闇の魔女と呼ばないで!   作:遙かなた

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ヘインズ

私の掛け声と同時にクオンはヘインズに向かって走り出す。

エリンシアは魔導銃でヘインズの足を狙い打った。だが、弾はヘインズの体まで届かず弾かれる。

 

 

「なんですの!?」

「風の結界を張っているみたい、私に任せて!」

 

 

私はヘインズの風の結界と同じ性質の風を結界表面に発生させる、そして同じ性質の風は結界に阻まれることなく中へと侵入し、侵入したところで弾けさせる。

それはヘインズの風の結界をも同時に弾けさせた。

 

 

「おお、素晴らしい」

 

 

結界がなくなったというのに余裕のヘインズ。

 

 

「その余裕すぐに消してやる!」

 

 

そう言い、クオンは剣を振り下ろす・・・がヘインズに届くことなく剣は動きを止める。

なんで!?風の結界は壊したはずなのに!

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

クオンが驚愕した。

それもそのはずだ、クオンの剣はヘインズに止められていた・・・指二本で。

そう、ただの指二本でクオンの剣を受け止めたのだ、特に魔法で強化しているわけでもない風の結界を使っているわけでもない・・・ただ、単純に指の力だけで。

 

それがどれだけ異常なのかわかるだろう、常人には無理だ・・・いや達人と言われる人達でもそれは物理的に無理である。

どんなに鍛えていようが振り下ろされた剣を指二本で止めるなど人間の出来る芸当ではない。

 

 

「クオン離れて!氷柱弾(アイシクルショット)!」

 

 

私の氷の魔法がヘインズへと襲い掛かる・・・だが、私の魔法もただ右手のひらを出しただけで防がれてしまう。

アイシクルショットはその魔法に触れたものを凍らせるはずなのだが・・・ヘインズの掌は凍った様子もない。

 

 

「一体どうなってるの・・・」

 

 

私は愕然とした。

 

 

「単純な事です・・・あなた方では私に敵わない、それだけのことですよ」

「ふざけないですださいまし!フルブラスター!」

 

 

エリンシアの切り札であるフルブラスター、その威力はすさまじい。

これを喰らえば、Cランクモンスターですらただでは済まないであろう威力のはずなのに、それの直撃を受けたはずのヘインズは無傷であった。

 

 

「はあ・・・はあ・・・そんな・・・」

 

 

エリンシアは魔力を極限まで使い切ったのか息を切らしながらその場に崩れ落ちる。

 

 

「エリンシア!大丈夫!?」

「だ、大丈夫・・・ですわ」

 

 

魔力を極限まで使い切ったせいでエリンシアは極度の疲労に襲われているのだろう。

口では大丈夫と言っているがすでに立ち上がることもできそうにない。

 

 

「があっ!!」

 

 

私がエリンシアに気を取られているうちにクオンが悲鳴を上げる。

視線を向けるとクオンがヘインズの風の魔法を喰らい数メートル先に飛ばされていた。

 

 

「クオン!!!」

 

 

私は先ほど真っ二つにされた冒険者を思い出す、まさかクオンも・・・。

 

 

「ぐっ・・・がはっ」

 

 

飛ばされた先でクオンが起き上がろうとする。斬り裂かれてはいないようだったがかなりのダメージを受けているのか起き上がることも出来そうにない。

クオンもエリンシアもやられ、残るは私だけになってしまった。

 

私の魔力ももうそれ程、残ってはいない・・・合成魔法は使えてもあと一回が限界だ。

とはいえ、クオンの剣ですら歯が立たなかった相手に私のバトーネでダメージを与えるのは難しい、なら何とかして合成魔法を決めるしか・・・でも何の魔法を使えばいいの?

