海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第18話 VS 白ひげ Ⅱ

 開戦からまだ一時間も経過していないというのに白ひげ海賊団は早くも追い詰められていた。

 

「白ひげを殺せぇ!」

 

「引っ込んでろ敗北者! あいつの首をとるのは俺だぁ!」

 

「ギャハハハハハ! てめぇも敗北者だろ!」

 

 センゴクがマシロに与えた囚人の数は白ひげ海賊団の隊長たちに差し向けてもなお余るほどで、残る全員が我先にと白ひげに殺到した。

 

「ナメんなアホンダラぁ! 俺ぁ白ひげだぁ!」

 

「ぶげ〜〜〜〜〜!」

 

 囚人兵たちは怪物揃いだが、こと攻撃性能において白ひげのグラグラの実は最高峰で、地震の威力を纏った拳が怪物たちの頭を次々に粉砕して呆気なく絶命させていった。

 

「ギャハハハハハ! あいつ死んでやんの!」

 

「ウォッ! ウォッ! なら次は俺の番だ〜〜〜〜〜!」

 

 そんな惨状を見せられれば普通の人間は踏み込むのを躊躇するだろう。

 しかしマシロの能力で不死身となった囚人兵たちには死んでも次がある。

 差し違えても首を取れればそれが勝利となる囚人兵たちは白ひげに休む間を与えることなく襲いかかり、その体力を着実に削っていった。

 

「オヤジぃ!」

 

「よそ見してええのんか?」

 

「ギャアアアアア!」

 

 白ひげ海賊団十三番隊隊長、二刀流の巨漢『水牛』アトモスが劣勢の白ひげに気を取られ、相対していたガブガブの実の酒人間、『大酒』のバスコ・ショットが口から放ったはじけるほのおの直撃を受けた。

 

「おっとかわいそうに……今冷やしてやるよ。アイスタイムカプセル!」

 

 海を凍結させて足場を作った後も前線に残っていたクザンが大ダメージを受けたアトモスを追撃し、その全身を凍結させた。

 クザンのアイスタイムカプセルは非殺傷の拘束技で、ぬるま湯で氷をゆっくり溶かせば後遺症なく回復できてしまう。

 

「輸送部隊! 首を折らないように慎重に後方まで運べ!」

 

 そのため殺すべき海賊が相手ならばそこからさらに粉砕してやるのが常なのだが、今回は周囲の海兵たちに命令してそのままの形で後方へと運搬させた。

 

「海軍の奴ら、アトモス隊長に何を!?」

 

「まさか……あの白鼠とかいう大将のところに連れて行くつもりじゃ……!」

 

「まあぶっちゃけその通りなんだが……妨害とかはやめとけよ。落としたら割れて死んじまうからな」

 

 青キジの脅しを聞いた海賊たちはマシロの能力の餌食にされると分かっていても仲間の奪還を試みることができなくなった。

 

「あははははは! まるでアリに運ばれる虫けらの死骸みてぇだな!」

 

 そんな調子なのでマシロの目とボールが届く処刑台の間近まで次から次へと氷漬けの海賊が届けられ、その様子をコーラルが指差して笑った。

 

「すごい……! 大渦蜘蛛に雷卿、氷の魔女まで……!」

 

 普段であれば海賊はともかく海兵を虫扱いしたことに苦言を呈したであろうマシロは、まるで玩具屋のショーケースを眺める子供のように大物海賊たちに気を取られていたので何も言わなかった。

 

「うおぉい! 無視すんなマシロぉ!」

 

「うわっ、揺らすなよコーラル! 手元が狂う!」

 

 構ってくれないことに怒ったコーラルが横からマシロの服を掴んで激しく揺さぶった。

 それによりマシロが投げたボールは目標をずれて地面に衝突し、その際の僅かな音がきっかけとなって氷属性に耐性があった『氷の魔女』ホワイティベイが意識を取り戻した。

 

「うわああああああああああ!」

 

 身体を包む氷を砕いて立ち上がったホワイティベイが偶然にもエースに迫ったこの好機を無駄にしまいと決死の突撃を敢行した。

 

「無謀な女じゃのぉ。わしがやるけぇ」

 

