海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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ライバル戦まで行きつきませんでした。予告詐欺ごめんなさい。


第13話 VS ラキューバ

「うわああああああああああ!」

 

 久しぶりに遭遇したニュース・クーから新聞を購入し、折り込まれていた海賊の手配書を見たマシロが絶叫した。

 

「マシロ~? 情けねぇ悲鳴出してどうしたよ?」

 

「コーラル! 見てよこれ!」

 

 マシロがコーラルに見せた手配書は、少し前まで懸賞金額が1億ベリーだった大物海賊、モンキー・D・ルフィのものだ。

 

「俺たちがちょっとゆっくりしている間に3億ベリーに上がってたんだ! 七武海をひとり倒して1億だったのに、いきなり三倍だぜ!? 新聞には書かれてなかったけど、絶対何か大事件起こしてるよ!」

 

 食事にうつつを抜かしていたせいでルフィの犯行を防ぎ損ねたのだとマシロは自分を責めた。

 

「隠蔽されたみてぇだな。何やったんだろうな? また七武海ぶっ倒したとかか?」

 

 コーラルの推測は事実で、麦わらのルフィはクロコダイルに続いて七武海のゲッコー・モリアを破っているが、賞金額が更新された理由はそれではない。

 世界政府の情報統制により世間に周知されることはなく、今のマシロたちに知る手段はないが、恐るべきことに麦わらのルフィは世界の司法の中枢となっている世界政府直轄の島、エニエス・ロビーを陥落させたのである。

 その結果として麦わらの一味全員、ペットに至るまで賞金がかけられ、その合計額は脅威の6億ベリー超えだ。

 

「賞金首は八人に増えたのか……いやペットのタヌキは数える必要ねぇか」

 

「というかなんでペットまで指名手配?」

 

 先日のイタチと違っておそらく今度こそ本当にタヌキと思われる動物、麦わらの一味のペットであると手配書に明記された『わたあめ大好き』チョッパー、懸賞金50ベリーである。

 

「賞金決めてる海軍の奴らは何考えてんだろうな? つーかこいつ、うちのオオタチよりかわいいな。ちっせぇからかな……」

 

 マシロとコーラルはペットとして飼うことになったイタチ人間に名前をつけた。

 大きなイタチなので略してオオタチだ。

 

「まあ50ベリーのペットのことは置いといて、麦わらの一味の強敵は七人みたいだ。それでこっちの戦力が……」

 

 マシロが仲間の数を指折り数えていく。

 

「コーラル、シャム、ブチ、パール、チュウ、チェスマーリモ、シキ……あとオオタチも一応戦えるのか。じゃあ八人だ」

 

「互いにペットも数えたら同数で、向こうのペットが戦えなけりゃこっちのが優位だな。他に懸賞金がかかってねぇ雑魚がどんだけいんのか分かんねぇけど、まあペット以下がどんだけいても誤差だろ」

 

「コーラルがゴム人間と相性悪そうなのは不安だけど、こっちにはシキもいるしね。それじゃあ……そろそろ捕りに行こうか! 麦わらのルフィ!」

 

「おう!」

 

 マシロとコーラルはやる気をみなぎらせて手を天高く突き上げた。

 しかしその直後、へにょりと脱力した。

 

「だけど……こいつがどこにいるか分からないんだよなぁ……」

 

「縄張りを持たねぇで常に移動してるタイプみてぇだしな……」

 

 海賊王が遺した宝を探すために拠点を持つことなく大海原を徘徊している海賊団とは遭遇するだけでも一苦労だ。

 

「ここはあれだな、待ち伏せ一択だろ」

 

「え? でもどこの島に来るかなんて分からないんじゃ……」

 

 グランドラインの航海は最初のナナシマを選んだ時にどの島を通ることになるか決定するため、途中でどの島を経由したか分かれば待ち伏せできる。

 というのはログポースに従って航海する海賊に限った話で、もしも海賊が特定の島への進路を常に示し続けるエターナルポースを持っていれば途中でのルート変更は可能となってしまうため、待ち伏せしていたら横をすり抜けられたという事態が起こりかねないのだ。

 

「それがひとつだけ絶対に通んねぇとなんねぇ島があんだよ。いや、まあ、あれは厳密には島じゃねぇけど、とにかくそこに先回りできればそいつらは絶対に来る。後はそこで接触できっかだ」

 

「……よし、なら急いでそこに行こう」

 

 コーラルの作戦は時間との勝負になるので、マシロはただでさえ速いラプラス号の移動速度をさらに上げることにした。

 

