少女兵、人外お嬢様学校にぶち込まれる   作:軍事・思想教育総監

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上位存在と人間のイチャイチャ曇らせが見たい
の一心で執筆しました


少女兵、人外お嬢様学校に行くまで

 イケメンや美女に生まれれば、人生楽チンだと思ってた。

 

 異世界に転生したら、チート能力を貰ってウハウハできる思ってた。

 

 前世と同じぐらいの生活水準だと思っていた。

 

 でも、今は――

 

 

――

 

 

――

 

 

 

「起立!気を付け!」

 

 

 何時の時代も、学び舎からは授業を始める号令の声が聞こえてくる。

 それは、ここ悪魔帝国中央女学院でも変わらぬことであった。

 

 

 

 

――世界中のすべての民には教育を受ける権利があり、

   それはいかなる場合でも平等に尊ばれるべきである。――

 

 

by 魔王 (学園建設に当たる労働者に対しての演説より抜粋)  

 

 

 

 

 悪魔帝国中央女学院は、限られた者のみに入学が許される小中高大一貫・全寮制学園である。

 今から約200年前、元々は人が寄り付かぬ荒涼とした地に時の魔王が自ら赴き、帝国の近代・文明国化、何より帝国の将来を担う超エリートの育成を目論んで設立を指示したことが、学園の始まりであった。

 当時の悪魔帝国には碌な建築技術がなかった(ロステク化していた)ため、諸外国から職人や技術者を拉致してきて学園の建設を手伝わせ、その過程で何百という赤い血が流されるなど多少の悲劇が起きた末に校舎は完成した。

 そんな学園は現在遺憾なく教育の場として機能し、その献身的で高名な犠牲は英雄譚として、今もなお語り継がれている。

 当然のことながら、設備も世界最高峰クラスだ。

 例えば、学園の中央に位置する庭園は世界各国から贈呈された花々が咲き誇っており、見る者を永遠に飽きさせない彩りをしている。

 庭園を囲うようにいくつも建つ校舎は赤を基調としたレンガ造りであり、世界最高の腕を持つ職人が死ぬ気(ガチ)で作り上げたその建築は、芸術品の域に達していると言っても過言ではない。

 大聖堂のような佇まいの図書館はありとあらゆる種類の書物を扱い、永遠の探求へ誘うと称されている。

 これら以外にも、有事の際には短距離滑走路として利用できる広々とした大通りの他、近郊には1個旅団が駐屯しているため、学生とその関係者の安全は万全の体制で守られているのだ。

 そこに通う生徒は、国家の中枢を担う上流階級の高位魔族、それに加えてここ最近は財閥――通称"黒い貴族(ブラッグ・ブラッド)"の子息らである。

 学園にてペンを取る彼女らは、帝国の4億臣民を、そしてまだ魔王の治世の庇護を受けていない諸外国の抑圧された哀れで無垢なる民を教導するという高貴な志で、日々の勉学に励んでいるのだ。

 

 全てにおいて世界の水準を凌駕するまさにパーフェクトそのもの、それが悪魔帝国中央女学院である!

 

 

「教官に~、敬礼!」

 

 

 シュッ

 

 

 服が擦れる音と指先が空間を切り裂く音が共鳴すると、一転して張り詰めた静寂が訪れる。

 悪魔、生霊、妖獣――人に近しいが人ではない特徴を持つ容姿の彼女らが一心不乱に見つめる先にいるのは、軍事・思想教育の教官ただ一人であった。

 その場にいる学生18人の眼力を向けられる彼女は、落ち着いた目つきのまま腕をゆっくりと上げ、指先をこめかみまで持ってくると、教室全体を見渡す。

 各々が凛々しい顔立ちでいることに満足して口元を緩めると、糸が切れるように腕を下ろした。

 号令を掛けた学生も手を下ろすと、他の学生がいる方向に体を向け、「直れ!」と声を張る。

 その号令と共に、学生全員は直立不動の姿勢に戻った。

 

 授業初めの所作はまだ終わっていない。

 教官は号令を掛けた学生に体を向けると、革製軍靴の踵をぶつけて乾いた音を響かせた。

 既に黒板の方に体を向けていた学生は、教官と相対すると同時に挙手の敬礼をし、教官はもまたそれに反応して敬礼する。

 そして、教官が手を下げると、ワンテンポ置いて学生も手を下ろした。

 スウッと、静かな空間でも聞き取れるほど胸を膨らませると、言葉を一気に紡ぎ始める。

 

 

「高等部1年1組18名、事故無し、現在員18名。集合終わり!」

 

 