エリンシアのフルバスターですら聞かない相手だ、私の合成魔法でもダメージを与えられるとは思えない・・・。

 

いや、一つ・・・私の合成魔法の中で一番の貫通力を持つ魔法がある、あの魔法ならもしかして・・・私はそう思い、なんとかその魔法を当てるための隙を作ることにする。

 

私はバトーネを構え、ヘインズに対峙する。

 

 

「いやいや、あなた達はとても子供とは思えない戦闘能力ですね。ここであなた達の物語を終幕へ導くのは実に忍びないと思うのですが・・・どうです、そろそろやめませんか?」

「お断りだよ、あなたを捕まえて盗賊の居場所も吐かせる!」

「やれやれ・・・」

 

 

私はヘインズに向けて駆け、バトーネを振るう。

私のバトーネはさっきのクオンと同じく、指二本で軽々受け止められた・・・くっそう。

だが、これは予想通り、私はバトーネを受け止められると風の魔法をヘインズに向けてではなくヘインズの足元に向けて放つ。

 

 

「どこを狙っているんです?」

 

 

私の放った風の魔法はヘインズの足元で炸裂し、足元の砂を巻き上げた。

 

 

「おお、これはなかなか」

 

 

巻き上がった砂がヘインズの視界を遮る。

このチャンスに私は合成魔法を唱える。

チャンスは一回、これを外したらもう合成魔法を撃つ魔力は残っていない。

この一発で決める!

 

 

魔水風圧弾(アクアウィレス)!!」

 

 

私の放った魔法は風で圧縮した水を小さな風の穴から射出するというものだ。

以前、この力を応用した魔導具でアダマンタイト鉱石で出来た盾を貫いたという噂を聞いて考えだした魔法である。

その噂の通りこの魔法の貫通力は凄まじい、どれだけすごいかというと、今までこの魔法で貫けなかったものがないくらいすごいのだ。

これなら、ヘインズにだってダメージを与えられるはずだ。

 

 

「があっ!!」

「どうだ!」

 

 

砂の目隠しが晴れ、ヘインズの姿を確認する。

ヘインズ胸には直径15cmほどの穴が開いていた。

しまった・・・これは・・・・。

 

 

「殺しちゃ・・・た?」

 

 

人を殺したことへの罪悪感ではなく殺してしまったら情報を聞き出すことが出来ない。

まあ、人を殺すことに躊躇いが無いわけではないのだが、冒険者をすると決めたときに覚悟はしている。

 

 

 

「ふ・・・ふふふふ・・・ははははははは!!」

 

 

突如ヘインズが笑い出す。

 

 

「素晴らしい、実に素晴らしいですよ!!!」

「・・・え・・・うそ?」

 

 

私は驚愕した。

おかしい、さっきまで胸に大きな穴をあけていたヘインズの胸が塞がっている。

・・・いや、塞がった・・・黒い触手のようなものが現れ、ヘインズの胸の周りに集まったかと思うとそれがヘインズの胸の大穴を埋め、元の状態に戻したのだ。

治癒魔法・・・?ううん、あれはそんなものじゃない・・・もっと恐ろしいものだ。

 

 

「カモメさんでしたね!あなたは実に素晴らしい!この物語の主人公に相応しい!!あなたたならこの物語を素晴らしいものにしてくれるでしょう!!!」

「・・・くっ」

 

 

私は再びバトーネを握る。もう、魔力は残っていない、バトーネも効くとは思えない・・・勝ち目はもうない。

だけど、ここで私が諦めるわけにはいかない。このヘインズという男が何を考えているのかさっぱりわからないのだ。

 

ただ、楽しいからと自分の仲間の盗賊を殺し、気に入らないからと冒険者の二人を殺した。

気分一つで人を殺す・・・私が諦めたらクオン達が殺されるかもしれない・・・だから諦めるわけにはいかない。

 

 

「おやおや、まだ戦う気ですね・・・ええ、ええ、それでこそですとも!では悪役の私は悪役らしくしなければなりませんねぇ、そうですね、お仲間を一人殺しておきましょうか?」

「っ!させない!」

 

 

私は反射的にヘインズに向かって行く。

 

 

「ざ~んねん」

「きゃっ!」

 

 

ヘインズの放った風の魔法で私は弾きばされた。

地面を数メートル転がる私、体中がボロボロになる。

でも、屈するわけにはいかない・・・。

 

