私達は王都の近くにある崖の上に来ていた。
崖からの景色は綺麗で、今の時間帯はちょうど赤い夕陽が崖下の森を赤々と輝かせている。
そして、崖の先には小さなお墓がぽつりと二つ立っていた。
ここは私のお母さんのお墓である。
よくお父さんとお母さんの命日に二人でお墓参りに来たものだ。
そして、今お母さんの隣にはお父さんが眠っている。
お墓の上には少ないけど綺麗なお花を添えてあった。
エリンシアが摘んできてくれたのだ。
私達はヘインズたちを倒した後、お父さんの遺体をここまで運んできた。
みんながお父さんを弔ってあげようと言ってくれたのだ。
だから私は、埋めるならお母さんのお墓の隣にしてほしいと頼んだ。
ここならきっとお父さんも安心して眠ってられると思うから・・・。
私はお父さんとお母さんのお墓の前で両手を合わせる。
私、護られてばっかりだよ・・・でも、きっともっと強くなって今度は私が色んな人を護れる立派な冒険者になるから・・・お父さんとお母さんの分まで・・・。
がんばるからね・・・。
正直、まだ実感なんてない・・・今だって私の墓参りが長いぞってお父さんが頭を撫でてくれそうな気がする。
・・・・でも、いつもの大きな手はもうないんだ。
『カモメ・・・無理をしないで泣いてもいいのよ?』
「あはは、ありがとうディータ。でも、まだ実感が無くて・・・涙・・・出てこないんだ」
『・・・・・・そう』
本当に泣きたいのを我慢している訳じゃない、ただ、涙が出てこないだけだ。
・・・・・・あ、そうだ。
「あの、ラインハルトさん」
「ん、どうしたんだい?」
私はラインハルトさんに頼みがある事を思い出し、そちらを向く。
ラインハルトさんはまだ、回復しきっていないのか少し青い顔をしていた。
「お父さんのこの聖武具・・・預かってくれませんか?」
私は、お父さんの武器でありお母さんとの思い出でもある聖武具をラインハルトさんの前に出した。
「いや、しかし、それは君が持っていた方がいいと思うが・・・」
「私にこの大きな聖武具を使うことは出来ないし、宿屋に置いておくわけにもいかないもん・・・だから」
「私に預かっていてほしいと?」
私がコクリと頷くとラインハルトさんは少し悩んでいた。
私も本当の所を言えば手元に置いておきたい。
でも、私もクオンも装備が出来ない・・・あの聖武具はお父さんの拳くらい大きくないと使えないのだ。
だから、持って歩くことになってしまう、あれだけの大きさだとかなりの荷物になるだろう。
でも、だからと言って宿屋に置きっぱなしにしていたら泥棒とかに盗られてしまうかもしれないし・・・。
ラインハルトさんも少し考えて同じ結論に達したのか・・・。
「分かった、私が預かろう・・・でも、必要な時はいつでも言ってくれ」
「はい」
ラインハルトさんが預かってくれるようで安心した。
お父さんの昔のパーティの仲間である彼なら安心して預けてられる。
「それじゃ、戻ろっか」
「もう、いいんですの?」
「うん、落ち着いたらまた来るから」
そうですの・・・とエリンシアは言った。
それじゃあ、帰ろうと言う時に待ったの声がかかる。
「お待ちなさい、その前に確認しておかないといけないことがありますわ」
「ん、何?」
エリンシアが私を呼び止めた。
なんだろう?確認しておきたいことって。
「カモメさんのその髪と瞳の色ですわ・・・大丈夫なんですの?」
「あ、そっか」
そうだった、私はまだエリンシアとラインハルトさんにディータの事を説明していない。
いや、私自身も詳しいことを聞いてはいないのだ。
「体に害はないんですわよね?」
「あ、うん・・・それはないと思う」
闇の魔法が使えるようになったってだけで後は魔力と髪と瞳が黒くなっただけのはずだ。
「そうだよね、ディータ」
私は確認を取る為にディータに話しかけた。
ディータは『体に害はないわ』と答えてくれた。
「大丈夫みたい」
「いきなり独り言を言っておいて大丈夫と言われても信用できませんわよ!?」
あ、そうだ、ディータの声はエリンシアには聞こえないんだった・・・。
「確か、ディータって言う闇の女神が君の中にいるんだったよね?」
少し事情を知っているクオンが私をフォローしてくれる。
「うん、そうだよ」
「闇の女神ですの・・・とんでもなくうさんくさいですわね・・・」
エリンシアの言葉に私の頭の中で『ああん?』とかいうチンピラまがいの声が聞こえた気がしたが気のせいだと思っておこう・・・。
女神がそんな言葉を使うわけがないもんね。
「私もまだちゃんと説明をしてもらってないんだ・・・ディータ、いろいろ聞いてもいいかな?」
『そうね、ちゃんと説明する約束だったもの・・・問題ないわ』
よかった、説明をしてくれるみたい・・・と言っても何から聞けばいいんだろう?