 そう言い終えた学生は呼吸を整えるよりも先に敬礼をし、教官もそれに続いた。

 手を下ろし、相手も下ろしたことを視認すると、教官は体を教室全体の方へ向けるなり「楽に休め!」と言い放つ。

 号令と共に、その場にいる全員が一斉に席に着いた。

 騒音の余韻が無くなり、再度静寂が空間を取り仕切った頃合いを見計らうと、教官は我が子に語り掛けるように優しく語り始める。

 

 

「……久しぶりだ諸君、私がいない間、しっかりと勉学に励んでいたか?学生という身分は自由な時間が多いし、ましてや諸君のような上流階級ともなれば、尚更であることは自覚しているだろう。これまで何度も忠告しているが、勉学もまた青春の特権であるということを、今一度理解してもらいたい。……さあ、世間話はこれぐらいにして、本題に入るぞ」

 

 

 世間話を足早に切り上げて本題に入ると宣言にもかかわらず、そこで発言を止めた。

 首をゆっくりと右から左へ、左から右へ振って、全体を見渡すあからさまな仕草で学生の反応を試す。

 皆真面目な顔つきだし、今のところ足を崩している者は誰もいないが、それでもなんとなく雰囲気がヤバそうだと直感で感じ取った。

 これからやる授業は絶対にみんながびっくりすることだから、皆の集中力が途切れる前に1秒でも早く話を進める必要があると判断する。

 

 

「帝国の将来を担うエリートである諸君らであれば知っての通り、世界の全ての民は魔王陛下の庇護の下で皆平等であり、民は陛下に尽くし、陛下は民のために尽くされる。その理念を忠実に遂行するために、諸君らは、今ここにいる」

 

 

 1語1句ハッキリと聞き取れるように、ゆっくりと、確実な口調で彼女は話した。

 前置きは十分にできたと判断した彼女は、ついに話の核を告げる。

 

 

「……そこで我々は、理念をより現実のものとするための教育の一環として、敵国の元少女兵をこの学園に編入し、諸君らと共に切磋琢磨してもらうこととした」

 

 

 その瞬間、学生たちは明らかに動揺する。

 首を傾げたり、眉を顰めたり、はたまた「え?」と声を漏らしてしまうなど、反応は千差万別だが、要領を得ないことは共通していた。

 心の中で拳を握りつつ、彼女は背もたれに身を預けながら自分が入ってきた戸に顔を向けると「……フランシス少尉、あの娘を入室させろ!」と声を張り上げる。

 

 ドアノブがガチャリと回った。

 扉が開かれて廊下と教室の空気が繋がったその瞬間、学生は思わず眉を顰め、数人がハンカチを鼻に当てる。

 

 彼女らが頭に思い浮かべた単語は、おおむね"酸っぱい"に収束された。

 

 上流階級の娘が集まる帝国最高峰の教育機関だけあって、学園の全ての施設に冷暖房が完備してある。

 校舎の中は常に空気が循環するように設計されており、それが寒風酷暑とは無縁の教育環境を作っている……のだが、今回ばかりはそれが仇となったようだった。

 肉を腐らせたような、されど新鮮という矛盾する臭気が教室を即座に駆け巡る。

 生まれたその時から付き人が身の回りの世話をするような生活をしてきた彼女らにとって、比喩でもなんでもなく、本当に人生で初めて認識した臭いなのである。

 

 相手に指摘するにしても直接的な言動は避けるよう教育を受けている彼女ら学生でさえも、言葉にせずとも行動で露骨に嫌悪感を示したり、嗅覚が鋭い種族の学生に至っては堪えきれず嗚咽している傍ら、教官の彼女は、まるで問題そのものが存在していないかのような様子だった。

 

 

「大丈夫そう?厳しそうなら、肩を持とうか」

 

 

 彼女は指先を顔のラインに沿って撫でつつ、扉の向こうに立つ存在に向って話しかける。

 その声色は普段の教官としての威圧感は感じられず、むしろ共に肩を並べる友人に向けるような優しいものであった。

 

 

 タン

 

 

 一歩、踏み出す音。

 

 

 タン タン タン

 

 

 天然の素材を活かしたリノリウムの床を革靴が叩くとき特有の、少し重い音。

 

 あれほどの間は何だったのだろうかと思うほど、あっさりと"それ"は姿を現した。

 

 

「――っ」

 

 

 その姿に、学生は全員呆気に囚われた。

 臭いが一時的に遮断されるほど、それが脳にもたらす情報が衝撃的だったのだ。

 

 教官は立ち上がると、件の少女兵の後ろに立つ。

 自身の身長並みに長くて膜がない翼を使って少女の躰を抱擁し、両手と顎を肩に乗せると、神妙な顔つきで話し始めた。

 

 

