モンキー・D・ルフィが天竜人チャルロス聖を殴り飛ばしたその瞬間から男はずっと麦わらの一味を見ていた。
金獅子のシキがルーキー海賊たちを蹂躙していた時も、人間をボールで捕獲して使役する能力を持ったマシロという名の子供が麦わらの一味を追い詰めていた時も、男は見ているだけで何もせず、ただひたすらに傍観者であり続けた。
男は今も昔も天竜人の非道な行いの犠牲者であり、本心では自分に代わって天竜人にやり返してくれたルフィを助けてやりたいと思っていた。
しかし男の立場がそれを許さなかった。
男は世界政府に味方する王下七武海のひとりである。
それに加えて最愛の娘という最大の弱みを世界政府に知られている。
だから男は何があっても決してルフィの味方にはなれないはずだった。
「あっ……ひゃっ……ひゃ……」
「こいつぁ死刑でいいんですよね?」
「当然だろ! こいつはコーラルを殴りやがったし……何よりマシロを傷つけやがった! さっさと殺しちまえ!」
たとえ麦わらの一味が全滅しても、夢にまで見た解放者の鼓動を耳にしても、窮地を凌いだはずの麦わらのルフィが乱入した海軍大将に殺されそうになっても、その男……バーソロミュー・くまは気弱な平和主義者のように立ち尽くすばかりであった。
「では……どうぞご覧ください。今死にますよぉ〜」
「黄猿ぅぅううう! ニカは殺させねぇぞおおおおお!」
「待ってボニー船長! 大将はさすがに無理ですってば!」
「……! ボニー……ここで会いたくはなかったんだけどねぇ〜!」
「はあああああ!? どこの誰か知らねぇけど……処刑の邪魔してんじゃねぇよ!」
そんなくまを暴君に変貌させたのは、最愛の娘ボニーの命を奪うために今にも電撃を放ちそうな不倶戴天の天竜人、コーラルであった。
「……は? おまっ、七武海の……!」
考えるよりも先にくまの身体は動いていた。
歯を食いしばって目を見開いたくまは気付くと全力の拳でコーラルの顔面を殴り抜いていた。
「あっ……おと〜〜〜さ〜〜〜〜〜ん!」
「くま!? 何を……いやボニーか……コーラル宮は……あ〜もう、本当に困るね〜〜〜〜〜!」
ニキュニキュの実を食べたくまは手のひらの肉球で触れたあらゆるものを弾き飛ばす能力を持っており、それにより人を遠方の島まで移動させることもできる。
普通ならば致命傷となる威力で殴られはるか遠くへと吹き飛んでいったコーラルを追いかけて、気絶したまま木陰に寝かされていたマシロを拾い上げたボルサリーノが海賊たちに構わず戦場を離れた後、くまはシャボンディ諸島に居合わせた守るべき相手全員をとある島へと弾き飛ばし、最後には自分も同じ場所へと飛んだ。
「くまぁ……ボニーだけならともかく、そりゃあ欲張りすぎだよぉ〜」
ロギア系であるために途中の遮蔽物に衝突して止まれず、最終的に気絶した状態で海に落下して溺死したコーラルがマシロのボールに戻るのを見届けたボルサリーノが引き返してきた時には、麦わらの一味もレイリーもボニー海賊団も、くま自身すらも残っていなかった。
バーソロミュー・くまの王下七武海除名が決定した瞬間であった。
◯
何も見えない真っ暗な闇の中で目を覚ましたマシロが最初に見たものは金色に輝く巨大な大仏だった。
「君は死んでしまった」
マシロが大仏の迫力に言葉を失っていると、大仏は唐突にそんなことを言い出した。
「死んだ……!? じゃ、じゃあここって……」
「死後の世界だ」
マシロは雷に打たれたような衝撃を受け、大口を開けたまま硬直した。
「これより君が天国に行くべきか、それとも地獄に落ちるべきか、見定めるために質問をする。嘘偽りなく答えなさい」
そんなマシロの様子を気にすることなく大仏は険しい顔で問う。
