私たちは最果ての国ツァインへとやってきた。
国とは言っているがこの国の街は一つしかない。
なぜかと言うと、単に人口が少ないというのもあるが、他の地域と比べると強いのだ。
街が多くなるとその分、守る兵士の数も多く必要となる、だが、人口の少ないツァインにはそれだけの兵士の数がいないのだ。
その為、他の国からこの国に来るものも少なく、来るのは物好きな人間や腕試しをしたい冒険者くらいなのだ。
この国の兵士や冒険者は数は少ない分、質は高い。
うう・・・そんな人たちに追われたらたまったもんじゃないよね・・・手配書ここまで届いてませんよーに!
先ほども言ったがこの国に来るのは余程の物好きくらいだ、もしかしたら手配書も届いていないかもしれない・・・届いてないと良いなぁ・・・。
淡い期待を持ちながら私はだんだんと大きくなってくる王都ツァインへと向かった。
「はあ、ここでも追われたらとうとう逃げる場所無くなっちゃうよ・・・」
「そうだね・・・その場合どうするか・・・」
まあ、最悪は船でも作って海へ出るというのも考えてはいる。
もしかしたら小さな島とかあって平和に暮らせるかもしれない・・・いや、ディータの目的を考えると平和に暮らしてちゃいけないんだろうけど・・・こうも、追われ続けて休む間もないとのんびりと暮らしたいと思ってしまうのだ。
「うう・・・周りの魔物倒すの手伝うから魔女を置いてくれないかなぁ・・・って、いやいや私魔女じゃないよ!」
「なに一人漫才してるのさ」
今まで散々、魔女、魔女と言われてきたため魔女と呼ばれることに段々と抵抗がなくなってきている私にクオンがツッコミを入れてくる。
ジト目が痛い・・・。
「あ、大分近くなってきたね・・・結構大きい街なんだねツァインって」
「うん、この国唯一の街らしいからね。それだけ街づくりには力を入れてるんじゃないかな?」
『おかしいわね・・・』
私とクオンが呑気に街について語っていると、ディータが真面目な声で言ってきた。
「・・・え?」
「どうしたのカモメ?」
「あ、えっとディータがおかしいわねって・・・」
『よく見てみなさい』
私がディータの言ったことをクオンに伝えると、私とクオンはツァインを良く見ようと目を細める。
んー、何か変かな?変わったところと言うと・・・あ、街の周りはおそらく魔物対策であろう壁や堀がある。
これは、周りに強い魔物が出るのだから当然だろう・・・後はその壁の上に見張りのような人が・・・・あれ?
「確かに変だね・・・」
私たちの位置からだとまだ大分遠いため、壁の上に人の影が見えるくらいなのだが・・・それでもおかしいと言うのが分かる。
普通見張りでいるとしても少数だろう、だが今壁の上には影が20~30位は見えるのだ。
そして、その影はせわしなく動いている。
「小さくてよく見えないけど弓を撃ってるようにも見えるね」
「うん、もしかしたら街が襲われてるのかもしれない」
「ええ!?だったら助けに行かなくちゃ!」
街が何に襲われているのか分からないけど、魔物にしろ盗賊にしろ助けないと!
