とりあえず、ウェアウルフを片付けた私とクオンは、先ほどウェアウルフに突撃をしていた男性へと近づいた。
恐らく私の手配書が届いているので迂闊に近づくと捕まえられちゃうかもしれないんだけど、もしかしたら・・・ほら!助けたお礼に匿ってくれたり・・・ないかな・・・。
私が弱気なのはここと同じように魔物に襲われていた貴族の人などを助けたことがあったのだが私が闇の魔女だと知ると掌を返したように襲い掛かってきたのだ。
とはいえ、今回は個人ではなく国単位で助けている・・・もしかしたらという淡い希望を抱いて指揮官らしいこの人に近づいたのだ。
「あの、大丈夫ですか?」
クオンも警戒しているらしくすぐにでも応戦できるよう気を張っている。
私も襲い掛かってきたらすぐにでも逃げられるようちょっと距離を取って話しかけた。
「ああ、お陰様でな・・・ところでそなたらはグランルーンの闇の魔女で間違いないか?」
「うぐっ」
正直魔女じゃないよ!と言いたいところだが言ったところで信じてなど貰えないだろう。
「そう、呼ばれてはいるよ」
「そうか・・・なぜ、我らを助けたのだ?」
「そりゃ、魔物に襲われてたら助けるのが当然じゃん」
だよね?魔物に襲われてたら助けるのって当たり前だよね?
それなのに目の前の男は訝しんだ顔をしている。
あ、もちろん、助けに行って自分も殺されちゃうなんて言う状況ならともかく、助けられるなら助けるって言う事だけど・・・お父さんも困っている人がいたら助けるべきだって言ってたし。
「フィルディナンド様!」
「ソフィーナか」
恐らく上級騎士なのだろうか、かなり高価な鎧をまとった青い長髪の綺麗な女性が駆け寄ってきた。
「その方たちですか、先ほどの鬼神の如き戦いをしていた者たちは」
「ああ、グランルーンの闇の魔女殿だ」
「なっ!あの極悪非道、魔女の行く先には破壊が訪れると言うあの!!・・・ぷぎゃ!」
とっても失礼なことを言ったソフィーナという女性にフィルディナンドと呼ばれた男性のハリセンが炸裂した。
今、どっから出したのそのハリセン・・・。
「失礼なことを言うな、我らの恩人と呼べる方たちだぞ」
「で、ですが噂では・・・」
「ならば噂を疑え、自分の眼でよく見ろ。噂通りの悪人に見えるか?」
「うーん・・・見えなくないような・・・ぷぎゃん!」
再び、炸裂したハリセンがソフィーナの顔面を捕らえた・・・あれは痛い。
でも・・・
「私達ってそんなにひどい噂が流れてるんだ・・・」
一体どんなうわさが流れているのか気にはなるが、正直聞きたくない感じである。
「あ、噂が気になりますか!えっとですね・・・」
「あ、いえ、聞きたくないです」
「闇の魔女の通った跡には草一本生えず、魔女は人も城もすべてを破壊する破壊神であるとか、他にも魔女を見た者は一週間後に不幸が訪れる見た者は不幸を回避するためには一週間以内に他の者に魔女を見せろとかですかね」
「聞きたくないって言ってるのに!?」
勝手に私の噂を話し出すソフィーナ、人の話を聞かない人だ・・・っていうか後半なんか不幸の手紙みたいな扱いになってるんだけど・・・私を見ても不幸になんてならないよぅ・・・しくしく。
「あ、それにほらこんな手配書まで!」
そう言って、手配書を見せてきたソフィーナ、そういえば自分の手配書をちゃんと見たことはなかったと思いながらソフィーナの手にした手配書を見てみると、私のこめかみに青筋が立つ。
その手配書に掛かれていた顔は、眼がこれでもかというくらい吊り上がっていて、口が化け物のように裂けている、そして鼻はオークのように豚鼻だ。
しかも、片方の手だけなぜか移っていてその手の爪はまるでおとぎ話に出てくる魔女のように伸び、尖がっていた。
いくらなんでもこれはひどい・・・共通点って言ったら黒い髪くらいじゃないだろうか・・・。
「ほら、そっくり!」
「どこがじゃああああああああああああああ!」
この手配書とそっくりと言われ、青筋が3個に増えた私は、我慢が出来ずソフィーナにフレイムエクリスを放ちぶっ飛ばした。
「ぷぎゃほおおおおおおおおう!!!」
奇妙な悲鳴を上げながら吹っ飛んだソフィーナは離れた場所に飛び、頭から地面に突き刺さった。
や、やりすぎたかな?
