FOX小隊が百鬼夜行で用心棒をするお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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5話 タヌキとキツネとムシクイーン

「とは言ったものの、私も人の事は言えないか…」

 

オトギとの通信を終えたクルミは苦笑いを浮かべて、先程買った抹茶シェイクのストローに口を付けた。

 

「冷たくて美味しい!皆には悪いけど、先生からお小遣いだって貰ったんだし、この位の贅沢は良いよね…」

 

最初こそ真面目に聞き込みをしようとしていたクルミだったが、街全体に広がる夏の浮かれた雰囲気に釣られ、結局は百夜堂に向っていた時に見つけたお茶屋さんに足を運んでいた。

 

シェイクを片手に、クルミは商店街をぶらぶら歩く。浴衣を身に付け、人混みの流れに合わせて意味も無く歩みを進めるその時間が、クルミにはとても新鮮に感じられた。

 

(私もSRTに入ってなかったら、友達と一緒にこんな風な時間を当たり前に過ごしてたのかな…なんて)

 

クルミは力無く笑った。

 

SRTの生徒として研鑽を積み、キヴォトス1の特殊部隊に選ばれ、危険な任務を幾つもこなし、そうかと思えば生徒会長の失踪と共に拠り所だったSRTが解体され、それを取り戻す為に仲間達と戻れない道に足を踏み入れ…

 

そんな学生生活がこのキヴォトスでも特異で波乱万丈なものであることは、良く理解しているつもりだった。だけど、こうして仮初の自由を手に入れたことで、クルミは「やっぱり自分は普通の青春からかけ離れた存在なんだ」ということを改めて痛感していた。

 

(もう考えるの止めよう…)

 

甘いシェイクにこれ以上雑味が混じらないよう、クルミはそれを頭から振り払う。その時

 

(…ん?あれ、なんのお店だろう?)

 

クルミは自分の少し先にある、ポップな看板がギラギラと存在感を放つ、古風な街並みにはおよそ似合わない店を見つけた。

 

(ホビーショップ…って言えば良いのかな?こういう場所にもこんなお店あるんだ…)

 

近寄ってみるとその店はアニメやマンガのグッズを多数揃える専門店だったようだ。人混みのせいで遠目では気付かなかったが、店の入口にはかまぼこ突風伝の主人公とそのライバルの等身大パネルが置かれている。

 

(…入って、みようかな)

 

勿論仕事のことを忘れた訳ではない。けれど現在進行形でかまぼこ突風伝にハマっていることもあり、クルミの足は自然と店内に吸い込まれていった。

 

店の中にはマンガの単行本やライトノベル、アニメのノベライズ作品に加え、フィギュアや缶バッジのような各種キャラグッズ、更には「ムシクイーン」のカードも多数揃っていた。どれもクルミにとって目新しいものばかりで、クルミは狭い陳列棚の間を何度もキョロキョロしていた。すると

 

(ねぇ、あの噂聞いた…?)

 

不意にそんな声が聞こえて来た。クルミは咄嗟に、目の前にあったカードのショーケースに張り付く。

 

(ちょっと止めてよ、縁起悪いじゃない…)

 

話し声はショーケースの向こう側から聞こえて来ていた。クルミはケースに並んだムシクイーンのカードを眺めるふりをして、盗み聞きを続ける。

 

(でも人さらいをする幽霊なんて聞いた事ある…?昔話に出てくる神隠しをする悪い神様みたいじゃん…私怖くって)

 

「オロチクワガタで守備表示中の黄金キングカブトを攻撃!黄金キングカブト、破壊!」

 

(そんなに心配しなくても大丈夫だよ、今回も百花繚乱が何とかしてくれるって。それにその幽霊も魑魅一座しか攫わないらしいじゃん?私達が狙われることなんて無いって)

 

「まだ終わらないよ、カエデ!ここでオロチクワガタの特殊効果発動!オロチクワガタを墓地に送って、そして自分のライフを1000削って、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚!いでよ、『かまぼこ螺旋オオカブト』!」