「ま、待ってカモメ!もし手配書が回っていたら、カモメも敵と判断されるかもしれないよ!」
「その時はその時だよ!街の中には一般人もいるんでしょ、助けないと!」
「まったく君は・・・」
『お人好しね』
やれやれと言った声で二人は言う。
クオンとディータはいつもは喧嘩ばかりしているくせにこういう時は息が合うのだ。
実は仲がいいんじゃないだろうか。
「急ぐよクオン!」
「了解!」
私とクオンは全速力で走り出した。
《ツァインside》
最果ての国ツァイン:王都ツァイン
この国は今、未曽有の危機に瀕していた。魔物の襲撃には慣れている。
それは、この国が最果ての国と言われる理由の一つでもある、この国周辺には、不帰の森と呼ばれるヴァイス森や、竜たちが住むと言われる山脈、そして最古の迷宮といわれる未だ踏破した人間のいないダンジョンが存在している。
その為、人が住むには厳しい環境であり、逆に魔物には快適な場所でもあるのだ。
だから、この国には魔物が多い、そして魔物の強さも他の国と比べると高いのだ。
それでもこの国に住む人間がいるのはそれは単にこの国を統治する者の手腕である。
確かに魔物が多く、暮らしにくいとも感じられるがそれは街の外の事である。
この国の王である、フィルディナンド国王は優しく、国民の事を想い、そして強く、自らも兵を率いて戦う人間だった。
今までも幾度となくこの街を襲ってきた魔物を兵たちや冒険者と共に蹴散らしてきた。
100近いゴブリンの群れを撃退したこともある。
サイクロプスと言うランクBの大型の魔物が来たこともあるがそれも皆で力を合わせて撃退した。
だが、今回街を襲ってきているのはウェアウルフである・・・その数はざっと100程だ。
ウェアウルフというのはランクCに位置する魔物である・・・それが100・・・これだけでもかなりの脅威である。
だが、フィルディナンドは臆することなく戦った。兵たちを鼓舞し、自分も前へ出て見事100のウェアウルフを蹴散らしたのだ。
・・・だが、その翌日、またも100のウェアウルフがやってきた。
その日も何とか撃退したが・・・さすがに連日でランクCの魔物を100ずつ倒したとなると兵や冒険者の消耗が激しい。
怪我人も多く出ているし死者も出てしまっている・・・まさか、次の日も来る・・・そんなことはないだろう・・・。
そう思っていた・・・いや、そう思いたかったのだが今日も100のウェアウルフが街に襲撃を掛けてきた。
今日はもう凌ぎ切れない・・・このままでは門を破られ、国民にも被害が出るだろう・・・どうしたらいいのか・・・フィルディナンドは絶望を感じていた。
王の絶望を感じ取ったのか兵や冒険者たちも絶望の色に染まり始めている・・・たとえ今日を生き残れたとしても、恐らく明日も・・・明後日も・・・いや、ウェアウルフとて無限にいるわけがない。
ならば、今日を凌げば明日はないのでは・・・そう、思うのだが・・・昨日もそう思い力を絞ったのだ・・・明日も駄目なのではないだろうか・・・そう思う者が多かった。
「諦めるな!奴らとて無限ではない!」
フィルディナンドは絶望を感じながらも自分を鼓舞し、兵たちに声を掛ける、そして両手で持った大剣を目の前にウェアウルフに振るった。
その一撃は強力でウェアウルフは見事に縦に両断されたのだ。
「で、ですが、フィルディナンド様・・・」
「奴らが無限なのではないか・・・そう思うのか?」
「・・・・・」
フィルディナンドに問われた兵士が伏く。
「忘れるな、我らの後ろには守るべき者たちが居る・・・聞け!そなたらの後ろにいるのは誰だ!まったくの赤の他人か、違うだろう!そなたらの後ろにいるのはそなたらの家族だ!彼らは戦う力を持たない代わりに我らに安らぎを与えてくれる存在だ!そんな者たちが蹂躙される姿を想像してみろ!許せるのか!そなたらはそんな未来をその者たちに与えるのか!確かに先の見えぬ戦いは恐ろしかろう!だが、我らがその恐怖に負ければその後に待つのは我らの大切な家族の絶望である!そなたらはそれを許すのか!」
フィルディナンドは叫ぶ、その言葉に多くの兵は再び剣を持つ、だが、それでも恐怖に勝てない者もいた。
頭ではフィルディナンドの言う事が理解できるのだ、だが自分を奮い立たせることが出来ない。王様の言葉は唯の詭弁ではなかろうか・・・そう思ってしまう者もいた。
「俺は認めない・・・あんな獣ごときに俺の大切な国民《かぞく》を傷つけさせるか!」