「これから諸君は、彼女と共に学園生活を送ってもらうこととなる。もちろん、服装も諸君らと同じものにするし、体も清潔にしてもらう。そうする前に、しかと目に焼き付けてもらいたい。これは、かの国の少女兵捕虜が現在どのような状況にあるのか、ありのままの姿である」

 

 

 教室の空気が凍り付く。

 誰一人として、言葉を発することができなかった。

 

 

――人間はその傲慢さから他の種族を滅ぼそうとする狂暴な敵であり、教導不可能などうしようもない存在である。妥協は望めず、唯一の問題解決方法は絶滅のみである――

 

 

 人間という種族そのものに対して徹底的な報復・憎悪教育を受けてきた彼女ら学生の前には、まさにその無条件に滅すべき存在がいる。

 しかし、彼女らの中に憎悪の気持ちを抱く者はいなかった。

 

 その姿――その眼はあまりにも、想像していたものとはかけ離れていた。

 みすぼらしく、弱々しく、痛々しい。

 何とも形容しがたい感情が湧き上がった。

 

 少女は痩せていた。

 だが、単に痩せているだけではない。

 肉は削げ落ち、頬はこけ、鎖骨は刃物のように浮き出ている。

 その身には一回り大きいくたびれた軍服を纏っていたが、もはや服としての役目は果たしていなかった。

 破れ、擦り切れ、泥と何か判別の付かない汚れが染み付いているのだ。

 

 長期間まともな手入れができなかったがために無造作に伸び散らかり、光沢を失い明るいと暗いという二つの矛盾する色彩は、本来のブロンド色よりも少ないはずの白髪を否応が無しに印象付けさせる。

 

 年齢は同じくらいのはずなのだが、学生の誰の目にも、同世代の少女には見えない。

 最高品質の美容グッズを使って常に美しい容姿を保つ生徒たちが毎日見る鏡の中の自分とは、あまりにも違いすぎたのだ。

 

 何より目を引いたのは、その瞳だった。

 少女は教室へ入った直後から、誰とも視線を合わせておらず、それは教官ですら例外ではない。

 彼女は窓、扉、換気口、天井、机の配置を順番に目線を動かしており、その仕草は誰から見ても逃走経路を探しているように思えた。

 あるいは――生き残るための癖なのかもしれない。

 少女は左目を包帯で覆っているのだが、その包帯は茶色に変色しており、眼窩に当たる部分は血でどす黒く滲んでいた。

 もう片方の眼は、虚ろと表現するには如何ともしがたいズレがある。

 輝きを失った金色の瞳は、1000ヤード先を凝視するような達観、諦め、あるいは絶望が入り混じる、とても単純には表現できない悲しい目つきをしていた。

 

 一通り教室を見渡すと、少女は次に、目の前の存在に目線を向ける。

 言葉を失い、静かに見据える学生と目が合うが、お互いの口が動くことは無い。

 

 緊張が作るその冷たい沈黙は、既に始まりつつあった新しい時代――冷戦の縮図と擬人化を表していた、と言っても過言ではなかった。

 

 

 

――

 

 

――

 

 

 魔法がある世界で美少女にTS転生したら祖国が戦争に負けたせいで捕虜になって地雷除去に従事させられるハメになりました~☆

 

 

 サク サク サク

 

 

「これさえ終われば生かして帰すからなー、手を抜くなよー」

 

 

 嘘こけ!

 こいつら絶対に俺たちが死ぬまで使い潰すつもりだぞ!

 

 ……などと、心の中で悪態をつく。

 これを口に出したら真っ先に殺されるだろうし、そもそも言葉にするほどの気力はもうない。

 

 今はただ、鉛のように重い躰と膨らむ腹に鞭を打って、砂浜に這いつくばって地面に鉄の棒を差す作業をするのみである。

 

 

 サク サク サク

 

 

 深く差し、地中に何も埋まっていないことを確実に把握してから、数センチ前へ進む。

 それの繰り返しを、横1列に並ぶ同年代の少年少女30人が行うのだ。

 傍から見るとなんともシュールな光景だろうが、当事者にとっては冗談では済まされない、命が掛かった極限の作業である。

 

 

「早く終わらせて帰ンねーと、ママと妹が慰み者になっちまうぞー。いや、もうなってるか、ガッハッハ」

 

 

 とにかく体を動かして作業に集中し、監視する兵の罵詈雑言を聞き流すことを心掛けているが、それでもずっと聞き続けていると、さすがに精神に来るものがある。

 その昔見てきた光景をついつい思い出してしまい、ただでさえ低い士気がさらに低くなってしまうのだ。

 しかし、ここであきらめちゃダメ!と自分を鼓舞し、体を動かした。

 

 

 サク サク カン

 

 

