海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第19話 VS キリンガム Ⅰ

 白ひげ海賊団との戦争を終えてから数日後、数万人に及んだ白ひげ海賊団残党の後処理を終わらせたマシロはコーラルの要望でマリンフォードからすぐ近くにある彼女の故郷、『聖地』マリージョアに向かっていた。

 

「てめぇら……また俺を便利な移動手段にしやがって!」

 

 マシロたちの移動手段はシャボンディ諸島から回収したラプラス号で、マリージョアはレッドラインの崖の上にあるため、今回もシキの能力で飛行船にして使っている。

 

「いいだろそのくらい。白ひげとの戦いで役に立たなかったんだから、その分働け」

 

「てめぇが出さなかったからだろ! 俺がそこにいりゃあニューゲートの野郎の首なんざ斬り落としてやったってのに!」

 

「じゃあ出さなくて良かったよ。斬り落とされたら捕獲できなかったんだから」

 

 マシロの言い方から実際には白ひげを捕獲したのだと解釈したシキが怒りの形相から一転して無表情になった。

 

「……ってこたぁ、マシロお前、本当にあいつまで捕まえやがったのか」

 

 マシロの声でしかボールの外の状況が把握できなかったシキは断片的な情報から白ひげが捕まったことは推測できていたが、かつて同じ海賊船に乗ったことすらある身として白ひげという強者がマシロのような子供に負けるとは信じられなかったのだ。

 

「知り合いなの? お話する?」

 

「いや、いい……互いにどんな顔すりゃいいのか分かんねぇからよ」

 

「あははは! 負け犬同士、下唇を引っ張ってバカにし合えばいいんじゃね〜の?」

 

「おいマシロ! このガキ性格悪いぞ!」

 

「……今に始まったことじゃないよ」

 

 言い争うシキとコーラルから目を逸らして、マシロは少しだけ顔を暗くした。

 故郷のマッサラ島を滅ぼしたコーラルから彼女の故郷を紹介したいと言われた時にはさすがのマシロも心がざわついた。

 マシロと一緒にいるうちにコーラルは少しずつ良い子に矯正されつつある。

 それは確かであっても性根の悪辣な部分は今も昔も変わっておらず、おそらく今のマシロがなぜ憂鬱なのか説明してもコーラルは表面的にしか理解してくれないだろう。

 

「すっ転んで完璧な計画(笑)を棒に振った自称用意周到な男に〜、世界最強(笑)とか呼ばれてたくせにマシロに手も足も出なかった男だろ? お前らお似合いなんですけど〜! これからはせいぜい仲良くマシロの役に立てよな! あははははは!」

 

「……はぁ」

 

 それでも今のコーラルがやらかすとすればせいぜいが誰彼構わず煽り倒すことだけで、罪のない人を傷つけることは絶対にない。

 マシロにとっての海賊判定基準であるその一線さえ二度と踏み越えないのであれば、今の心地良い関係を壊さないためにも、マシロは多少の苛立ちは押し隠して笑顔でコーラルの横暴に付き合ってやろうと既に覚悟を固めていた。

 

「と〜ちゃ〜く!」

 

 ラプラス号は立派な屋敷の広い庭に着陸した。

 

「ここがコーラルの屋敷で、今からマシロの屋敷でもあっからな! 好きな部屋使って……あっ、やっぱ一緒の部屋な!」

 

「おっきい……本当に、お金持ちの権力者だったんだね」

 

 マシロはコーラルの屋敷の大きさに驚かなかった。

 それはこれまで魚人のような種族的な概念だと思い込んでいた天竜人についてセンゴクやガープから教わっていたおかげだ。

 かなり言葉を選んでいたセンゴクと異なり、ガープは包み隠さずに現実を教えてくれた。

 天竜人とは……莫大な金と権力に溺れたゴミクズなのだと。

 最初に会った頃のコーラルの言動を知るマシロにとってガープの話は非常に納得できるもので、マシロはその場でガープを叱責していたセンゴクに頼み込んで、天竜人を取り巻く複雑な事情を聞き出した。

 その上でマシロはセンゴクや他の海兵たちと同じように、やっていることがどれだけ海賊に類似していても、コーラルのように海賊行為そのものに手を染めない限りは天竜人を海賊として扱わないことにした。

 

「まぁな! でもマシロももうすぐそうなるんだかんな!」

 

「うん……そうだね」

 