「コーラルという少女を知っているな?」
「え……あっ、そうだ! コーラル! コーラルはどうなったの!? 俺が死んじゃったなら、コーラルもここに……」
「彼女は死後の世界には来ていない」
反応からマシロがコーラルをよく知っていると確信した大仏は取り乱して質問に答えなかったマシロを咎めることなくコーラルの生死を教えた。
「じゃあ……コーラルは生きてる……?」
「そうだと言ったら君はどう思う?」
マシロが死ねばボルボルの実の能力によりみちづれとなるはずだったコーラルが生きている。
それを知ったマシロは口元を両手で押さえながら涙を流した。
「良かった……ちゃんと解放できたんだ……」
コーラルが生きていると知って明らかに安堵している様子のマシロを見た大仏は意外そうな顔になった。
「……君の故郷であるマッサラ島は彼女によって滅ぼされたはずだ。それなのになぜ彼女の無事を喜ぶ?」
「それは……友達だから」
「家族同然の者たちを殺されたのだろう? それなのに君は彼女を友達だと思えるのか? まさか私からの心証を良くするために偽りを口にしてはいまいな?」
大仏に強い語気で圧をかけられてもマシロの答えは変わらない。
「最初は憎かったよ。一生こき使ってやろうって思ってた。でもね、ずっと一緒に旅をして、コーラルのことをたくさん知るうちに……いつの間にか憎めなくなってたんだ。ねぇ、これってやっぱりいけないことだったのかな……マッサラ島のみんな、怒るかな……」
ここが死後の世界というのならマシロがマッサラ島の者たちと会うこともあるかもしれない。
そうなれば島のみんなの命を奪ったコーラルと仲良くしていた自分とは前のように接してくれないのではと不安になって、マシロは目に涙を浮かべた。
「君は正しいことをした」
そんなマシロの涙を大仏は大きな指で優しく拭い取り、頭を撫でた。
「金ぴかの巨人さん……」
「……大仏さんと呼んでくれ」
無知なマシロに自分の正しい呼び方を教えた大仏は穏やかな声でマシロに説法を始めた。
「罪を憎んで人を憎まずという言葉がある。正義とはただ悪を打ちのめすことではない。悪を生む環境を正すこと。それこそが本当の正義だと私は考えている」
大仏は子供でも理解できるような易しい言葉を選んだつもりであったが、マシロはしっくり来ていない様子だったので、さらに直接的な表現を使うことにした。
「コーラルという少女は悪いことをした。だが君が悪いことをやめさせた。残ったのは悪いことをしない良い子だ。ここまでは分かるな?」
マシロは頷いた。
「では問題だ。良い子を憎み、苦しめて傷つける者がいたら、それを君は何と呼ぶ?」
「それは……そんなのもう、海賊だよ」
大仏は悪と答えてほしかったが、事前に収集しておいた情報からマシロの中では悪と海賊が等号で結ばれていることをなんとなく察していたので、無理に訂正させようとは試みなかった。
「そうだ。もしもそんなことをしていたら君は海賊と同じになっていた。だが君は踏みとどまった。まるで正義の海兵のような君に、君の大切な家族が本当に怒ると思うか?」
問いかけられてマシロはかっこいい正義のマントを羽織った自分がマッサラ島に凱旋する光景を想像した。
「ううん……みんなはきっと、立派だねって褒めてくれると思う……」
マシロは涙と鼻水を滝のように垂れ流しながらうずくまり、くしゃくしゃになった顔を両手で覆った。
「……それでは君に判決を言い渡す」
もはや嗚咽を漏らすだけで会話ができそうにないマシロの背中に大仏は布のようなものをかけた。
それは海軍の将校のみに与えられる大きな正義の二文字が刻まれたコートであった。