「……反応あり!反応あり!」

 

 

 できる限りの大声を出す。

 喉も唇もカラカラで痛い痛い。

 

 今から自分が地雷の処理をすることを周囲に伝えるが、それをしたところで全体の作業が止まることは無い。

 俺たちの人命と地雷処理の進捗を天秤に架けた結果、優先されたのは後者だったというだけの話である。

 命の価値が地雷以下で泣けてくるぜ。

 

 泣き言はともかく、早速作業を開始する。

 まず、手で砂を掬い、地雷が見えるまで掘り起こす。

 

 

「……!」

 

 

 10㎝以上、20㎝以下?ぐらい掘り進めると、命を刈り取る無機質な怪物が姿を現した。

 くすんだ茶色の丸い円盤。

 この辺りじゃスタンダードな圧力型対人地雷である。

 

 

「地雷発見!地雷発見!」

 

 

 稀にただの石にぶち当たっただけな場合もあるのが、今回は本当に地雷だったため、それを全力で声に出して報告する。

 一瞬両サイドで作業に当たる少年少女がこちらを振り向いたが、直ぐに向き直って自分の作業に戻った。

 

 雲一つない青空の下で水分補給も無しにやってきたせいで最高に具合が悪いが、それでも俺は俺の仕事をやらねばならない。

 念のため発見した地雷の周囲をさらに掘って、別の地雷と連結していないか確認し、その可能性はないことを把握すると、圧力ネジを握った。

 

 地雷には様々な種類があるが、今俺が無力化している地雷は、踏んだ瞬間に爆発するタイプのものだ。

 構造を作動順に大まかに分けると、まず初めに、踏んだことを次の機構に伝えるための信管、すごい爆薬を爆発させるための爆薬、そして本体のすごい爆薬という感じで構成されている。

 敵が踏んだ時にのみに作動させるため、このような仕組みになっているのである。

 

 で、最終的に地雷を除去するためには、やはり爆破して跡形もなく消す必要があるのだが――実のところ、無力化するだけなら、信管とそれに付随する起爆用爆薬を取り除くだけで十分なのである。

 

 だからこうして……

 

 

 ギュ ギュ ギュ

 

 

 ネジのように回して信管を取り外すのだ。

 同様に、信管と起爆用爆薬を取り外し、これで地雷無力化は完了する。

 

 

「地雷除去!終わりまっ、げほ、げほっ」

 

 

 地雷を無力化できてアドレナリンが切れたからか、あるいは体調の不良がここに極まったか、いずれにせよ自分が自覚していなかった体の限界がこんなところでやってきてしまう。

 餌を前にして思わず涎が漏れる犬のように、順調に込み上げてきた胃液が口から垂れてくる。

 それを防ぐような力は既に残されていなかったため、そのまま地雷が埋まっていた穴の中に思いっきり吐瀉してしまった。

 内容物はほぼ透明な液体、今朝食べた人参がカスのような小ささで混ざっているぐらいだ。

 

 

「女の子だからとか関係ないからな、早く作業に戻れ!やれ!」

 

 

 後ろで待機していた同年代の地雷回収係が掘り起こしたものを持っていく傍ら、後方で監視する兵が、嗚咽する俺に怒声を飛ばす。

 これで直ぐに作業に戻らなければ威嚇射撃を受け、最悪ガチで撃たれるため、鉛のように重い躰を気合でどうにか動かした。

 横に残置していた砂を穴に被せ、鉄の棒を携えて、終わりなき前進を再開する。

 

 こうした作業を俺らは既に半年以上続けており、俺ら捕虜を監督する士官曰く、この作業が終わるまであと1年はかかると言う。

 しかも、ここの地雷除去が終われば、また別の場所の地雷除去に駆り出されるらしい。

 そして、それが終わればさらに別の戦後賠償労働に従事させられるというのだ。

 「どうしようもない生き物の貴様らが唯一できる償いがこれだ。死は救済ではなく、更なる罪の積み重ねだからな。したがって我々は貴様らに贖罪の機会を与えているのだ」って言葉が、ずっと忘れられない。

 どうせただ働きさせるための方便だろ!と思っていたのだが、ここ最近は、あいつらは本当に善意でやらせているのではないのかと訝しみ始めて戦々恐々としている。

 

 ……とまあ、こんな具合に、今の俺の扱いは人道に対する戦争犯罪並みに悪い。

 

 そんな俺が、今日に至るまでどうして自殺せずに生きているのか?生きるモチベーションとは何なのか?!

 

 ずばり、「生きていてよかった〜」と思える時代がやって来る事を知っているからである!

