海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第11話 VS シキ

「わっ、服を着たゴリラ! ……死んでるけど」

 

「うおっ、ピエロ! ……死んでっけど」

 

 空から島が雨のように降り注ぐ奇怪な天候に遭遇したマシロとコーラルは、もしかしたら生きている人が救助を待っているかもしれないからと、危険な大質量の豪雨が止まるのを待ってから島々の残骸へと向かった。

 諸島群に到着するまでの道中、海には島から投げ出されたと思われる大量の死体が浮かんでいた。

 

「人は全然いないね。変な動物ばっかり」

 

「んだよこのヘンテコな動物ども。こんなの見たことねぇ。あの島の固有種か?」

 

 海に流されている死体の大半はとにかく巨大で、トラやライオンなど見慣れた動物がベースになってはいるが、尻尾が二本だったり異様に太っていたりと普通の個体とは異なる特徴も有していた。

 

「おっきい……こんなのに襲われたらひとたまりもないよ。これ全部あの島の野生動物だとしたら、あそこは人間が暮らせる場所じゃなかったのかも」

 

「コーラルなら余裕だけどな」

 

「そりゃコーラルはそうかもしれないけど、俺みたいな普通の人間じゃすぐに食べられちゃうよ」

 

「あははは! ならパールの奴みてぇに自分に火ぃつけりゃいいじゃん!」

 

「死ぬってば。俺は不死身じゃないんだぞ」

 

 なおパールは不死身になる前からしばしば自分自身を燃やしていたし、それで死ぬこともなかった。

 ジャングル育ちの神秘である。

 

「つーかよ、マシロの能力じゃこいつらは捕まえらんねえの? 魚人がありなら動物もいけんだろ」

 

 コーラルの指摘は魚人という種族を無意識に魚類として認識しているがゆえのものだった。

 

「それは無理。試さなくてもなんか分かるんだ」

 

 マシロは知らないが動物を使役する悪魔の実の能力は別に存在し、マシロが支配できる対象はそちらの領分と重なっていないのだ。

 

「んだよつまんねぇの。そこらの雑魚海賊よりこのでかさの動物で軍勢作る方が強そうだってのに」

 

「確かに……こいつらが群れで襲ってきたらひとたまりもないや」

 

 マシロは恐ろしい光景を想像して身震いした。

 

「コーラルなら余裕だけどな!」

 

「それさっきも聞いた」

 

 獣に噛まれても引き裂かれても平気なコーラルの能力はやっぱりずるいやとマシロは羨んだ。

 

「あはははは! つーわけでよく考えたらコーラルがいんだしこんな畜生どもなんていらねぇな!」

 

 マシロは戦力はいくらあっても困らないんだけどなぁと心の中でため息をついた。

 

「……ああ! 今回も頼りにしてるぜ!」

 

 しかしそれを口に出してコーラルのやる気を削ぐ意味はないので話を合わせることにした。

 

「任せとけっての! 何が来ようとコーラルの電撃でぶっ殺してやっからよ!」

 

 そんな調子で気合十分なコーラルだったが、残念ながら落下の衝撃で島にいた生物は軒並み絶命していたようで、その力を振るう機会は一向に訪れなかった。

 

「んだよふざけんな! どこ行っても死体しかねぇじゃねえか!」

 

「漏れてる! 電気漏れてるよコーラル!」

 

 放つ機会がないまま蓄えられた電撃がいよいよ漏れ出し、コーラルは二重の意味で爆発寸前だった。

 

「マシロ! 次の島でも何もなかったら、もう他は見なくていいよな!?」

 

 声を荒げるコーラルにマシロは激しく首を縦に振ってみせた。

 そして最後のつもりで上陸した、諸島群の中央にあったその島で、マシロたちは伝説に遭遇した。

 

「……ライオン?」

 

「……いやニワトリじゃね?」

 

 頭にニワトリのトサカのように船の舵輪が突き刺さった、金色の髪が獅子のたてがみのように見えるその男は、マシロたちに背を向けて項垂れながら岩の上に腰かけていた。

 