「出てこい!」

 

 マシロが出したのは伝説の大海賊、金獅子のシキだ。

 

「……何しろって?」

 

 焼死体と変わらない姿から回復したシキは覇気のない声でマシロに要求を聞いた。

 元々ボルボルの実の能力に関する知識を持っていたシキは説明されずとも自分の状況を理解できており、十歳の小娘に負けるほどに衰えていたと自覚したことによる絶望も相まって、すっかり牙を抜かれた獅子のようなおとなしい性格になってしまっていた。

 

「このラプラス号を浮かべろ。絶対に墜落させるなよ」

 

 ラプラス号がどんなに速くても船として海上を走る限り進路上に島や大きな岩礁などがあれば迂回しなければならず、そのたびに無駄な時間を費やしてしまう。

 そこでシキの能力を使って電磁浮遊以上の高度までラプラス号を浮かべることで全てを一直線に飛び越えてしまおうとマシロは考えたのだ。

 

「なるほどな! 障害物を気にせずラプラスの最高速度出していいってなりゃ、こっからならすぐ着くぞ!」

 

 コーラルは最高速度でラプラス号を飛行させた場合の目的地到着までの時間を暗算で算出した。

 

「二時間後に! シャボンディ諸島へ!」

 

          ◯

 

 シャボンディ諸島と呼ばれるその場所は正確には島ではない。

 そこはヤルキマン・マングローブという巨大な樹木の群生地であり、人々は海面に露出したその樹木の太い根の上に町を作って生活しているのだ。

 

「島じゃなくて樹だかんな。このシャボンディ諸島はログポースには示されねぇ。でもグランドラインを進んできた海賊どもは必ずここに立ち寄ることになる。何でか分かるか? ヒントはこのシャボン玉だ」

 

 シャボンディ諸島に上陸した直後、島中に浮いているシャボン玉を指で突いたコーラルがマシロにクイズを出題した。

 

「うーん……あっ! 分かった! このシャボン玉を使ってさっき見た大きな壁を乗り越えるためだな! 風船みたいにシャボン玉に紐をつけて、いっぱい船につないで空を飛ぶんだ!」

 

 マシロは到着直前にラプラス号から見えた巨大な赤い土の壁を思い出して答えた。

 赤い土の壁はレッドラインと呼ばれる大陸で、それによってグランドラインの前半と後半は完全に分断され、船で進める海面が連続していない。

 そのためここまで航海してきた海賊たちは先に進むために何らかの手段でレッドラインを超えなければならないはずなのだ。

 

「あははは! 惜しいとこ行ってっけど、ふせ〜か~い!」

 

「えー、だってそうでもしなきゃあの壁の先に行けないだろ」

 

「それがな、あの壁……というか大陸は下まで潜ると穴があって、そっからなら船でくぐり抜けられんだよ」

 

「潜るって……それ船でやったら沈没してるじゃん」

 

 船は海に浮いていてこそ船なのだ。

 船が海に潜ったらそれはもはや沈没船で、魚人でもなければ乗組員は漏れなく溺れ死ぬことだろう。

 

「まあな。普通にやったら乗ってる奴は全滅、船も水圧でぐちゃぐちゃだ。だから海賊どもはこのシャボン玉で船を包んで守んだってよ」

 

「嘘だぁ。シャボン玉でそんなことできるわけないよ」

 

「まあコーラルも海賊どもの正気を疑うけどな。でも実際それで何とかなってるらしいぞ。んで、シャボン玉を手に入れるために海賊どもは必ずここに立ち寄るってわけだ」

 

 シャボン玉で船を守ることをコーティングといい、シャボンディ諸島において海賊を主な客としたコーティング屋が商売として成立する程度には多くの者に使われている潜水方法なのだ。

 なおコーラルが知らないだけでコーティングして潜水してもレッドラインを突破できる海賊船は全体の三割以下しかなく、残りの七割はマシロが言った通り沈没する。

 

「へー……じゃあここには麦わらの一味以外にも海賊がたくさん集まるってことだね!」

 

 いいことを聞いたとばかりにマシロは目を輝かせた。

 

「よーし! さっそく乱獲しに行こうぜ!」

 

 シャボンディ諸島は海賊の宝庫だ。

 三日もあればマシロは千人の兵力を調達し、麦わらの一味を数の暴力で襲うことができただろう。

 しかし運命が麦わらの一味を守ろうとしたのだろうか、マシロが彼らとの遭遇前に海賊兵を準備することはなかった。

 

