海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第15話 VS 麦わらの一味 Ⅱ

「……ん?」

 

 麦わらの一味がオークション会場から逃げ出してしばらくが経った頃、ひとりだけ他の仲間たちとは真逆の方向に全力疾走していたゾロがようやく仲間たちの不在に気付いた。

 

「あいつら……こんな時にまで迷子かよ」

 

 自分が迷子になったとは微塵も思っていないゾロは仲間たちを探してさらにシャボンディ諸島をさまよい、途中でぐるりと反転してオークション会場に逆戻りした。

 

「うわあああああん! お父上様〜〜〜〜〜! チャルロス兄様〜〜〜〜〜! あいつら絶対許さないアマス〜〜〜〜〜!」

 

「安心しろよシャルりん! クソ海賊どもはコーラルの旦那が必ず捕まえてくれっからよ!」

 

「もちろんだぜ! ……ちょっと待ってコーラル。旦那って何?」

 

 その時、マシロとコーラルはオークション会場の近くで助け出したロズワード一家の手当てをしているところだった。

 

「……! てめぇらは!」

 

「え……あいつは! 麦わらの一味のロロノア・ゾロ!」

 

「シキがやられたのを見て戻ってきやがったか! 上等だぁ! コーラルがぶっ倒してやらぁ!」

 

「みんな出てこい! 海賊を倒せ!」

 

 結果としてゾロはロギア系能力者であるコーラルに有効な攻撃手段を持っておらず、コーラルだけに戦わせるのが最適解だったのだが、巨人海賊ドリーのようにコーラルに攻撃を当てられる者も世界には存在すると知っていたマシロは油断なく全戦力を投入してゾロをふくろだたきにした。

 

「人が出てきた!? ……しかも知ってる顔がいくつかあんな」

 

「よぉ、久しぶりだな海賊狩りぃ!」

 

「あん時のリベンジをさせてもらうぜ!」

 

「チュッ♡ 海賊狩りのゾロ……お前がいるならナミとあの鼻のなげぇ男も一緒にいるよな? まとめてマシロさんに献上してやるよ!」

 

 多勢に無勢ながらゾロは健闘した。

 しかしマシロの下で鍛えられたかつての敗者たちも負けてはいなかった。

 

「へっ……今度は……返さねぇからな……」

 

 剣士であるゾロに果敢に接近戦を挑んだシャムは致命傷を受けると同時にゾロの両手に持った刀を掴み、自分ごとマシロのボールの中へと持ち去った。

 

「何ぃ!? どこ行きやがった!」

 

「お前が取りに行けねえとこだよ! くらえ! キャット・ザ・フンジャッタ!」

 

「パールプレゼント!」

 

「水鉄砲!」

 

「クワトロアックス!」

 

 味方を巻き込むコーラルと、マシロの乗り物兼護衛役のオオタチを除いた四人の攻撃が四方からゾロに殺到した。

 

「一刀流……居合!」

 

 円を描くように放たれた鉄すら切り裂くゾロのいあいぎりが近付いてきたブチ、パール、チェスマーリモを両断し、チュウの水鉄砲を消し飛ばした。

 

「コーラル! 10万ボルト!」

 

「おらぁ!」

 

「がああああああああああ!」

 

 刀を振り抜いた直後の僅かな隙にコーラルの強力な電撃が撃ち込まれ、かつて雷の能力者との戦いで今回よりも出力の高い電気を浴びても死ななかったゾロが呆気なく絶命一歩手前に陥った。

 

「あはははは! 億超えって言う割にはあの時のクソ巨人より脆いじゃねえか!」

 

「きっとコーラルが強くなったんだろ」

 

 マシロはオオタチの上からボールを投げてゾロを捕獲した。

 

「そう言うマシロの肩も強くなってきたじゃねえの」

 

「まあね。たくさん投げてきたから……よし。海賊狩りのゾロ! ゲットだぜ!」

 