 

 実のところ、俺には生まれた時から前世の記憶があった訳では無いのだ。

 思い出したきっかけは、ひょんなキッカケから『太陽が照らす道』という本を読んだからである。

 来る日も来る日も軍事訓練や工場・農作業補助に駆り出され、ただひたすらキツくてつまらない日々を過ごしていたある日のことだった。

 「面白いことがある」と先輩から誘われて、俺は学校非公認の読書サークルなるものに所属することになったのだが……なんとこのサークル、焚書されたはずの本を取り扱っていたのである。

 そこには、今まで読んだことのない世界が広がっていた。

 公権力に縛られない闇が深い探偵が主役のクライムアクション系ミステリーや、人間に同情的な悪魔族のヒロインと共に世界を巡る硬派なファンタジー小説……人生で初めて、読む手が止まらなくなる経験をした。

 それほど、刺激的で面白い本がたくさんあったのだ。

 で、そんなときに出会ったのが、『太陽が照らす道』という小説である。

 作品の内容をざっくり要約するとこうだ。

 まず、物語の主人公は、日が出ずる島国の軍人で、破滅的な敗戦を経たところから物語は始まる。

 肉親も弟妹達も全員戦禍に巻き込まれて死亡しており絶望するが、悔しさを糧に心機一転、持ち前の話術を駆使して成り上がり、世界と張り合える巨大な企業を作り上げたのである。

 そして、主人公が成り上がっている間にも、日出ずる島国は奇跡の大復興を遂げて世界屈指の経済大国となり、かつて以上の繁栄を成し遂げていた。

 しかし、その躍進はかつての敵だった世界1位の超大国の顰蹙を買ってしまい、疎まれた末に策略に嵌められ、それは主人公が経営する企業にも波及する――日が沈み始めるというなんとも後味の悪い終わり方で物語は幕を閉じる。

 ……と言った具合に、とんとん拍子に成り上がっていく事が特徴の経営ステラテジー系の小説なのが、『太陽が照らす道』である。

 個人的には普通に面白かった小説の一つであり、逆に言えば一つに過ぎなかったはずなのだが……どういう訳か、この本を読んで以来、小説の内容に著しく類似しているうえにやたらリアルな夢を見るようになったのだ。

 このことをサークル仲間に相談すると、曰く前世の記憶だとか。

 普通に暮らしていたがある日いきなりこの世界に現れる、あるいは記憶を保持したまま産まれる先天的転生者と、成長する過程で前世の記憶を思い出す後天的転生者という二種の転生者が存在しており、広く周知されている。

 世界中の神話を探してみると、別の世界からやってきた勇敢なる者が巨悪を討つという、いわば"転生者伝説"がそこら中に存在しているため、もしかしたら俺は後から記憶を思い出す系の後天的転生者なのかもね、というアドバイス?を受けたのだ。

 

 なわけあるか!と当時は笑って流したのだが、後々振り返ってみると、俺は本当に転生者なのかもしれない。

 読書をきっかけに前世の記憶が発現してから、なんと言うか……物事の価値観が変わった。

 例えば、一人称が"私"から"俺"へ変わったりとか、前世の社会と比較していかにこの国が具体的にどうヤバいのかとか。

 

 ま、前世の記憶を思い出したところで、俺はおとぎ話のような勇者にはなれない。

 なんせ、砲弾に銃弾が行き交う近代において、前世の記憶がある程度では役に立たないのだ。

 ただ一つこれは役に立った事と言えば、前世の記憶を思い出したことによる精神年齢バフのお陰で、現実で起きる辛い事を楽々と乗り越えることができることだろうか。

 これが割と洒落にならないぐらい役に立っている。

 

 また、この世界の1部の技術水準は太陽(以下略)の作中の前半ぐらいと類似している――というか、作中の世界は魔法と人間以外の種族を排除している事を除けば、ほぼリアルと同じである。

 したがって、該当書籍を参考にこのまま順調に時が流れれば、技術進歩により楽な生活ができるという希望があるのだ。

 もしかすると、魔法があるお陰でさらに技術進歩が早まるかもしれない。

 破滅的な威力を持つ兵器の登場により大国同士の直接対決は減り、経済の発展により娯楽が多様化し、電脳空間で人々が繋がって意見を交換することができる――そんな時代がやってくる。

 だから、その時代が来るまで頑張って生きてみよう。

 今は辛い時代だから、耐えればなんとかなると、その一心で今日まで生きてきたのである。

 

 

ピー!