「……! ねえコーラル! あれ何!?」

 

「ん? あー、ありゃ遊園地……シャボンディパークの観覧車だな」

 

 この少女、マシロ。

 まだまだ遊びたい盛りの十歳。

 好奇心旺盛な子供らしく遠目にも目立つ大観覧車に興味を持ってしまったマシロは、引き寄せられるように遊園地へと足を向け、そこで盛大に足止めを受けることになったのである。

 

「きゃ〜〜〜〜〜!」

 

「あはははは! 下々民の遊びにしちゃ結構楽しいじゃねぇか!」

 

 マシロとコーラルはシャボンディパークで遊び回り、間もなくマシロだけがはしゃぎ疲れてくたくたになった。

 

「俺ちょっと疲れてきちゃった……」

 

「んだよ体力ねぇな。しゃあねぇ、コーラルだけでもっかいあれ乗ってくっからそこで待ってろ」

 

 同じようにはしゃいでいたはずのコーラルは元気が有り余っていて、噴水の縁に座るマシロを残してひとりでジェットコースターに乗りに向かった。

 

「コーラルは元気だなぁ。いや、俺が貧弱なだけか」

 

「きゃあっ!?」

 

 マシロが自分の体力不足を反省していると、突如背後から女性の悲鳴が聞こえた。

 

「何!?」

 

 振り向いたマシロは噴水の反対側に座っていた女性が複数人に取り押さえられて頭から大きな袋を被せられているのを目撃した。

 それは明らかに誘拐の現場であった。

 

「ちっ、ガキに見られたぞ!」

 

「叫ばれて人が集まると面倒だ! こいつも攫っちまえ!」

 

「えっ、ちょっ」

 

「おっ、オスガキかと思ったらメスガキじゃねえか」

 

「そいつはいいな。変態に売れる」

 

 マシロは人攫いたちの手で袋詰めにされてしまい、その過程で帽子を落としてしまった。

 気絶させられたわけではないため手持ち海賊を呼び出して人攫いたちを倒すことは簡単なのだが、袋の中で出すと自分が押し潰されるかもしれないと思い、実行するのは袋から出されるまで待つことにした。

 すると運ばれている間があまりにも暇だったので、遊び疲れていたマシロは居眠りをしてしまい、誰かに呼びかけられて次に起きた時にはどこかの建物の中にいた。

 

「あっ、やっと起きた! ねえ君、大丈夫!?」

 

 マシロは椅子に座っていて、隣にはおそらくシャボンディパークで一緒に攫われた女性もいた。

 女性は下半身が魚のようになっていて、彼女が人魚と呼ばれる種族であるとマシロはひと目で理解した。

 

「ここは……?」

 

「……落ち着いて聞いてね。ここはオークション会場で、私も君も誘拐されて商品にされちゃったの」

 

「はぁ」

 

 人魚女性は悲痛な顔で言葉を絞り出すように教えてくれた。

 言われて自分の状況を確認したマシロは首輪や手枷などの拘束具を装着させられていることに気付いたが、いつでも脱出できると思っているため取り乱すことはなかった。

 

「いきなりこんなことになっちゃって、ショックだよね……言葉も出ないよね……でも、諦めちゃダメ。ルフィちんたちが絶対に助けに来てくれるから!」

 

 絶望のあまり感情が麻痺してしまったのだと思われたのか人魚女性はマシロを励まそうとしてくれた。

 

「ルフィチン? それって海軍の人?」

 

 人助けをしてくれるような人ならきっと海兵なのだろうと思ったマシロが聞くと、人魚女性は首を横に振った。

 

「ううん、海賊の人。でもすごくいい人なんだよ」

 

「海賊なんだ……なんか麦わらのルフィみたいな名前だね」

 

 なんとなく似ているように思えたので一応確認してみると、まさにそれが的中した。

 

「そう! その人だよ! 麦わら帽子の男の子で、とっても強いの!」

 

「……へぇ」

 

 人魚女性が懸賞金3億ベリーの大悪党とどのような関係なのかは不明だが、それについては今はどうでもいい。

 重要なのはここで待てば麦わらのルフィが自分から捕まりに来てくれるということだ。

 

「だから大丈夫……大丈夫……」

 

 人魚女性はマシロではなく自分に言い聞かせるように繰り返し大丈夫と言い続けた。

 そんな人魚女性をマシロは冷めた目で見ていた。

 

          ◯

 

「おーいマシロー?」

 

