闇の魔女と呼ばないで!   作:遙かなた

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聖武具

お父さんは城に到着すると門番の人に近寄り話しかける。

 

 

「大臣に取次ぎを願いたい」

「ヴィ、ヴィクトール様・・・」

「大丈夫だ、我らは交渉に来ただけだ。そう伝えてくれ」

「わ、わかりました。大臣と騎士団長殿にもお伝えしておきます」

「助かる」

 

 

ラインハルトさんはお父さんの話を聞く限りでもレディの事を弁護してくれていた。

確かに、交渉の場にラインハルトさんがいれば私たちの援護をしてくれるだろう。

そう考えた門番の人は気を利かせてラインハルトさんにも知らせに行ってくれたのだ。

 

 

 

しばらくすると門番の人が戻ってきた。

 

 

「お待たせしました、大臣がお会いになられるそうです」

「うむ」

「では、こちらへ」

 

 

 

戻ってきた門番は私たちを城の中へと案内する。

案内された場所は謁見の間という普通は王様が城に来たものと会う場所である。

その王座の近くにゴリアテ大臣はいた。

 

 

「よく来たな、ヴィクトール。それで、話とはまさかあの魔物の事ではなじゃろうな?」

「そのまさかだ大臣」

「愚かな・・・ワシは言ったはずじゃぞ、もしそなたらがあの魔物に操られているような行動をとれば、その責はグラシアールに取らせると。」

「もちろん分かっている。我々も無理やりあの魔物を助け出そうと言うわけではない」

「ほう、ならばどういうつもりじゃ?」

 

 

お父さんは早速、交渉に入るつもりのようだ。

しかし、確か大臣は盗賊を討伐に行こうとしたラインハルトさんを邪魔していると言っていた。

そんな人が果たして盗賊の居場所を教えるからと素直にレディを解放してくれるだろうか・・・。

 

 

 

「大臣よ、『紅の牙』のことは知っているか?」

「紅の牙・・?なんじゃそれは?」

 

 

知らんのかいっ!

貴方、大臣でしょ??なんで知らないの!?

 

 

「なら、グラシアール商会から依頼のあった盗賊の事は知っているか?」

「む・・・おお!そういえば、どっかの商人がラインハルトに討伐依頼を出しておった。その盗賊のことか?」

「ああ、そうだ」

 

 

グランルーン王国で1、2を争う大商会がどっかの商人・・・ほんとに大丈夫なんだろうか・・・この大臣。

 

 

「それがどうしたのじゃ?」

「うむ、その盗賊たちの居場所が分かった」

「ほう・・・で、それとあの魔物と何の関係があるのじゃ?・・・もしや、あの魔物も盗賊の一味ということか?」

「いや、そうではない」

 

 

そんなわけないでしょ!と叫びそうになった私の口を横にいたクオンが塞ぐ。

 

 

確かにすぐに感情的になる私よりお父さんのほうが適役だろうけど・・・レディを悪く言うのは許せないもん。

 

 

「あの魔物と盗賊に関係はないが、我々が盗賊を討伐するからその変わりにあの魔物を解放してはくれまいか?」

「・・・何を行っておるのじゃ。そんなことしてワシになんの得があるというのじゃ。バカバカしい」

 

 

むぅ・・・やっぱり乗ってこない。元々、盗賊を討伐する気なんて大臣にはないんだから当然と言えば当然だよね。

 

 

「ふむ、大臣。なぜ、ラインハルトが盗賊を討伐しようと騎士団を動かそうとした時、それを邪魔したのだ?」

「む、そ、それは、どこにいるかも分からぬ盗賊に我が国の騎士団を消耗させるなど馬鹿のすることじゃ!だから止めたのじゃ!」

「ならば、場所が分かれば問題はないのか?」

「い、いや、場所が分かっても戦いになれば盗賊相手とはいえ騎士団に負傷者が出るかもしれん、そんなことをして兵を消耗させるわけにはいかん!」

 

 

兵士って戦うためにいるもんじゃないの?

なんか言ってることが滅茶苦茶というか・・・ただ、駄々をこねてるようにしか聞こえないんだけど。

 

 

「兵を消耗させる必要はない、討伐するのは我々だ」

「・・・先ほどからお主は何を言いたいのじゃ・・・ワシをからかっておるのか?意味が解らんぞ」

 

 

この大臣察しが悪すぎ!ここにエリンシアがいたら絶対おバカちゃんって言われるよ!

