「それで……綾聖さんの身体を使っているあなたは、誰なんですか?」
「そうであるな。では先ずは自己紹介をしよう、我は卜伝。この時代から遥か昔、儚き夢を現実にしようと足掻いた、ただの老いぼれである」
『ただのってのは、俺は否定したいけどな〜』
「遥か昔……ですか?つまり、あなたは過去の人物だと?」
「うむ、正解である。我は一度死に、綾聖の体に憑依したのである」
理解力があるなトキよ、こちらも話がしやすくて助かる。
「でしたらやはり……あの時、私にあの言葉を言ってくれたのはあなただったんですね」
やはり覚えていたか、まあ、我も誤魔化しきれないとは思っていたが。追及されなかったから気にしてないものかと。
「そうであるな、あの言葉を吐いたのは我だ。だが、綾聖であっても似たような解は出したであろう。我はただ、代弁しただけである」
実際此奴はトキを助けに行ったからな、恐怖もあるだろうにそれをねじ伏せて。
「ええ、そうでしょうね。だから私はあの時は疑問に思わなかったんです。綾聖さんらしいなと思いましたから。ですが……先程助けてもらった時に、あなたが喋っているのを見て確信しました。あの言葉を発していたのは、綾聖さんでは無いと。ですから……あなたに感謝を。今日の事も、2年前の事も」
「いや、構わぬよ。我もトキを気に入っておるからな、居なくなられては困る」
綾聖にとってもだが、我にとってもトキはもう大事な友だ。だから、何処ともしれぬ輩に渡すつもりは毛頭ない。もし連れて行かれでもしたら、地の果てまで追いかけるつもりだった。
「ありがとうございます……それでは感謝はこれで。そして、あなたも正体も分かりました。でも分からないことがあります。何故、あなたは迦具楽の真名を知っていたのですか?それに、力までも引き出して……」
まあ、やはりそこが一番気になるか。それに、どうやら口振りからして迦具土の名は葬り去られていたようだ。それに代用の名前、迦具楽か。随分と懐かしい。
「それは、簡単なことであるな。我はトキの先祖、迦具土の使い手に会ったことがあってな。そこで其奴を半殺しにして刀を奪い、迦具土を脅して使えるようにしたのである」
『ああ……アレか、マジて酷かったな。あの時俺様、爺さんのこと悪鬼だと思ったぞ。俺様の契約者は一薙でやられて「我にこの刀を使えるようにしろ、でなければ折るぞこの刀」なんて、言うんだからな。一部でも俺様は神なのに恐怖したぞ、普通に』
「え、えぇ……そんな理由で……」
トキは理由を聞くと、昔散々見た狂人を見る目で我を見る。
『あー、この爺さんを常識に当てはめない方がいいぞ。何を仕出かすか分からないからな。それより俺様が気になったのは、そこの不知火の小娘が纏っている氣とは違う力についてなんだが……』
確かに、それは我も気になるな。先程の小僧共、その一人もトキと同じ力を纏っていた。
「ああ、えっとそうですよね。迦具楽の真名を知っているお方ですから、生きていたのは少なくとも450年は前ですよね。この力は“魔力“と言います。」
纏った力の名前は魔力というらしい。我が生きていた時代では聞き覚えのない言葉である。
『魔力?それって、大和の技術じゃないよな?俺様の契約者が何回か戦った事があるが、長い時を生きた俺様がどれもこれも見たことが無い物だったぞ』
「ぬ、我は知らぬが迦具土は戦ったことがあるのか?」
『おお、あるぞ。強かった印象は無かったが、手から火やら水やら風やらの五行を出していたな』
成る程。操るのではなく出していると。人の身でありながらも、現象を掌握する。確かに、面白い力だ。
「今から250年ほど前になります、文明開化の影響で海外の様々な文化を日本は取り入れていました。迦具土様が言う“氣“とはその時代にはもう、失伝しているんです」
氣は失伝していたのか。だから皆、莫大な量の氣を感じるのにそれを垂れ流しにしているわけだ。