 

 

 刹那、全員の腕が止まる。

 全員集合を合図する笛の音だった。

 

 

「作業中断!厩舎前集合!急げ!」

 

 

 砂浜と陸地の間に走る崖の上に、捕虜を監督する兵の中で最も偉い士官が立っており、俺らに向って声を張り上げる。

 捕虜も監視の兵も、全員がむしゃらに坂を登って、指定された集合場所へ駆け出す。

 

 

「一列縦隊で並べぇ!早くしろ殺すぞ!!」

 

 

 怒声が飛び交う中、捕虜仲間が足を挫き、既に体力的に限界だったのかその場から立ち上がろうとしない。

 有無を言わさずに俺は彼女の肩を持ち、共に歩みを進めた。

 

 

「ごめん、ありがとう……」

 

 

「いいってことよ」

 

 

 列を整頓しているときに、肩を持った捕虜仲間と小声で端的に会話をする。

 このような全員が切羽詰まった状態では、いかに助け合い、共に苦難を乗り越えるかが生死を左右するのだ。

 

 

「よし、そのまま待機」

 

 

 列を成した俺らを前に、集合を指示した士官は待機を指示すると、軽く飛翔して視界から消えてしまう。

 いつまで耐えればよいのだろうか、と考えが過る。

 もしかすると、このままずっと待機させる嫌がらせをしているのではないか?と、最悪な想定が浮かんでくる。

 

 しかし、そのような杞憂に反して、士官はすぐに戻ってきた。

  

 

「ルイルブション・ビーチ地雷除去班30名、全員集合しています」

 

 

 と、士官は珍しく敬語を使い、俺らの斜め後方にいる人物に話しかける。

 その相手は草を踏みしめる足音と共に、俺の視界に現れた。

 

 それは、悪魔族の女性将校だった。

 

 漆黒の軍服は皺一つなく整えられ、階級章には高級将校であることを示す三つの五芒星と金・銀・紅色がその意匠を大胆に主張している。

 長い銀髪は後ろで一つに束ねられ、頭部から耳元にかけて渦を巻くように二本の黒光りする角が生えていた。

 角と角の間に挟むように被る規格帽は、通常のものと同じく赤色の五芒星を模った円形章に加え、角生え羊の頭蓋骨の帽章が付いている将官仕様だ。

 そして、背には、監督する兵達とは違って膜のない翼が生えているのであった。

 

 絵画から抜け出してきたような美しい女性であったが、その美貌に見惚れる余裕を持つ者は、この場には誰一人としていない。

 

 なぜなら、彼女が現れた瞬間、監督兵たちの態度が一変したからだ。

 

 

「名誉大佐殿に~っ、敬礼!」

 

 

 士官の号令と共に、兵士たちが一斉に右手を上げる。

 俺たち捕虜も、反射的に背筋を伸ばして敬礼をする。

 

 女性将校は軽く答礼すると、列の前まで歩いてきた。

 革靴が草を踏み締める音だけが静かに響く。

 

 そして。

 

 彼女は俺たちを見た。

 目を右から左へ、瞬きして、左から右へ動かす。

 

 ただ、それだけだった。

 怒鳴りもしない。

 罵倒もしない。

 殴りもしない。

 

 それなのに――

 

 背筋に冷たいものが走る。

 

 フッと軽くため息を吐くと、女性将校は前へ歩み、列の一番端の捕虜仲間の前に立った。

 ギリギリ視界に入るか入らないかの境界にいるため何が起きてるのかあまりよくは見えないのだが、どうやら一人一人の前に立って、観察しているようだった。

 

 いやー怖いなーと気が滅入っていると、遂に俺の前に女性将校が立った。

 まるでステンドグラスのような赤い色彩の眼が鋭く睨みを利かせる。

 上から下へ、そして下から上へ、俺の身体をじっくりと舐めまわすように見つめるもんなので、緊張しすぎるあまり思わずギュッと喉を鳴らしてしまう。

 するとその瞬間、女性将校は俺の肩を掴み、まるで遊具の様に俺の身体を回して背中を向けさせた。

 ええええ!?他の人にはこういうことしてなかったのに!?お、俺どうなっちゃうの!?と、ここまでと同様に直ぐに別の人に行くと思っていたため、予想外なこの展開に気が動転してしまう。

 背面を十分に見たのか、また肩を掴んで元の正面に向けさせると、今度は俺の顎を片手で掴み、頬をムニムニと揉みつつ右に左に顔を動かし始める。

 ここまで念入りに俺を見るのだから間違いなく何らかの考えがあってのことなのだろうが、いかんせん初登場から一切表情を崩さないため、何を考えているのが分からない。

 率直に言うと、かなり恐怖を感じた。

 目利きされる商品の気持ちってこんな感じなんだね~とでも茶化さなければ、気を保てないほどに。

 