でも、これで私たちが盗賊を討伐してその手柄を大臣に上げる代わりにレディを解放してほしいと頼む流れに持っていける。

 

さっすがお父さん・・・と私が思っていると不意に声が届く。

 

 

「ほう・・・我が国の兵は盗賊に後れをとるほどの弱兵だったのか」

 

 

威厳のある声だ。

声のした方向を少しやつれてはいるががっしりとした体格の男性がラインハルトさんと共に現れた。

老人の目の下には隈が出来ており、余り体調がよくないのかな。

 

 

 

「へ、陛下!?」

 

 

陛下!?

え、ってことはあの人が国王様!?なんで今ここに!?

 

 

 

「へ、陛下、何故ここに!ラインハルト!貴様陛下の身に何かあったらどうする気じゃ!」

「よい、余がここに来たいとラインハルトに頼んだのだ。・・・久しいなヴィクトール」

「はっ、ご無沙汰しております、王よ。」

 

 

国王がお父さんを見て呟く。

お父さんって国王とも知り合いだったんだ・・・。

 

 

「後ろの娘はお前の娘か?」

「はい」

「大きくなったな・・・確かカモメと言ったか」

「お転婆に育ちまして困っております」

「お転婆じゃないもん!・・・あっすみません」

 

 

つい、声を上げてしまった私は慌てて口に手をやり塞ぐ。

 

 

「ははは、母のアスカにそっくりではないか」

「はい」

 

 

優しいまなざしで国王は私を見る。

お母さんのことも知ってるんだ、この国王様すごい優しそうな人だな。

 

 

「して、大臣よ。なぜ、民に危害を与える盗賊を放っておくのだ?」

「い、いえ、放っているわけではなく・・・居場所が分からなかったので・・・その・・・」

「だが、その居場所はヴィクトールが知っているのだろう?何をためらう必要がある。よもや我が国の兵が本気で盗賊に後れをとるなどと思ってはおるまいな」

「は、はいっ!・・・もちろんです。ですが・・・」

「もうよい、大方、ラインハルトにこれ以上手柄を与えたくない為の工作であろう」

「っ!」

 

 

あ・・・そうなんだ。

なるほど、確かにラインハルトさんが盗賊をやっつけちゃったら、ラインハルトさんの人気は上がるだろう。

それが面白くないんだね大臣は。

 

 

「器の小さき男よ・・・そなたの父は民の為に身を粉にし働き、時には自ら出陣しておったぞ・・・」

「・・・・ぐっ」

「余が許可する。ヴィクトールよ、盗賊の討伐頼んだぞ」

「はい・・・王よ、それとお願いがございます」

「ん、なんだ?」

「現在、城に捕らわれているオークの異常種の魔物がおります。その魔物は私の娘の命の恩人、どうか解放していただきたい」

「私からもお願いします!レディは人を襲ったりしません、優しい魔物なんです!」

「カモメ!」

 

 

思わず口を出してしまった私をお父さんが窘める。

でも、あの王様ならきっと解ってくれるように気がしてどうしても口を出さずにはいられなかった。

 

 

「はっはっは、よいよい。そうか、優しい魔物か。ラインハルト、その魔物は優しい魔物なのか?」

「はっ、優しいかどうかまではわかりません。ですが、冒険者を2人、子供を3人を救い、治療を求め単身でこの王都の門まで来ておりました」

「ほう」

「加えて、彼らを治療させるため自ら我々に捕まりました」

 

 

そうだ、そもそもレディが捕まったのは私たちを早急に治療させるため、あのままだったら私かクオンのどちらか、もしくは両方が命を落としていたかもしれないからだ。

 

 

「なるほど、確かに変わった魔物のようだな。いいだろう、その魔物の解放を約束しよう」

「やったー!」

「ありがとうございます」

 

やっぱり、この王様は話が分かる!

大臣を見て不安だったけどこの王様がいればグランルーンは安泰だね!

 

 

「だが、解放はそなたらが盗賊を退治した後だ」

「・・・え?」

「さすがに、何の理由もなく魔物を解放する訳にはいかぬからな、民たちに不安を与えかねん。

 だが、元英雄のパーティに所属していたヴィクトールが盗賊を倒したところ人間を呪いで魔物に変える魔導具を所有していたことが発覚。そして城に捕らわれている魔物はその魔導具で魔物の姿に変わってしまった人間だった。その為、解放されたという筋書きでどうだ?」

 

 

王様の口から出た言葉はびっくりするほど真っ赤な嘘だった。

でも、そうすることで国民の不安を和らげることができるならそう言うのもありなのかな?

