パーセント』。つまり、十二・五回に一回の確率で当選するように設定してある。金額に直せば、六万二千五百円(五千円×十二・五回)分のグッズを購入すれば、統計学上は一枚のチケットが当たる計算だね」

 

 優莉はモニターに確率と金額のグラフを表示させた。

 

「この『八パーセント』という数字が絶妙なんだ。『一万円から二万円分(二〜四回)買えば、運が良ければ当たるかも』というライトなファンの期待感を抱かせつつ、どうしても行きたいコアなファンには『十万円分(二十回)買えば、ほぼ確実に一枚は確保できるだろう』と、心理的にアクセルを踏みやすいラインを狙ってるんだよ」

 

 中身が四十八歳の元・総務部長が弾き出した、冷徹な確率論と顧客心理の完全なコントロール。

 

「……えっ? じゃあ、ライブに行きたいファンは……」

 

 琴音が、恐ろしい事実に気がついたように言葉を失う。

 

「そう。スマートフォンのゲームの『ガチャ』のように、当たるまで何度も何度も買い物を繰り返して挑戦することになる。即時抽選というシステムが人間の射幸心を強烈に煽り、一度ハズレても『次こそは』と、ついつい何回も回してしまう構造になっているんだ」

 

 優莉は平然と、エンターテインメント業界における強力な収益モデルの仕組みを解説した。

 

「でも、それで当たらなかったら、ファンのみんな、嫌な気分になっちゃわないかな?」

 

 由愛が心配そうに尋ねる。いくら大好きなアーティストのグッズとはいえ、目当てのチケットが当たらずに大金だけが消えていけば、当然ファン心理は冷え込んでしまうだろう。

 

「そうよ。目先の利益だけを追求してファンに悪感情を持たれたら、長期的なブランド価値としてはマイナスじゃないの?」

 

 玲奈も、優莉のえげつない手法に対して倫理的な観点から異議を唱えた。

 

「その通り。だから、フォローアップの仕組みもちゃんと用意してある」

 

 優莉は二人の懸念を予想していたかのように頷き、画面を次のページへと切り替えた。

 

「まず、ハズレた購入者には、抽選一回につき、ここでしか手に入らない『限定ホログラムステッカー』や、『限定版MV映像の視聴リンク』、あるいは『未公開音源の三十秒カット』なんかをランダムでプレゼントする。ハズレても『おまけ』が豪華なら、損をしたという感覚はかなり薄れる」

 

「なるほど……ソーシャルゲームの『ハズレ枠でも素材がもらえる』みたいな感じね」

 

 玲奈が感心したように呟く。

 

「さらに、抽選回数にはしっかりと『天井』を設ける。どれだけ運が悪くても、同じアカウントで二十回(十万円分)連続でハズレた場合、救済措置として『自動的に一枚チケットが付与される』ようにプログラムを設定してあるんだ。これで、コアなファンの不満や絶望を確実に防ぐことができる」

 

「天井機能まで……」

 

「それに、公平感を担保するために、いくらお金を持っている人でもチケットを独占できないようにした。アカウント作成には運転免許証やマイナンバーカードなどの『公的身分証との連動』を必須にしてある。その上で、一アカウントにつき最大『二枚(同伴者分含む)』までしか当選しないように制限をかけているんだ」

 

 優莉のプレゼンは、もはや女子高生のそれではなく、一流IT企業の新規事業発表会のようであった。

 

「あと、抽選期間も一気にやるんじゃなくて、ライブ開催まで一週間ごとに『第〇弾』と細かく分けて行う。こうすることで、落選のショックを分散させて不満を減少させつつ、毎週新たなグッズを追加して継続的な購買意欲を刺激する両面作戦が狙えるってわけ」

 

「……でも、優莉」

 

 呆気にとられていた玲奈が、ふと根本的な疑問を口にした。

 

「そんな複雑で高度な身分証連動システムとか、即時抽選のプログラム、いつの間に作ったのよ? いくらあんたが優秀でも、受験勉強しながらそんな大規模なシステム構築なんて無理でしょ?」

 

 玲奈の指摘に、優莉は苦笑しながら頭を掻いた。

 

「いや、実は今回のECサイトの構築やチケット抽選の裏側のシステム、それに当日の運営周りは、ほとんど九条社長に丸投げ……もとい、お任せしているんだ。私は、こういう仕組みにしたいっていう『アイディア』を出しただけなんだよ」

 

「……なるほどね。そりゃあ、サージョトレーディングの技術力と資金力があれば、なんだってできるわけだわ」

 

 玲奈が深く納得してため息をつく。世界最大の企業が本気を出せば、セキュアなECサイトの構築など朝飯前だろう。

 

「さすが、九条社長……」

 