んーと・・・んーと・・・。
「どうしたんですの?」
「あ、ごめん、説明はしてくれるみたいなんだけど何から聞いたらいいのかなーって」
「なら、まずは闇の女神ってなんですの?光の女神は知っておりますが、闇の女神というのは初めて聞きますわよ」
そうそう、私も光の女神は知っているけど闇の女神は聞いたことないんだよね。
『なんですの?と言われも困るのだけど・・・そうね、私は光の女神の姉よ』
「光の女神のお姉さん?」
お姉さんってことは姉妹ってこと?女神って姉妹がいるんだ?
私はディータの言ったことをそのままみんなに伝えることにする。
「姉・・・ね、それでそのお姉さんがどうしてカモメの中に?」
今度はクオンが質問をする。
そういえば、なんで私の心の中にいて私に力を与えてくれたんだろう?
『私の闇の魔法を操れるだけの魔力を持った人間がカモメしかいなかったからよ』
「どういうことですの?」
『とりあえず、順に話すわね』
そう言うと、ディータは今に至るまでの話をしてくれた。
1000年前の魔王との戦いの事。
レナという光の女神との約束の事。
そして、異次元の世界で私が生まれるのを待っていたことそして、1000年くらい経ってようやく自分の力を使える人間が生まれたこと。
それが私だったことを。
1000年も昔から待っていたんだ・・・ん、それなら。
「ディータはいつから私の中にいたの?」
『・・・・・・あなたが生まれた時からよ』
「ええ!?」
私の中にディータが生まれた時からいたことに驚く。
でも、それならどうして今頃になって出て来たんだろう?
「それなら、なぜもっと前にカモメさんに闇の魔法を教えてさし上げなかったんですの?」
エリンシアが私と同じ疑問をディータに聞いた。
『そうね、カモメが闇の力を操れるまで成長するのを待っていたわ』
「それだけ闇の力は危険という事か・・・」
今まで、静観していたラインハルトさんが口を開いた。
でも、成長ってどういうこと?
『成長というのは体よりも心の方の事よ』
「心?」
『心が成長していないうちに大きな力を手に入れるとその力に飲まれてしまう恐れがあったわ・・・だから小さい頃から教えることはできなかった』
なるほど・・・お父さんがよく力と共に心を鍛えろって言っていたけどそう言う事だよね。
大きな力をいきなり手に入れたらそれに頼って努力をしなくなるし、その力を振りかざせば、大抵のものを支配できちゃう。
でも、それってただの暴力だし、そう言う事をする人は同じ力が自分に返ってくるものだってお父さんが言ってた。
「でも、あなたは一度カモメの体で闇の魔法を使ってますよね?」
『・・・・・・・』
「え?」
クオンがいきなり変な事を言い出した。
なんでクオンがそんなことを知っているんだろう?
というか、私の体を使ったってどういうこと?
『ええ・・・その通りよ』
「ええ!?そうなの?」
本当にそうなんだ・・・でもなんで、そんなことになったんだろう?
うーん、私の覚えてる限りだとそんなことなかった筈だけど・・・私が寝てるうちにやったとかかな?
でも、あんな魔法使ったらそれを見た人から怖がられたりしそうだし、何か絶対いわれるよね・・・うーん、そんな覚えもないし・・・。
「ヴィクトールさんから聞いたんだ・・・君のお母さんが殺されたとき、その仇を倒すときに君が闇の魔法を使ったって・・・」
「ええ!?でもでも、あの魔物はお父さんが殴り飛ばしたの私覚えてるよ?」
そうだ、私のお母さんを殺した魔物はお父さんが倒していた・・・どういうこと?
「うん、魔物を倒したのはヴィクトールさんだけど、あの時、それを裏で操っていた奴がいたんだ・・・そしてそれも魔族だった」
「ええええええ!?」
確かに、私はお父さんが魔物を倒した後は気絶しちゃったのか覚えていない。
でもその時に魔族がいたなんて・・・そしてそれを私の体を使ってディータが倒したってこと?
『あの時は、まだあなたの心が育っていなかった・・・だから、あなたを護る為にあなたの体を使わせてもらったわ・・・』
「そうだったんだ・・・」
そっか、そんなころからディータは私を見守ってくれてたんだ・・・。
『ごめんなさい・・・』
「え?なんで謝るの?」
『私としても予想外の事だったとはいえ、あなたの体を乗っ取るようなことをして・・・これでは悪霊と変わらないわ』
ディータは消え入りそうな声でそう言った。
後悔しているのだろうか?・・・・・どうして?
「え?ディータが私とお父さんを助けてくれたってことだよね?なんで謝るの?むしろありがとうだよ!」
「ということはディータさんはカモメさんの体を乗っ取れますの?」
エリンシアが質問する。
あ、そっか、なら今説明の為に私の体を使ってもらえば楽なんじゃ・・・今はディータが言ったことをそのまま私が口に出している状態なのだ。
『いえ、あの時はなぜそうなったのか私にもわからないわ・・・もし、それが出来ているのならあなたの母親も助けていた』
そっか、出来ないのか・・・。
何でもかんでも出来るってわけじゃないんだね。
「でも、なにかしらの条件が揃えばカモメの体を乗っ取れるということだよね」
『そうね、でも安心しなさい。カモメに力を授けた以上、私は長居はしないわ』
え、どういうこと?