 少し前の、海兵になる前のマシロであれば、マリージョアに到着した瞬間に白ひげを暴れさせて全てを破壊していたかもしれない。

 しかし今のマシロは海軍大将で、不用意な行動が海軍という巨大な組織を揺るがし、結果として海賊に利益を与えてしまいかねない。

 だから手を出すにしても大海賊時代を終わらせてからだと、マシロは自分の中の優先順位を明確に決めたのだ。

 

「じゃあ今からパンゲア城にいる五老星のじい様たちのとこ行こうぜ! 屋敷の案内はその後な!」

 

 五老星は天竜人の中でも特に偉い五人の老人だ。

 天竜人同士の婚姻や単に妾とするための婚姻であれば申請は不要だが、コーラルが考えているような平民を天竜人とするための婚姻には五老星の承認が必要となる。

 

「うん。でも、移動手段は俺に任せてくれない?」

 

「ん? 城まで空飛んでくのはダメだぞ。さすがに怒られっから」

 

「分かってるよ。だから使うのはシキじゃなくて……出てこい! ニューゲート!」

 

 マシロはマリージョアで暴れさせないことにしたはずの白ひげを呼び出した。

 

「グララララ……こんな場所で俺を呼び出しやがるたぁ、おめぇ天竜人と戦争でもするつもりか?」

 

 エースの火拳に貫かれた腹部の傷もすっかり塞がった白ひげは、海賊大将であるマシロにとっては敵地でないはずのマリージョアで呼び出された理由が分かっていない様子だ。

 

「そんなわけないだろ。お前にやってもらうのは俺の能力の宣伝だ。ニューゲート、四つん這いになれ」

 

「あぁ!?」

 

 いかに白ひげであっても捕まったからにはマシロの命令に逆らえない。

 

「さ、コーラルも」

 

 四つん這いの姿勢にさせた白ひげの大きな背中によじ登ったマシロがコーラルに手を差し伸べた。

 

「おぉ……おおぉおおぉおおおお!」

 

 白馬に乗った王子様ならぬ白ひげに乗った旦那様にコーラルは胸の高鳴りが止まらなくなった。

 

「おおお……おお?」

 

 お姫様抱っこを想像していたコーラルはマシロの隣に横並びで座る自分に首を傾げた。

 

「コーラル?」

 

「なぁマシロ……コーラル置く場所間違ってね?」

 

「普通の馬みたいに縦に並んだ方が良かった? ニューゲートの背中は広いからこれでもいいかと思って……」

 

「乙女心の分かんねぇやつだな! 抱き上げろって言ってんだよ!」

 

「外では我慢するって約束しただろ! コーラルは天竜人だからって何も言われなかったけど、俺はセンゴクさんにめちゃくちゃ怒られたんだぞ!」

 

 さらにマシロはセンゴクの説教に加えてウォシュウォシュの実の能力者である老女海兵つる中将によってリビドーを洗い流されてしまったため、再び汚れがつくまでのしばらくの間は高尚な使命のことしか頭にない賢者のような精神状態が持続するのだ。

 

「ここは私有地だから何しても問題ねえっての! つべこべ言わずにコーラルを抱けぇ!」

 

「今はダメだ! これから偉い人に会いに行くって時に服がぐちゃくちゃになったら困るだろ!」

 

「後ろに家があんだから着替えてきゃいいだろ!」

 

「俺の着替えはまだそこに置いてないだろ!」

 

「……グラララララ」

 

 背中の上でケンカをするマシロとコーラルの賑やかな声を聞きながら、孫が遊びに来た時の祖父の気分になっていた白ひげは、自分が屈辱的な姿勢を強要されていることを少しも気にかけずに小さく笑った。

 

「おめぇらぁ! 家族になるってんなら仲良くしやがれアホンダラぁ!」

 

「うわっ!?」

 

「地震か!?」

 

「グラララララ! しっかり捕まってろよ!」

 

 そしてグラグラの実の能力を使ったのかと錯覚するほどの大きな揺れを身体の動きだけで作り出しながら、マシロとコーラルを背に乗せた白ひげは天竜人の町へと走り出した。

 

          ◯

 

「退屈だえ〜。おいお前、何か面白いことしろえ」

 

 普通の人間族のヒトウマに跨って散歩中の天竜人チャルロス聖が不意に首輪に繋いで引き連れている奴隷の少女に命令した。

 

「えっ……はい! 面白いことします!」

 

