恍惚とした表情から真顔へと変化させこちらを見るレディ。
「でもぉん、これ以上私の愛の一時をじゃまするなら、お仕置きするわよぉん」
愛の一時?何を言ってるのだろう。
「ふざけないでくださいまし!人を襲っているのを邪魔しない訳ありませんわ!!」
その通りだ、魔物が人を襲っている、その時点で邪魔しない選択肢はない。
「仕方ないわねぇん・・・じゃあ」
そう言った瞬間、目の前からレディが消える。いや、消えたように見えただけですごい速さでエリンシアに近づいたのだ。
「・・・・え?」
エリンシアに近づいたレディはエリンシアのお腹の辺りを蹴る。
蹴りを喰らったエリンシアは数メートル吹き飛んだ。
「エリンシア!」
「・・・・・がふっ」
吹き飛ばされた先でお腹を押さえ蹲るエリンシア。・・・・なんて蹴りなの。
私はバトーネを握り直し、レディを見失わないよう注視する。
だが、注視していたはずのレディは一瞬で私の目の前に現れた。
「くっ!!」
私はバトーネでレディの蹴りを防ぐ、レディの動きが見えたわけではない勘で出したバトーネがたまたまレディの攻撃を防いだのだ。
だが、直撃を避けただけで蹴りの威力を殺すことは出来ず、私も1メートル近く吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながら私は後ろに転がり威力を殺すとその勢いのまま立ち上がり構えなおす。
「あらぁん、やるじゃなぁい」
「・・・・・・冗談」
やばい、今の一撃だけでわかる・・・レディは強い。
Bランク、いやもしかしたらAランクの魔物かもしれない。
正直Bランクでもやばいのに、Aランク並みだとしたらお手上げだ。
とはいえ、クレイさんやエリンシアを見捨てて逃げるなんてことは絶対にできない。
何とかしないと・・・せめて、動きを止められれば・・・。
そう考えているとレディの後ろに近づく影が見える。エリンシアだ。
エリンシアは魔導銃を捨てて、レディに拳を叩きこんだ。
恐らくさっきのフルブラスターで魔力を使い切ったのだろう。
だが、素手でレディに立ち向かうなんて無茶だ。
「あらぁん、まだ動けるのねぇん。なかなかやるじゃないん」
「はあ・・・はあ・・・魔導銃が使えなくなった時の為に武術も嗜んでおりますわ・・・ワタクシの家の者に手出しはさせませんわよ!!」
「かっこいいわねぇん・・・でも、あんまりしつこいと死んじゃうわよぉん?」
エリンシアが掌底をレディに当てるがレディには効いていない。
エリンシアは武術をかなり学んでいる事は私にもわかる、動きも無駄がないし繰り出す技のキレもすごい。鍛えてるように見えないと言った過去の自分が恥ずかしいくらいだ。
だけど、レディにはまるで効いている様子はなかった。
だが、エリンシアが近接戦闘で戦っているおかげでレディの動きが止まる。
このチャンスに私は私の使える最高の魔法を準備する。
私の最高の魔法、それは『合成魔法』だ。
合成魔法というのは二つの魔法を混ぜ合わせ新しい魔法に作り替える魔法である。
この魔法を使うには先ず、同時に二つの魔法を使える力がないとできない。
そして、その上で魔法と魔法を混ぜ合わせるセンスが必要となる。
さらに、出来上がった魔法はかなり魔力を消費するので莫大な魔力キャパシティがないと使った直後に衰弱してしまう。
私は小さい頃、母親が死んだショックと悔しさで二度と大切な人を失わないようこの合成魔法を覚えた。
幸い、私には同時に魔法を使える力と混ぜ合わせるセンス、莫大な魔力量を持っていたのだ。
それ以来、この合成魔法が私の切り札になっている。
ただ、どの合成魔法も威力が強いので仲間を巻き込まないように注意が必要だ。
なので私は発動するタイミングを待つ。エリンシアとレディが離れたときが勝負だ。
私がタイミングを見計らっている中、エリンシアは次々と技をレディに決める。
レディはまるでそよ風に当たっているかのようにその攻撃を喰らい続けていた。・・・そして。
「仕方ないわねぇん・・・死んでも恨まないでねぇん?」
再びレディのヤクザキックがエリンシアに決まったのだ。
エリンシアは再び数メートル飛ばされた。
だが、エリンシアは私が何かを狙っているのに気づいていたのか、レディのキックを両足で受け止め、その威力を利用しながらレディから離れたのだ。
そう、飛ばされたというよりも自ら飛び離れたのだ。
私はエリンシアが離れたのを見て魔法を発動する。
発動する魔法は火と風の合成魔法だ。
「
私の手から炎を纏った風が現れ、レディを襲う。
この魔法は相手を焼きながら切り刻む性質を持っており、炎の竜巻のように敵を中心に舞い上がる。
私の持っている魔法の中で1、2を争う威力を持つ魔法だ。これで駄目なら・・・。
炎の竜巻がやみ、その中心が見える。
レディはそこに倒れていた、かなりの高温で普通であれば塵も残らない威力なのだが、レディほどの相手ならまだ形が残っている。