 ジェットコースターを満喫したコーラルが待ち合わせ場所の噴水に行くと、そこにマシロの姿はなく、マシロが人前では絶対に取ることのない帽子だけが残されていた。

 それを見た瞬間、コーラルは「あぁ、拉致られたなこりゃ」とマシロに起きた全てを察した。

 シャボンディ諸島が人攫いと人身売買の聖地であることはここから近くにあるコーラルの故郷ではよく知られた話で、かわいくてかっこよくて魅力的なマシロが標的にされてしまうのではという懸念をコーラルはここに来てから密かにずっと抱いていたのだ。

 

「ったく、しゃーねーな。買い戻してやっか」

 

 拾ったマシロの帽子をかぶったコーラルが電気となってその場から一瞬で移動した。

 人間を商品として取り扱うヒューマンショップはシャボンディ諸島内に複数ある。

 普通ならばその中のどの店にマシロが持ち込まれたのか探すところから始めなければならないが、買い手として熟練しているコーラルはマシロほどの逸品ともなれば最上級の店で取り扱われるに違いないと確信し、シャボンディ諸島最大の人間オークション会場に直行した。

 

「む」

 

「おっ! ロズロズのおっちゃんとシャルりんじゃん! 奇遇だなおい!」

 

 そこでコーラルは故郷の顔馴染みと遭遇した。

 コーラルのリモシフ家と同格の名家であるロズワード家のロズワード、そしてその娘のシャルリアである。

 

「なぁっ……!? なんと無礼な! この方々は天竜人、ロズワード聖とシャルリア宮で……」

 

「無礼者はお前アマス」

 

 コーラルを叱責したヒューマンショップの店員をシャルリアがピストルで射殺した。

 突然の凶行にざわめく周囲の一般人を無視して、ロズワード家の二人とコーラルが笑顔で会話を始める。

 

「おおコーラル、久しぶりだえ」

 

「最近聖地で見かけなかったけど、どこで何してたアマス?」

 

「ん〜」

 

 コーラルはどう説明したものかと少し悩んだ末、今の自分の状況にぴったりの表現を思い付いた。

 

「新婚旅行してた」

 

「コーラル結婚したアマス!?」

 

「変か? シャルりんの兄ちゃんも十人ぐらい妾捕まえてんだろ」

 

 シャルリアの兄チャルロスは散歩に行ってはよく新しい妻を捕まえてくるのだ。

 

「チャルロスとコーラルでは年が違うえ」

 

「いくらなんでも早すぎアマス」

 

「いいだろ別に。運命の出会いだったんだよ。このオークション終わったら紹介すっから、楽しみにしとけよな」

 

 その後は接待を引き継いだ店員によりコーラルもロズワード家の二人と一緒にVIP席に案内された。

 三人が席に座るとすぐにオークションは開幕となった。

 

「本日最初の商品、海賊バイロン200万ベリーでコーラル宮が落札となります!」

 

 全ての海賊を捕まえて海賊マスターになることを夢見るマシロへの贈り物にするべく、最初に出品された小汚い海賊の男をコーラルは購入した。

 

「あんなの何に使うアマス? 人間は非力で馬にするには向かないアマス」

 

「最近海賊集めんのにはまってんだ。ロズロズのおっちゃんもそうだろ?」

 

「私が集めているのは海賊じゃなくて船長だえ」

 

 三人が話している間にもオークションは進む。

 コーラルは十人セットの労働用男性や美しい踊り子といった海賊ではない一般人たちを入札することなく見送り、いくつもの商品が他の客たちに落札されていった。

 

「海賊の出品って意外とねぇのな」

 

 ヒューマンショップの商品はほとんどが誘拐された一般人だ。

 なぜなら海賊の場合は人身売買という危険な行為に手を出さずとも海軍に引き渡せば換金できるためだ。

 

「だからこそ船長コレクションには価値があるんだえ。それをシャルリアときたらいくつも壊しおって……」

 

「脆いのがいけないのアマス」

 

「もったいねぇなぁ。壊すくれぇならコーラルにくれよ」

 

「ならあれを買ってやるえ」

 

 海賊を子供のおもちゃ程度にしか見ていない三人の前で舞台に上げられたのは懸賞金1700万ベリーの海賊の男、ラキューバであった。

 

「まじで!? ロズロズのおっちゃんありがとー!」

 

「孫のように思っているコーラルのためなら安いものだえ」

 

「コーラルだけずるいアマス!」

 

「無論、お前にも好きなのを買ってやるえ」

 