「……二十年だ」

 

 マシロたちの気配に気付いた男は腹に溜まった淀みを吐き出すようにゆっくりと語り出した。

 

「空に浮かべたこのメルヴィユにこそこそ隠れ潜み、元より狂暴だったこの島の獣どもをさらに強く、さらに大きく進化させてやった……二十年もの時間をかけてな……その結果がこれだ!」

 

「ひっ……」

 

 怒声とともに男から放たれた背筋が凍るような気迫を浴びたマシロが小さく悲鳴をあげた。

 そんなマシロの様子を気にもとめず、男は語り続ける。

 

「エッド・ウォーの時も! そして今も! なぜいつも天は俺の計画を阻みやがる! なぜいつも嵐は俺を襲う!? なぜ俺に追い風は吹きやがらねぇ!? なぜ……なぜ……」

 

 立ち上がったその男はふわふわとその場で浮かび上がり、天へと叫んだ。

 

「なぜ俺は、机のカドに頭ぶつけた程度で気絶しちまったんだ!?」

 

 この男の名はシキ。

 パラミシア系フワフワの実を食べた、自身とあらゆる非生物を浮遊させる能力者だ。

 シキが鍛え抜いたフワフワの能力は極めて強力で、島を丸ごと浮遊させられるほどであったが、この能力にはシキが気絶すると解除されるという弱点がある。

 そしてつい一時間ほど前に空に浮かんでいたメルヴィユを嵐が襲い、不運にもシキは暴風でバランスを崩した際に頭部を机のカドに打ち付け、気絶した。

 その結果がマシロたちが見た島の雨であった。

 

「今回は舵輪が突き刺さったわけでもねぇのによぉ〜〜〜〜〜!」

 

「……何あの変な人。なんか浮いてるし……コーラル、知ってる?」

 

 絶望に咽び泣くシキの背中を眺めながら、マシロとコーラルは小声で話を始めた。

 

「いや……あんなおもしれー見た目の奴、コーラルは知らねぇ」

 

 頭に舵輪が突き刺さっているだけでも凄まじく面白い見た目になっているのに、シキはそこに加えて両足が剣になっていた。

 間違いなく顔を見なくてもシルエットだけで簡単に判別がつく類の人間なのだから、少し考えて思い当たらないのであれば忘れているのではなく知らないと思っていいだろう。

 

「ジハハハ……今時のガキは俺を……この金獅子のシキを知らねぇか」

 

 マシロたちの内緒話を聞き取っていたらしいシキが浮かび上がったまま全身で振り向いた。

 雄々しく伸びた後ろ髪と違って額から頭頂部にかけては禿げ上がり、シワとシミだらけのその顔は寿命が尽きかけの老人そのものだった。

 

「えっ……有名な人なのかな」

 

「昔は有名だったんじゃね? チェスマーリモに聞いてみようぜ」

 

「よし、出てこいチェスマーリモ!」

 

「「チェスマーリ……モ!? き……金獅子のシキ……!?」」

 

「え!? 阿修羅!?」

 

 当時新聞を読める年齢だったために二十年以上前のシキの全盛期を知っていたチェスマーリモは目が飛び出るほど驚いた。

 そしてチェスマーリモを見たシキもなぜか同じくらいに驚いていた。

 

「「マシロ様いけません! こやつ、あの海賊王と並ぶ伝説の海賊です! お逃げあそばされてくださいませ!」」

 

「でん……せつ……?」

 

「あれ……ツッコミがこねぇ……あれぇ? おーいインディゴ! 昼飯まだー?」

 

「このボケたジジイが……?」

 

 チェスマーリモがシキを警戒する様子を見てもマシロとコーラルは同じ思いを共有できなかった。

 いわゆるジェネレーションギャップであった。

 

「「これは……伝説であっても寄る年波には勝てないようですな」」

 