 雫が、再び目を輝かせて祈るように両手を組んでいる。

 

「はーい!」

 

 由愛が元気よく手を挙げた。

 

「転売ヤー対策はどうなってるの? せっかくのドームなのに、チケットがネットで高額で売られて、本当にうちらのライブに来たい人が来れなくなっちゃうのは悲しいな」

 

 人気アーティストのチケットにつきまとう、悪質な転売行為。由愛の純粋な優しさが込められた質問に、優莉は力強く頷いた。

 

「さっき言った通り、アカウント作成時に身分証の登録を必須にしているからね。そしてライブ当日は、入り口のゲートでデジタルチケットのQRコードと、来場者の顔写真付き身分証のデータを『サージョの最新認証システム』で厳格に照合する。身分証とチケットの登録情報が完全に一致しなければ、絶対にゲートは開かない仕組みにするよ。だから、転売されたチケットはただの紙切れ同然になる」

 

「おおー! 完璧っしょ!」

 

 由愛がパチパチと拍手をする。

 

「他には、何か質問ないかな?」

 

 優莉が、すべての懸念を払拭した自信に満ちた顔でメンバーを見渡した。

 

「まあ、大丈夫なんじゃない? あんたのその悪魔的かつ合理的な運営方針より、いいアイディアは私には出せなさそうだし」

 

 玲奈が、呆れながらも完全な信頼を寄せて肩をすくめた。

 

「そうだね。優莉ちゃんの言う通りにすれば、絶対にファンのみんなも喜んでくれると思う。優莉ちゃんを信じるよ」

 

 琴音も、不安が完全に消え去ったような笑顔で頷く。

 

「よーし! じゃあ、もういっちゃえ!」

 

 由愛が拳を突き上げる。

 

「……九条社長が手配したシステムなら、絶対大丈夫」

 

 雫は、優莉への信頼というよりはサージョへの謎の信仰心を滲ませて小さくガッツポーズをした。

 

 全員の合意と、完璧なモチベーション。優莉はみんなを見渡して深く頷き、手元にあった自分のノートパソコンの画面を開いた。

 

「この三ヶ月間、私たちは受験勉強のために表立った活動を完全に停止し、不気味な沈黙を貫くことで、ファンの飢餓感を極限まで高めてきた」

 

 優莉の指が、キーボードの上で静かに待機する。

 

「限界まで膨らんだ風船に……今から、針を刺す!」

 

 優莉は、エンターキーをターンッ! と力強く叩く。その瞬間、あらかじめセットされていたプログラムが作動した。

 

 数ヶ月間、完全に沈黙していた『渋ガ』の公式SNSアカウント、百四十万人もの登録者を抱えるNewTube、そしてティザー映像だけがループしていた公式サイト。そのすべてに、あらかじめ設定されていた一つの投稿が、一斉に投下された。

 

『――再始動。

 渋ガ、東都ドームにてワンマンライブ開催。

 この日、私たちの「すべて」が解禁される。』

 

 黒い背景に、謎めいた五人のシルエット。そして、圧倒的な事実だけを告げる短いテキスト。

 

 そのたった一つの投稿は、まさに限界まで膨らんだ風船に突き立てられた針であった。

 

 瞬間、公式アカウントの通知が、滝のような勢いで流れ始める。いいね、リポスト、コメントの数字が、目を疑うようなスピードで跳ね上がっていく。

 

『は!?!? 渋ガ、ついに再始動キターーー!!!』

 

『東都ドーム!? インディーズでドームワンマン!? 頭おかしいだろ(褒め言葉)』

 

『「すべて」が解禁って……これ絶対、ついに顔出しするってことだよね!?』

 

『うおおおおお!!! チケットどこ!? いくら出せば買えるんだ!?』

 

 休止期間中に溜め込まれていたエネルギーが、一気に爆発したのだ。

 

 投稿はまたたく間に拡散され、音楽ファンのみならず、エンタメ業界全体、そしてニュースメディアをも巻き込み、日本中を前代未聞の熱狂の渦へと叩き込むことになった。

 

「……すごい。一瞬でトレンド世界一位になったわよ」

 

 玲奈が手元のスマートフォンを見つめ、震える声で呟いた。

 

「ふふっ。さあ、最高のステージの準備を始めようか」

 

 優莉が、窓の外の東京の夜景を見下ろしながら微笑む。

 

 伝説の女子高生覆面バンドによる、常識破りの集金システムと、巨大企業の圧倒的バックアップ。数万人の熱狂と、数億円のマネーが動く、史上最大の宴。

 

 優莉の二度目の青春の集大成となる、『渋ガ』の東都ドームライブに向けた戦いが、ついに幕を開けたのであった。




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