少女兵、人外お嬢様学校にぶち込まれる   作:軍事・思想教育総監

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プロットは完成しているものの、いざ文章にすると文字量がいよいよヤバいことになりそうだったので、モチベーションが維持できるうちに投稿しておきます。
たぶん次の話で2話の全体が終わると思います。

タイトルにもあるお嬢様たちと本格的に関わり始めるのは3話以降になりそうです。本当に申し訳ありません。
早く絡ますべきことは理解しているのですが、たった数行で終わらせてしまうには惜しい描写が多いのです。

あと、今回は少し踏み込んだ百合描写を入れてありますので、一応注意喚起しておきます。


02:少女兵、人外お嬢様学校にぶち込まれる【中】

「なんか、すごく早く授業が終わりましたね」

 

 

 教室棟を出て、石畳の通路を歩きながら、横を歩くリフレンに俺は尋ねた。

 

 質問会が終わるや否や授業そのものが終了してしまったため、恐らく10分も授業をしていないだろう。

 流石に短すぎる。

 

 そんな問いを聞いたリフレンは、腕を組んだまま小さく頷いた。

 

 

「……理由は2つある。まず一つ、単純に軍事・思想教育自体が少なくなったから。もう一つ、それは、君について考える時間を設けるためだ」

 

 

「私について、ですか?」

 

 

「ああ、いかにも」

 

 

 彼女は前を向いたまま続ける。

 

 

「きっと今頃、生徒達は君について話しているだろう。例えば、君とどう接するか、人間に対する価値観をどうする……とか。彼女らにも、受け入れるための心の準備が必要なのだ」

 

 

 その言葉を聞き、少しだけ肩の力が抜けた。

 

 正直なところ、俺はもっと露骨に嫌われるものだと思っていた。

 それこそ、物でも投げられるかと思った。

 

 だが実際には違った。

 

 驚かれはした。

 困惑もされた。

 だが少なくとも、教室にいた誰一人として石を投げてはこなかった。

 

 

「さてと、これからの行動について指示を行う。まずはイリアス君、君は私と共に行動すること。フランシス、君はイリアス君の教科書類と採寸道具を受領してくるように」

 

 

「はい!」

 

 

 少尉は背筋を伸ばして敬礼すると、そのまま駆け足で別方向へ去っていった。

 

 残された俺とリフレンは、学園の敷地内をゆっくり歩く。

 陽光は心地よい暖かさで、芝生の匂いが風に混じっていた。

 遠くでは掛け声とともに集団で走る音が聞こえ、どこかの窓から漏れた楽器の音色が耳に入ってくる。

 久しぶりに聞く音だった。

 

 

「あの建物が教員向けの寮、私はあそこに住んでいる」

 

 

 彼女が指差した先には、校舎に負けず劣らず立派な建物が建っていた。

 

 白い石造りの外壁に、整えられた花壇。

 全ての部屋には広々としたバルコニーが設けられており、花壇やガーデンテーブル・チェアがゆとりをもって置いてあった。

 もはや高級ホテルだ。

 

 

「先生って、あんなにも良いところに住めるんですか」

 

 

「まあね、あそこは学園内居住希望者が住むところで、全員が全員あそこにいるわけでは無いな」

 

 

 と、本人はさらりと言う。

 

 建物に入り、階段を2階分登る。

 

 

「土足厳禁だから、靴を脱いで上がっておくれ」

 

 

 玄関を潜った瞬間、思わず足を止めた。

 

 天井の高さは、確かに寮のそれだった。

 だが、床は磨き上げられ、壁には絵画が飾られている。

 家具も充実しており、その一つ一つが職人の手のかかった高級感を醸し出してた。

 所見の人に「別荘ですか?それとも寮ですか?」とクイズを出しても、事前知識が無ければほぼほぼ別荘と答えるだろう――そう思えるほどの、充実具合だった。

 

 確かに、軍靴で踏んで良い場所には到底思えない。

 こんなみずぼらしい少女兵が居ていい場所にも思えなかった。

 