 まったく慌てないマシロたちに引っ張られて冷静になったチェスマーリモは、痴呆を発症したとしか思えないシキの姿を見て、今が好機であると悟った。

 

「「マシロ様! ボケたとしてもこの男は海賊! 捕獲あそばされますな!?」」

 

「もちろん!」

 

「あははは! 老人虐待上等! やっちまえチェスマーリモ!」

 

「「御意!」」

 

「え? ニワトリ?」

 

 マシロの許可を得たチェスマーリモが水たまりに映る自分の顔を見て首を傾げているシキに勝負をしかけた。

 

「「ドビックリマーリモ! クワトロハンマー!」」

 

 程よく弱らせるために斧ではなくウッド製ハンマーを出したチェスマーリモがそれをシキ目掛けて振り下ろした。

 

「「潰れろ金獅子ぃ!」」

 

「ん……? 斬波」

 

 チェスマーリモの攻撃は命中しなかった。

 なぜならその前にチェスマーリモがボールに戻されてしまったからだ。

 

「…………………………え?」

 

「おい、嘘だろ……」

 

 マシロには何が起きたのか見えなかったが、コーラルの目には全て見えていた。

 

「このジジイ、斬撃を飛ばしやがった!」

 

 シキはチェスマーリモに当たらないはずの位置取りで足代わりの剣を軽く振り抜いた。

 それによって押し出された空気が斬撃となってチェスマーリモを縦に両断したのだ。

 

「今の妙な球……まさかおめぇ」

 

「……! 出てこいパール!」

 

「てっぺき!」

 

 コーラルが教えてくれた飛ぶ斬撃を恐れたマシロは何かを言おうとしているシキを無視してパールを繰り出した。

 

「ジハハハ! こりゃ見間違いじゃねえな!」

 

「死ねやニワトリジジイ!」

 

 マシロの守りをパールに任せてコーラルがシキを戦闘不能にするために電撃を放った。

 

「ボルボルの実だろ!? なぁ! そうだろ小僧ぉ!」

 

 隆起させた地面で電撃を遮ったシキがコーラルを無視してマシロに飛びかかった。

 

「おいパール守れ!」

 

「パールプレゼッ……!」

 

 シキに脇をすり抜けられたばかりか、ついでのように剣で首を落とされたパールがボールに戻った。

 

「ここから立て直す手はねぇと絶望してたが……追い風が吹いてきやがった!」

 

「あっ……あっ……!」

 

 震えて動けないマシロにシキは手を伸ばした。

 

「マシロ! 誰か出せ!」

 

「そっちの嬢ちゃんはロギアか……お前もいい」

 

 シキが浮かせた岩石を雨のように降らせてその下にコーラルを封じた。

 

「コーラル! うぐっ……」

 

「安心しろ。覇気は込めてねえ」

 

 シキはマシロの服の胸元を掴み上げ、能力ではなく腕力でマシロを地面から浮かせた。

 その拍子にマシロの帽子が落ちて、女の子らしい長い白髪が解放された。

 

「なんだ、こっちも嬢ちゃんだったか。まだちと小せえが……将来に期待だな。俺に侍るからにゃあ美人に育てよ」

 

「は……はべ……?」

 

 シキの意図も言葉の意味も理解できなかったマシロはひたすらに困惑していた。

 そんなマシロの幼い顔を品定めでもするかのように覗き込みながら、シキは嗤った。

 

「ジハハハハハ! 光栄に思え! お前をこの俺の右腕にしてやるってんだよ! 育ち方次第で愛人にもな!」

 

「……! 誰が……!」

 

 愛人という単語の意味は知らなかったが、大嫌いな海賊の仲間になれと勧誘されたことだけは大雑把に理解できたため、マシロは恐怖心を振り払って全力で抵抗する覚悟を決めた。

 

「チュウ! ダイマックス! シャムとブチは援護しろ!」

 

「ほーぅ……おもしれぇ! そんなこともできんのか!」

 