「君の行き先は天国でも地獄でもない。我々海軍が君臨する島、マリンフォードだ」
同時に部屋の照明が点き、大仏が縮んで大柄なアフロの老人に変化した。
「おめでとう。君も今日から海兵だ」
この老人の名はセンゴク。
ヒトヒトの実モデル『大仏』の能力者にして、海軍の最高階級である元帥の肩書きを持つ男だ。
◯
ボルサリーノの軍艦内で治療を受けて一命を取り留め、そのままマリンフォードの海軍本部の一人用病室に運び込まれたマシロを四人の男が囲んでいた。
「なんだ……情報だと少年って話だったが、こりゃ女の子じゃないの」
ひとりはアイマスクを額当てのようにしているパーマの男、海軍大将『青キジ』ことクザン。
「性別なんてどうでもいいことじゃろうがい。わしらが見極めにゃあならんのは、ただひとつ……この小娘が正義に貢献できるか否かじゃけぇ!」
ひとりは海軍の制帽をかぶった赤いスーツの男、海軍大将『赤犬』ことサカズキ。
「力はあると思うよ〜。奇妙な姿になった麦わらのルフィにこそやられてはいたが……他の船員に加えて、あのシルバーズ・レイリーさえも、わっしが到着した時には既に戦闘不能に追い込まれていたからね〜」
ひとりはここまでマシロを連れてきた海軍大将『黄猿』ことボルサリーノ。
「冥王を……!?」
「ほぅ……事実なら有望じゃのう」
「くまの介入で逃がされたのは惜しかったけどね〜。だがこの子が味方になればまた機会もあるでしょう」
ボルサリーノはこの部屋にいる最後のひとり、海軍における人事の最終的な決定権を持つセンゴク元帥に視線を送った。
「そういうことなんでわっしはこの子を海軍に取り込むべきだと思いますが……どうです?」
「……力は疑いようがない。だが人格面の見極めは必要だ」
痛そうに頭を押さえたセンゴクがマシロに関する調査資料を近くにあった机に叩きつけた。
「コーラル宮のいかにも天竜人らしい行為により彼女の故郷であるマッサラ島の民は皆殺しにされ、能力によりコーラル宮を返り討ちにできた彼女だけが生き残った。そのような背景があれば天竜人に恨みを抱くのが普通だ」
話を聞いていた三人の大将が苦虫を噛み潰したような表情になった。
正義の海兵として天竜人の蛮行に思うところは当然あるが、世界政府の雇われ兵士である彼らは天竜人に仕える立場であり、虐げられた者たちが恨みから天竜人に刃を向けたとすればそれを阻まなければならないのだ。
「だが……マッサラ島は外部との交流が極めて少ない辺境の島だった。そのため彼女は天竜人をよく知らず、海から襲来して島を襲ったコーラル宮を海賊だと勘違いしたのだろう。その後は知っての通り、世界中で海賊を捕らえ続ける復讐者の完成だ」
センゴクの額を一筋の汗が流れた。
「彼女を味方にするということは、場合によっては我々の手で未来の強大な敵を育て上げることになりかねんのだぞ……」
脅威の芽は育つ前に摘むのが世界政府と海軍の方針であり、まだ罪を犯していない者を予防的に殺害したことは海軍の歴史において数え切れないほどにあった。
たとえマシロがまだ幼い子供でも、必要となれば命を奪う覚悟をセンゴクは固めていた。
固めてはいたが……極力やりたくないとは思っているし、何より簡単には殺害に踏み切れない理由もある。
「とはいえこの子が命を落とせばコーラル宮も亡くなられてしまう。黄猿、あのボールの中にコーラル宮が入るのを見たのだろう?」
今はマシロの頭の横に置かれている、彼女が意識を失ったあとも大切そうに強く握り続けていたというボールに、センゴクたち四人の視線が集中した。
「ええ、申し訳ねぇことにくまからお守りできなかったもんで……わっしじゃあボールからは出せませんでしたが、不死ってんなら中でもう復活してんでしょう」