 こうしてマシロたちに捕まったゾロはしばらくシャルリアの鬱憤晴らしのために拷問を受けることになった。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

「この! 下々民が! よくもお父上様と兄様を!」

 

 シャルリアがゾロに弾切れになるまで銃弾を撃ち込み、その後はシャムのボールから出した剣で繰り返し突き刺した。

 

「……なんかこの刀嫌な感じがする」

 

「じゃあ折っとくか。刀三本あったしたぶん予備だろ。なくなっても戦闘能力は変わんねぇよ」

 

「そうだな。よしチュウ、これをへし折れ」

 

「やめっ」

 

「誰が悲鳴以外の声を出していいと言ったアマス!」

 

「ぐあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

 痛みに呻くゾロの目の前でチュウが刀を両手で握り、そのまま山折りにしてへし折った。

 

「ぁ゙……ぎでづ……」

 

「いい見世物アマス。魚人の腕力は人間の十倍と聞いたアマスが、これなら確かに乗り物向きアマスな」

 

「……」

 

 シャルリアの言葉に思うところがありそうなチュウであったが、結局何も言わずに折れた刀を放り捨てた。

 すると刀の先端側の破片が岩に当たって跳ね返り、くるくる回転しながらチュウの首へと飛んできた。

 

「ぎゃっ!?」

 

 魚人であっても血管の配置に人間との差異はなく、首の重要な動脈を切られたチュウは失血死してボールに戻った。

 

「ちょっ……なんでそうなるの!?」

 

「なんだ今の……あの刀マジで呪われてたのか?」

 

「脆いアマスな……やっぱり魚人いらないアマス」

 

 それぞれ怪現象への感想を口にした三人は、とりあえず折れた刀や倒れたチュウのことは置いておき、残りの麦わらの一味への対応を話し合うことにした。

 

「こんだけ待っても他の奴らが来ねぇってことは、たぶんこいつ偵察だ。悲鳴を聞いて逃げたなこりゃ」

 

「じゃあこいつにどうにか逃げ出したふりをさせて仲間をおびき出させよう」

 

「シャルりんは父ちゃんと兄ちゃん連れてマリージョア帰ってろよ。コーラルたちはクズ海賊ども捕まえてから追いかけっからよ」

 

「この下々民はコーラルが使うアマス? まだ拷問したりないアマスのに」

 

「一匹ぽっちじゃ気が済まねぇだろ? 全員捕まえるためだから我慢してくれよ」

 

「むぅ……仕方ないアマスな」

 

 シャルリアと別れたマシロとコーラルは血まみれのゾロを歩かせ、その後ろからゆっくりと追いかけて獲物が餌に食いつくのを待った。

 

「おっ、いやがったな迷子リモ……なっ! おい、その傷どうした!?」

 

 麦わらの一味のコックであるサンジがゾロを発見したのはそれからすぐのことだった。

 

「……げろ」

 

「あ!? 声が小さくて聞こえねぇ! もっとはっきり……」

 

 

「逃げろ!」

 

「…………………………え?」

 

 餌に食いついた魚が釣り針に貫かれるように、サンジはゾロが突き出した剣によって腹を貫かれてしまった。

 

「マリモ……おま……」

 

「10万ボルト!」

 

「っしゃあ! まとめて逝けや!」

 

「ぐあああああ!」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

 コーラルの電撃がゾロごとサンジを焼いた。

 

「な……何……が……」

 

 ダメージが限界を超えたゾロが強制的にボールに戻る一方で、サンジはまだ捕獲できるほど弱らなかった。

 

「何耐えてんだよてめぇ!」

 

「……ぁ」

 

「行け! 監獄ボール!」

 

 しかし麻痺して動けないサンジではその場から逃げられず、コーラルの追撃を受けて倒れ、マシロに捕獲された。

 それからマシロたちは一時間ほど待ち、瀕死ではあるが口が聞ける程度まで回復したサンジから他の仲間たちの居場所を聞き出した。

 