まあ、私はレディが助かるならなんでもいいけど。

 

 

「王よ!民に嘘を吐くというのですか!国王ともあろうお方がそれはあまりにも!」

「黙れ!元を辿ればお主が捕らえてきた魔物であろう!そのせいで余は古き友人を敵に回すところだったかもしれんのだぞ!」

「な、何をおっしゃいます!そのヴィクトールが国家転覆を狙っているかもしれぬではありませぬか!」

「愚か者めが!ヴィクトールが我が国を潰すのにそんな手の込んだことをする必要はない!ヴィクトール一人で軽々潰せるわ!」

 

 

ちょっとお父さん・・・そんなにすごかったの・・・?

いや、さすがに王様が誇張しているだけだよね。

 

 

「王、感謝いたします。では我々は明日にでも盗賊の討伐に向かおうと思います」

「うむ、頼むぞ。そうだ、ラインハルトも連れて行け。構わぬなラインハルトよ」

「はっ、民を苦しめる盗賊の討伐・・・むしろ望むところです」

「では、決まりだ。よろしく頼むぞ、ヴィクトール」

「はい」

「それと、カモメよ」

「・・・え、はい?」

 

 

いきなり名前を呼ばれて間抜けな顔と声で返事をする私。

王様が私に何の用だろう?

 

 

「何か相談事があればいつでも城に来るがよい」

「あ・・・えっと・・・ありがとうございま・・・す?」

 

 

なんで私が?

とっても優しそうなそれでいて寂しそうな懐かしそうな表情で私を見てくる王様。

その表情に裏はなさそうだけどなんで私に優しくしてくれるんだろう・・・。

そして、それを見て寂しそうな笑みを見せているお父さん・・・どういう事?

 

 

「うむ、それでは頼ん・・・ゴホッゴホッ」

「陛下!」

 

 

いきなり咳き込んだ王様の背中をラインハルトさんが摩る。

どうしたんだろう?病気なのかな?。もしかしたら寝てなくちゃいけないのに、ラインハルトさんに話を聞いて無理してきてくれたのだろうか。

 

その理由はきっと大臣を嗜めるため、お父さんを助けるためと色々あるんだろうけど。

私達の事を思って来てくれたんだろう。

 

 

「陛下、我々はこれで失礼致します。どうかご自愛ください」

「うむ、すまぬな」

 

 

そう言って私たちはその場を後にした。

 

 

 

 

 

お城からの帰り道、大通りを歩き私たちは泊まっている宿の『導き亭』を目指して歩いている。

 

 

「王様、大丈夫かなぁ?」

「わからん・・・だが、王は強いお人だ、心も体もな。そうそう、病などに負けはせんさ」

「うん・・・でも、なんで王様、私に優しかったんだろう?」

「ああ・・・それはきっと母さんが王様と仲が良かったからだろう」

「え?そうなの?」

「ああ、母さんは昔は城にいたのだ、だから母さんに似たお前に懐かしさを感じたのだろうな」

 

 

そっかー、お母さんお城に仕えてたことがあったんだ。

意外だった、私の覚えてるお母さんは根っからの冒険者という感じだったんだけどな。

でも、だからあの寂しそうな懐かしそうな眼を私に向けてたんだね王様は・・・納得したよ。

 

 

 

「ところでお父さん、なんで今すぐ盗賊退治に行かないの?」

 

 

そう、盗賊の討伐は明日行くことになっている。

盗賊の1人が死んでいる為、余り時間を空けると盗賊が逃げてしまうんじゃないだろうか?

それに、クオンだって仇を早く打ちたいはずだ、時間を空けることでクオンが先走ってしまうんじゃないか。

私はそれが心配でお父さんに尋ねた。

 

 

「ふむ、早めに行きたいのは山々だが準備せねばならぬことがあるのでな」

「準備って何の?」

「うむ、お前たちが戦ったヘインズという相手。特徴を聞く限り恐らく魔族だろう」

「え!?」

 

 

《魔族》

魔族というのは光の女神と魔王が戦った『古の戦い』の時に魔王が自分の配下として作り上げた眷属だと言う。

彼らの詳細はほとんどわかってはいないが、個体によってその能力が違うらしい。

記録に残っている魔族の能力はとても魔力が強く、その威力は山をも吹き飛ばすほどと言われたり。

他にも、六本の剣を自在に操ったり、空間を操り一瞬で別の場所に移動する者などがあった。

 