 頬を揉んだり耳を優しくつねったり手を握ったりしてようやく満足したのか、将校は俺の隣にいる捕虜仲間の前に移動する。

 次の観察対象?に対しては俺程熱心には見ず、正面をざっと見ただけで隣に動いた。

 結局のところ、なんで俺だけあんなにも熱心に見られたんだろう?と、疑問に対する答えを悶々と考えていると、士官の「気を付け!」という声が耳をつんざく。

 

 士官の怒号に、全員の背筋が反射的に伸びる。

 女性将校は列を一目できる位置へ戻ると、しばし沈黙した。

 風が吹き、草が擦れる音だけが耳に入る。

 

 

「……そこの、片目を包帯で覆っている女の子にしたい」

 

 

 刹那、周囲の音が全て遮断される。

 呼吸が止まり、視界がモザイク状にぼやけた。

 

 誰のことを言っているのか理解するまで数秒を要し、理解した時には、目の前に将校が立っていた。

 

 念入りに確認していた時と同じ顔つき、その表情のまま俺の左手を持ち、列から引き離す。

 俺は特に抵抗することなく、思考を停止したまま彼女の意のまま連れていかれた。

 

 

「作業再開だ!戻れ!」

 

 

 後方から耳をつんざく士官の怒声で、ようやく思考がクリアになった。

 

 

「……あ、あの!」

 

 

 気付けば、俺は声を上げていた。

 だが、俺の手を引く力は変わらない。

 もしかすると、人間の鳴き声に耳を傾けるまでもないという考えなのかもしれない。

 あるいは、それは考えすぎで、潮風や地雷原へ向かう慌ただしい足音にかき消されてしまったのかもしれない。

 

 いずれにせよ、今の俺に取れる選択肢は、このまま彼女の意のまま連れていかれる他にない。

 できることと言えば、これ以上不幸な事が起こらないように祈ることぐらいであった。

 

 稜線を下り、土で固められた道を歩いていると、やがて舗装道との合流地点までやってくる。

 そこには、1台のクラシカルで角ばったフォルムが特徴的な車が止まっていた。

 

 

「おーい、終わったぞー」

 

 

 彼女は気だるそうに車に向って声を上げる。

 すると、運転席側の扉が勢いよく開かれ、軍服を着て頭に真っ直ぐな角を生やしている女性が中から飛び出できた。

 勢いそのまま後部座席の扉を開けると、まるでホテルマンのような仕草をする。

 

 

「えっと、自分も乗るんですか」

 

 

「なに言う。そうだろう」

 

 

 彼女はニヤリと笑みを浮かべてそう言った。

 

 人間味を感じたとでも言おうか。

 大変失礼な話ではあるが、笑う事ができるという事を初めて知り、安堵した。

 

 将校が先に車に入ると、「よいしょ」と漏らしつつ奥の方の席に座る。

 必然的に俺は手前の席に座った。

 

 俺らが席についた事を確認すると、恐らく将校の副官的ポジションなのであろう女性は駆け足で運転席に戻り、諸々の動作の後車を発進させる。

 

 車は舗装された道路を滑るように走っていた。

 窓の外では、寝床代わりの厩舎や草臥れたサイロが少しずつ遠ざかっていく。

 俺はそれをぼんやりと眺めていた。

 

 正直、現実感がなかった。

 今朝まで地雷を掘り返していたはずなのに、気付けば、運転手が付く高級将校の車の後部座席に座っている。

 

 人生とは何が起きるか分からない。

 ただ、俺の場合は大抵ロクでもない方向に転がる。

 だから期待はしない。

 どうせ臓器でも抜かれるのだろう。

 あるいは人体実験だ。

 それとも軍上層部の変態的な趣味か。

 考えれば考えるほど碌な予想しか出てこない。

 

 

「……」

 

 

 隣に座る将校は黙ったままだった。

 先程から窓の外を眺めている。

 何か考え事をしているようにも見えた。

 

 沈黙が重い。

 耐え切れなくなった俺は、意を決して口を開いた。

 

 

「その……」

 

 

「うむ?」

 

 

「自分は、どこへ連れて行かれるのでしょうか」

 

 

 将校は視線だけこちらへ向けた。

 

 

「学園だ」

 

 

「……はい?」

 

 

「悪魔帝国中央女学院」

 

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 

 学園?

 

 誰が?

 

 俺が?