「あそこか……シャッキーズ・ぼったくりバー」

 

「あははは! ひっでえ名前! 潰しちまおうぜマシロ!」

 

「ああ! ぼったくりな上に海賊を匿うなんて許せない! 行くぞオオタチ! ダイマックスしてのしかかりだ!」

 

 他の手持ちは戦闘可能な状態まで回復できておらずマシロの戦力はオオタチとコーラルのみとなっていたが、もたもたして麦わらの一味を逃がしたくなかったマシロは構わず襲撃を始めたのであった。

 

          ◯

 

 回復が完了しておらず軽くはたかれただけでボールに強制送還されかねないゾロとサンジであっても動けない相手を攻撃するためならば使えるはず。

 

「あのお爺さんを死ぬ寸前まで痛めつけろ!」

 

 そう考えてマシロはゾロとサンジを呼び出し、仲間との同士討ちを命じた。

 

「君、たち……ぐぅっ!?」

 

 ゾロが剣で、サンジが蹴りで、レイリーに攻撃を加えた。

 

「あああああ! 何やってんだ畜生! 止まれ俺の腕! 切り落とされてぇのか!?」

 

「……すまねぇ……すまねぇ……!」

 

「あはははは! 大のおとなが鼻水垂れ流しで大泣きしててうけるんですけど〜! ほんっとマシロの能力は最高だな!」

 

「誰か俺を殺してくれえええええ!」

 

「いつも俺は恩人を傷つけてばかり……ゴミ以下だ……頼む……もう死なせてくれ……」

 

 泣き喚きながらレイリーを傷つける二人をコーラルは嘲笑い、マシロは無感情に捕獲のタイミングを見計らっていた。

 

「いや〜、ひとりだけはぐれた間抜けを捕まえんのにこっちの戦力が半壊した時はどうなっかと思ったけどよぉ、これならなんとかなりそうだな!」

 

 当初は偵察役だと思われていたゾロはその後のサンジからの情報聴取で単に迷子になっていただけだったことが判明した。

 

「だな!」

 

 相槌を打ちながらマシロがレイリーにボールを投げた。

 

「冥王レイリー! ゲットだぜ!」

 

 シキを倒したその老人の名前と異名をマシロは口だけはどうにか動かせる程度に回復させたシキから聞き出しておいたのだ。

 

「やったなマシロ! シキに続いて伝説の海賊二匹目だ!」

 

「これでもう俺たちは無敵だぜ!」

 

 マシロとコーラルがハイタッチで喜びを分かち合った。

 

「クソッ……クソオオオオオ!」

 

「はは……所詮俺は失敗作ってことか……」

 

「あははははは! 負け犬どもが遠吠えでコーラルたちを祝ってやがる!」

 

「確かに……海賊たちが絶望する声を聞くとすっきりするな! なんだか太鼓の音まで聞こえてきた気がするぜ!」

 

 マシロとコーラルを祝うようにゾロとサンジが嘆きの合唱を贈り、それに合わせてドンドットットと太鼓のような音が鳴り響いていた。

 

「……いやこれほんとに太鼓の音してんな。どっからだこれ?」

 

 マシロとコーラルは周囲を見回して音源を探した。

 

「……あれかな」

 

「……あれだよな」

 

 より格上のレイリーにばかり注意を向けていたせいで窒息死しかねない状態でずっと放置されていた意識のない麦わらのルフィの身体が心臓の拍動に合わせて激しく振動していた。

 

「人の心臓ってこんな音出たっけ?」

 

「普通は出ねぇけどあいつゴムだからな。窒息寸前で足りねぇ酸素を身体に送るために心臓が必死に動いてて、それでゴムの身体が心臓に叩かれて太鼓みてぇな音が鳴ってる……ってとこか?」

 

 コーラルは知恵を絞って音が出る原理を推測したが、いまいち納得できず首を傾げた。

 