「あ、つい・・・」
「よい、それよりも街を救ったお礼をしたいのだが、城まで来てもらえるかな?」
「え・・・でも」
私を魔女と知ってお礼をしたいという男性に警戒を示す私。
今までも何度か騙されてきている為、疑り深くなっている。
「まあ、警戒する気持ちも分かるが、そなたらを騙したところで今の疲弊した兵たちでは捕まえることはできないだろう、礼は弾む、それにそなたらが噂通りの人物でないのなら頼みもある」
そう言った彼の眼に嘘は見えなかった・・・でも頼み事か、あんまりいい予感もしないなぁ。
魔物の大群に襲われていたし、確実に厄介ごとだろう・・・でも、他に行くとこもないし、困ってる人を見捨てることになるのも・・・。
「クオン・・・行ってもいいかな?」
「そうだね・・・他に行く場所もないし」
『行ってもいいんじゃない?一応まともそうよ・・・男の方は』
ディータに向こうの地面に刺さっている女の方は?って聞きたかったけど答えは分かっているので聞かなかった。
うん、何事も行動をしなければわからないし、罠だったら罠だっただ!
「わかったよ、でも、罠だったら承知しないよ」
「ああ、肝に銘じておく。では、ついてきくれ」
「あれ、あの人放っておいていいの?」
フィルディナンドがそのまま兵たちと共に街に戻っていく姿を見て私は言う。
向こうの方で地面に刺さているソフィーナは誰にも気に留めてもらえず、回収もしてもらえなかった。
それどころか、兵士の中には私たちにお礼を言ってくる人物もいた、私を怖がってないところを見ると闇の魔女ということに気付いていないのだろう。
とはいえ、お礼を言われると胸が少し暖かくなる。
そのせいか、先ほど私が魔法で吹っ飛ばしたソフィーナをこのままにしてていいのかなと思えたのだが・・・。
「問題ない、あの程度ならそのうち復活する」
あ、そうなんだ・・・。
他の人たちも慣れているのかソフィーナを華麗にスルーしながら撤収していた。
一人ぽつんと地面に突き刺さっているソフィーナがちょっとかわいそうに見えたが、まあ自業自得なので放っておこう。
門をくぐると街の中は思ったよりも大きく、人の数も多かった。
フィルディナンド達が通ると、街の人たちの歓声が上がる。まあ、街の人たちからしてみれば魔物は脅威以外の何もでもないだろうし、護った兵士たちに感謝してるんだろう。
念の為、私とクオンはフードを目深に被り顔を隠している。
大通りを歩くこと半刻程、結構な距離を歩きお城に着いた。
「謁見の間までこいつに案内させる、任せたぞソフィーナ。」
「はっ」
そこには先ほど頭から地面に刺さっていたはずのソフィーナが何事もなかったかのように綺麗な姿でそこにいた。
いつ復活したの!?っていうか地面に頭から刺さったはずなのに髪の毛がシャワー浴びたかのように綺麗なんだけど!?
「こちらです」
「う、うん」
(双子かなんかかな?)