 

 

「魔族ってまだ生き残ってるの?」

「ああ、私達が英雄と呼ばれる切っ掛けになった邪竜の復活も魔族が関わっていたしな」

「そうなの!?」

「うむ、その時の魔族は通常の手段ではほとんどダメージを与えられなかった」

「そうなんだ・・・でも、それならお父さんたちはどうやってその魔族を倒したの?」

 

 

そうだ、お父さんたちはその魔族を倒している筈だ。だって倒してないと今こうして生きている筈ないしね。

 

 

「魔族にダメージを与えるには、聖武具と呼ばれる、ダンジョンで手に入る貴重な魔導具が必要となる」

「聖武具?」

「ダンジョンの中には時にそう呼ばれるほどの力を持つ武具が眠っているのだ」

「おお、なんかすごそうだね!」

 

 

ダンジョンの中には最下層に必ず宝箱が置いてある。それを誰が置いているのかは不明だが大抵はダンジョンの宝というのに相応しい物だ。

私が知っているのは魔導具や魔剣などの武器や防具の類だったのだが、その武器や防具の中にさらに強力な武器が眠っていることがあるらしい。

 

それがお父さんの言う聖武具と言うものだった。

その聖武具は魔力を変換することでその威力を増す。ここまでは魔導具の武器と一緒だ。

ちなみに魔剣の類には魔力を通す必要が無く、そもそもその武器自体が魔力を持っているものである。

 

 

聖武具は魔力を変換することで実体のない物にもダメージを与えることが出来るというのだ。

実体のない物と言っても正直ピンと来ないだろう。

例えば、霧状の魔物がいるとする、普通ならば霧状の魔物は炎に弱い。

なので炎の魔法か、炎の魔剣などで焼いて倒すのだが、聖武具であれば斬り倒すことが出来る。

つまり、普通の方法で倒せば塵も残らないよう全てを焼くが聖武具ならば霧の死体が出来上がるということだ。

 

これは、生き物に魂というものがあるのならそれに直接攻撃しているようなものなのだろう。

実際は魂なんてものがあるのかはわからないけど・・・まあ、魂とか精神とか心かそのあたりのものに直接攻撃することができるのが『聖武具』なのだ

 

 

「ああ、それと光の魔法も魔族にはダメージを与えることが出来る」

「え、そうなの!?」

 

 

なんてこった・・・私は光の魔法を使うことが出来る。

もしあの時、使っていればヘインズにダメージを与えられたのか・・・くう。

 

 

「ああ、だがヘインズとの戦いでお前が使わなくて良かった」

「え、なんで?」

「もし使っていれば、そいつはお前を脅威とみなして即座に殺していたかもしれん」

「・・・・・うげ」

 

 

た、確かに、もし最初から私を殺す気だったらとっくに殺されていただろう。

レディが助けに来てくれる前に屍となっていた可能性のほうが高いのだ。

あぶないあぶない・・・。

 

 

「後は、や・・・・・いや、なんでもない」

「うん?」

 

 

お父さんが何かを言おうとして口を閉ざした。

・・・や?

なんて言おうとしたんだろう?

 

 

「いや、それで私の持っている聖武具は預けてあってな、それを取りに行く時間と・・・それとお前たちの体力を回復させるための時間が必要だったのさ」

「う・・・」

 

 

確かに、私もクオンも傷は治っているがまだ体力が回復しきっていない、この状態で行ってもすぐにバテてしまうだろう。

 

 

「だってさ、クオン」

「うん・・・ありがとう」

 

 

なぜ私がわざわざ今この事を聞いたのかというとクオンが今にも飛び出して行ってしまいそうな思いつめたような顔をしていたからだ。

仇の場所が分かって、仇を討ちに行くことができるようになって、気がかりであったレディも助けられることになったのだ。

彼からしてみればもう我慢をして待っている必要はないのだ。

 

 

「気持ちはわかるがその魔族がいる以上、対策もなしで行くのは危険だ・・・いや、無駄死にする可能性の方が高い」

 

 

お父さんが私の方をチラリと見てクオンに言う。

暗にこのままいくと私が死ぬぞと言いたかったのだろう・・・むぅ。

 

 

「わかっています、明日の為にも今日は回復に尽くそうと思います」

「よろしい・・・では、『導き亭』に戻るとする・・・」

「お待ちなさい!」

「なぬ?」

 

 

お父さんは言葉を遮られ間抜けな顔で固まる。

私達を呼び止めたのはエリンシアであった。 

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