「いやいや、わっしがやるよ〜」

 

 クザンと違って能力が生け捕り向きではないために処刑台付近で暇を持て余していたサカズキとボルサリーノが超人の脚力で空気を蹴って空中を走るホワイティベイを迎撃しようとした。

 

「そのまま通せ! そいつはコーラルが試し斬りに使う!」

 

 しかしコーラルが止めたことで大将たちは動かず、素通りとなったホワイティベイは処刑台の上に降り立ち、立ち塞がるコーラルに斬りかかった。

 

「子供でも容赦しないよ!」

 

「誰に物言ってやがる!」

 

 コーラルの手には雷模様のように直角に曲がりくねった奇妙な剣が握られていた。

 このフランベルジュに類似した剣の銘はアイアンテール。

 打撃と電撃を無効化する忌々しいゴム人間との再戦に備えてセンゴクに急ぎで用意させた業物だ。

 

「かみなりのキバ!」

 

「!?」

 

 電熱を帯びたアイアンテールがホワイティベイの剣を溶断し、その身体を深く斬り裂いた。

 

「マシロ!」

 

「監獄ボール!」

 

 コーラルが勝つと信じて疑わなかったマシロは既に投球姿勢に入っていたため、ホワイティベイが絶命するよりも早くボールを投げて無事に捕獲を成功させた。

 

「『氷の魔女』ホワイティベイ! ゲットだぜ!」

 

「ゲットだぜ!」

 

 マシロが見せしめにするようにホワイティベイが入ったボールを掲げ、息を合わせてコーラルがアイアンテールを天高く掲げた。

 

「あぁ……ベイ船長まで……」

 

「うおおおおお! あのホワイティベイが一瞬で!」

 

「コーラル宮〜〜〜!」

 

「大将殿ばんざ〜〜〜い!」

 

 処刑台に到達してエース救出の可能性を強く感じさせてくれたホワイティベイの悲惨な末路に海賊たちの絶望が色濃くなり、それに反比例するように海兵たちの士気が限界を突破した。

 

「あははははは! 何が四皇だよ! 弱いじゃねぇか白ひげ海賊団!」

 

「だから油断しちゃダメだってば」

 

「いいだろ。これもう勝ったも同然じゃ〜ん」

 

 マシロに諌められてもコーラルは態度を改めない。

 

「見てみろよほら。傘下の海賊はもうひとりも船長残ってねぇし、隊長とかいう幹部連中も崩れてきてらぁ。一番の問題だった白ひげ本人もあのザマだ」

 

 マシロは囚人兵たちの相手をしている白ひげに望遠鏡を向けた。

 

「ゼェ……ゼェ……くそったれ……」

 

「ギャハハハハハ! 動きが鈍ってきたぞぉ!」

 

「あとひと押しだな! その首貰った〜〜〜〜〜!」

 

 白ひげが振り回す拳や薙刀は当たれば囚人兵を一撃必殺で葬り去るが、ここまでの戦いで大量の血を流した白ひげは戦闘開始時よりもすばやさが低下していて、もはや攻撃の命中率は三割を下回っていた。

 

「ほんとだ。なんかいけそう……実は偽物とかじゃないよね?」

 

 本命となる特に強力な囚人兵は隊長の処理に振り分けられているため、最初から白ひげに突撃させられたのは使い捨てを前提とした弱い削り役だ。

 想定では削り役が全滅してからが本当の戦いだったのに、今の様子では削り役だけで白ひげを倒してしまいそうで、その前評判とは比較にならない弱さにマシロは悪魔の実の能力による別人の変装を疑い始めた。

 

「いや……ありゃあ間違いなく白ひげ本人じゃ」

 

「老いとは、残酷だな」

 

 そんなマシロの心配をガープとセンゴクは不要と断じた。

 変身能力を持つ悪魔の実は複数存在していても、変身相手の悪魔の実の能力まで再現できるものは存在しない。

 よってグラグラの実の能力を使っているからにはどんなに弱体化していても白ひげ本人であることは疑いようがなく、敵であっても同じ時代を生きた男の見る影もない姿に思うところがあった老兵たちは寂しそうに目を伏せた。