 恐る恐る靴を脱ぐ。

 すると内側に入り込んでいた砂がさらさらと床へ落ちてしまう。

 

 俺は急いで砂を集めようとした。

 

 

「気にしなくていい、後で掃除すれば済む話だ」

 

 

 しかしリフレンは笑って制した。

 

 

「まずは風呂に入ってもらう。ついてきてくれ」

 

 

 と言われたため、もちろんついていく。

 脱衣所と浴室は分かれており、凝った造りの鏡枠に大理石を用いた流しの洗面台は、まさにホテルでありそうな豪華さをもの静かに主張していた。

 人生で最も豊かな脱衣所に見惚れていると、おもむろにリフレンが上着を脱ぎ始め、それは下着に到達する。

 

 

「え?ちょっと待ってください!ま、まさか、一緒に風呂に入るんですか!?」

 

 

 思わず声が裏返った。

 ……いや、リフレンが先に風呂に入って、後から俺が入るという事なのかもしれない……そうであれ!

 

 

「うむ、いかにも」

 

 

 リフレンは首を傾げる。

 まるで何がおかしいのか分からないという顔だったし、なによりもそう言いながら着々と服を脱ぎ進めている。

 

 

「体を洗うぐらい、自分一人でもできますよ」

 

 

「……一緒に体を清めるのに理由なんて必要か?」

 

 

 真顔だった。

 この悪魔、本気で言っている。

 

 

「まあ真面目な話、君の身体の状況を把握しておきたいからだ」

 

 

「……それなら、私だけが脱げばいいのでは?」

 

 

「いやいや、裸の付き合いとかいうじゃないか。これから長い時間共に過ごすのだから、お互いに身を清め合うことにより、心理的・物理的な障壁を無くすことは十分に合理的な行動である」

 

 

 いや、そうなのか?そうなのかもしれない。

 未来が見える軍人であり教師でもある人物が言うのだから、何か理屈があるのだろう。

 

 ……本当に?出会った初日に洗いっこするのが?

 

 魔族ではそういうものなのだろうか。

 文化の違いというやつかもしれない。

 

 とにかく自分を納得させ、彼女と反対の方向を向いて服を脱ぎ始める。

 

 布が剥がれるたびに、身体のあちこちがひりついた。

 乾いた汗や泥だけではない。

 傷跡も多い。

 

 古い切り傷。

 火傷の痕。

 砕けた地雷片による裂傷。

 

 どれも、戦争が無ければなかったものだ。

 

 脱いだ衣服を一か所にまとめていると、その内の一枚を突然リフレンが取り上げ、それを凝視しつつ首を傾げる。

 

 

「このサラシ、ゲートルじゃないか?」

 

 

 ゲートルとは、足首に巻く包帯のようなものだ。

 足の疲労を和らげる効果があったり、負傷した際には包帯代わりに使うことがある。

 

 

「はい。捕虜になった時に取られてしまいまして……それ以来、ゲートルで代用してきました」

 

 

 そう言うと、彼女は少しだけ黙った。

 

 

「なるほど、そうかー……」

 

 

 先ほどまでの軽い調子ではなく、どこか沈んだ声だった。

 察してくれたのだろうか。

 

 

「頑張ってたんだねぇ、それこそ死に物狂いで」

 

 

 ゲートルから俺に目線を移すと、彼女はぽつりとそう呟く。

 その言葉に返事はできなかった。

 頑張ったというより、生き残るしかなかっただけだからだ。

 

 

「ん」

 

 

 不意に頭へ手が伸びてくる。

 大きくて温かい手だった。

 

 

「肌も髪もボロボロ……」

 

 

 指先が髪を梳く。

 優しい手つきだった。

 胸の奥が妙に落ち着かない。

 

 

「でも大丈夫、私が使うシャンプーやリンスは体に良いものだからな」

 

 

 そう言って彼女は少し得意げに笑った。

 まるでお気に入りの品を自慢する子供のような顔だった。

 

 浴室に二人して入ると、まずはリフレンがシャワーを用いて俺の身体を熱い湯で流した。

 