先ほどまでの口調とは違うフィルディナンドの言葉、恐らくこれがフィルディナンドの本来の言葉なのだろう。
そして、そう言うとフィルディナンドはウェアウルフの群れへと突撃をする。
「陛下!」
国王の直属の近衛が声を張り上げた。
だが、フィルディナンドは止まらない、7体のウェアウルフの群れへと突撃を掛ける。
Cランクモンスターが7体、普通の人間であれば勝つ可能性はない。
フィルディナンドは強い、実力の水準が高いこのツァインの中でも5本の指に入るほどの実力を持っていると自負していた。
だが、それでも一人でCランクモンスター7体を相手にできる実力は・・・悲しいことにないのだ。
普通はCランクモンスター1匹相手でも3,4人の兵士や冒険者が同時に相手をする。門の上には30の弓を持った兵と冒険者が、そして門の前にはざっと300の兵と冒険者がいた。兵士たちは常に3人一組で行動をしている。
一人が敵と対峙し敵の攻撃を防ぐ、そしてもう一人が攻撃を防がれ無防備になっている敵を攻撃する、さらに残った一人が他の敵の奇襲を警戒するという連携をしているのだ。
そのおかげか、これだけの数のウェアウルフに襲われているにしては被害が少なくすんでいるのだが・・・。
フィルディナンドの行動は確実に自殺行為であった、兵たちを鼓舞するために一人で敵を倒そうとしたのだろう・・・しかし浅はかである。
それは、その行動をとったフィルディナンド自身が一番理解していた。
彼もまた、連日の戦闘で消耗していたのだろう、正常な判断が出来ず、判断を誤ったのだ。
今から引き返してももう遅い、近衛の人が呼び止めたときに冷静に戻れていれば・・・。
だが、ここで弱気になれば何もできず殺されるだろう・・・ならば一匹でも多く敵を道連れにするのみ!そう考えフィルディナンドは吠えた。
「おじさん!巻き込まれないでね!」
間の抜けた少女の声が聞こえた、死の間際に聞こえる天使の声にしては間が抜けすぎている。
天も私を嘲笑いに来たのだろうか・・・。
そう思った次の瞬間・・・目の前にいた7匹のウェアウルフが爆発と共に消し飛んだ。
フィルディナンドは目の前で起こった光景が信じられず・・・目を見開くのであった。
《メインside》
街の近くまでくると今のツァインの状況が見えてくる。
ツァインの兵士や冒険者であろう者たちがウェアウルフの大群と戦っていた。
ウェアウルフの数は100体くらい、元々ウェアウルフは群れで行動する魔物だけどここまで多いのは珍しいね。
とはいえ、ウェアウルフのランクはCだ、子供の頃ならともかく、今の私とクオンにとっては100体集まってもそれ程の脅威じゃないかな。
しかし、そんな私の考えとは裏腹に兵士たちはかなりの劣勢を強いているようだった。
「あ、あれ・・・ツァインの兵士は強いって聞いてたのに随分押されてない?」
「きっと何かあったんじゃないかな?兵士たちの眼に疲れや諦めが見える」
そうなのか・・・私はクオンに言われ兵士たちの眼を見てみるがよくわからなかった。
とりあえず、助けるために一番後ろにいるウェアウルフを魔法棒《マジックバトーネ》で叩く。
このバトーネは私の込めた魔力よって威力を変化させる、私はウェアウルフを倒すのに十分な魔力を込めぶん殴る。ウェアウルフは一撃で絶命し、魔石へと姿を変えた。
クオンも手近にいたウェアウルフを2体斬り裂いている。
相変わらず見事な剣捌きだ。
私がパチパチとクオンに称賛を送っていると、離れたところから男性の叫ぶ声が聞こえた。
どうやら、ここの指揮官らしいその人は兵士たちを激励している。
「・・・・・・・・・・あんな獣ごときに俺の大切な国民《かぞく》を傷つけさせるか!」
その言葉と共に男はウェアウルフが7体くらい纏まっている場所に突撃を掛けるべく走り出した。
「おー、カッコイイ事言うね」
「でもまずいね、あの人の実力じゃ、ウェアウルフ7体には勝てないよ」
「え、そうなの!?大変!!」
私は慌てて風の魔法を使って飛ぶ。
その場所までの間にいたウェアウルフを飛び越え、急いで向かった。
あの人が来る前に7体いっぺんに吹き飛ばそう、私はそう決めると合成魔法を唱え始める。
合成魔法とは複数の魔法を混ぜ、新たな魔法を作り出す魔法である。
この4年間、ディータの元、研究したためさらに磨きをかけている。
その上、魔力も上がっている為、下手をすると兵士たちまで巻き込んでしまうので加減が必要だ。
私が混ぜた魔法は風と炎、私の一番好きな合成魔法だ。だって、派手でカッコいいんだもん。
「おじさん!巻き込まれないでね!