 

「白鼠、次の作戦は中止だ」

 

 マシロはセンゴクの知恵を借りて対白ひげの作戦をいくつか用意していた。

 本来であればこの後は凍らせて捕まえた白ひげ海賊団の者たちを解凍して戦線に復帰させ、海賊にしては珍しく仲間を家族のように大切にしている白ひげと同士討ちさせるはずだったのだ。

 

「え……やらないんですか? 家庭内暴力作戦」

 

 役に立たない部下を容赦なく粛清する大多数の海賊であれば効果はいまひとつの作戦でも、白ひげに対してであれば確実に効果はばつぐんだ。

 海賊相手には一貫して無慈悲なマシロはせっかくの弱点を突かずに捨て置こうと言われて心底不思議そうに首を傾げた。

 

「ああ、もはや必要ない。下手に追い詰めすぎてヤケを起こされても困るのでな。奴が一家心中の覚悟を決めたのならこの島ごと敵味方全員を海に沈められかねん。だから素直に囚人兵で削り切れるのであればその方がいい」

 

 センゴクから聞かされた理由は納得できるものだったので、マシロは特に不満を持たなかった。

 

「え〜! やんねぇのぉ!?」

 

 一方で家庭内暴力作戦によって白ひげが苦しむのを楽しみにしていたコーラルは不満を表明した。

 

「老いたとしても世界を滅ぼすグラグラの力は健在です。今は周囲の味方とエースを巻き込まないよう力を抑えているだけに過ぎません。どうかご容赦いただきたい」

 

「コーラル、海賊に罰を与えるのは賛成だけど、何するにしても捕まえて安全を確保してからにしようぜ。能力者相手に油断が禁物だってことは麦わらのルフィで学んだだろ?」

 

 センゴクの説得だけでは変わらず頬を膨らませたままだったコーラルは、マシロが口を挟むと一転して笑顔になった。

 

「しゃあねぇな! これ終わったらマシロが代わりに満足させろよな!」

 

「海賊と戦ってる時にする話じゃないだろ!」

 

 コーラルとの触れ合いはマシロにとっても心地の良い行為だ。

 

「でも……まあ、俺もコーラルと、その、したいから……戦いが終わった後でゆっくり、ね?」

 

 満更でもなかったマシロは仮面の下で顔を赤らめながら小さな声で承諾した。

 

「……! ならさっさとこの戦争に決着をつけねぇとな! つーわけで出番だぞ!」

 

 もはやマシロと遊ぶことしか考えられなくなって白ひげの尊厳を壊して遊ぶことはどうでも良くなったコーラルがガープに命令口調で話しかけた。

 

「言われんでも分かっとるわい。ほれ立て、エース」

 

「…………………………ああ」

 

 ガープに名を呼ばれたエースが立ち上がった。

 そしてその身体にメラメラと揺らめく炎を纏った。

 

「…………………………は?」

 

 呆けたような間抜けな声が戦場の至る所から聞こえてきた。

 それは悪魔の実の能力を封じる海楼石という特殊な石で作られた拘束具による戒めを受けていたはずのエースが『火拳』の異名の由来となったメラメラの実の能力を使えていること……すなわち解放されていることに対する驚きによるもので、エース奪還を目的とする海賊だけでなく、エースの解放を阻止するためにこの場にいる海兵たちまでもが状況を理解できずにいた。

 

「ぶわっはっはっは! 孫よ! わしの背を見てついてこい! 共に白ひげをぶっ飛ばしに行くぞ〜〜〜〜〜!」

 

 飛び出したガープに続いて首が落ちるまで処刑台を離れられるはずのないエースまでもが白ひげへと向かって移動を開始した。

 一見してエースが逃走したようにしか思えない状況でありながら、センゴクもマシロもコーラルも、処刑台の真下に控える二人の大将も、誰ひとりとしてそれを止めようとしなかった。

 

          ◯

 

「お前さんの能力をエースに使ってくれ!」

 

 それは昨日、インペルダウンから届けられた囚人たちの捕獲作業を完了したマシロがセンゴクや大将たちと対白ひげ海賊団の作戦会議を行なっている時のことだ。

 会議に呼ばれていなかったはずのガープが会議室に乱入してきたかと思えば、彼は目で追えない速さでマシロに迫り、唐突にそんな要求をした。

 