「まあいいや。心臓が動いてるならまだ死んでないってことだし、今のうちに捕獲しよう」

 

 マシロはボールを作り出してルフィに投げようとした。

 しかしマシロのボールはルフィに当たらなかった。

 

「……ん? おい、マシロ?」

 

 なぜならボールを投げる瞬間、マシロが倒れてしまったからだ。

 

「マシロ!?」

 

 慌てたコーラルがマシロに駆け寄り、抱き起こした。

 変わらず太鼓の音は続き、さらにいつの間にかバイオリンの音まで追加されている。

 

「……すぅ」

 

「んだよ寝てるだけか……ってマシロが目の前に海賊いんのに居眠りするわけねぇだろ! 誰の仕業だゴラァ!」

 

 マシロに遅れて眠気を感じ始めたメガコーラルは広く地面に伝わるように電気を流して自分を中心に電気の領域を作り出した。

 

「ゔっ」

 

「そこかぁ!」

 

 それにより常に自分に電気の刺激を送り続けることで眠気を排除し、同時に軽い感電で驚かせて隠れていた敵に声を漏らさせた。

 

「ぎゃああああああああああ!」

 

 コーラルの電撃を浴びたアフロの敵は骨格が透けてしまっていた。

 

「あははは! 骸骨丸見え! そのまま死に晒せ!」

 

「あっ、私もともと骸骨丸見えでして」

 

「はっ?」

 

 焦げる肉がなかったために電気の効果がいまひとつだったその男は、ヨミヨミの実により白骨死体の状態で蘇った麦わらの一味の音楽家、ブルックであった。

 

「はいもう斬っちゃいました!」

 

 動く白骨死体に驚いて硬直したコーラルの真横を駆け抜けたブルックが抜き身の剣を仕込み杖の鞘に戻して金属音を鳴らした。

 

「鼻唄三丁……矢筈斬り!」

 

「!?」

 

 コーラルの首が、裂けた。

 

「ヨホホホ、あとはあの子供に能力の解除をさせて……」

 

「何勝った気でいんだよ骨野郎」

 

 しかしロギア系能力者のコーラルには効果がなかった。

 

「かみなりパンチ」

 

「!?」

 

 コーラルに殴られて大きく陥没したブルックの頭蓋骨が首の骨から分離して地面を転がった。

 

「な……なぜ……」

 

「ロギアの能力者は初めてか? てめぇのくだらねぇ攻撃なんて効かねぇんだよ!」

 

「そん……な……」

 

「まあ……そう言うコーラルも喋る骨は初めてだけどな。心臓も脳もねぇとか生命維持の中枢どこだよ……つか肺がねぇのにどうやって声出してんだよ……」

 

 頭を落としても平然と喋り続けるブルックにコーラルはかつてないほど困惑した。

 

「あ〜、とにかく勝手に再生するとかじゃねえならいいや。マシロ〜、起きろよお〜い」

 

「んにぃ……はっ!」

 

 コーラルがマシロの柔らかい頬を突いたり引いたりしてマシロを目覚めさせた。

 

「えっ、俺寝てた!?」

 

「敵がもう一匹残ってたみてぇでな。ま、もう終わったから安心しろよ」

 

「ゔっ」

 

 コーラルがブルックの頭を蹴って転がしながら言った。

 

「んなことより! お楽しみの捕獲タイムにしようぜ! 放置しすぎて死んじまったらもったいねぇしな!」

 

 マシロは頷き、ボールを構えた。

 

「あっ、ちょっと待て。いいこと思い付いた」

 

 一切の感慨なく流れ作業のようにボールを海賊たちへ投げようとするマシロにコーラルは待ったをかけた。

 

「いいこと?」

 

「あの二人に命令して転がってる奴らをマシロの前まで引きずってこさせんだよ!」

 

「え〜、時間かかるじゃん」

 