 

 

(でもやっぱり……)

 

「今カエデのフィールド魔法は自分のターンが終わる毎にライフポイントを1000削る『蚊取り線香の濃霧』!それに守備表示のモンスターもいないからかまぼこ螺旋オオカブトの攻撃力なら一撃で終わる!さぁカエデ、サレンダーするなら今のうちだよ!」

 

「そのセリフ、そのままお返しするよミチル。黄金キングカブトの特殊効果発動!このモンスターが破壊された時に自身のライフポイントが2000以下であった場合、手札から『トウモロコシ超銀河エンペラーカブト』をリリース無しで召喚できる!トウモロコシ超銀河エンペラーカブトを守備表示で特殊召喚!」

 

「ぼぼぼ防御力5000!?そんなの勝てる訳無いじゃん!?」

 

(それも分かるけどさ……今はお祭りを……)

 

「更に追加で魔法カード『センプウキ』を発動!自身のフィールド魔法のカテゴリが『霧』の場合、その効果を相手にも付与する!ミチルのライフポイントは残り1000、そして攻撃できるモンスターはかまぼこ螺旋オオカブトだけ。このまま攻撃をエンペラーカブトで防いで、ミチルは蚊取り線香の濃霧の効果で負けだよ!」

 

「うぅ…使えそうな魔法カードも無い…サレンダー…」

 

「はい、私の勝ち。これで5連勝だね」

 

(あぁもう、うるさいわね…!話聞こえないじゃない…!)

 

クルミは恨めしそうにショーケースから目を離し、盗み聞きを邪魔してくる声が響く店の奥を睨みつける。店の奥は複数の机と椅子が並べられた、カードゲームを遊べるフリースペースとなっており、そこで2人の生徒がムシクイーンらしきカードを囲んでワチャワチャ騒いでいた。

 

「あ~あ、これ以上ミチルとデュエルしててもつまんない!」

 

「ちょ、そんなにハッキリ言わなくてもいいでしょ…!?私だってムシクイーン初心者なんだし…」

 

退屈そうに伸びをしたカエデに、連戦連敗を喫したミチルは小さく肩を窄める。

 

「だからこそだよ!買う前に何度も言ったでしょ!?今回のかまぼこ突風伝コラボデッキは魔法カードとかモンスターの効果を上手く使って強いカードを特殊召喚するのがコンセプトなんだから、初心者じゃ使いこなせないよって!ミチル、切り札のかまぼこ螺旋オオカブトを出したいせいで自分のターン無駄遣いして結局私にやりたい放題されてるじゃん!そんなんじゃ勝負にならないよ!」

 

カードゲーム初心者に容赦ない言葉を投げかけるカエデ。自分より二つも下の後輩相手に一方的に言い負かされたミチルは、ケンカに負けた子供のような顔で

 

「仕方ないじゃん…このデッキが欲しかったんだから…」

 

と溢す。一方のカエデはそんなミチルの態度など我関せずと言った態度で

 

「あ~あ、他に相手してくれる人、いないかな~」

 

と、次なる対戦相手を探し始めた。落ち込むミチルに微塵の哀れみも示さない辺り、恐らく大好きなマンガとのコラボということで自分がムシクイーン初心者という事実を忘れて舞い上がったミチルを抑え込むのにそれなり以上の努力をしていたのだろう。

 

「あ!ねぇねぇそこにいるキツネ耳の人!」

 

店内を見回していたカエデはそこで、ショーケースをじっと眺めるクルミを見つけると、ミチルをその場に残して駆け寄った。

 

「え、私…!?」

 

盗み聞きを続けていたクルミは、突然目の前に現れた小さな女の子に目を丸くする。

 

「そう!ずっとショーケース見てるってことは、あなたもムシクイーンプレイヤーだよね!?だったら私と勝負しようよ!」

 

