闇の魔女と呼ばないで!   作:遙かなた

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幕前 闇の女神と光の女神

・・・・・青い空。

私の愛しいこの世界は青い空に包まれている。

私に優しさを与えてくれた世界。私に強さを与えてくれた世界。

妹と二人この世界を見守ってきて私はさらにこの世界が好きになった。

・・・・でも、それももうおしまいかしらね。

 

 

「姉様!!!!」

 

 

妹の声が聞こえる。

私はその声の方を首だけ動かして向いた。

妹は涙をいっぱいに浮かべながら私に駆け寄ってきていた。

まったく、あんなに顔をくしゃくしゃにしちゃって、せっかくのかわいい顔が台無しじゃない。

 

 

「姉様、今、治癒魔法をかけます!」

「・・・・無駄よ」

「姉様!!」

 

 

何と言われても無理なものは無理なのだ。

妹は光の女神と呼ばれるこの世界の人族や動物の生みの親。そして守護者でもある。

その彼女であれば大抵の怪我などは治せるのだが、私に怪我を負わせた相手が悪い。

そいつは『魔王』と名乗り、私たちの世界にやってきた。

私達は基本的にはこの世界の生き物たちの事に口を出さない。

悲しいことがあったり憤ることもたくさんあるけれどこの世界の生き物は私たちの子供も同然なのだ。

良いことも悪いことも見守る。

(たまにちょっと手助けしたりしたけどこれは妹には内緒だ)

 

 

 

 

 

だけど、別の世界からの侵略者となればそれは話が違ってくる。

魔王と魔族と名乗るそいつらは私たちの大事な子供たちを虐殺し始めた。

魔族一人一人は、この世界の者たちより遥かに強く、最初は健闘したこの世界の者たちも次第に劣勢へとなっていった。このままではこの世界が魔族どもの乗っ取られてしまう。

そう思った私と妹は人間に扮し、この世界の人々を率いて魔族を撃退した。

だが、魔王を倒すことは出来なかった。

魔王に深手を負わせ、自分たちの世界に追い返すことは出来たのだが、その時最後に放った魔王の攻撃により私の体は貫かれてしまったのだ。それも、治癒の効かない呪いのおまけつきで。

 

 

「あの三流魔王、嫌らしい呪いを掛けたみたい。治癒が効かないわ」

「そんな・・・そんなっ!嫌です、私はお姉さまを失いたくありません!」

「すまないわね、でも、あなたなら私がいなくても大丈夫よ。なにせこの私の自慢の妹なのだから」

「嫌です!嫌です!!私を一人にしないでください!!」

 

 

大粒の涙が握っている私の手の上に落ちた。

『レナ』私の妹、光の女神と呼ばれ人々から奉られる存在であり、この世界の護り手。

この世界の人々のほとんどが彼女を信仰しており、彼女もこの世界のあらゆる生物を愛す、まさに女神と呼ばれるに相応しい者だ。だが、その実、涙もろく引っ込み思案なところがあり、いつも私の後ろをくっついてくる甘えん坊でもある。

 

 

「泣かないでレナ」

「無理です・・・それに、魔族がまたこの世界に来たら、私では・・・・」

「大丈夫よ、魔王もかなりの深手のはず、この世界にまたちょっかいを出そうとは思わないでしょう」

「でも・・・」

 

言葉を続けようとするレナの頭を私は撫でてあげる。

頭を撫でられるとレナは言葉を止め下を向く。

私はそんな可愛い妹を見て微笑み、後は頼むわねと言おうとした・・・が。

 

 

「ふはははは!愚かなり闇の女神よ、我が諦めると思ったのか!」

 

 

何度も聞いた癪に障る笑い声、先ほどまで私と死闘を繰り広げていたその人物は私の魔法を受けまともに動くことも出来なくなったはず。側近の魔族に抱えられ、異世界に逃げたはずのその男の声がなぜか聞こえるのだ。

 

 

「・・・魔王」

 

 

あり得るはずがない、死んではいない、だがあんな馬鹿笑いを出来るほど生易しい状態ではないはずだ。

そう思いながらも私は声のした方向に顔を向ける。

そこにいたのは魔王ではなかった。

いや人の形をしたものでもなかった。それは赤い球。占い師が使う水晶くらいの大きさの球に目が付いておりそれから声が聞こえてきていた。

 

 

「我は諦めぬぞ、貴様に受けた傷が完治すれば必ずや我は再びこの世界に恐怖を与えよう。そしてその時こそこの世界を破壊するのだ!」

「・・・あら、それだけ元気なら今から来ればいいじゃない。私が止めを刺してあげるわよ」

「ふん、死にかけの分際で良く吠える女よ。」

「なるほど、思念を送ってその球から喋っているのね。本来のあなたは喋るどころか呼吸するのすら辛いんじゃない?」

「・・・・・・・・」

「あら、図星つかれてだんまり?三流魔王らしいわね」

「ふ・・・ふふふふふ、ふはははははは!」

「・・・・・何がおかしいのかしら?」

「確かに、我は今、貴様のおかげで動くことも出来ん。だが、時間はかかるが治らなぬわけではない。それに引き換え貴様はどうだ?」

「・・・・・・」

「我の呪いで今にも死にそうではないか・・・いや、確実に死ぬであろう?」

 