 駄菓子を買うような気軽さで人間を買い与えようとするロズワードと、それを無邪気な笑顔で喜ぶ少女たちの姿を壇上から見ていたラキューバは、自分の未来に希望がないことを悟り、覚悟を決めた。

 

「えっ……!? きゃー!」

 

 自ら舌を噛み切った壇上のラキューバが倒れ、客たちが騒然となった。

 

「あー! あいつ自殺しやがった! コーラルとマシロのもんになるはずだったのに〜! ざっけんなゴラァ!」

 

          ◯

 

「ざっけんなゴラァ!」

 

 舞台裏にまで響き渡ったそのかわいらしくも汚い叫び声は間違いなくコーラルのものだった。

 麦わらのルフィとの接敵が予想される今、できればコーラルを呼び出したいと思っていたマシロは彼女が自分から来てくれたことに笑みを浮かべた。

 たとえ相手が三億ベリーの賞金首とその一味でも、シキとメガコーラルがいれば余裕で全滅だ。

 

「クソッ! 稼がせねぇどころかよりにもよって天竜人を怒らせやがって!」

 

「ひっ……」

 

 痙攣する死にかけの男が乱暴に投げ捨てられる光景を見て人魚女性が顔を覆った。

 

「どうしますかディスコさん?」

 

「目玉商品を出して空気を変えるぞ! 人魚を用意しろ!」

 

「きゃっ! やだっ、やめて……」

 

「おらおとなしく来い! それともてめぇもああなりてぇか!?」

 

 抵抗する人魚女性が強引に連れ出され、用意された商品をほぼ出し終えた舞台裏はすっかり静かになった。

 隣に巨人の男と普通の人間の老人が残っているが、その二人を無視してマシロは立ち上がった。

 

「行け監獄ボール! そして出てこいシャム」

 

 とりあえず服装から海賊と思われる瀕死の男を捕獲したマシロはまずシャムを呼び出した。

 普段は船番としてラプラス号に残すニャーバン・ブラザーズを今回は麦わらの一味との戦闘に備えて持ち歩いておいたのだ。

 なおラプラス号は安全のため海岸に停泊させずにシキの能力で今も高所に浮かばせてあり、下から見上げてもヤルキマン・マングローブの枝で隠れて発見されない状態にしてある。

 仮にシキが気絶してもすぐに木の枝に引っかかって落下しないように位置の調整もしてきたので安心だ。

 

「お呼びで? コマンダー・マシロ」

 

「シャム、ピッキングしてこの首輪と手錠をはずせ」

 

 手癖が悪いシャムにかぎ爪で器用に解錠させてマシロは拘束をはずした。

 それからマシロは舞台袖からそっと顔を出して麦わらの一味が来ているのか確認しようとした。

 

「ヴォゲァア!」

 

 するとそこには罪のない一般人を力いっぱい殴り飛ばしている麦わらのルフィの姿があった。

 

「シャルりんの兄ちゃん! てめ、よくも!」

 

 さらに暴行現場の近くにコーラルもいて、電気を迸らせて今にも麦わらの一味との戦端を開こうとしていた。

 

「あ、バカ! 相性悪いって言ってたのに! 戻れコーラル!」

 

 マシロは咄嗟にコーラルをボールに戻し、直後に自分の隣に呼び出した。

 

「うおっ、瞬間移動!? 誰の能力だ!?」

 

「コーラル、俺だよ。とりあえず帽子返して」

 

 マシロの手元のボールを見て、コーラルは自分に何が起きたのか瞬時に理解した。

 

「おいマシロ! 何で止めやがった!」

 

 帽子を手渡しながらコーラルがマシロに当たり散らしてきた。

 

「忘れたの? 麦わらのルフィはゴム人間、コーラルと相性最悪なんだぞ」

 

「……そういやそうだった」

 

 友人を殴られてかっとなっていたコーラルはマシロに諭されて冷静さを取り戻した。

 

「それにさっき見た時、麦わらのルフィ以外にも大物がいた」

 

 今、このオークション会場には麦わらのルフィと海賊狩りのゾロ以外にも複数の億超えの海賊がいて、その中のひとりの懸賞金額は麦わらのルフィ以上だ。

 

「ここで戦うのは分が悪いよ。あいつらがばらけてから仕掛けよう」

 

「でもよ……あそこにゃコーラルのダチがいんだよ! 助けてやんねぇと!」

 

 懇願するコーラルにマシロは驚愕した。

 

「コーラルって俺以外の友達いたの!?」

 

「いるに決まってんだろ! 百人は余裕で超えてらぁ!」

 