(でも、名前は一緒だったよ)
『実は魔族だったり?』
小声で話す私とクオンに怖いことを言うディータであった。
「どうかされましたか?」
「い、いいえ、なんでも!」
さっき私の事を話していたときとは違い、まさに騎士という感じの喋り口調で語りかけてきた。
ほ、本当に同一人物なのだろうか・・・。
「こちらが謁見の間です、王は先に入っておりますのでお入りください。余りこういう場の似合わないお方で、笑いをこらえるのが大変かもしれませんが、ご容赦ください」
「聞こえているぞソフィーナ!」
謁見の間の扉が開き、鞘に入ったままの剣で頭を殴られるソフィーナ。
あ、この失言、さっきのソフィーナで間違いなさそうだ。
「さあ、入れ」
「あ、はい」
先ほどまで一緒にいたフィルディナンドが私たちを招き入れる。
さっきまでと違い豪華な服を着ている、まるで貴族の様だ。
まあ、さっきまで来ていた鎧も結構高そうではあったけど、どちらかというと熟練の冒険者が着るような性能重視の鎧だったので今のキラキラした感じの服は似合わないと思ってしまった。
私がそんなことを思っているとフィルディナンドはつかつかと歩いていき、そのまま王座に腰を下ろした・・・・・え?
「・・・え?・・・あれ?」
「なんだ、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。俺が王だとは思わなかったか?」
「ええええええ!?」
思わないよ、口調も王様っぽくないし!・・・いや、そういえば兵士を激励していたときはそれなりに指導者っぽい口調だったけど。いいところ隊長さんとかそんな感じかと・・・。
うん、ソフィーナじゃないけど似合わない!と思ってしまった。
「ほら、似合わないでしょう?」
ドヤ顔でいつの間にか横にいたソフィーナが言う。
いつのまに・・・しかし、ついつい私も頷いてしまった。
「か、カモメ」
慌てたように私を嗜めるクオン、それを聞いて私も思わずうなずいていることに気付く。
「あ、ごめんなさい」
「よい、俺も似合わんとは思っているからな、ああ、ソフィーナはバツとしてトイレ掃除を一か月やってもらおう」
「なんですと!?」
子供か!と言いたくなるような罰だったが私はツッコむのを堪えた。
「それよりも、本題に入りたいのだがいいか?」
「あ、はい」
本題ってなんだっけ?濃いキャラのソフィーナとフィルディナンドに圧倒されて私はなぜここに招かれたのかすっかり忘れていた。
「頼み事でしたか?」
その私の代わりにクオンが聞いてくれる。そうだそうだ、何か頼みごとがあるとか。
「いや、その前に我が国を救ってくれた礼の方が先だな・・・さて、そなたら欲しいものはあるか?」
「欲しいもの・・・欲しいもの・・・」
欲しいものといきなり言われるとポンと出てこない。
うーん、お金は持ってても使う前に魔女として追われるし、武器は私にはバトーネがある。クオンの剣も特に変える必要はなさそうだ、さすがに魔剣とかはもらえないだろうし。
後は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
こんなお願いは聞いてもらえないかもしれないけど、聞くだけならタダだし、聞いてみよっかな・・・わくわく。
「そ、それじゃあ、一つお願いがあるんですけどいいですか?」
相手が王様だと知り、私も敬語を使い始める。本当は年上ってだけでも使わないといけないんだけど敬語って苦手なんだよね。
「ああ、なんだ?」
「えっと、冒険者登録をさせてもらえませんか?」
「・・・なに?」
ピクリと眉毛を上げるフィルディナンド。
やっぱり無理かな・・・私は以前グランルーンで冒険者として登録したのだが、その時の登録は抹消されていた。
恐らく、あの大臣が消させたんだろう。
冒険者ギルドはどの国にもあるがその管理は所属する国がしている。
冒険者ギルド同士でのつながりで所属している冒険者の情報や登録情報などは共有しているらしいがどの冒険者を登録するかなどはその国に任されている。
とはいっても、登録する冒険者が来るたびに国にお伺いを立てるわけではないが、訳ありそうな場合は国に許可を貰わないとならない。
以前グランルーンで登録した際はお父さんもいたこともあってなんの滞りもなくその場で登録できたが、お尋ね者になった今ではそうはいかないだろう。
すぐバレるしね・・・なので、先に王様に許可を貰っちゃえばこの国で冒険者を出来るということになる、まあ、この国に置いてくれなければ意味もないのだけど私がそこまで考え及ぶわけないじゃん!
