夜も深けてきたころ私は椅子の背もたれを抱きかかえながら眠りこけていた。
今夜はずっとクオンを見張っていようと意気込んでいたが、深夜の眠気には逆らえなかったのだ。
お父さんはというとソファーでいびきをかきながら爆睡している・・・まったく。
そんな中、悲鳴のような呻き声のような苦しんでいる声が私の耳に聞こえてきて私は目を覚ましたのだ。
辺りを見回し、声の主を探す。そして、それはクオンであった。
最初は治した傷以外に傷があって、苦しんでいるのかと慌てたが、どうやらそうではないようだ。
夢を見て苦しんでいる・・・そんな感じだった。
「かあさん・・・とうさん・・・リリア・・・」
小さな、聞こえるか聞こえないかの大きさの声だったが、私の耳にははっきりと聞こえてしまった・・・。
盗賊に殺された家族・・・リリアっていうのは妹さんかな・・・家族を目の前で失う事の辛さは私も知っている。
私のお母さんも私を守って魔物に殺された、お母さんは昔お父さんと同じパーティにいた冒険者だったのだ。
私の持っている魔法棒《マジックバトーネ》もお母さんが使っていた武器だ。このバトーネは魔導具で魔力を流すことで筒状の形態から伸び、棒状の武器となる。
だが、それだけではなく、棒状の状態で魔力を流すと、その流した魔力に比例して威力を増すのだ。
私は、腰につけてあるバトーネを見てお母さんのことを思い出した。強く、優しいお母さん・・・お母さんならクオンをどうするかな?
そんなことを考えながら私は苦しんでいるクオンの手を握る。
私がクオンに言えることはない・・・でも、少しでも力になってあげたい・・・私にはまだお父さんがいるけどクオンにはもう誰もいないんだ・・・そう思うと私の胸は苦しくなった。
部屋にはいつの間にか何の音も無くなっていた、苦しそうに呻くクオンの声も・・・・・・・・・・・・・・・・・・お父さんのいびきも・・・・起きてたよあの人。
お父さんが起きていることに気づいた私は明日ぶっ叩くことを心に決めた。
次の日、私が目を覚ますとお父さんとクオンはすでに目を覚ましていた。
私と目が合うとクオンは目を逸らす・・・なぜ?
「くっくっく、カモメ、さすが母さんの娘だ。大胆だな」
などと、お父さんはニヤニヤ笑いながら意味不明なことを言ってきた。
何を言われているのか分かっていない私にお父さんが指を指す。その指の先を見て私は理解する・・・そして、顔が異常に熱くなった。
私の手の先にはクオンの手があった。
そう、昨日手を握ったまま私は寝てしまったのだ。私は反射的に後ろに後退る。
「ちがっ、そういう意味じゃなくてっ」
クオンは顔を赤くしたまま、照れ隠しに笑っていた。
お父さんは相変わらずいやらしい笑いでニヤニヤしている。
「~~~~っ!!」
私の恥ずかしさが限界まで達する。そして、恥ずかしさのあまりに私は常識も理性も吹っ飛んだ。
「
私が、そう叫ぶと炎の球体が二人の真ん中へ飛んでいき炸裂する。そして、二人を吹っ飛ばした・・・もちろん、部屋ごと。
なんか、『よくやった!』という声が頭の片隅に聞こえたような気がした。私の心の声かな?
