FOX小隊が百鬼夜行で用心棒をするお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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2話 お祭り運営委員会との出会い

オトギが洗濯物を作戦室へと回収し終えた後、4人はそれぞれの武装と身の回り品を大きなスポーツバッグに詰め込み、百鬼夜行へと足を運んだ。百夜堂があるという自治区に小隊が到着したのは正午を回った頃。夏の一日の中でも特に暑い時間帯だ。20kgを優に超える重装備が詰まったバッグを背負って来た事もあって、百夜堂の前に到着した時には、4人は着用しているセーラー服を汗でぐっしょりと濡らしていた。

 

「いや、暑すぎ…。てか、この湿度何…?百鬼夜行ってこんなにジメジメしてるの…?」

 

「本日臨時休業」と書かれたガラス戸の前で、背負っていたスポーツバッグを地面に降ろしながら、オトギは大きく息を吐いた。

 

「百鬼夜行の夏は高温多湿とは聞いてたけど、ここまで暑いのは予想外だったね…」

 

暑さに強いニコも、纏わりつくような熱い湿度を伴ったこの気温は流石に堪えるようで、先程トレーニングをしていた時とはまた違う汗を流していた。

 

「ねぇユキノ、予定時刻までまだ時間あるんだし、さっきのお茶屋さんで休憩しない…?」

 

疲れた顔でそう提案したクルミに、ユキノは冷たい視線を投げる。「お前は一体何を言っているんだ」と言わんばかりの視線に、クルミは力無くため息を吐く。

 

「分かったわよユキ…じゃなくてFOX1…。だけどせめて、聞き取りに行く前にシャワーだけも借りない?こんなに汗だくじゃ、情報収集に支障をきたすわ」

 

「FOX3の言う通り~。こんなに汗臭くちゃ収集に付き合ってくれる人達に失礼だよ~?」

 

「…それも、そうだな。シズコさん達に頼んでみる」

 

作戦中にもかかわらずだらけた態度を隠そうともしない仲間達にやや閉口しながらも、ユキノはその提案を受け入れた。

 

「ごめん下さい」

 

ガラス戸の前に立ったユキノはそう告げると共に、戸を軽くノックした。直後、「は~い!」という、やや上ずった声が響き、扉越しに見える薄暗い厨房からシズコが飛び出して来た。

 

「はーい、キツネの皆さんこんにちわ~!百夜堂のキュートな看板娘、河和シズコです!これからよろしくお願いしますね!にゃんにゃんっ!」

 

ガラス戸を開けるや否や、シズコは聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいの猫なで声で4人に挨拶をした。

 

(ふっふっふっ…!先生の話だと、今回の用心棒のリーダーさんは少し堅苦しい方だとか…!ですが心配には及びません!どんな堅物さんであろうとも、キュートな私の立ち振る舞いを見ればあっという間に…!)

 

小隊のことを先生から事前に聞いていたシズコは、堅物だというユキノと打ち解ける為、中々に攻めた作戦に出たようだ。しかし

 

「……」

 

ユキノは汗ばんだ顔を強張らせ、まるで妖怪の類を見たかのような表情でシズコを凝視する。残念ながら百戦錬磨の特殊部隊の堅物リーダーに、アイドルのような看板娘の立ち振る舞いに対して自分のテンションを合わせられるスキルは、備わってはいなかった。

 

「あ、はは…えっと…び、びっくりさせちゃったかな~、にゃん…?」

 

完全に予想外のリアクションをされたシズコはあろうことか、絶句するユキノに更なる追撃をぶち込んでしまった。ユキノの眉間に、更に深い皺が刻まれる。

 

「……」

 

「……」

 

困惑するユキノに気圧され、シズコも引き攣った表情で固まってしまった。蒸し暑い通りの一角に、そこだけ真冬を思わせるような、気まず過ぎる雰囲気が漂い始める。

 

「えっと…」

 

「待ってニコ…!面白いからこのまま放っとこう…!」

 

助け舟を出そうとしたニコを、今にも吹き出しそうなオトギが止める。

 

「あの…、シャワーを、借して頂きたいのですが…」

 

沈黙を破ったのは、シズコの歓迎を一切合切スルーした、絞り出すようにして出したユキノの小さな声だった。

 

「エ、ア、ハイ、ワカリマシタシャワーデスネ…ヨウイシテアリマスヨ…」

 

その一言で完全に意気消沈してしまったシズコは、出来損ないのロボットのような口調で、4人を店の中に案内したのだった。

 

 

 

「あ~面白かった!さっきの動画に撮っとけば良かった!」

 

「あんなに困ってるユキノを見るのは初めてだったわ!」

 

「いくら言葉が見つからないからって流石にあれは無いよユキノ…」

 

シャワーを浴び終えた小隊の面々は、クーラーがよく効いた食堂に置かれたテーブルの一つに腰を下ろし、シズコ達を前にしてすっかり小さくなっているユキノをこれでもかとイジり倒していた。