 乱暴者のコーラルには自分しかいないと思っていたマシロは謎のショックを受けた。

 

「そっ、そっかぁ……友達は大事だもんね……」

 

 それはそうと悪い子だったコーラルが友情という正しい道理に従って善行を積もうとしているのだから、自分も全力で手伝わなければとマシロは考えを改め、危険を承知の上でこの場で麦わらの一味と刃を交える覚悟を決めた。

 

「じゃあこうしよう。俺がシキを全力で暴れさせて海賊たちの気をそらすから、その隙にコーラルは友達を救出するんだ」

 

「シキひとりかよ? 他の奴らは……」

 

「レベルが違いすぎて邪魔になる」

 

 マシロが思い浮かべたのはシキの大規模な攻撃の数々だ。

 獅子の顔を形作った浮遊物が降り注ぐ戦場で巻き込まれることなく戦える仲間はコーラルを除いて他にいない。

 

「俺もシキを出したらオオタチに乗って逃げるから、コーラルも友達を回収したら逃げてきてくれ」

 

「……わかった。それでいい」

 

 手早く方針を決めたマシロは手の中にシキの入ったボールを出現させ、暴行事件により阿鼻叫喚となったオークション会場に投げ込んだ。

 

「シキ! やり方は任せる! 手加減なしで海賊たちを倒せ!」

 

          ◯

 

「報告します!」

 

 海軍本部、元帥の執務室にて、センゴクは部屋に飛び込んできた部下から頭の痛くなる報告の数々を爆撃のように浴びせられていた。

 

「……すまない。もう一度、ひとつずつ分けて確認させてくれ」

 

 どうかひとつでも聞き間違いであってくれと祈りながら、センゴクは報告内容を聞き返していく。

 

「まず、麦わらのルフィが天竜人ロズワード家の三人に危害を加えた」

 

「はっ! その通りです!」

 

 センゴクは胃の辺りに痛みを感じた。

 

「さらに現場ではリモシフ家コーラル宮の姿も確認された」

 

「はっ! その通りです!」

 

 センゴクはめまいを起こしてふらついた。

 

「そしてそこに……金獅子のシキが出現し、他の海賊に攻撃を仕掛けた」

 

「はっ! その通りです!」

 

 センゴクは痛む頭を抱えた。

 

「……劣勢の海賊たちを庇うように、海賊王ゴールド・ロジャーの副船長、シルバーズ・レイリーが乱入して海賊たちを逃がした」

 

「はっ! その通りです!」

 

「巫山戯るなああああああああああ!」

 

 センゴクは立ち上がって絶叫した。

 

「この忙しい時に! 寄ってたかって! 問題を起こすなあああああ! 特にシキぃ! 貴様二十年間音沙汰なかっただろう! なぜよりにもよって今なんだ!」

 

 かける言葉が見つからず、周囲の海兵たちは取り乱すセンゴクから目をそらすことしかできなかった。

 

「ぶわっはっはっはっは! 大変じゃのう、元帥」

 

 唯一爆笑していたのはセンゴクと付き合いの長い老兵にして、海軍の英雄とまで称される伝説の海兵、モンキー・D・ガープ中将だ。

 

「問題の発端は貴様の孫だぞガープ! 責任取ってシャボンディ諸島に行って対処してこい!」

 

「ロズワード家の出動要請は大将じゃろ? わし中将」

 

「ガアアアアアプ!」

 

「まあまあ、センゴクさん。わっしが行きますんで」

 

 今にも殴り合いが始まりそうなガープとセンゴクの間に割って入ったのは、黄色のスーツとサングラスが特徴的な男性、『黄猿』の異名を持つ海軍大将ボルサリーノであった。

 

「コーラル宮がいるなら例のあの子もいるんでしょう? ならサカズキやクザンよりもわっしが適任だ。わけあって子供の相手は慣れてますんでねぇ~」

 

 かくして海軍の最高戦力のひとり、大将黄猿のシャボンディ諸島派遣が決定した。

 これにより海軍はラプラス号の移動速度が速すぎて足取りを掴めずにいたマシロとの初接触を果たすことになる。

 

「さ〜て、マシロという子供にまで麦わらのルフィと同じ対応をすることにならなきゃいいが……怖いねぇ〜」

 

 麦わらの一味を狙うマシロ。

 麦わらの一味に加えてマシロも狙う海軍。

 そして通りすがりのクマ。

 三者三様の意図を持って、ついにシャボンディ諸島で巡り合う!

 続く!

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