「わっ! えっ、と……どちら様?」

 

「そんなことどうでもいいじゃろ!」

 

「ひゃっ!?」

 

 ガープはマシロを抱え上げて連れ去ろうとした。

 

「うぉい! マシロに何しやがる!」

 

「やめんかガープ!」

 

 すぐにコーラルとセンゴクが出口を塞いでくれたおかげで誘拐は未然に防がれたが、ガープはマシロを解放しなかった。

 

「は〜な〜し〜て〜!」

 

「これ暴れるでない! そう怖がらんでも取って食ったりはせんわい!」

 

「コーラルのマシロに何してんだてめぇ!」

 

 電撃を放てば確実にマシロを巻き込んでしまうため、どんなに怒り狂ってもコーラルは動けない。

 

「ガープ、話は聞いてやるからまずは白鼠をおろせ。そして貴様は席につけ」

 

「ならこれでいいじゃろ」

 

 椅子に座ったガープが自分の大きな膝の上にマシロを乗せた。

 両肩を上からがっしりと押さえられているマシロは全く身動きが取れなくなった。

 

「ふざけんなクソジジイ! マシロを抱き枕にしていいのはコーラルだけだってのに!」

 

 コーラルがガープに駆け寄りマシロを押さえる手をはずそうと引っ張るが、ガープは微動だにしない。

 

「ふんぎぎぎぎぎ!」

 

「七武海に勧誘したこともあったんじゃから、言うことを聞くようになるなら殺す必要はないじゃろ」

 

「無視すんな〜〜〜〜〜!」

 

 騒ぐコーラルを徹底して無視するガープにセンゴクは頭を抱えた。

 

「コーラル、俺は大丈夫だから落ち着いてくれ! 少なくとも海兵さんみたいだし敵じゃない……はず」

 

「コーラル宮、白鼠の言う通りです。ガープが彼女に危害を加えることはありませんので、どうか席にお戻りください。話さえ聞いてやれば手放すでしょう」

 

「ちっ、わーったよ! おらさっさと話してマシロを放せ!」

 

 こうしてガープを参加者に加えて会議は再開され、話の焦点はエースの扱いに当てられた。

 

「つまり貴様は、たかだか七武海程度の戦力をひとり得るためだけに、これほど大々的に世間に周知したエースの処刑を中止しろと言うわけだな?」

 

「無理に戦力化しろとまでは言っとらんわい。処刑したふりをしてこの先ずっと檻の中でも構わん」

 

「海賊王の血筋を残せと?」

 

「わしの孫の命を奪うなと言っておる」

 

「孫!?」

 

 睨み合うセンゴクとガープを大将たちが傍観する中、ガープの膝に座るマシロが声をあげた。

 

「えっ、でも火拳のエースは海賊王の子供だって……」

 

「あははは! 娘と海賊王との間にできたってことだろ。海兵のくせに自分の娘も守れねぇとか、うけるんですけどぉ!」

 

 エースが本当にガープの孫だとすればコーラルの予想が正解でもおかしくなかった。

 

「ん? 何言っとんじゃお前。わしに娘なんぞおらんわい」

 

 しかしガープは鼻をほじりながらコーラルの予想をきっぱりと否定した。

 

「エースはロジャーの死後引き取った義理の孫じゃ」

 

「ならさっさと言っとけよ! つかマシロの頭の上で鼻ほじんな!」

 

「えっ!?」

 

「言われんでも下には落とさんわい」

 

 ガープが指先についた鼻くそを爪で弾き飛ばした。

 銃弾以上の速度で放たれた鼻くそは一直線にコーラルの額に向かい、ロギア系の流動する身体を貫通して通り過ぎた。

 

「ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁああ〜〜〜〜〜!」

 

「コ〜ラル〜〜〜〜〜!」

 

「ぶわっはっはっは!」

 

 鼻くそに貫かれて絶叫するコーラルの姿を指差しながら天竜人嫌いのガープが爆笑した。

 

「殺す! もうこいつ絶対殺す! メガシン……」

 