だが、さすがのレディも無事では済まなかったようで体から煙を上げ、ピクリとも動かなかった。
「や、やった・・・」
「助かった・・・僕は助かったんですね!!」
クレイさんが歓喜の声を上げる、魔物に攫われて襲われるところだったのだ助かって嬉しいのだろう。
私も安堵の息を吐いた。
「ふんぬうううううううううううう!!!!」
突如、倒れていたレディが起き上がり雄たけびを上げる。
私は驚き顔を上げるが、その瞬間。レディの拳をお腹に受けて吹き飛ばされる。
そして、クレイさんの近くの大きな木に叩き付けられた。
「かはっ!」
「・・・・そんな」
余りの威力に私は木の下に倒れ、動けなくなった。
それを見たクレイさんは絶望の声を上げる。
「今のは効いたわぁん、子供だからって油断してたけどあなた達そこらへんの冒険者なんかより断然強いわねぇん」
「ぐ・・・」
力を入れようとするけど腕一本動かせない・・・やばい。
「でも、さすがにこれまでのようねぇん・・・それじゃ、ダーリン続きをしましょうん♪」
そう言って、クレイさんに近づくレディ・・・。
「駄目、クレイさん逃げて・・・」
声を振り絞ってそう言うのが私の精一杯だった。
縛られているクレイさんが逃げられるわけがないのは分かっているが、それでもそう言う事しかできなかったのだ。
一歩、一歩とクレイさんに近づくレディ・・・私は目を瞑った。
「・・・させ・・・ません・・わ・・・」
レディの蹴りを足で受け止めたとはいえボロボロになっているエリンシアがレディの前に立ちふさがる。
もう立っているのがやっとだというのに彼女の目は力強くレディを睨みつけていた。
「いい加減にしてよぉん、なんでそこまでして邪魔するのよぉん!」
「ワタクシの家の従業員ですのよ・・・家族も同然ですわ・・・・」
「お嬢様・・・」
家族を守る・・・そう言ったエリンシアが私にはとってもかっこよく見えた。
「お嬢様!逃げてください!このままではお嬢様の命が!!」
「何を言ってますの・・・ワタクシが逃げるわけありませんわ!ここで逃げたらワタクシは冒険者になんてなれませんわ・・・それともクレイはワタクシの夢を潰すつもりですの?」
エリンシアは微笑みながらクレイに言った。
自分がここに立っているのは自分の為だとエリンシアはそう言ったのだ。
ああ言われたらクレイさんは何も言えないだろう。
「かっこいいわねぇん、なら私のこの斧を逃げずに喰らうというのならそこのダーリンは見逃してあげるわよぉん」
「あら、随分と気前がいいんですわね」
ウィンクをしながらレディに向かっていい放つエリンシア・・・気前良くなんてないよ、エリンシアが死んじゃう。
私は体に力を入れて何とか動こうともがく、動いてエリンシアを助けたいのに・・・私は立ち上がることすら出来なかった。
「いくわよぉん・・・でもいいのぉん?あなた死んじゃうわよぉん」
レディは背中に担いでいたウォーアクスを構えエリンシアに近づく。
「早くなさい・・・ですが、約束は守っていただきますわよ」
「エリンシア!」
「カモメさん、依頼は最後までお願いしますわね」
「駄目ッ!!」
レディがエリンシアの目の前に立ち、ウォーアクスを振り上げ、力任せに振り下ろした。
辺りに爆音が響き渡る・・・木に止っていた鳥たちが一斉に羽ばたき逃げ出す。それほどの音だった。
私は、振り下ろされた瞬間固く閉ざした目をゆっくりと開ける。
そこには先ほどと変わらず立っているエリンシアの姿があった。
「エリンシア・・・?」
レディのウォーアクスはエリンシアの手前の地面を深々と抉っていた。そう、エリンシアには届いていないのだ。
「どういうつもりですの?」
「もう!!!どうしてほんとに避けようともしないのよぉん!!!」
レディが叫ぶ。
どういうこと?
「仕方ないわねぇん・・・諦めるわよぉん・・・・」
諦める?クレイさんを殺すのを諦めるってこと?・・・なぜ?
「その子とベビーを作るのは諦めるわぁん!」
「・・・・はい?」
「・・・え?」
「・・・・・・・・ほっ」
・・・・・あんですって?
えっと・・・どういう事?ベビー?・・・ごめん、私の頭が追い付いていかない。
「どういうことですの?・・・・ほっんとどういうことですの!?」
あ、エリンシアも追い付いていないね・・・追いつけるわけないよね・・・。
理解できない・・・というより、理解したくない・・・うん。
「だからぁん、その子と子作りするのは諦めるわぁん」
「・・・・・・・はあ」
「なんっですのそれはわあああああああ!!!」
エリンシアは空に向かって吠えた・・・気持ちはよくわかる、命がけで戦っていたのに・・・エリンシアかっこよかったのに・・・。
クレイさんは殺されかけていた訳ではなくレディに迫られていただけのようだ。
いや、クレイさんからしてみればかなりきつい状態ではあったのだろうけど。