クルミは慌てて首を横に振った。

 

「い、いや違うわ!私、カードゲームなんて一回もやったこと無いし…」

 

「でもショーケース見てたってことはムシクイーンに興味あるってことだよね!?初心者なら何時でも誰でも大歓迎だよ!」

 

カエデはニコニコ顔でそう言うと、クルミの袖を掴んでテーブルへと引っ張っていく。

 

「ま、待って!私今忙しくて…」

 

「忙しい人がこんなトコにいる訳ないでしょ!一回お試しで私とデュエルしてみようよ!絶対楽しいから!!」

 

「う、それは…」

 

カエデのド正論に、クルミは何も反論できなかった。そして結局、クルミはカエデにされるがまま、ムシクイーンのルールを一通り説明された上で、ミチルのデッキを借りてカエデとテーブルを囲んでいた。

 

(もう、なんでこんなことになるのよ…!)

 

今度は自分が握る、カラフルな昆虫達が描かれた手札を睨む。あのショーケースは当然、盗み聞きに気付かれないようにする為の自然な立ち振る舞いであり、ムシクイーンなんて微塵の興味も無い。

 

(さっさと終わらせて仕事戻らなきゃ…)

 

「そしたら私が先行だね!ミチル、同じ初心者同士なんだからクルミさんのことしっかりサポートしてね!」

 

「え、えっと、よろしくお願いします…」

 

自分の背後でおずおずと頭を下げたミチルに、クルミはぶっきらぼうに頷いた。この店を出ればもう二度と会うことは無いであろう相手だ、無理に愛想良くする必要は無い。

 

「『ウマヅラカナブン』を守備表示で召喚してターンエンド!そしたら次はクルミさんのターンだよ!」

 

「あ、はい、分かりました…」

 

クルミはカエデに教えられた通り、最初に山札からカードを引く。

 

「えっと、使えそうな魔法カードと罠カードは無いから、そしたらモンスターを召喚します」

 

クルミは改めて手札を眺める。強引にやらされたとはいえ、何もせずにただ負けるのでは流石に失礼だ。変に怪しまれない為にも、クルミはひとまずこのデュエルに真面目に付き合うことにした。

 

(まずは弱くても数を揃えるべきね…さっき説明された特殊召喚とか、まだ良く分からないし)

 

「あ、クルミさん…!手札にかまぼこ螺旋オオカブトがあるよ…!バトルフィールドに出す為にここは…」

 

「そしたら『ブロンズテントウ』、『マッハスズメバチ』、『ポップコーンモスキート』、『フライドフライ』を召喚します」

 

クルミは耳打ちして来たミチルのアドバイスをガン無視し、手札にあった召喚可能なモンスターを全て場に出した。背後から「え、無視…!?」というミチルの声が聞こえたが、これも無視する。

 

「ふっふっふっ…!まずは弱いモンスターを出してフィールドを固める。初心者がやりがちな戦法だけど、予想通りの展開だね!」

 

カエデは自分の場に伏せていたカードを一枚めくる。

 

「罠カード、『切り株デスマッチ』発動!自分と相手はバトルフィールドにあるモンスターを一体選び、それ以外のモンスターを全て墓地に送る!私のフィールドにはウマヅラカナブンしかいないけど、クルミさんは3体墓地送りにしないといけないよ!」

 

「なっ、そんなのありなの…!?」

 

カエデが発動したカードの効果に、クルミはそこで初めて飄々とした態度を崩した。

 

「さぁさぁ、どうするのクルミさん!」

 

慌てたクルミを見て、カエデはニタニタと笑う。まさに「してやったり」と言った顔だ。

 

(な、なんかムカつくわ…!)