 

「身の程を弁えないことをしてしまい大変申し訳ありませんでした…」

 

対するシズコも初めての経験でショックを受けたのか、自分の前に座るユキノに何度も頭を下げていた。

 

「い、いえ。謝るべきはこちらの方です、シズコさん。貴女の歓迎を私は無下にしてしまったのですから…」

 

「そうですよシズコさん!不器用な隊長で本当にごめんなさい」

 

ユキノに続き、にやけ顔を抑えきれていないクルミがそう言った。いつも仏頂面で何事にも動じないユキノがこんな些細なことでタジタジになっているのは、他の隊員にとっても珍しい光景らしい。

 

「ですがそんな不器用なところも『戦いに特化した用心棒』みたいな雰囲気がして素敵デス!フィーナもユキノさんのようなクールなカンロクを身に着けてみたいものデス!」

 

「フィーナちゃんが今ハマってるゲームの主人公もそんな感じだったよね?」

 

「ハイ!『ドラゴンが如き』の前作主人公、『道山の化け猫』こと『桐島晴馬』!彼もまた裏社会に数多くの伝説を残した最強の用心棒!言わずもガナ、フィーナの憧れの人デス!」

 

「あはは…まぁ、私達はあの人と違って堅気の人間だけどね~」

 

フィーナ達が言及したゲームを収監中に遊んだことがあるオトギは苦笑いを浮かべた。彼女達が堅気どころか仮釈放中の囚人であること、そして自治区内で発生した怪現象の調査任務を帯びていることは、作戦に支障をきたさないよう百夜堂の面々には秘匿されている。その為FOX小隊は「FOXガード」という、「シャーレから派遣された、選りすぐりのボディーガード集団」という仮の身分で百鬼夜行に訪れていた。

 

「はいはい二人共!これ以上ユキノさん達を困らせない!」

 

自分の知らないゲームの登場人物と比較されたことでまた表情を硬くしたユキノを見て、シズコはやや強引に話の腰を折ると、姿勢を正し、ユキノ達を真っすぐに見据えた。

 

「それでは改めて、私達お祭り運営委員会の用心棒を引き受けて下さり、本当にありがとうございます。今回の夏祭りはゲヘナ学園からもお客さんを招いて行われる大規模なもの。百鬼夜行の名誉と伝統の為にも、失敗は許されません。その為FOXガードの皆さんにはお祭りが終わるまでの間、私達及びこのお店を魑魅一座の襲撃から守って頂きたいのです。事前の説明にあった通り、報酬に加えてお仕事中の衣食住は全てこちらで用意しますので、皆さんは気兼ねなく仕事に集中して下さいね」

 

(あの幽霊について言及しない…?)

 

後輩達と共に頭を下げたシズコを見て、ニコは強い違和感を覚えた。

 

 

 

『それがね、今回の幽霊騒動について、百花繚乱調停委員会は一切の関与を行わないみたいなんだ。理由を聞いても「その詳細な理由をお伝えするか否かは現在委員会内で慎重な議論を重ねている最中です。大変申し訳ありませんが、ご理解の程よろしくお願いします」の一点張りで…』

 

 

 

先生のその言葉が、鮮明に蘇る。「自治区内の問題を何故学内の治安維持部隊が解決しないのか」その違和感を最後まで拭えなかったニコ達は出発の前に先生にそんな疑問を投げかけていた。そしてその返答が、これである。学内で発生した問題に対し、自分達の力だけでは対処不可能だと判断した組織がシャーレに助けを求めることはこれまで幾つもあったが、関与を一切行わないだけでなく、その解決をシャーレに全て委ねるというのは前代未聞だ。

 

(先生が私達に嘘を吐くとは思えない…でもそれだったら、実際に魑魅一座が攫われるところを目撃したシズコさん達が幽霊のことを話さないのは…)

 

「それでは皆さんのお部屋にご案内しますね。皆さんが生活するのは二階の一室になります。荷物は既に運び込んでいますので、どうぞこちらに~」

 

明るい調子を取り戻したシズコは、4人に二階に上がるよう促した。それに従い、ニコ達も椅子から立ち上がる。しかしそれと同時に、4人はシズコ達に気付かれないよう、小さくアイコンタクトを交わした。

 

(やっぱり、皆も変だと思ってる…)

 

仲間達の目を見たニコは直ぐにそう確信した。

 

「幽霊なんて非現実的なものから自分達を守ってくれなんて突拍子も無い事を言う訳が無いから」「シャーレから派遣されて来たボディーガードであっても、流石に幽霊を相手にするなんて出来る訳が無いと思っているから」理由は幾らでも思いつく。しかしそれでも、「自分の学校の治安維持部隊が関与しないと決定した超常的な存在」を目の前で見たシズコ達がそのことに一切言及しないということに、ニコは疑念をどんどん募らせていた。

 

 

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