炎を纏った風の竜巻がウェアウルフ7体を包み込む。
炎の刃はウェアウルフたちを斬り刻み、瞬く間に消し去った。
跡には7つの魔石が転がるのみであった、うん、ぜっこーちょー!
7匹のウェアウルフに向かっていた男性が目を見開き驚いている。
私が飛び越えてきたウェアウルフたちをまるで紙のように薙ぎ払いながらクオンがこちらに近づいてきた。
クオンもこの4年でさらに強くなっている。
4年前でもランクDの魔物であるダイアーウルフ複数を倒していた実力者であったが、今の彼はランクCのウェアウルフを相手にしないほどの理不尽な強さを持っている。
その強さは彼の努力の賜物だって思う、ずっと努力してたもんね・・・彼は自分の大切なものを失わない為、強くなるんだと必死に努力を続けてきた。
大切なものが何か聞くと顔を赤くしてはぐらかされてしまう為、その大切なものが何かわからないけど・・・そんな恥ずかしいものなのかな?
そして、そんな理不尽な力を振るい私の元にまでかけてくるクオンを見ていると少しお父さんを思い出す。
お父さんもあんな風に魔物を薙ぎ払いながら無茶ばかりする子供の頃の私の元へ駆けつけてくれていた。
「そ、そなたらは一体・・・」
男性が声を掛けてくる。
おや?もしかしてこの反応は・・・いつもであれば私の黒髪を見ると闇の魔女とすぐにバレてしまい追われる羽目になるのだが、やはり辺境のしかも最果ての国と呼ばれるだけあって情報が届いてないのかも!
これは・・・もしや・・・安住の地が!と瞳を輝かせている私の希望は一瞬で打ち砕かれた。
「その髪・・・グランルーンの闇の魔女か・・・?」
「うぐっ」
やっぱり届いてたよ・・・ひどい!乙女心をもてあそぶなんて!・・・はあ、ここでも追われる身になるのかな・・・まあ、分かってたけどね・・・アハハ。
とはいえ、このままここを放っていくわけには行かないのでとりあえず・・・。
「言いたいことはわかるけど、先にあいつらを蹴散らせてもらうね・・・このままだと街に入っちゃう」
「・・・・・なに?」
私は言うが早いか走り出す。
そしてバトーネと魔法を使い次々にウェアウルフを倒していった。
クオンと一緒に戦っているので敵を全滅させるのに5分も掛からなかった・・・まあ、こんなもんか。
「あれが・・・闇の魔女・・・しかし、なぜ俺たちを助ける?闇の魔女は極悪非道ではなかったのか?」
男が一人、私たちの姿を見ながら言葉を零していたが、私の耳には届いてなかった。
届いてたら絶対、泣いちゃうよ!・・・誰が極悪非道じゃ!!!