爆音をきいて宿屋の亭主がすっ飛んでくるが、そこはもう、部屋とは呼べない景色となっていた。
扉もなく壁もない瓦礫の山になっていたのだ。
隣の部屋の人は何が起きたのか分からず砕かれた壁の向こうで茫然としている。
やってきた亭主が「な、な、なんじゃこりゃあああああ!!」と叫び声をあげた。
亭主の足元には黒焦げになったお父さんとクオンがプスプスと煙を上げながら転がっていた。
その状況を見て私は息を荒くしながら「乙女をからかった罰だよ!」と言い放つのであった。
私が使った、爆発炎弾《フレイムエクリス》というのは魔法と言われるものである。
ほぼすべての人間に魔力というものは存在する。だが、それを変換し、魔法として具現化するにはかなりの修練がいるのだ。
その魔法の使える人を魔導士と呼ぶ。
・・・・まさか、初公開の攻撃魔法を味方に撃つことになるとは思わなかったよ・・・とほほ。
宿屋の亭主にお父さんが弁償金を渡し、
ギルドに行って、盗賊の行方を調べてもらうのだ。
昨日はあれほど一人で行くと言っていたクオンだったが、なぜか何も言わずについてきている。
私が起きる前に、お父さんとなにかあったのかな?
「ねえねえ、お父さん」
「ん?なんだ?」
「クオンをどうやって説得したの?大人しくついてくるなんて昨日じゃ考えられないんだけど」
「さあな、私が起きた時にはすでに私達についてくる決心をしていたようだったが・・・」
「なんでだろ?」
お父さんの説明によると、お父さんが起きたときにクオンから話しかけられたそうだ。
昨日は信じられないと言っていたのに、一体どういう心境の変化なのか、謎である・・・。
だが、これで彼が無茶をしなくて済むので私は内心安心していた。
クオンを連れて、冒険者ギルドに到着した私たちは、木製の扉を押して、中に入る。
王都のギルドだけあってかなりの広さがあり、中には酒場や道具屋なども併設されていた。
私たちは、冒険者の依頼の受注や情報の受け渡しなどをするカウンターへと向かった。
「ヴァネッサ、昨日の件どうだ?」
「ヴィクトール様、盗賊の件ですね。いくつか情報が集まっております」
ヴァネッサと呼ばれたギルドの受付嬢は引き出しから紙を取り出しながら答えた。
どうやらお父さんはクオンが私たちと同行するしない関係なしに盗賊の事を調べるつもりだったらしく、昨日のうちに調べてもらえるよう手配していたようだった。
「ほう、さすがだな昨日の今日だというのに」
「最近盗賊に襲われた商人とのことでしたので調べるのは特に難しくはありませんでした。襲われたのはグラシアール商会の人間で、すでにギルドへ被害報告を出されていましたので」
グラシアール商会というのはグランルーン王国でも1、2を争う大商会だ。
「ほう、間違いないかクオン?」
「ええ、僕が話を聞いたのもグラシアール商会の方です」
どうやら、間違いないようだ。
「それで、盗賊の居場所などはわかったのか?」
「いえ、残念ながら居場所までは・・・」
「・・・」
ヴァネッサの返答にクオンは歯がゆそうにしている。居場所が分かっていればすぐにでも行くつもりだったのだろう。
「ですが、グラシアールの商人を襲った盗賊は「紅の牙」という盗賊グループで、最近王都の近くに現れるようになった盗賊たちです。ですので、王都にいれば情報もすぐに入ってくるかと」
「ふむ・・・では、情報が入ったらすぐ知らせてくれ」
「わかりました」
これで、紅の牙がまた現れればすぐに現場に向かうことが出来る。
「他に、その盗賊の情報はないのか?」
「襲われた商人の話では人数は4人と少数です、ただし、「妖魔の呼び笛」という魔導具を使っているようです」
「妖魔の呼び笛?」
「その笛を吹くと、妖魔を呼び寄せ操ることが出来るそうです。現代の魔導具ではそのような品は作れませんのでダンジョンの宝箱などから出た魔導具かと」
≪ダンジョン≫
ダンジョンというのはいつまにか、本当にいつのまにか出来ている迷宮であり、中には魔物がいたり、宝箱が配置されている。