 

カエデの態度が癪に障ったクルミは、破壊するモンスターを選ぶ前に再度手札を見た。そしてクルミはその中に、使えそうなカードを1枚見つける。

 

「あ、あのミチルさん。さっきは無視してごめんなさい。このカードって今使えますよね…?」

 

クルミは背後でシュンとしているミチルに話しかけた。

 

「うぇっ…!?え、えっと………う、うん!その魔法カードなら使える…!」

 

ミチルは見せられたカードを覗き込むように見つめた後、小さく頷いた。

 

「ありがとうございます…!そしたらマッハスズメバチ以外のモンスターを破壊して…」

 

クルミはミチルに礼を言うと、3枚のモンスターを墓地に送り、手札から一枚のカードを取り出した。

 

「カウンター魔法カード『リベンジポイント』発動。破壊されたモンスター1体に付き、バトルフィールドに残ったモンスター1体の攻撃力をこのターンに限りプラス1000するわ。今破壊されたのは3体だから、マッハスズメバチの攻撃力は4000ね」

 

「え、嘘…」

 

カエデから、笑みが消えた。

 

「マッハスズメバチでウマヅラカナブンを攻撃!えっと、ウマヅラカナブンの防御力は2000だから、この場合はモンスターの破壊に加えて余剰分のダメージをライフポイントに与えるのよね?」

 

「……ふ、ふっふっふっ…!や、やるねクルミさん…!」

 

初心者のクルミからいきなり手痛い反撃を喰らったカエデは、震える手でウマヅラカナブンを墓地に置いた。

 

 

 

「ここで魔法カード『フィールドポイント』を発動よ!自分のフィールド魔法を墓地に置いて、かまぼこ螺旋オオカブトの攻撃力をプラス2000!攻撃力を強化した螺旋オオカブトでトドメよ!」

 

「やったぁ!カエデに勝った!!」

 

クルミが特殊召喚した切り札がカエデのライフポイントを見事に削り切った時、ミチルは歓喜の声を上げた。

 

「ま、けた…」

 

クルミに敗北したカエデは、手札を持ったままテーブルに勢いよく突っ伏する。初心者のクルミにあっさり敗北したのが相当ショックだったようだ。

 

(へぇ、カードゲームって中々面白いわね…)

 

クルミは自分の場に置かれたカードを改めて見下ろす。

 

味方の動きを理解し、勝利に繋げる為の筋道を考える。この点だけなら、SRTにおける作戦立案と本質的なところは同じだ。しかしカードゲームにおいては味方を積極的に捨てることで新たな活路を開いたり、戦う環境を自分にとって有利なものに変えることができたり、現実とは違うフィクションの世界だからこそ出来る多様な戦法が魅力だ。

 

「クルミさん凄いよ!私なんかカエデに5回も連続で負けたのに!」

 

「そんな事ないわ!さっきミチルさんが特殊召喚のこと教えてくれ無かったら私も負けてたと思う!」

 

さっきの冷たいやり取りが嘘のように、2人はハイタッチを交わした。すると

 

「って、ヤバッ!もうこんな時間!ごめん、もう私行くね!」

 

壁の時計を一瞥するや否や、ミチルは2人を残して足早に店を出て行ってしまった。ポツンと一人残されたクルミは、行き場を失った腕を掲げたままその場で立ち尽くす。

 

(あ、ミチルさんデッキ忘れていった…)

 

「ねぇクルミさん!もう一回勝負しようよ!クルミさんとのデュエル、ミチルと同じデッキ使ってるとは思えないくらい楽しかった!」

 

カードを纏めようとテーブルに手を伸ばした時、カエデが再戦を申し込んで来た。

 

「えぇ…!?で、でも私この後予定が…」

 

「だったら一回だけで良いから!今度は絶対に負けないよ!」

 

カエデがあまりにも無邪気な視線を向けて来るので、クルミは断るのがなんだか申し訳なくなった。

 

「し、仕方ないわね…一回だけよ…?」

 

それからクルミは再度カエデに勝利した後、素人に2連敗して意気消沈のカエデにミチルのデッキを渡すと、再び聞き込みの任務に繰り出して行った。

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