 どのような抵抗をするのか興味を持ったシキはマシロを手放して後退した。

 能力者に有効な水の技を使えるチュウをダイマックスさせ、さらにシャムとブチまで出してマシロはシキに総力戦をしかけた。

 

「チュッ♡ くらいなジジイ! 水鉄砲!」

 

「ネコ柳大行進!」

 

「シャシャシャシャシャー!」

 

 シャムとブチが二人がかりでシキにみだれひっかき攻撃をしかけ、チュウは味方の二人も巻き込む形で洪水のようなみずでっぽうを放った。

 

「味方諸共か! 悪辣でいいじゃねえか! お前海賊に向いてるぜ!」

 

 並の億超え海賊ならば倒せるはずのその攻撃にシキは難なく対処した。

 右足の剣でシャムを、左足の剣でブチを斬り殺し、チュウのみずでっぽうは触れると同時にフワフワの能力で上方へと反らし、さらに弧を描くようにチュウへと跳ね返した。

 水流の直撃を受けたチュウが派手な音を立てて倒れた。

 

「チュウ!」

 

「チュッ……魚人が水でやられるかよ!」

 

「だろうな」

 

 起き上がろうとしたチュウを待ち受けていたのは、シキが浮かせた土砂で形作られた、ダイマックスしたチュウと同じくらい巨大な獅子の顔だった。

 

「魚らしく食われて死にな! 獅子威し!」

 

 獅子に頭部を食いちぎられたチュウがボールに戻った。

 無力な民衆を守るために多数の海賊を譲渡してきたマシロの手元に戦える海賊は残っていない。

 マシロは目の前が真っ暗になった。

 

          ◯

 

 隙間なく積み上げられた岩の下から脱出できずにいるコーラルはマシロのボールの中のような暗闇だけをその目に映しながら思考を巡らせていた。

 恐ろしい雨のように降ってきたこの島々は本来シキの能力で空に浮いていた。

 そこでシキは二十年もの長い年月を費やして強力な動物たちを繁殖させ、戦力を整えていた。

 しかし運の悪いことに嵐に遭ったシキは事故で気を失い、島々が落下してせっかく用意した動物たちも全滅してしまった。

 本来ならばそれでシキの海賊人生は終わっていたはずだったが、そこにマシロがやって来た。

 古い時代の歴戦の海賊であるらしいシキはボルボルの実の能力を知っていて、失った動物軍団の代替とするために無限に戦力を作り出せるマシロを自分の手駒にしたいと考えているのだ。

 そしてそれは強力なロギア系能力者であるコーラルも同じだ。

 シキはおそらくマシロもコーラルも殺すつもりはない。

 ただ暴力と恐怖によってマシロを支配し、従順な奴隷にするだけだ。

 海賊の奴隷となり、海賊に力を貸す。

 それは海賊を嫌悪し善良な一般人を守りたいと望むマシロにとっては死ぬよりも最悪の末路だろう。

 しかしコーラルにとってはどうだろうか。

 ただ支配者が変わるだけ。

 だから、死なずに済むのであればその未来もそれほど悪くはない。

 

「あはは……んなわけねぇ……んなわけねぇよなぁ!」

 

 コーラルはマシロの奴隷ではない。

 コーラルはマシロの相棒なのだ。

 昔は能力に縛られて言うことを聞かさせられていただけだった。

 だが今はもう、コーラルがやりたいこととマシロがやりたいことは一致している。

 コーラルは海賊が相手であれば無邪気な笑顔でどこまでも残酷になれるマシロのことが大好きだ。

 悪を知らないまっさらな子供でしかなかったのに、コーラルの行いが原因で歪み、狂い、壊れてしまったマシロのことが愛しくてたまらない。

 だからマシロの夢を叶える力になりたい。

 海賊団の船員たちがそれぞれの船長を海賊王にしてやりたいと望むように、コーラルはマシロを海賊マスターにしてやりたい。

 

「コーラルの王はあのハゲジジイじゃねぇ……マシロだけなんだよおおおおお!」

 