「そこはこの嬢ちゃんに感謝だな」
「お前ほどのもんがあめぇ仕事しちょりよって……後でうるさいじゃろうが、わしゃあ子守りは手伝わんけぇのう」
天竜人のコーラルであればボルサリーノの失態にしつこく文句をつけてくるだろうと予想したサカズキが面倒くさそうに眉をひそめた。
「いやぁ……大丈夫だと思うよぉ。コーラル宮、聞いてた話よりだいぶ丸くなってたからねぇ」
頭部にルフィの強烈な一撃を受けて気絶していたコーラルはボルサリーノが到着してしばらくすると意識が戻っていたため、二人は共にルフィと戦いながら少しだけ会話ができた。
その際、状況を理解したコーラルはボルサリーノに「よく間に合ってくれたな! マシロを助けてくれてありがとよ!」と礼を言い、文句などひと言も口にしなかったのだ。
「コーラル宮だけじゃありません。その子も意識をなくす直前、わっしに死にかけの自分よりもコーラル宮を守ってくれって頼んできたんです。年が近いせいですかねぇ……この二人、もうとっくに和解してるんじゃあねえでしょうか。わっしはそんな印象を受けましたよ」
死人まで出しておきながら子供の喧嘩のように仲直りをする。
そんなことが本当にあり得るのかとセンゴクは疑ったが、現状ではボルサリーノだけがマシロやコーラルと直接言葉を交わした当事者であり、その意見は荒唐無稽と切り捨てるには重すぎた。
「……ならば私もこの子と話してみるとしよう。今後の対応はその結果次第だ」
それから智将センゴクはマシロから本音を引き出すために一芝居打ち、最も知りたかったマシロがコーラルを恨んでいないという事実を見事に聞き出してみせたのであった。
◯
「……海賊マスターとは何だ?」
センゴクは執務室の自席に座り、机を挟んで少し離れた椅子に座らせたマシロと向き合っている。
マシロの海軍入隊を認めたセンゴクは続けて普通の採用面接のような方式でマシロの詳細な情報を聴取していた。
その過程でマシロが海賊を捕まえる理由が海賊マスターになるためであると判明したのだが、センゴクにとってそれは未知の概念であった。
「博士に……俺の故郷で一番物知りだった人に教えてもらったんです! 何かを完璧にやり遂げた人をマスターって呼ぶんだって!」
「まあ、それは間違っていないが……」
センゴクはその理屈だと海賊マスターは海賊として大成した存在を示すのではと思った。
とはいえマスターという言葉にはペットや奴隷の主人という意味合いもあり、マシロの行為的に間違っていないのも確かなので、わざわざ指摘するのは控えた。
「なんというか……まあ、うん、いいんじゃないか? 立派な夢だと思うぞ。私は応援する」
「えへへ、ありがとうございます」
創作の変身ヒーローを夢見る子供が結果的に海兵を志望するようなものだと受け止めたセンゴクは、いつか大人になって現実を知れば嫌でも矯正されるだろうから、マシロが子供でいられるうちは優しく肯定し続けてやろうと心に決めた。
「では次に……君が今所持している人間について教えてくれ」
「はい! みんな出てこ……」
「待て待て! ここでは出さなくていい! 名前だけ教えてくれれば十分だ!」
海賊を海のクズどもと揶揄することもあるセンゴクは、汚物のような存在を自分の執務室に立ち入らせたくなかったので、手持ち海賊を呼び出そうとするマシロを慌てて制止した。
「あ、はい……えっと、コーラルと、シャムと、ブチと……」
「あぁすまない、できれば所属していた海賊団や異名などが分かっていたらそれも教えてくれ」
「わかりました。『天竜人』のコーラル、クロネコ海賊団の『ニャーバン・ブラザーズ』のシャムとブチ……」
天竜人は異名ではない。