私は、バトーネを杖代わりにして立ち上がった。

 

 

「・・・ほう」

「・・・・さないで・・・」

「なんです?よく聞こえませんでした」

「私の仲間に手を出さないで!!!!」

 

 

手も足も重い、まるで自分の手足ではないような感覚。でも、まだ動く。

私は重い足を動かし、ヘインズへと攻撃を仕掛ける。

振るったバトーネはいつもの威力が無く、動物も倒せないくらいの弱々しい攻撃だった。

その攻撃をヘインズは腕で受け止めず、顔面で受け止めた。

 

 

「実に、実にイイ!!己が傷つきながらも仲間の為、友の為に戦う少女!実に最高です!!・・・・・・・ですがっ!その少女が仲間を護れず闇に落ちる!!それこそ最高のストーリー!!!私はそれが見たい!」

「・・・きゃああああ!」

 

 

私は再度、風の魔法で吹き飛ばされた。

地面に擦れ、腕からも足からも血が流れる。

真っ赤になった足と腕に力を入れ、再び立ち上がろうとする。

だが、うまく立てずにその場に倒れてしまう。

 

 

「不屈!まさに不屈!その諦めの悪さ美しいですねぇ!!最高ですよぉ!そんなあなたの絶望の顔を見せてもらいましょう!」

 

 

ヘインズの掌がエリンシアの方を向いた。

駄目!させない!させたくない!!!!

私は必死に体を動かそうとする・・・だが、体は動かなかった。

ヘインズの掌から風の刃が放たれ、エリンシアへと向かって行った。

その刃は二人の冒険者を二つに裂いたあの魔法だ。

エリンシアは魔力を使い切り動くこともできない。

風の刃が、エリンシアの目の前にまで迫る。

 

 

「ふんっぬうううううううううう!!!」

 

 

突如、エリンシアの前の地面が爆発した。

私は見た、空から何か降ってきた・・・緑色の何かが・・・。

 

 

「今の・・・」

「大丈夫ぅん!みんなぁん!!」

 

 

エリンシアの前には太ったおばちゃんのような体系の緑色の生物が立っていた。

その生物はいつもは背中に背負っているウォーアクスを抜き、そのウォーアクスを一振りしてヘインズの風の魔法を斬り裂いたのだ。

 

 

「レディ!!!」

「あれは・・・オーク!?」

 

 

レディを知らないクオンが警戒の表情で見る。

まあ、普通に考えれば新たな魔物が現れたように見えるよね。

 

 

「大丈夫クオン、味方だよ」

「味方?あれが?」

「エリンシアちゃん、大丈夫だったかしらぁん?」

「ええ、おかげさまで無事ですわ」

「よかったわぁん」

 

 

エリンシアも無事のようである。・・・・・・・・・よかった。

 

 

「なんです?あのブサイクは・・・私の美しい物語をぶち壊しにするつもりですか?」

「だぁれがブサイクですってぇえええええ!」

「醜い、実に醜い!紛い物が私の物語を穢すつもりですか!!!」

 

 

ヘインズはレディに向けて風の魔法を放つ、先ほどの風の刃が三つレディに向かって襲い掛かった。

 

 

「レディ!!」

 

 

レディの後ろにはエリンシアがいる、もしあの風の刃を避ければ風の刃はエリンシアを斬り裂いてしまう。

だから、レディは避けない・・・いや・・・あれ?ちょっと?

 

風の刃を防げずレディは風の刃の直撃を受ける・・・いや、レディは防ごうともしなかったのだ。

 

 

「どうしたのぉん、カモメちゃん?」

 

 

直撃を受けたはずなのにレディはどこ吹く風である。

斬り裂かれるどころか切り傷一つ体に付いていない。

 

 

「だ、大丈夫なの?」

「あんな、そよ風、問題ないわよぉん」

「・・・う、うそぉ」

 

 

出鱈目だ・・・私たちと戦ってた時も異常な強さだったけど、再度確認した・・・レディはとんでもない強さだ。

 

 