 

 

「え?っと、それは……?」

 

 

「我が国の上流階級の娘が通う、幼年から大学生まで一貫の女学院だ」

 

 

「いや、あの、自分、人間なんですが」

 

 

「問題ない」

 

 

「捕虜なんですが」

 

 

「それも問題ない」

 

 

 微妙に会話にならない。

 すると将校は少しだけ考える素振りを見せた。

 

 

「適任だったから、とでも言おうか」

 

 

「……え?」

 

 

 あまりにも予想外……だが、少し考えてみれば、それ以外にありえない当然の答えであった。

 

 

「じきに理解するだろう、なぜ君が選ばれたかという事を。……っと、そうだな、まずは軽く自己紹介でもしようか。私の名前は、リフレン・クオンシュキー・ギム・ナムレ。階級は陸軍名誉大佐、つまり予備役だな。現場からは退いて、今は学園で教鞭を握っている。これからよろしく」

 

 

 と言うと、彼女は柔らかい笑みを浮かべて手を差し伸べる。

 恐る恐る彼女の手を取って握手をすると、「ちなみに、私は少し先の出来事を視ることができるんだ。あまり当たらないけどねぇ」と、自嘲気味に話した。

 なるほど、通りで会話に絶妙な違和感があった訳だ。

 未来予知できるせいで、先回りして解決してしまう性なのだろう。

 

 

「で、今この車を運転している彼女の名前はフランシッスキーニ・カールコマ・ギム・ショクア少尉。私の副官である」

 

 

 大佐殿は彼女に代わって紹介すると、当の本人はミラーに対してコクリと頭を下げた。

 二人の自己紹介が終わった今、自分の番が回ってきた。

 一呼吸おいてから、俺は言葉を紡ぎ始める。

 

 

「私の名前は、イリアス・チューリタと言います」

 

 

 と言ったところで、突然言葉が詰まる。

 まるで異物が挟まった風車のように、突然思考がロックされ、言葉が全く思い浮かばなくなってしまったのだ。

 名前を明かしたら、次は何を話せばよいのだろうか?

 それを考えると、ペンを一本持ち目を瞑り色紙に書き散らかすように思考がまとまらないのだ。

 

 

「ほほーなるほど、君の名前はイリアスと言うのだな!改めてこれからよろしく、イリアス一等兵!」

 

 

 彼女に手を再度握手されて、ようやく思考がクリアになる。

 笑みを浮かべる彼女に対して、言葉を紡ぐ機を逸した俺には、何とも歯切れの悪い返答しかできなかった。

 

 

「さてとイリアス君、君はこれより悪魔帝国中央女学院に行き、そこで君と同年代の生徒たちと過ごしてもらう。上流の社会で過ごしてきた学生たちに、君のような過酷な人生を送り、なおかつ偏見の対象となる者と共に過ごすことで、学生の精神面での成長を促すのだ」

 

 

 かなり正直な物言いに、俺は怖気づいた。

 結局のところ、彼女がどれほど優しい姿勢を見せたところで、俺は彼女らの同胞の成長のために利用される道具であるという事には変わりないのだろう。

 それはそれとして、良い生活ができるのなら、別にそれでもいい。

 

 

「……はい、わかりました。ちなみに、それはいつまで続くのですか?それが終わった後、自分はどうなるのですか?」

 

 

「んー、できれば彼女らが卒業するまで一緒にいてもらいたいけども、それは教育を監督する上層部の判断しだいかな。あそこに引っ張るぐらいだから、用が無くなっても道端に捨てることはないと私は思うし、そうはさせない」

 

 

「そうですか。ちなみに、なぜ私が選ばれたのでしょうか。あの時の様子を鑑みるに、大佐殿が選んだように思えたのですが……」

 

 

「なぜ君を選んだか、か」

 

 

 彼女は少しだけ窓の外へ目を向けた。

 

 

「理由はいくつかある。まず、君は生き残った」

 

 

「……それだけですか?」

 

 

「それだけで十分」

 

 

 リフレンは肩を竦める。

 

 

「同じ地雷原に送られた子供たちの中で、既に半数近くが死んだ。病気や事故も含めればもっと多い。そんな環境で一年以上生き延びたのだ。運も実力のうちだろう」

 

 

「……」

 

 

「それにね」

 

 

 彼女はそこで少しだけ笑った。

 

 

「君は他人を見捨てない」

 

 

「え?」

 

 

「さっき足を挫いた子を支えていただろう。ああいう状況では、自分だけ生き残ろうとする者が大半だ」

 

 

「そんなの、当たり前じゃないですか」

 

 

「そう。当たり前なのだ」

 

 

 リフレンは静かに頷いた。

 

 

「だから困っている」

 

 

「……?」

 

 

「私の教え子たちは皆優秀だ。しかし、優秀であることと、他者を理解できることは別問題でね」

 

 

 彼女は指で窓ガラスを軽く叩く。

 

 

「彼女たちは人間を知らない。教科書でしか知らない。君達もまた、銃後の悪魔を知らない」

 

 

「……」

 

 

「だから君を選んだのだ。未来が少しだけ、面白そうだったのでね」

 

 

 リフレンはそう言って、どこか楽しそうに笑った。




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