「お〜、コーラル宮〜。この通りマシロは救出しましたからねぇ」

 

 殺し合いの勃発を止めてくれたのは、ガープがコーラルを笑うために手をずらした一瞬でマシロを救い出したボルサリーノであった。

 

「コーラル!」

 

「マシロ!」

 

 互いに駆け寄って固く抱き合うマシロとコーラル。

 幼い二人の微笑ましい姿をクザンとボルサリーノが笑顔で見守る一方で、センゴクは大きなため息を吐き出し、サカズキは苛立たしげに足を組み替えた。

 

「ガープ中将! 引退間際の中将のあんたにゃ分からんでしょうが、大将ともなると暇じゃあないですけ! エースごときのために余計な議論をさせんのはやめておくんない!」

 

「余計なものか! エースが死なんと分かりゃあわしのやる気が上がるわい!」

 

「はは、そいつは頼もしい。いいんじゃないですかセンゴクさん。俺はガープさんにつきますよ」

 

 クザンがガープに味方すると言い出したことでサカズキはますます苛立ち、額に怒張した血管を浮かべた。

 しかし同じ大将の意見ともなれば簡単には無視できず、サカズキはまだ立場を表明していないボルサリーノに目を向けた。

 

「わしか、クザンか。どっちじゃ兄弟?」

 

「お〜……そうだねぇ。わっしはどっちつかずでいるよぉ」

 

「何?」

 

「エースの生き死になんかでわっしらがごたつく必要ねぇでしょう。実際に能力を使うことになるマシロに決めさせなよぉ。いいでしょう? センゴクさん」

 

「……いいだろう。最悪処刑したふりをして監獄送りでも構わんのなら、世間体を取り繕うのは難しくないからな」

 

 マシロに最終的な決定権を預けるというボルサリーノの意見にセンゴクが同意したため、エースの命運はマシロに委ねられた。

 

「そういうことなら捕まえたいです!」

 

 そしてあっさりエースの死は回避された。

 

「それで処刑台の上でいっぱい恥をかかせて、世界中の人に海賊への憧れを持たせたっていう海賊王の名声にたくさん泥を塗らせるんです!」

 

 ただし死を回避した先に待っていたのは死ぬよりも悲惨な末路であった。

 

「コーラルはそういうこと考えるの得意だよな?」

 

「おう! まずは泣き喚きながら命乞いさせて〜、その後は定番の裸踊りだろ? あ、土下座させながら『生まれてきてごめんなさい』って朝から晩まで叫ばせんのもいいな。捕まえる価値のない白ひげ海賊団の雑魚を笑いながら焼き殺させるとかも面白そうじゃん!」

 

 コーラルの口から飛び出す人を人とも思わない残虐な行為の数々にマシロを除く海兵たちは戦慄した。

 コーラルの好きにさせれば海賊王の名は極限まで落ちぶれるだろうが、巻き添えで海軍の名声も地に落ちる。

 それを防ぐために先ほどまでいがみ合っていた男たちは自然と団結した。

 

「……そこまでせんでも助けに来た白ひげを刺させりゃあ十分じゃけぇ」

 

「いや、それだと海賊王の子に白ひげ討伐の箔が付いちまう」

 

「ならばエースを海兵にするのはどうじゃ?」

 

「海賊が海兵になった前例はあるが……火拳ほど名が売れている海賊にそれを認めては世間に申し訳が立たんぞ」

 

「最初から海兵だったってことにするのはどうです? 潜入工作のために海賊のふりする海兵は少なからずいるでしょう」

 

「名案だ黄猿。海賊王の息子が親の罪を償うために海兵となったと知れば、海賊という悪に夢を見る勘違いした若者たちも身をわきまえるようになるだろう。その方向で調整しよう」

 

 その後、自分の案をさりげなく却下されたことに頬を膨らませるコーラルを手早くなだめたマシロはガープに連れられてエースと対面した。

 

「喜べエース! 貴様はわしの孫だから処刑しないことになった!」

 

「……は? そんなことあるわけ……」

 

「愛ある拳!」

 

「がっ……!?」

 

「行け! 監獄ボール!」

 