 

その通りだ。私はこのまま死ぬ運命だろう。

そして、それは・・・・

 

 

「この世界で唯一、我と戦えるのは貴様だけだ。『闇の女神ディータ』よ」

 

 

闇の女神、私は魔族たちからそう呼ばれている。

その理由は私の使う『闇の魔法』と私の闇のように黒い髪の毛が原因である。

ちなみにほとんどの人間は光の女神であるレナを信仰している。そして、そのほとんど以外の人間は無信仰だ。

つまり、私は誰からも信仰されていない。

・・・というか、恐らく人間は誰も私の存在を知らない。

人を導いたり癒したりするのはレナの役目で、私は陰ながらそれを支えて来たのだ。

別に寂しくないわよ?・・・だって仕方ないじゃない・・・私、壊すことしか得意な事ないんだもの・・・。

 

 

「その闇の女神がいなくなった後、我はゆっくりと傷をいやし、再びこの世界の生物を滅ぼせばよいのだ」

「そんなことさせないわよ・・・」

「ほう、死にゆく貴様に何ができると言うのだ?」

「絶対にさせないわ」

「ふん、強がりを・・・貴様は自分の妹が我に嬲り殺されるところを死後の世界からでも見ているのだな!ふはははh・・・」

 

 

再び癪に障る高笑いを魔王がし始めたので、私は魔法を放ち球を粉々にしてやった。

まったく、死にかけていると言うのに余分な力使わせるんじゃないわよ。

 

 

「姉様・・・」

「レナ、もうあまり時間が残されていなさそうなの」

「そんなっ・・・姉様、お願いです死なな・・・」

「聞きなさいレナ」

 

 

私はレナの言葉を強めの声で遮った。

魔王は再びこの世界に来る。そして魔王の言う通りこの世界で魔王とまともに戦えたのは私だけだった。

再び魔王がこの世界にやってくれば今度こそ私たちの大事なこの世界が乗っ取られてしまう。

そんなことは絶対にさせない。

幸い、魔王に与えたダメージは相当なもののはずだ。すぐにこちらに戻ってくることはないだろう。

100年、200年・・・いや1000年くらいは治癒に時間が掛かるかもしれない。

それだけ時間があるのならばこちらの戦力を上げることだって可能な筈だ。

とはいえ、人間の体をいじって力を上げる・・・なんてことは出来ない。

私達が出来るのは小さな生き物を作ること、今の人間たちまで進化したのは彼ら自身の力なのだ。

もし、1000年あるのならば今より人間たちの力は強くなっているだろう・・・だが、恐らくそれでは魔王には勝てないだろう・・・・・・・・・・・・・どうする?

一つだけの方法がある。

 

 

「レナ・・・私は今から私の魂に魔力と人格を込めて、異空間に封印するわ」

「え、どういうことです?」

「つまり、完全に死ぬ前に肉体を捨てて異空間に逃げると言う事よ」

「ですが、それでどうするのですか?仮にそれで死は免れても肉体が無ければどうしようも・・・もしかして人間の肉体を乗っ取るのですか?」

 

 

妹の顔が少し険しくなる。

それは当然だ、もし、そうすれば確かに私は新たに肉体を得るだろう。

だが、それは同時にその肉体の人間を殺して自分の体にすると言う事だ。

私は死んでもそんなことはしない。

そうすれば、私は死なないし、再び魔王が来た時に私も戦うことが出来るかもしれない。

その一人の犠牲で他の人達を救えるかもしれない・・・が、そんなやり方は私は気に入らない。

誰かを殺して、他を助けるなんてやり方私は絶対にしない。そうするくらいならもっと困難で可能性が低い道の方を選ぶ。いや、他の方法が無かったとしても私は他の方法を探すだろう。・・・私は我がままなのだ。

自分が気に入らないやり方は絶対にしない。

 

 

「私がそんなことをすると思う?」

「いえ、姉様はしませんね・・・たとえ私が泣いてお願いしてもしないでしょう」

「あなたがそんなお願いするわけないじゃない」

「ふふ、もちろんです・・・ですが、ではどうするのですか?」

「私の力を扱える人間が生まれるのを待つわ。そしてその人間に私の力を授ける」

「姉様程の魔力を扱えるほどの人間が生まれるでしょうか・・・?」

「わからないわ、ほとんど賭けね。でも、私は生まれると思う」

「なぜです?」

「だって、私たちの世界の子よ?生まれて当然じゃない」

「ね、姉様・・・」

「だから、レナ、その子が生まれるまでこの世界を頼んだわよ」

「・・・・・はい」

 

 

私が死ぬことに変わりはない。

その生まれた子に力を授ければ私は消えることになるだろう。

子供が生まれれば私は異空間からその子の中へと移動する。

そして、私の力を扱えるくらい成長し、時が来れば私は力を授け、その子の体から出ていくことになるだろう。

私がいても邪魔でしかないだろうから、自分の中に他の何かがいるなんて気持ち悪いものね。

そして、その子の中から出たら私は消える。

魂のみでは世界に存在できない。存在できるのは世界から見つからない異空間か、生きた肉体の中だけなのだから。

世界で魂のみは存在できない。それは変えることが出来ない、たとえ女神と言われる私達でも・・・なぜなら・・・・・・・・。

 