一体、だれが何の目的を持ってこのようなものを作っているのか不明であるが、ダンジョンの最深部にはボスモンスターと呼ばれる魔物がおり、さらにその奥には必ず宝箱が置かれている。
しかも、その宝箱の中身は現代の技術ではまず作ることのできない魔導具だったり、武器だったりするので冒険者はそのお宝を狙ってダンジョンへ潜ることが多い。
だが、ダンジョンのボスモンスターはかなりの強さを持つ魔物らしく、普通のパーティでは全滅を免れないのだ。
「盗賊がそんな魔導具を持っているとはにわかに信じられんが・・・」
「どうやって手に入れたのかは不明です、たまたま、襲った相手が持っていたものを強奪しのかもしれませんが・・・妖魔を使役しているのは確かだそうです」
「そうか・・・」
ヴァネッサは首を振りながら答えた。
被害が出ている盗賊ならすぐにでも討伐したいけど・・・居場所がわからないのではどうしようもない。
「情報を感謝する。また何かあったら頼む」
「はい」
私たちは受付から離れて、併設されている酒場へと向かった。
普通なら私やクオンは子供なので入ることもできないが、保護者同伴なので今回は問題ない。
「さて、さっきの話を聞いてクオンはどうする?」
「・・・・・・」
お父さんに尋ねられるもクオンは答えることが出来なかった。
もしかしたら、居場所までわかるかもしれないと思っていたのだろうけど、残念ながら居場所は分からずだ。
とはいえ、次情報が入ってくればお父さんにすぐ伝わるので一緒にいたほうがいいと思う。それに、妖魔の呼び笛・・・これがある以上、一人で行っても返り討ちに会うだけだろう。
「もし何かわかれば僕にも知らせてもらえますか?」
「我々と一緒にいれば・・・だな」
「・・・・」
クオンは再び考え込む、一緒にいなければ教えないと言われたのも同然だ。
一人で無茶をすればせっかく情報が入っても教えてもらえないかもしれない。
だが、王都でじっと情報を待っていれば盗賊が別の街へ行ってしまうかもしれない。
「すぐに返事をしなくてもいい、今日一日考えてみるといいさ」
「・・・・わかりました」
返事をするクオンの表情は暗い。
やっぱり、すぐにでも探しに行きたいのだろう。
「だったら、今日は私たちも探すの手伝おう!もしかしたらすぐ見つかるかもしれないじゃん、お父さんと一緒だったら無茶じゃないし」
「ふむ・・・クオンがそれでよければ構わないぞ」
「いいんですか?」
「当然♪盗賊を倒すのも冒険者の仕事の一つだからね」
私の言葉にクオンは複雑な表情でお父さんを見つめる。
「カモメの言う通り、冒険者が盗賊を放っておくことはできん、それに困っている人間もな」
「・・・あはは、とんだお人好しですね」
そう言ってクオンは顔を綻ばせる。
先ほどまで暗い顔だったクオンが笑ったからか、それとも元々笑顔が似合うのかわからないが彼の笑顔に私は目を奪われた。
い、いや、奪われてない奪われてない。
その日、私達三人は王都の外で盗賊達の痕跡を探したが収穫はなく、王都に戻ることとなる。
そして、『導き亭』という宿に泊まることとなった。まごころ亭は出入り禁止になったため。
夜も更け、私たちはそれぞれの部屋で寝る準備をしていた。
私も、ベッドに入り寝ようかなと思い、目を閉じる・・・そして少しすると重大なことを思い出した。
「冒険者登録してない!!!!」
そう、昨日お父さんに認められて私は今日にも冒険者登録をする予定であったのだが、クオンのこともありすっかり忘れていた。
せっかく冒険者ギルドにいったんだからついでにすればよかったよ・・・とほほ。
まあ、忘れてしまったものは仕方がない、明日にでも再度冒険者ギルドに行くとしよう。
そう思い直し再びベッドの中に潜り込むと不意に隣の部屋の扉が開く音がした。
クオンの部屋だ、聞き耳を立てるとだんだんと足音が遠ざかっていった。
私は不安になる、もしかして、このまま何も言わずに出て行ってしまうんじゃないかと、慌てて私も部屋の外に出て追いかけた。