センゴクはそんな言葉を飲み込み、無言で頷いてマシロに話を進めるように促した。
「クリーク海賊団の『鉄壁』のパール、アーロン一味のチュウ、海賊じゃないけど力を貸してくれてるドラム王国のチェスマーリモ、『金獅子』のシキ、イタチのオオタ……」
「待て、今なんて言った?」
マシロが列挙した人名の中に無視できない名前が混ざっていたため、センゴクはマシロの話を遮って確認しようとした。
「あ、ごめんなさい。イタチって言ってもイタチになる悪魔の実を食べた人間みたいで……」
「違うそのひとつ前だ! 金獅子のシキって言わなかったか!?」
「え? はい、言いました」
「……それは頭に船の舵輪が突き刺さっている老人か?」
「そうです。頭がニワトリみたいになってる変な人です」
マシロの答えでシキというのが同名の別人ではなく自分が知っている伝説の大海賊であるとセンゴクは確信できた。
「シャボンディ諸島で……捕まえたのか?」
シキはレイリーと戦ったと聞いているので、その戦いで瀕死になって逃げ出したシキに運良く遭遇したのだろうとセンゴクは予想した。
「いえ、別の島です。空から降ってきた島で出会いました。シキはフワフワの実の能力者で……」
「奴の能力は知っているから説明の必要はない。それより……まさか君は、自分の力だけでシキに勝てた、のか?」
「俺の力というか……コーラルが頑張ってくれたおかげで、どうにか勝てたんです」
しかしマシロとコーラルは自力でシキを打ち破っていた。
そうなるとセンゴクが考えていたマシロの戦力としての評価は大きく変わってくる。
レイリーを倒したというのもシキと戦って弱っていたおかげだろうからと過小評価していたが、シキがマシロの手中にあったなら最初から最後までマシロの力だけで海賊王の右腕に勝利したということに他ならない。
「……すまない。私は無意識のうちに君を子供扱いしていたようだ」
「……? 俺十歳だから子供であってますよ?」
「いや、まあ、実際子供ではあるのだろうが……守らなければならない無力な子供ではないのだと理解できた」
実は現在、海軍本部には大いなる脅威が迫っていて、センゴクは世界中から優秀な海兵を集めてそれを迎え撃つ準備を進めていた。
その脅威との戦いにおいてセンゴクはマシロを後方待機させて戦力としては数えないつもりだった。
それはその戦いがあまりにも苛烈なものになると思われているために海兵となったばかりの幼い子供を参加させるのは酷だと考えたからだが……シキを倒した強者に対してそのような気遣いはむしろ失礼だ。
「二日後、この島に世界を滅ぼす力を持つ大海賊が襲来する。我々海軍の力を結集させても確実に勝てるとは言えないほどの怪物だ。だが君の能力なら奴の弱点を突ける。力を貸してくれるな?」
「ハ!」
センゴクからの指令に勢いよく立ち上がって敬礼したマシロが大きな声で教わったばかりの海兵としての返事をした。
「では今この時より、海軍元帥センゴクの名において、君を海軍大将『白鼠』に任命する!」
まるで繁殖力の高いネズミのように無限に戦力を増やし続けるボルボルの実の能力と、真珠のような白い髪から、センゴクはマシロに白鼠の異名を与えた。
「君の力で海賊『白ひげ』を打ち破り! 白という正義の色が相応しいのは海兵である君なのだと、世界に示せ!」
「ハ!」
威勢の良いマシロの返事に負けまいとして部屋を震わせるほどの声量でセンゴクは宣言する。
「大海賊時代を! 終わらせるぞぉ!」
◯
「大事な話してたのは分かっけどよぉ! それにしたってコーラル出すのがおっせぇんだよおおおおお!」
与えられた自室に入ってマシロが最初にしたことは、センゴクから返却されたボールからコーラルを出すことだった。