「頼むよマシロ! 絶対面白いからよ!」

 

「……まあ眠らされた俺を助けてくれたのはコーラルだもんね。いいよ」

 

 マシロはコーラルの提案を受け入れてゾロとサンジに仲間たちを自分の前まで連れてくるよう命じた。

 

「あっ、引きずる前に気絶から起こさせるのも追加で」

 

「ゾロ、サンジ、気絶してる奴は起こしてから連れてこい」

 

 屈辱と悔恨で頭がいっぱいになったゾロとサンジはもはや意味のある言葉を発せず、嗚咽だけを漏らしながらマシロの命令を粛々と遂行する。

 

「えっ……おいゾロ? お前何して……ぎゃあああああ!」

 

 ゾロがウソップの長い鼻を掴んで強引に地面の上を引きずり回した。

 

「サンジ君!? やだ、髪引っ張らないで……きゃあああああ!」

 

「サンジ……あなた、まさか……ああっ!」

 

 サンジがナミとロビンの髪を掴んでマシロの前まで引きずった。

 

「さすがにペットは普通に運んでいいぞ。動物の鳴き声聞いても面白くねぇから」

 

「そのタヌキはそのまま抱きかかえてこい」

 

 人の言葉では悲鳴を発さないと思われたチョッパーはゾロに抱き上げさせて普通に運ばせた。

 

「進みが遅ぇ!」

 

「重くて運べないならそいつは運ばなくていいよ」

 

 脚力は強くても腕力はほどほどのサンジでは全身が鉄の塊のフランキーは持ち上がらなかったので運ばせずに遠くからボールを投げた。

 

「……えっ、これも仲間? 死んでない?」

 

「あー……一応、生きてるっつーか、動いてるっつーか」

 

 ゾロが拾ってきた頭とサンジが引きずってきた胴体を繋げて復活させたブルックの外見に困惑しながらマシロがボールを投げた。

 

「……なんか思ってたのと違ぇ」

 

「そんなもんだって。海賊なんてそもそも見てて面白い存在じゃないだろ」

 

 白けたコーラルをなだめるマシロのもとに麦わらの一味の最後のひとりが運ばれてきた。

 

「……結構長く放置しちゃったのに、こいつ、全然心臓止まらないね」

 

「仮にも億を超えるような奴だからな。生命力も相応のバケモンだったってことだろ」

 

「ならその生命力をこれからは他の海賊を倒すために役立ててやろう。行け! 監獄ボール!」

 

 変わらずドンドットットと心音を轟かせているルフィにボールがあたり、中へと吸い込み閉じ込めた。

 こうして麦わらの一味はマシロとコーラルに完全敗北を喫したのであった。

 

          ◯

 

「あれ、こいつ……」

 

「どしたよマシロ?」

 

 ゾロとサンジに命令して他に海賊の仲間がいないか確認したところ、なぜか元アーロン一味の幹部であった賞金首のハチが麦わらの一味と行動を共にしていたとわかり、マシロたちはこの場を離れずに捜索を続けていた。

 しばらくしてゾロとサンジに掘り起こさせた瓦礫の下から出てきたのは、死にかけのハチと元海賊らしいぼったくりバーの店主シャッキーに庇われるように下敷きになっている、オークション会場にいた人魚女性だった。

 

「この人魚、シャルりんの兄ちゃんが買ってたやつじゃん。なんでここにいんだ?」

 

 人魚女性はルフィがチャルロスを殴った後に救出されたのだがマシロに呼び戻されて作戦会議中だったコーラルはその場面を見ていなかった。

 

「麦わらのルフィが助けに来てくれるとかいってたし、ここにいることは別におかしくないんだけど……よく死ななかったね。建物の倒壊とか、コーラルの放電とかに巻き込まれてたはずなのに」

 

 人魚女性は気絶しているだけで胸部が上下に動いているし呼吸音も聞こえている。

 