 今この時をもってコーラルは心のどこかに残っていたマシロのボールから解放されたいという思いを完全に捨て去った。

 それがきっかけとなってボルボルの実の能力はさらなる進化を遂げた。

 捕獲した人間の中でも絆が最大限まで高まった者にのみ解放され、その者の肉体を人生の全盛期まで成長、あるいは若年化させるその力の名は……。

 

「メガシンカ!」

 

          ◯

 

「ジハハハ! さぁて、どう躾けてやろうか……何だ!?」

 

 絶望するマシロを前に舌舐めずりするシキの背後で雷の柱が立った。

 そして振り向いた時にはシキの目の前に電気を纏い黒く染まった拳が迫っていた。

 

「かみなりパンチだボケェ!」

 

「ぶへ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

 顔面に拳をめり込ませたシキははるか遠くまで吹き飛んでいった。

 

「あははは! おいマシロぉ! 座り込んじまってどうしたよ? まさか十歳にもなって漏らしてねぇよなぁ!?」

 

「え……だ、誰……?」

 

 シキを殴り飛ばしてマシロを助けてくれたのは、コーラルと髪の色が同じで、コーラルと同じ声で笑う、コーラルのような顔をした、コーラルよりも背丈も胸も大きい、美人で大人なお姉さんだった。

 

「あははははは! な〜にとぼけたこと言ってんだよ! こんかかわいい女の子、コーラル以外にいねえだろ!」

 

「コーラル……?」

 

 マシロはコーラルを名乗る美女の姿を頭のてっぺんから爪先まで確認して、それから胸についた大きな二つの膨らみに視線を戻した。

 

「嘘だぁ! コーラルのおっぱいは俺と同じくらいなんだぞ! まな板だぞまな板!」

 

「あははは! 成長するとこうなんだよ! まあ……これじゃかわいいってより美しいだかんな。重いし。マシロのおかげで年とらなくなってて良かったぜ」

 

「その自分大好きっぷり……ほんとにコーラルなの!? 何その姿!?」

 

 姿が変わっていても言動から滲み出て隠せないコーラルらしさによってマシロは美女が本当にコーラルなのだと信じられた。

 

「知らね。なんか気合入れたらこうなってたんだよ。マシロの能力なんじゃねえの?」

 

「俺の……?」

 

 このようなことができるとマシロは知らなかったが、よく考えてみれば普段から手持ち海賊を巨大化させているのだし、少しばかり成長させることができてもおかしくはないのだろうと自分に言い聞かせた。

 

「たぶんマシロじゃなくてコーラルたちが発動させるもんなんだろ。そういや、なんかコーラルの口が勝手にメガシンカとか言ってたな」

 

「メガシンカ……進化は分かるけど、メガってどういう意味だろ」

 

「それは十を六回かけるって意味の単位な」

 

「十、百、千、万、十万、百万……」

 

 マシロは指を折って順番に十をかけていった。

 

「力が百万倍になるってこと!?」

 

「マシロの能力なんだからコーラルに聞かれても分かんねえよ!」

 

 それもそうだと思ったマシロはとりあえずメガシンカについて深く考察するのはやめて、その力をありがたく活用させてもらうことにした。

 

「コーラル……ううん、メガコーラル!」

 

「おう!」

 

 マシロとコーラルは今まさに迫りつつある脅威をまっすぐに見据えた。

 それは天高くに浮かぶシキと、その周囲を取り巻く海水で形作られた大量の獅子の顔だ。

 

「ジハハハ……やるじゃねぇか! お前ら二人、絶対に俺のモンにしてやっからな!」

 

 派手に吹き飛んだシキであったが、フワフワと浮かぶ綿毛のようになっていた彼が殴られて受けたダメージは大したものではなく、少しばかり鼻血を流した跡が残っているだけだった。

 

「逆だぜハゲジジイ!」

 

 コーラルがシキに向けて中指を立てた。

 

「俺たちがお前のものになるんじゃない! お前が俺のものになるんだ!」

 