 捕まえることはもう確定していたので、ガープは問答無用でエースを殴って気絶させ、間髪入れずにマシロがボールを投げた。

 

「火拳のエース! ゲットだぜ!」

 

 マシロの手持ち海賊となったエースはその場でガープに所有権が譲渡され、これからは昔ガープが夢見た通り海兵としての道を歩むことになった。

 

「マシロ! お前の投球力はなかなかのもんじゃった! 今度砲弾の投げ方教えてやるわい!」

 

 そしてすっかり気に入られてしまったマシロはほぼ強制的にガープの弟子にされ、女の子がやるにはきつすぎる無茶な修行を課されるようになったのだが・・・。

 

「はい! 俺も大将として自分の手で海賊を倒せるようになりたいです! よろしくお願いします!」

 

 向上心に溢れるマシロは喜んでいたので、この件の顛末で損をした『海兵』はひとりもいなかったのである。

 

          ◯

 

「結論から言おう。火拳のエースは白ひげ討伐のために海賊団に潜入していた海兵だ!」

 

 異様な光景に直面して硬直する全ての人間にセンゴクが表情を変えることなく虚構を語った。

 

「おい、エース、嘘だよな!? 嘘だと言ってくれえええええ!」

 

「ああ! お前ら海賊との家族ごっこは全部嘘だ! やっと終われてすっきりしたぜ!」

 

 現実との齟齬が出ないように短く纏められた作り話が終わる頃にはガープとエースは前線に到着していた。

 センゴクの話を信じられない海賊たちはうろたえるばかりで何もできず、そんな無抵抗の海賊たちにエースは容赦なく攻撃した。

 

「蛍火……火達磨!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

 エースのメラメラの実の能力で燃やされた海賊たちがのたうち回った。

 

「さすがわしの孫! なかなかやるわい! だがわしも負けておらんぞ!」

 

 ガープが炎上中の海賊を掴み上げ、他の海賊目掛けて投げ飛ばす。

 

「海賊火の玉!」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

「ぶわっはっは! これがわしとエースの合体技! 家族の絆の力じゃあああああ!」

 

 エースと力を合わせて戦うガープの快進撃は誰にも止められない。

 

「そんな……それじゃ俺たちはなんでこんなとこに来ちまったんだよ……これじゃみんな無駄死にじゃねぇかよ!」

 

「見損なったぞエース!」

 

「最低のクソ野郎! お前なんかを助けに来た俺たちが馬鹿だった!」

 

 マシロの能力を目撃しておきながらエースの身に何が起きたか理解できない想像力が欠如した海賊たちは口々に精一杯の罵倒を吐いた。

 対するエースは表情ひとつ変えずに淡々と攻撃を繰り返し、内容に反してエースに救いをもたらす数々の言葉はすぐに炎に呑まれて消滅した。

 

「エース……間に合わなくって、ごめんなぁ」

 

「俺たちみたいな嫌われ者よりずっと立派じゃねぇか! 頑張れよ、海兵!」

 

 むしろエースの心に傷を与えたのは全てを理解した上で寄り添ってくる優しい言葉だった。

 

「お前らが……お前らが馬鹿なおかげで俺は白ひげを倒せそうだ! 世界一のクズの血を引いた俺なんかを……愛してくれて、ありがとう!」

 

 親指を立てた笑顔の海賊たちが炎に包まれて消えて行った。

 その中にはかつてエースが白ひげ海賊団に加入する前に率いていたスペード海賊団の仲間たちも含まれていた。

 

「ギャハハハハハ! 終わりだな白ひげぇ!」

 

 この戦争の結末は誰の目にも明らかだ。

 海軍が勝利者で、白ひげ海賊団が敗北者となることはもはや誰にも覆せない。

 しかし戦争において敗北が決まった者が最後にできることがひとつだけある。

 それは負け方を選ぶことだ。

 

「その首もらっ」

 

「黙ってろ」

 

「あばぁ!?」

 

 白ひげは群がる敗北者たちの誰にも自分の命を渡さなかった。

 

「白ひげが動いたぞぉ!」

 

「エースの方に向かってる! 騙された報復をするつもりだ!」

 