ボールの中にいてもマシロの声だけは聞こえていたので、コーラルはマシロの状況を概ね把握しており、自分をボールから出すタイミングがなかったことも理解していたが、それはそれとして大嫌いなボールの中の暗闇に数日間閉じ込められたことに大激怒して、溢れ出る感情をぶつけるようにマシロに飛びついた。
「わぷっ……何すんだよ!」
マシロを傷つける行為を禁止されているコーラルは、マシロが怪我をしないようにベッドに押し倒すことで行動制限を回避した。
「うるせえバカマシロ! 今日という今日は徹底的にわからせてやる!」
マシロの腹部に馬乗りになったコーラルはそこから倒れ込むようにマシロに覆いかぶさった。
「わからせるも何もコーラルは俺を傷つけられなひゃあ!?」
コーラルのしたでなめる攻撃がマシロの顎から額まで横断した。
「人をいじめんのに傷なんてつける必要ねぇんだよぉ!」
「なんかぴりぴりする! 何これくすぐったい!」
コーラルのほっぺすりすり攻撃がマシロの頬を蹂躙した。
「かわいい耳してやがんなぁ! ついばんでやる!」
「そこだめ! コーラルそこだめぇ!」
コーラルがきのみをついばむ鳥のようにマシロの耳を唇で咥え、離し、また咥えた。
「おら! ここか? ここがいいのか!」
「もうちくちくやめてぇ! びりびりって変な感じがするぅ!」
コーラルの電気を帯びていない指先で全身をちくちく突かれたマシロの身体には不思議と電気が走ったようなびりびり感が生じていた。
「んちゅ~~~~~〜〜〜〜〜!」
「ん〜〜〜〜〜~~~~~!?」
天使のようにかわいいコーラルによってマシロは強引に唇を奪われた。
それが引き金となってマシロの身体に蓄積していた刺激がだいばくはつを起こし……未成熟な少女を昇天させた。
「ふぅ……ごちそうさん」
「あぅ……あぅぅ……にゃにこれ……にゃにこれぇ……」
全身を弛緩させてぐったりと力なく横たわったマシロを見下ろしたコーラルは、ゆっくりとその耳元に口を近付けて、そよ風のように吐息を吹きかけた。
「はぅっ!?」
全身の感覚が鋭敏になっている今のマシロは些細な刺激でも身体に電気が走ってしまう。
「これでわかったろ?」
「こ、こーりゃる……もうやめ……」
「やめな〜い」
おいうちを受けて痙攣するマシロにコーラルは猫撫で声で囁き続けた。
「コーラルはマシロのもんだけど、マシロはコーラルのもんなんだかんな。死ぬときゃ一緒だ。コーラルだけ生かそうとか二度と考えんじゃねえぞ」
センゴクとの会話でマシロが「良かった……ちゃんと解放できたんだ……」と言っていたのをコーラルはしっかり聞き取っていた。
そのことからルフィに殺されそうになったマシロはコーラルをみちづれにしないために何らかの手段でコーラルの解放を試みたのだと推測できたのだ。
「わかったな?」
コーラルはそのことが凄まじく不愉快だった。
別に死にたいわけではないが、マシロに先立たれて彼女がいない世界に残される未来を想像すると、不思議と無限に怒りが湧き上がって止まらなくなったのだ。
「わ……わかっ、たぁ……」
とろんとした目で力なくそう言ったマシロの火照った顔を見て、コーラルはにちゃぁっと口角を吊り上げた。
「あははははは! よくできました! んじゃ、いい子のマシロにはご褒美やらねぇとな!」
「えっ、ま、待って……まだやるの〜〜〜〜〜〜!?」
自分の気持ちをしっかり理解してくれたマシロにコーラルは再び覆いかぶさった。
マシロの能力を無効化する麦わらのルフィから海軍大将ボルサリーノによって救われ、かろうじて命を拾ったマシロとコーラル。
お互いの存在を確かめるように深く激しく行われる、二人のじゃれ合いはまだまだ続く!