「上に乗ってる奴らに庇われたからじゃねぇの?」

 

「人が盾になった程度で鍛えてない奴がメガシンカしたコーラルの放電は耐えられないと思うけど……」

 

 マシロは得体の知れない不気味さを感じた。

 

「ねぇ、コーラル。ゴムになる悪魔の実って食べた人以外をゴ……ぼぉ!?」

 

 その不気味さの正体を解明するよりも早く、それは現れた。

 

「〜〜〜〜〜!?」

 

 麦わらの一味が入ったボールを体内に吸い込み収納したマシロの口から突然白い手が突き出てきた。

 

「は……?」

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

 白い何かは白目をむいて悶絶するマシロを蛹のように脱ぎ捨てて這い出てきた。

 それはマシロと同じように白目をむき、まるで着色前の蝋人形のように全身が真っ白に染まった、モンキー・D・ルフィであった。

 

「てめぇえええええ! マシロに何してんだあああああ!」

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

 倒れて痙攣するマシロの顔を踏みつけながら笑っているルフィにコーラルが飛びかかり、かみなりパンチで空高く殴り飛ばした。

 

「オオタチぃ! そいつの頭噛み砕けぇ!」

 

 泡を吹くマシロを助け起こしながらコーラルがダイマックス状態で待機していたオオタチに命令した。

 

「シャウッ!」

 

 ゴム球のように勢いよく飛んできたルフィを掴み取ったオオタチがそのままルフィの頭にかみつこうとした。

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

 その瞬間ルフィの頭が巨大化してオオタチの頭以上の大きさになった。

 

「シャ……ヴゥ!?」

 

 オオタチはルフィの頭を口に含むことができなかったどころか、逆に頭を噛み千切られてしまった。

 

「あっひゃっひゃ……ひゃ?」

 

「いい気んなっておどけやがって! てめぇの弱点はこれだろぉがよぉ!」

 

 オオタチが倒れるよりも早くその身体を足場にして駆け上がったコーラルがゾロから奪った刀でルフィに斬りかかった。

 

「かみなりのキバ!」

 

 刀に帯びさせた電撃はゴムの身体に効かなくても、斬撃そのものはしっかり効果を発揮し、ルフィの頭と身体を泣き別れにさせた。

 

「はっ! ざまぁみやがれ!」

 

 コーラルが着地するのと同時にルフィの巨大な頭が地面に落下し、シャボンディ諸島を揺らして大きな音を立てた。

 そして巨大ルフィの頭が左右に割れて、中から通常の大きさのルフィが出てきた。

 

「ふ、ざけ……」

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

「ヴォゲァア!」

 

 ルフィが手を伸ばしてコーラルの顔面を撃ち抜いた。

 

「ごほっ……げほっ……コーラル!?」

 

 一撃で昏倒させられ、メガシンカが解除された本来の姿で落下してきたコーラルを、その悲鳴を聞いて意識を取り戻したマシロが落下地点に飛び込んで抱きとめた。

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

「麦わらあああああ! よくもコーラルを!」

 

 腹を抱えて笑うルフィを睨みながら叫んだマシロがその手にいくつものボールを出した。

 

「行け麦わらの一味! お前らの船長を殺せえええええ!」

 

 出しっぱなしだったゾロとサンジに加えて、ウソップ、ナミ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック……総勢八人がルフィに襲いかかった。

 

「お前の仲間だ! 殴れるもんなら殴ってみろ!」

 

「ルフィいいいいい!」

 

「構わずやれえええええ!」

 

「あっひゃっひゃっひゃ!」

 

「ぎゃあああああああああああ!」

 

 仲間たちをけしかけられたルフィは機関銃のような連打で一切の躊躇なく全員を滅多打ちにした。

 倒れた麦わらの一味が全員マシロのボールに戻った。

 

「なんてことを……!」

 