「誰も手を出すな! わしの孫の晴れ舞台じゃ!」

 

 満身創痍になりながらも自分に向かってきた敗北者たちをことごとく返り討ちにして前進した白ひげは、間もなくエースと相対した。

 

「グラララララ……初めて会った時を思い出すな」

 

「ああ……あの時も俺はあんたの首を狙って、無様に返り討ちにされたんだったな」

 

「船に乗せた後も飽きもせず毎日襲ってきやがってよぉ」

 

「寝てる時も酔ってる時も、クソしてる時でも防ぎやがって……さすがに自信なくしたぜ」

 

「グラララララ! そこまでやられて海兵だって見抜けなかったとは、俺も耄碌したもんだ!」

 

 全てを理解している白ひげはあえてエースが海兵であるという嘘に同調した。

 

「最後に聞かせろ! 俺がオヤジで良かったか!?」

 

「……! 俺みたいなろくでもねぇ奴を息子と呼び! 俺を助けるために海軍に戦争ふっかけちまう! そんな馬鹿な男が……俺のオヤジで本当に良かった!」

 

 白ひげの意図を理解したエースは、まるで皮肉のように聞こえる内容で本心からの感謝を伝えた。

 

「海軍のエース! よくも俺たちをハメやがったな! 息子たちの無念を晴らさせてもらう!」

 

「大海賊白ひげ! あんたの時代を終わらせるのは、この俺だあああああ!」

 

 白ひげが振り下ろした薙刀はこれまでの負傷のせいか異様に遅く、それを容易く回避したエースが自身の代名詞となった技を放つ。

 

「火拳!」

 

 エースの拳が白ひげの腹に命中し、そこから噴き出した炎が白ひげを貫通して内臓を焼き尽くした。

 

「今だぁ!」

 

「監獄ボール! お願いコーラル!」

 

「おう!」

 

 センゴクの合図を受けたマシロが処刑台の上からボールを投げても、さすがに遠すぎて白ひげまでは届かない。

 だからと言ってマシロを最前線に向かわせるのは、能力者本人を殺せば捕まった仲間が解放されると考えた海賊に命を狙われる恐れがあるため、さすがにセンゴクとしては認められない。

 

「必殺の……コーラルシュート!」

 

 その問題を解決するため、一瞬だけメガシンカしたコーラルが一部例外を除いて物理的な衝撃では壊れることのないマシロのボールを全力で蹴り飛ばした。

 流星のように飛び立ったボールは絶命寸前の白ひげに命中し、中に吸い込んで閉じ込めた。

 

「エース! 勝ち鬨じゃあ!」

 

 白ひげのボールを手に取ったエースがガープに促されて堂々と名乗りを上げる。

 

「四皇『白ひげ』! 海軍本部中将ポートガス・D・エースが討ち取ったぞおおおおお!」

 

「ウオオオオオオオオオオ!」

 

 海兵たちの雄叫びがマリンフォードを震わせた。

 ここに白ひげは墜ち、海軍に新たな二人の英雄が誕生した。

 

「終わったな」

 

「ううん、違うよコーラル。ここから始まるんだ」

 

 これはまだ始まりに過ぎない。

 世界中の罪なき人々を苦しめた大海賊時代、その終焉への一歩を、世界は今この瞬間に踏み出したのだ。

 

「赤髪! 百獣! ビッグ・マム! 残りの四皇も捕まえて、俺は海賊マスターになる!」

 

 大海賊時代はまだ終わっていない。

 しかし必ず、マシロの能力が全てを終わらせる。

 いつか訪れるその日まで、マシロとコーラル、二人の戦いはまだまだ続く!

 

「おう! ……でもその前にマシロはやることあるよな?」

 

「えっ?」

 

「エースで遊べなかった分、マシロが代わりにコーラルを満足させろよな!」

 

「ちょっ、ここじゃ人目が……!」

 

「知るかぁ! 天竜人ってのは我慢がきかねぇんだよぉ!」

 

「黄猿! 光で二人を隠せ!」

 

「……さすがのわっしもこんなことで能力使うの初めてだよぉ」

 

「……子守は大変じゃのう、兄弟」

 

 続くったら、続く!

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