 マシロもコーラルを真似してその仕草の意味を知らずに中指を立てた。

 

「ジハハハハハ! ガープでもねぇ! センゴクでもねぇ! たかが小娘二人でこの俺が倒せるものかよ!」

 

 シキが手を振り下ろし、獅子をかたどった大量の海水が大瀑布と化してマシロたちへと降り注ぐ。

 

「獅子威し!」

 

「コーラル!」

 

「任せろ!」

 

 マシロとコーラルは津波のように押し寄せる恐ろしい獅子の顔を前にしても動じず、マシロを守るように前に出たコーラルが迎撃の構えをとった。

 

「これが! 俺たちの!」

 

「コーラルたちの!」

 

 二人が声を揃えて「ゼンリョクだ!」と叫び、マシロが持てる全ての力を注ぎ込まれたコーラルがピリピリの実の限界出力を超えた電撃を槍の形に押し固め、それをシキめがけて投擲した。

 

「スパーキングギガボルト!」

 

 普段のピリピリの実の最大出力が10万ボルト。

 ピリピリの実の同系統で雷の力を得られるゴロゴロの実という悪魔の実があり、その当代の能力者が出せる現時点での最大出力が2億ボルト。

 そして今回メガコーラルがマシロの全力の力を注がれて放ったスパーキングギガボルトの出力は……なんと10億ボルトにまで達していた。

 

「な……!?」

 

 脅威の十億ボルトを誇る電気の槍は迫り来る海水を一瞬の内に蒸発させた。

 

「馬鹿な……こんな……こんな小娘どもにいいいいいい!」

 

 海水を貫いた後も勢いが衰えなかった電気の槍は逃げる間を与えることなくシキに到達し、着弾と同時に炸裂して天を焦がした。

 

「今だマシロ!」

 

「ああ! 行け! 監獄ボール!」

 

 動かなくなって落下してきたシキにマシロがボールを投げた。

 死んでいないか不安だったが伝説の大海賊は老いてなお健在の大した生命力を有していたようで、焼死体にしか見えなかったシキの身体は生者にしか反応しないマシロのボールにしっかり吸い込まれた。

 

「金獅子のシキ! ゲットだぜ!」

 

 高く上に伸ばした手で落ちてきたシキのボールを掴み取り、マシロが高らかに勝利を宣言した。

 

「ゲットだぜ! ……んえ?」

 

 マシロと一緒に手を突き上げたコーラルの身体が光に包まれた。

 

「コーラル!?」

 

「うおっ……戻ったし……身体に力入んねぇ……」

 

 光が消えるとコーラルの姿は元に戻っていた。

 メガシンカに加えて全力の技まで使ったことにより体力が尽き、崩れ落ちるように倒れたコーラルを、慌てて駆け寄ったマシロが抱きとめた。

 

「ダメだねみぃ……おやすみマシロ」

 

 マシロの腕の中で安らかな顔のコーラルが寝息を立て始めた。

 

「うん……おやすみコーラル。いい夢を」

 

 二十年以上前、ゴールド・ロジャーがまだ海賊王と呼ばれていなかった時代、ロジャーと並んで海賊界の覇権に最も近いとされた海賊が三人いた。

 ひとりは『白ひげ』エドワード・ニューゲート。

 ひとりは『ビッグ・マム』シャーロット・リンリン。

 そして最後のひとりこそ、『金獅子』のシキであった。

 頂点である海賊王のひとつ手前、四皇とまで称された大海賊の実力はこの広い世界でも最高峰で、誰とも戦う機会のない二十年の隠居によって力が衰えていたとしても、シキは今のマシロの戦力では絶対に勝てないはずの相手だった。

 しかしコーラルは奇跡を起こした。

 マシロの能力を足がかりに、自らの血に宿った世界の覇者の力を覚醒させたコーラルの活躍により、伝説の大海賊はマシロの手に落ちた。

 絆の力で過去最大の窮地を乗り越えたマシロとコーラル、二人の旅はまだまだ続く!

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