 

「はい、これがシャンプー」

 

 

 後ろから容器を差しだされ、それを受け取った俺は1プッシュ分だけ受け取って、後ろに戻す。

 もちろん自分の手で髪を洗うが、後ろにいるリフレンも俺の頭をゴシゴシと洗う。

 

 髪の次は体だ。

 ボディタオルに花系のいい匂いがするソープを沁み込ませ、前面は俺、背面はリフレンという体制で念入りに磨いていく。

 

 

「いいねえ、汚れがどんどん落ちていくよ」

 

 

 と言いながら、彼女は俺の横腹や脇をゴシゴシと洗う。

 一通り泡まみれになると、シャワーを掛けられ全て流された。

 

 俺が終われば、今度はリフレンの番となる。

 先程まで俺に行われたのと同様の工程を、リフレンに行うのだ。

 

 そこで一つ問題が起きた。

 それは、翼である。

 俺のような人間には翼なんてついてないので、こういうデリケートな場でどのように扱えばいいのか分からなかったのである。

 

 

「あのっ、すみません。翼は一緒に洗っても大丈夫ですか」

 

 

「頼む」

 

 

 と言うと、彼女は先別れする枝のような翼をM字に広げる。

 俺は立ち上がり、ボディタオルを念入りに擦り付けた。

 剣先のような先端から、腰元の付け根まで、洗い残しが無いように丁寧に汚れを落としていった。

 

 

「やっぱり風呂は良いねぇ。心も体も清める」

 

 

 湯気の向こうで、リフレンが満足そうに呟く。

 

 確かに、と思う自分がいた。

 

 少なくとも今この瞬間だけは、地雷原も、捕虜収容所も、戦争も、少しだけ遠い場所の出来事に思えた。

 

 

 

――

 

 

――

 

 

 

「髪を乾かすから、そこの椅子に座ってくれ」

 

 

 彼女の下着と運動着を譲り受けてそれらを着込んでいると、洗面台前に置いてある椅子に座るよう促される。

 何をするのだろうかと訝しながら椅子に座る傍ら、上機嫌な様子のリフレンは、棚の上から奇妙な機械を取り出した。

 

 片手で持てるほどの大きさで、先端には筒状の口が付いている。

 間違いなく武器ではないのだが、見たこともない。

 

 

「これはドライヤーといってな、風を送る機械だ」

 

 

「風を?」

 

 

「うむ」

 

 

 そう言うなり、機械が低い唸り声を上げた。

 次の瞬間。

 暖かい風が後頭部に直撃する。

 

 

「うわっ」

 

 

 思わず後ろを振り返った。

 だが、リフレンは気にした様子もなく、髪へ手を入れながら風を当て続ける。

 

 

「便利だろう?魔法よりも」

 

 

「便利というか……文明を感じます」

 

 

「なんだその感想は」

 

 

 彼女は笑った。

 柔らかな風が濡れた髪を揺らす。

 

 指先が時折頭皮に触れる。

 

 妙に落ち着かない。

 

 だが嫌ではなかった。

 

 こんなふうに誰かに世話を焼かれること自体、何年ぶりなのか分からない。

 その時だった。

 

 

 ぐぅぅぅぅぅ……

 

 

 ドライヤーの轟音を貫通する間抜けな音が脱衣所に響く。

 

 

「……まあ確かに、腹が空くよなぁ……。そうだ、バルコニーに行ってくれないか」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 リフレンは苦笑しながら立ち上がると、俺よりも早く歩いて台所横の戸棚に向った。

 物をかき分ける音が数刻聞こえてきた後、彼女は銀色の盆を持って向かってくる。

 

 ガラスコップに泡立つ水色の液体。

 そして、小さな茶色い塊が銀色の盆の上に乗っかっている。

 

 

「チョコレートとサイダーを召し上がれ」

 

 

 目の前へ差し出される。

 その瞬間、二つの異なる甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 

 ふと、目の前にいる彼女に目を向ける。

 

 両手で頬杖をつていて、口元は笑っているのに、どこか様子がおかしい。

 