「なので日本は文明開化の折、氣に打って変わる力を探していました。そして、見つけたのが……」
『魔力か』
「はい。氣とは違い魔力は遥か昔から受け継がれてきました。その技術も系統化され、習得も容易になり古くからある四家と言われる権力者を筆頭に、普及して行きました」
四家。それは我も知っている。不知火、風祭、雷電、水宮。皆、神刀に選ばれし者の末裔。不知火は馴染み深く、風祭は殆ど会ったことがない。雷電は師の家だからよく知っている。水宮は全然だ、見たことも無い。
「魔力は主に、身体能力の強化や属性魔法の発動に使います」
『属性の魔法って言うと、俺様が見たやつか』
「はい。日本で使われている属性魔法は4つ、火、風、雷、水。四家が司る属性と一緒です」
我らの時代では全て神の恵み。それこそ神刀を使う者しか扱うことができなかった、現象と呼ばれる物。それを系統化し人の身で扱えるようにしたと。
「迦具土様。どうでしょうか、興味は満たせましたか?」
『おう、良かったぞ』
「そうですか、なら良かったです。それでは、時間もかけてしまいましたし一度卜伝さんも一緒に私の家に行きましょう。早く帰らないと遅いのを心配した、私の姉が来──」
一度話を切り上げ、トキは姉が来る前にここを離れようと言っているが……
「あー、もう遅いと思うであるぞ」
「へ?」
トキが説明している最中。我の時代でも、滅多にお目にかかれない速度でこちらに来ている気配がしていた。トキと気配が似ているから、おそらく今言った姉なのだろう。
『うっひょー!とんでもねぇ炎の気配だぜ!ここまでの炎。
迦具土が言うように昔の彼女を思い出すような、途轍もない気配の炎を纏った、蒼い髪の長身女性が我の眼の前に降りてきた。彼女とは違い、その炎は蒼く燃え盛っている。
「あなた……何者ですか?」
そして纏う蒼炎の出力を上げ、言葉に圧倒的な威圧を込めて話しかけてくる。
「……我はトキの友人である。下校中にトキが見知らぬ男達に連れ去られてな、我が助けた次第である。怪しい者ではない」
強い。迦具土を使っても、おそらく今の我では勝てはしない。この時代に来て、久しく見ぬ強者。少し変なことをすれば消し炭にされるだろう。
「姉さん!綾聖さんは私の大切な友人です、怪しい人じゃない!」
トキが珍しく声を荒げ、我を擁護する。その言葉を聞いた女性は、少し考える素振りを見せ。
「そうですか……綾聖さんですね?私は蒼夏です。すみません、疑ってしまって」
フッと纏っていた蒼炎と威圧感を消し、トキの言葉を信じてくれたのか我に謝ってきた。
「構わぬよ。家族ならば近くに怪しいものがいると、警戒したくもなるであろう」
我も親しき者の近くに怪しい者がいるなら、一度ボコボコにしていると思う。
「ですが……何故あなたはその刀を持っているのですか?」
どうやら、もう一度説明をしないといけないようだ。
「成る程……ある程度は分かりました」
蒼夏に先程トキにした説明をもう一度行った。
「私達の先祖の知り合いと、こうして会うことができるとは……不思議ですね。それに迦具楽、いえ火之迦具土でしたね。不知火の家宝の刀の名すら知っている程の親しき方と」
そう言うと、ずっと無表情だった顔に少しの興味を滲ませた。
「今ここで、先祖の事を色々聞きたいですが……先ずは家に帰りましょう。トキが連れ去らたと言う廃墟にも、人員を割かないといけませんから」
「うむ分かった、であるが……」
「?何ですか」
「我はおそらく後少しで、
二人に説明をしている内に、結構な時間が経っている。もうそろそろ、何も知らぬ綾聖が目を覚ますだろう。隠すことは最早出来ない、そんな所まで来てしまった。
「成る程……卜伝さんが出てこれるのには制限時間があるんですね?身体の主導権は綾聖さんにあると……分かりました。私が責任を持って説明します。巻き込んでしまったのは私ですから」
「助かる」
「……話は終わりましたか?時間が無いので少し……急ぎます」