 

 

 

私は最後にレナに微笑み、体を魔力粒子に変え、異空間へと移動した。

移動するとき、レナの悲痛の叫びが聞こえた・・・レナ・・・・ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

闇・・・それは私を表す言葉である。今私がいる空間はまさしく闇そのものだ。

辺り一面何もなく、見渡す限りの黒一色、そこに私は丸い球体状の姿でふよふよと浮いている。

私は、世界に私の魔力を扱える人間が現れないか魔力探知で定期的に探す。

そうそう簡単に見つかるとは思っていない、自分で言うのもなんだが私の力は相当のもだ。

普通の人間にそうそう扱えるものではない・・・なら、いつまでたっても現れないのではないか?

いや、きっと現れる。このまま、魔王が復活し、世界が乗っ取られる・・・そんな未来を私たちの世界が望むはずがない。だからきっと生まれるはずだ・・・私の力を受け継ぐ者が・・・・・。

 

 

 

私は待ち続けた・・・10年・・・50年・・・100年・・・・200年・・・・・・500年・・・・・・・・・1000年。・・・あれ?・・・ねえ?・・・生まれるわよね?

 

 

どうしよう、もうかれこれ1000年程待っているのに生まれてこない・・・あれ?・・・私ミスった?

これじゃあ、魔王復活しちゃうわよ!?私は今更になって慌てる・・・ああ、どうして私はこう肝心なところで運が無いんだろう。きっと生まれると思ったのに・・・私たちの世界ならきっと・・・ああああああ・・・・レナ・・・怒るかな?このまま何もせず魔王に世界を乗っ取られたらいくら温厚な妹でも怒るかもしれない・・・いや、私のせいじゃないよね?いやいや、もしかしたら私が見逃しているだけで生まれているかもしれない・・・そう思い私は必死に魔力探知を続ける。

 

 

しかし・・・見つからないよぉ・・・・・あまりに見つからずずっと一人で暗闇の中に引き籠っていたため情緒不安定にもなってきた私はまるで子供の用に涙ぐんだ・・・目は無いけど。

ああ・・・どうしよう・・・。

途方に暮れ・・・半ばあきらめムードの私は、何度やっても見つかるはずはないのに魔力探知を続ける。

 

 

・・・・・・・・・・・・あ。

 

 

今にも子供の用に大泣きをしそうになった頃、不意に巨大な魔力を感じた。

あれ・・・見つけた?・・・ううん、今生まれた?私は急いで、その魔力の元を見るため遠見の力を使い映像に映す。そこには紛れもない人間の赤ん坊が映った・・・・今、生まれたのだ、私の力を扱えるだけの魔力を持つ者が。

 

 

 

やったああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 

私は叫んだ、生まれて初めてじゃないだろうかこんなに大声で叫んだのは・・・(魂の状態なので実際には声は出ていないが)私は、感情豊かな妹と違いあまり感情を表に出さない女神だったのだが、長い間この暗闇の中に一人でいたため、些か性格が変わったのかもしれない。望んでいた子が生まれたことに私の喜びは突き抜けた。

ああ、しかも女の子!かわいい!!その子の両親らしき二人がその子を抱きカモメと呼びかけていた。

そう・・・カモメって言うのね。かわいらしい名前だわ!っと、そうだわあの子の中に移動しないと・・・。

私は喜びのあまり当初の目的を忘れかけていた・・・あぶないあぶない。空間をつなぎ私は、カモメの中へと移動する。その瞬間、カモメの体が淡く発光した。

その現象に、カモメの両親が驚くが、母親が魔導士なのだろうカモメの潜在魔力が高い事に気づいていたのでそのせいだろうと予想していた。

 

まあ、間違ってはいないわね。それから私は、カモメの中で成長するカモメを見守っていた。初めて、ハイハイが出来るようになった時・・・すごいわカモメ!あなたは天才よ!初めて母親を呼んだ時・・・かわいい声!私も呼ばれたい!初めて両足で立った時・・・よく頑張ったわ!他の誰よりもあなたはすごいわよ!

初めて魔法を使った時・・・さすがだわ!3歳で炎の魔法を操るなんて!一瞬で父親の髭をチリチリにしたわ!よくやったわ、あの髭気に入らなかったのよ!カモメが泣いている時、笑っている時、怒っている時、悲しんでいる時・・・私はカモメの中で共にその時間を過ごしていた。カモメの知らないところで私はカモメの時間をカモメの中で過ごしていた・・・はあ、この事を知られたら私カモメに嫌われるのかしらね・・・。

待ちに待った子と共に時間を過ごしていて私は、カモメを娘のように思い始めていた・・・なんとなくレナに似ているわよねこの子。彼女が成長するまで色々なことが起こった・・・予想外の事も・・・悲しいことも・・・そして・・・時は来た。

 

 

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