『ただでさえ、悪霊が自分の中に住み着いているような状況よ、知らなかったのならまだしも知ってしまっては気持ちが悪いでしょうし』
「ちょ、ちょっとまって!」
気持ち悪いってそんなことないよ!?
それに、確かに最初会った時はうさんくささ1000%とか言っちゃったけど、今はちゃんとディータの事を信じている。
だって、闇の魔法で魔鬼を倒せたし、クオンも救えた。
ヘインズには私の未熟さのせいで効かなかったけどそれでも、いろいろ頭の中でアドバイスしてくれていた。
「気持ち悪いなんて思ってないよ!?」
『でも、私は今まであなたが見てきたものを一緒に見ているわ・・・のぞき見しているようなものよ・・・それに、怖くないの?』
「怖くないよ!だってディータは私を助けてくれたもん!・・・確かに今までの事をずっと見られてたと思うとちょっと恥ずかしいけど、そんなの気にしないよ!」
今までの事みられてた・・・おねしょを7歳までしていたことや、魔法の練習で宿屋の倉庫を半壊させてしまったこととか私の黒歴史も全部見られていたのか・・・。
それは恥ずかしい!・・・恥ずかしいけど!
「私の中から出ていくって・・・ディータの体はもう死んじゃってるんでしょ?なら、私の中から出て行ったらどうなるの?」
『女神も魂だけでは生きていけないわ、異空間や何かの中にいれば世界を欺けるけど、その中から出たら女神も完全に死んでしまうわね』
「そんなの駄目!それなら私の中にいればいいよ!」
そう言う私にディータは言葉を返さない。
でも、私はもうこれ以上誰かを失いたくない・・・。
ディータとは今日会ったばかりだけど、私が知らなかっただけでずっと私と一緒にいてくれたんだ・・・。
人から見れば悪霊に憑かれているのと変わらないと言うかもしれないけど・・・私にはディータに出て行けとは言いたくない・・・ううん、その必要もないもん。
私が泣きそうな顔になっているとクオンが言葉を発した。
「ディータ、君は魔王が戻ったときに対抗する為、自分の魔法を人間に教えたって言ったよね」
『そうよ』
「でも、カモメに教えただけで魔王には勝てるのかな?どうやったら使いこなせるのかその方法を教えてあげないといけないんじゃない?」
『・・・・・』
「君がカモメの中にいてアドバイスをすれば魔王に勝てる可能性も増えると思う、それにカモメが生きている間に魔王が来なければどうするのさ」
『あ・・・』
考えてなかったんだ・・・。
でも、確かにそうだ、魔王が私の生きている間にこの世界に来るとは限らない、その場合、この闇の魔法を使える人間をまた探さないといけないはずだ。
なら、ディータは死んではいけないはずだ。
私もだけど、それを考え付かなかったディータって・・・。
『う・・・でも、気持ち悪くない?』
「ないよ・・・それにディータが死んじゃうほうが嫌」
『う・・・し、しし仕方ないわねっ、ならこれからも私が付いていてあげるわっ』
あはは、なんか、エリンシアが照れ隠しをしてる時みたいな反応をしているよ。
よかった、ディータが私の中に残ってくれそうだ。
それに、1000年前の出来事・・・私にはよくわからなかったけど、きっと妹の光の女神はお姉さんにまた会いたいと思っているはずだよね。
私の中にいればもしかしたらまた、会えるかもしれない・・・。
今よりもっと強くなって世界中を旅できるようになったらディータの妹さんを探そう。
私の中で目標が一つ増えたのだった。
「それにしても、闇の女神といってもディータはかなり抜けているんだね」
『!!!』
私も確かにそう思ったけど、クオンそれ多分禁句・・・。
私の中でディータの怒りのボルテージがぐんぐん上がっているのが分かった。
「なんというか行き当たりばったりってかんじだ」
『うるさいわね根暗坊主!!あの時はそんなに考える余裕がなかっただけよ!!』
「ね、根暗坊主!?」
いや、私じゃないよ!?
確かにディータの言ったことをそのまま私の口から言ったけど私が言ったんじゃないからね!
私の中でディータが『がるるるるる』と唸っていた。
クオンも根暗と言われたのがショックだったのかこめかみをピクピクとさせている・・・うう・・・私を通してケンカしないでよ・・・とほほ。
「大体の話は分かりましたわ、これ以上は追々聞いていくとしてとりあえず、王都に帰りましょうですわ」
「そ、そうだね、クオンも私の中のディータを睨んでないで一緒に帰ろう」
「あ、ああ」
私はクオンの手を引いて王都へと向かう。
私達の後ろでラインハルトさんが微笑ましそうに笑っていたのが見えた。
「ヴィクトールよ、お前の娘は父と母両方に似ているな・・・」
彼の頬には一筋の涙が流れていた。
ラインハルトはお父さんたちのお墓の前で一礼するとしっかりとした足取りで私達の後を付いてきた