 ボールを体内に取り込んだマシロは血も涙もないルフィの所業に怯えながら、それでも気丈にこの窮地を凌ぐ方法を考えた。

 電気によるダメージだけで欠損がなかったために死にかけでも動かすことができた麦わらの一味と違い、レイリーやゾロに首や手足や胴体を切断された他の手持ち海賊は傷が回復する前に出したらその場ですぐに失血死するので使えない。

 伝説の海賊というだけあって精神的な抵抗力が強すぎたために念入りに痛めつけなければ捕獲できなかったレイリーも、おそらく動きが悪くなりすぎていて今のルフィに対しては足止めすらままならないだろう。

 マシロを殺せば捕まった仲間も死ぬと教えても、躊躇なく仲間を攻撃するルフィが相手では脅しにすらならないはずだ。

 

「助けてえええええ!」

 

 だからマシロはコーラルを抱きかかえたままルフィに背を向けて全力で逃げながら助けを呼んだ。

 

「海賊に殺されるうううううう! 海兵さあああああん!」

 

 コーラルの友人だというシャルリアの父親であるロズワード・ロズワードがシャボンディ諸島に海軍を……しかも非常に強い大将という階級の海兵を呼んだことは聞いていた。

 マシロはその大将が近くにいることに賭けるしかなかった。

 

「あっひゃっひゃひゃ!」

 

「あうっ……!」

 

 マシロは背後からルフィに足首を掴まれて転び、そのせいでコーラルが投げ出されてしまった。

 

「コーラル……きゃっ!?」

 

 追いついてきたルフィがマシロを逆さ吊りにして持ち上げた。

 

「ぐぼっ……!?」

 

 そしてマシロの腹を殴った。

 

「うぐっ! おごっ! ごぼぉっ!」

 

 ルフィはマシロの腹を何度も何度も殴りつけ、そのたびにマシロの口から血反吐と一緒にルフィの仲間が入ったボールが吐き出された。

 

「うっ……ぁ……」

 

 ルフィの仲間八人とレイリーの合計九個のボールが吐き出された後、ルフィは朦朧としているマシロを放り捨てた。

 そしてかすむ視界の中でマシロが見たものは、能力者であるマシロですら破壊できないボールをルフィが次々に叩き割り、捕まえた麦わらの一味とレイリーが全員解放されてしまった光景だった。

 

「そ……んな……」

 

 一度は完全勝利したはずだった。

 しかし結果は今見た通り、ルフィは謎の力でマシロの支配を打ち破り、麦わらの一味もレイリーも取り返され、おそらくマシロはこれから殺される。

 コーラルの命を巻き添えにして。

 

「コーラル……せめて……君だけ……は……」

 

 マシロは自分に迫り来るルフィの拳の前にコーラルのボールを出現させた。

 それは盾とするためではなく、ルフィの攻撃を利用してコーラルを解放するためだった。

 まだ切断による傷から回復しておらず解放されても死ぬだけのチェスマーリモと違い、コーラルは運が良ければ助かるかもしれない。

 自分はもうここで終わりだけど、せめて大切な相棒だけでも助けてあげてくださいとマシロは神に祈った。

 

「光の速度で蹴られたことはあるかい?」

 

 そんなマシロの祈りは届いた。

 人の道理が通じない神にではなく……か弱い民衆を海賊の魔の手から守る、正義を背負いし海兵に。

 

「……て……んし……さま……?」

 

 今しがたルフィを蹴り飛ばして見せたまるで天使のように光り輝くその男こそが、マシロが近くにいることを期待して呼びかけ続けていた海軍大将『黄猿』であり、ピカピカの実を食べた光人間のボルサリーノであった。

 

「おねがい……コーラルを……まもっ……て……」

 

 自分よりもコーラルを守るようにと頼むマシロにボルサリーノはシワだらけのいかめしい顔でも隠しきれない優しさに満ちた笑顔を見せてくれた。

 そんなボルサリーノに安心したマシロはどうにか保っていた意識を手放した。

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