・・・・・・後で言われて気付いたよ。
「ふむ・・・冒険者登録か・・・」
「やっぱり無理かな」
「今すぐは無理だが・・・いいだろう、ならば俺の頼みを先に聞いてもらっていいか?」
「え、うん、いいけど?」
つまり、その頼みを聞いた後なら冒険者登録をしてくれるってことかな・・・もしかして、また冒険者やれる!?・・・わくわく。
ワクワクしていたため若干敬語を忘れてしまう私。仕方ない仕方ない。
「実はな先ほどのウェアウルフの襲撃があっただろう?」
「あ、はい、100匹くらいの群れは珍しいですよね」
「それがな今日で三日目なのだ」
「どういうことです?」
クオンが目を少し細めて聞く。
三日目?あの群れが3回襲って来たって事?でも全滅させてたし気にすることも無いような?
「一度目の襲撃でも100匹ほどのウェアウルフがやってきた、その時は兵や冒険者たちと共に撃退したのだがその翌日も100匹ほどでまたやってきたのだ」
撃退したってことは追い払ったってことだよね・・・あれ?でも、100匹そのまま逃げ出したってことはないだろうから、また補充されて100に戻ってき次の日来たって事?
「そして二度目の100匹は殆どの数を殺し、撃退したのだ・・・だが」
「今日も100匹程の数でやってきたと」
「その通りだ」
なるほど、確かに倒しても倒しても次の日に100に戻ってやってきたらいつまでも終わらないって感覚になるだろう。
それは面倒くさい。
いや、私やクオンみたいにいくら来ても倒せばいいなんて考えられる実力を持っている人間がそうそういるわけじゃない。
普通の人からしてみればCランクの魔物が100も襲ってくれば脅威なのだ。
そしてその終わりが見えないとなれば・・・絶望してしまうかも・・・そんな状態だったのだ。
「それで頼みというのは?」
クオンが先を促す。
「ああ、その件だ。明らかに異常事態だ、恐らく裏で操っている者がいるのだろう、それを突き止めてもらいたい」
「確かに、自然現象とは思えないですね。群れのボスがいるのか、又は何者かがこの国を滅ぼそうと画策しているのか」
「ああ、頼めるか?もし、原因を取り除いてくれれば、そなたらの冒険者の件なんとかしよう」
「ほんと!?」
正直ダメもとだったんだけど、まさかOKを貰える可能性が出てくるなんて!
私たちを冒険者にするってことはグランルーンに目を付けられる可能性があるということだ。
いいのかな・・・いいんだよね!・・・わっほい!
「クオン、受けようよ!」
「うん、なら次の襲撃の時にわざと数体逃がそう」
「え、なんで?」
『後を追いかけて巣を突き止めるのよ』
「あ、なるほど」
私の疑問にディータが答えてくれる、クオンもそれに気づいたのかニコリと笑った。
「ああ、俺もそれがいいと思っていた。まあ、俺らだけではそこまで余裕がなかったがな」
「じゃ、それで決まり!」
「では、明日まではこの城で休んでくれ、部屋を用意させよう」
「あ、じゃあ、案内しますね」
「頼む」
今までずっと傍観していたソフィーナが言葉を発した。
そういえば、居たんだ・・・なんだろう、こういう時はちゃんと空気読めるんだこの人・・・。
「では、こちらに」
恐らく騎士であろうソフィーナは慣れた様子で私たちを案内してくれた。
案内された部屋は大きかった、ベッドも大きく二人くらい寝れそうな大きさだ。
そして、ソフィーナは案内が終わると仕事に戻ろうとする・・・ちょっとまて。
「ソフィーナさん、クオンの部屋は?」
「え、こちらですよ?」
「あれ、じゃあ私の部屋は?」
「こちらですよ?・・・お楽しみください♪」
「するかあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ぐふふと笑うソフィーナに私のバトーネが今までにない切れの良い一撃をソフィーナの脳天へと落ちた。
この人は!この人は!!!
顔を真っ赤にしながら私は息を切らせる。
クオンは頬を掻きながら苦笑いしていた。
その後、数十秒で復活したソフィーナにクオンを別の部屋に案内させた。
結構・・・いや、魔力は込めなかったとはいえかなりの威力で振り下ろしたのにケロリとしているソフィーナは実はすごい人なんじゃ・・・。
そう思いながらも私は部屋の中で次はもっと強く打とうと心に決めた。