「ちっ・・・紛い物如きが・・・イラつかせてくれますね」

「・・・あらぁん、イラついているのは私の方よぉん」

「ほう?」

 

 

ヘインズが不愉快そうな顔でレディに問う、その次の瞬間、一瞬でヘインズの前に移動したレディがウォーアクスを振るう。

 

突如目の前に現れたレディに驚きながらもその斧を風の魔法で防ごうとするヘインズだが、防御もむなしく数メートル吹き飛ばされた。

そして吹き飛ばされた地面に着地したが次の瞬間、再度目の前に現れたレディに蹴り飛ばされる。

 

 

「がはっ!」

 

 

まだまだ、レディの猛攻は終わらない、蹴り飛ばされた先で今度は地面に叩き付けられ、そしてまた蹴られ、ウォーアクスで斬られ、蹴られ、殴られ、斬られ、それを繰り返す。

 

 

「私の友達を傷つけてタダで済むと思ってるのぉん!!!!」

 

 

ヘインズが飛び、レディが追いかけ、さらにヘインズが飛ぶ・・・そんな一方的な猛攻が目の間で繰り広げられた・・・その光景を見ていた私は驚きのあまり目が丸くなる。

クオンもエリンシアもその恐ろしい光景をみて震えていた。

残っていた冒険者の人は泡を吹いてその場で倒れていた・・・無理もない。

 

 

レディの猛攻がやんだ時、そこにはすでにヘインズが原型を留めない形で落ちていた。

なんというか、モザイクが必要な光景である。

ヘインズの血であろう返り血を全身に浴びながら佇むレディちゃん、その姿のままこちら向きニコリとほほ笑んだ。表情はとても優しそうな顔だったのに私はブルリと寒気がする・・・いや、怖いよ。

 

 

「大丈夫だったぁん、カモメちゃん?」

「う、うん・・・すごいね、レディ」

「うふふ、ちょっと本気で暴れちゃったわぁん」

「そ、そうだね・・・」

 

 

レディは怒らせてはいけない・・・そう肝に命じておこう。

 

 

「ふふふ・・・とんだ邪魔が入ってしまいましたねぇ」

「・・・うそ」

「あらぁん」

 

 

さっきまでほとんど原型の残ってなかったヘインズが黒い触手のようなものウネらせその触手の上に顔だけ乗せた状態で笑っている。

正直気味が悪い。一体何なのアレ・・・。

 

 

「どうやら、あなたぁん、人間じゃないみたいねぇん」

「・・・魔物?」

「違うわねぇん、魔物ならすぐわかるものぉん・・・あなた一体何者なのぉん?」

「ふふふ、残念ながらそれを教える気はありませんね、私は出演者ではなく観客でいたいですから」

「意味わかんない」

 

 

なにからなにまで訳が分からないヤツである。

だが、少なくとも人間でないのは私にもわかる、原型が無くなるくらいレディにやられたのに、今はもうほとんど元通りだ。

 

 

「さて、では私はこの辺りで退場いたしますか」

 

 

ヘインズは転がっている盗賊の死体から妖魔の呼び笛を取る。

余りの不気味さに私は動けずにいた。

 

 

「あらぁん、逃げるのかしらん?」

「ええ、そうさせていただきます。ああ、そうそう、カモメさん。もし紅の牙を探しているのでしたら王都の南の森にある古い廃墟を探すといいでしょう」

「・・・・・信じると思う?」

「ご自由に・・・では」

 

 

黒い霧がヘインズを包み姿を隠す。黒い霧が晴れたときにはヘインズの姿は消えていた。

 

 

「本当に逃げたみたいねぇん」

 

 

なんとか助かったみたい。

もし、レディが来てくれなかったら私たちはきっと全滅していた・・・くやしいな。

私は薄れゆく意識の中で次は勝つと心に決めたのだった。

 

 

「あ、あらぁん!?カモメちゃん!!」

 

 

レディの慌てる声が聞こえたけど答えてあげられるだけの力が残っていない。ごめんねレディ、助けてくれてありがとう。

レディに感謝をしながら私はの意識は闇に落ちた。

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