 細められた瞳がじっとこちらを観察していた。

 まるで実験結果を待つ研究者か、あるいは獲物の反応を窺う捕食者か。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 嫌な予感しかしない。

 

 

「大丈夫だよ、遠慮せずお食べ」

 

 

 その言葉に促されるように、皿の上に綺麗に砕かれた板型チョコレートを一つ摘まむ。

 

 恐る恐る口へ入れる。

 

 甘い。

 

 脳が停止した。

 

 甘い。

 

 とにかく甘い。

 

 舌の上で溶ける。

 

 砂糖の味がする。

 

 甘い。

 

 

「どうだね?」

 

 

 期待に満ちた声。

 

 

「おいしいです」

 

 

 それしか言葉が出なかった。

 

 

「そうだろう、そうだろう」

 

 

 なぜか得意げだった。

 

 そのままサイダーへ口を付ける。

 雪のような冷たさと炭酸の弾ける感覚が口内で化学反応を起こし、ありのまま脳に伝わったそれは、ハンマーで叩いたような衝撃をもたらした。

 

 いつ以来だろう。

 こんなものを口にしたのは。

 思い出そうとしても思い出せない。

 

 

「もうそろそろだな」

 

 

 全部食べ終える頃、腕時計を見ながら、彼女は含みのある言い方でそう呟く。

 その時、ノックの音が響いた。

 

 

「フランシッスキーニ少尉、入ります!」

 

 

「入れ!」

 

 

 扉が開くそこには、紙束や箱を抱えた少尉がいた。

 持ち物を傍らに置き、腰を下ろして靴を脱ぐと、もう一度荷物を持ってバルコニーにいる俺らの元へ歩いて来る。

 

 そして風呂上がりの俺を見るなり、一瞬だけ目を丸くする。

 

 

「おお」

 

 

「どうしました?」

 

 

「いえ、だいぶ印象が変わったなと」

 

 

 風呂に入っただけで、そんなに変わるものだろうか。

 

 

「よし、イリアス君。ただいまより君の寸法を測るから、立っておくれ」

 

 

 リフレンに言われ、椅子から立ち上がると、少尉が手慣れた様子で採寸用の紐を取り出した。

 

 肩。

 

 腕。

 

 胸囲。

 

 腰。

 

 脚。

 

 次々と数字が記録されていく。

 

 

「いやー、細いですねー」

 

 

 少尉が思わず呟いた。

 少し恥ずかしい。

 だが否定もできない。

 

 

「栄養が足りてないんだ。ここで過ごせば、じきに適正な体形を取り戻すだろう」

 

 

 リフレンは当然のように言った。

 まるで既にそうなる未来を知っているかのように。

 

 やがて採寸が終わる。

 

 

「よし、完了。それではフランシス、私はイリアスと共に学園を巡るから、彼女の制服の受領を頼むぞ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 少尉は軽く頭を下げると、再び部屋を後にした。

 

 

「ではイリアス君、行こうか」

 

 

 立ち上がるリフレンに続いて階段を下りる。

 入ってきた時とは違う玄関を潜ると、そこには10数台分の駐車場があり、高級車から軍用ジープまで、様々な車が空きなく停まっていた。

 

 

「えーっと、これだ。これに乗るぞ」

 

 

 そう言って彼女が指さした先にあるのは、オープン仕様の軍用ジープだ。

 悪魔帝国軍で広く使われているタイプのもので、俺のとっては良くも悪くもなじみ深い車だった。

 

 

「さっきの車ではないのですね」

 

 

 思わず尋ねる。

 

 

「こっちの方が小回りが利くからな。それに、花々の香りを感じながら風に当てられるのも悪くはないだろう?」

 

 

 そう言って彼女は運転席へ腰を下ろした。

 

 確かにそうだ。

 火薬の臭いよりは、ずっと良い。

 そう思いながら、俺も助手席へ乗り込んだ。




ここまで読んでくれてありがとうございました。
モチベーションの回復に直結するので、高評価、お気に入り、感想お願いします!
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