 奴隷の少女は動揺を押し隠し、無理に作った満面の笑顔で命令を承諾した。

 天竜人の奴隷となってまだ一か月も経っていない彼女は、その短い期間で天竜人の機嫌を損ねて殺された奴隷を両手の指では数え切れないほどに見ていたので、必死に頭を働かせてチャルロスを満足させられる芸を考えた。

 

「えっと、えっと……ぶひぃ! ぶひぶひ、ぶひぃ!」

 

 その結果、奴隷の少女は指で自分の鼻の穴を押し広げて、可愛らしい顔を醜く歪めて滑稽なブタの真似をした。

 

「……」

 

「ど、どうでしたか?」

 

「……つまらんえ」

 

 チャルロスは服の収納部分から銃を取り出した。

 

「ウサギ狩りで遊ぶえ! お前、もういらないからウサギ役だえ」

 

「ひっ!? 申し訳ありません! どうか命だけは! そ、そうだ、ご奉仕! ご主人様にご奉仕します!」

 

 かろうじて性器を隠していただけの僅かばかりの服を脱ぎ捨てようとする少女奴隷にチャルロスは眉をひそめた。

 

「下品な奴隷だえ!」

 

「そ、そんな……だってお屋敷ではあんなに……」

 

「高貴なわちしが屋外でそんなことするわけないえ!」

 

 チャルロスは奴隷少女の頭部に向けて発砲した。

 狩りは貴族の嗜みであり、その例に漏れず幼少期から銃の扱いを練習してきたチャルロスの射撃精度は高い。

 片手で銃を持っても反動で射線がぶれるということはなく、放たれた銃弾は奴隷少女を即死させるはずだった。

 

「ラキューバ! みがわり!」

 

「ゔっ」

 

 しかし割って入った知らないおじさん……海賊ラキューバがみがわりとなって銃弾をその身で受けてくれたおかげで奴隷少女は助かった。

 

「誰だえ!?」

 

「俺ぁ白ひげだ!」

 

「そうかえ! って、白ひげ〜〜〜〜〜!?」

 

 基本的にマリージョアの外の世界情勢に興味を持つことが少ない天竜人であっても四皇と呼ばれるほどの海賊であればさすがに知っている者の方が多く、特に父親が海賊の船長奴隷を集めているチャルロスは白ひげがどれほど危険な存在かしっかり理解できていた。

 

「海賊の襲撃だえ〜〜〜! 衛兵! わちしを守るえ〜〜〜!」

 

「ちげぇよ落ち着けバカ!」

 

「バカ!? このわちしにそんな暴言を吐くのは誰だえ!? 死刑にするえ!」

 

 四つん這いになってもなお大きな白ひげの背に乗っているコーラルはチャルロスから見えにくかったようだ。

 

「誰が、誰を死刑にするって?」

 

「げぇ!? コーラル!」

 

 白ひげから身を乗り出すコーラルの姿を見てしまったチャルロスが絞め殺されるニワトリのような悲鳴をあげた。

 妹のシャルリアと親しいコーラルはチャルロスとも昔から交流があるのだが、性別の違いのため趣味が合わず、粗暴で口が悪くて事あるごとに煽ってくるコーラルにチャルロスは苦手意識があった。

 

「シャルりんにチクられてぇか? あ゙あ゙!?」

 

「ゔっ、シャルリアを巻き込むのは卑怯だえ……」

 

 下手な嘘泣きをするコーラルからチャルロスにイジメられたと泣きつかれたシャルリアが冤罪でチャルロスを叱りつける展開は珍しくなかった。

 それによって妹との関係が冷え込むと兄として大ダメージを受けるので、チャルロスはコーラルに頭が上がらないのだ。

 

「でもさすがに白ひげについては説明してほしいえ! なぜそんな危ない奴をこの聖地に連れ込んだんだえ!」

 

「あ? 今のこいつは何もできやしねぇよ。さんざんニュースになってんだから、マシロの能力くらい知っとけよな」

 

「マシロ……? どこかで聞いたような……」

 

「どうせシャルりんから聞いたのに忘れたんだろ! 二度と忘れないように、耳の穴かっぽじって頭に刻み込みやがれ!」

 

 コーラルに手招きされたマシロが立ち上がり、腕を組んで正義のコートを風になびかせる堂々とした姿をチャルロスに見せた。

 

「大海賊白ひげを捕らえた英雄! コーラル専属の海軍大将『白鼠』! そしてコーラルの最高に素敵な入婿! その名も……」

 

「マシロです。お見知りおきください」

 

 派手に名前を叫ぼうとするコーラルを遮ってマシロがさらりと自己紹介を済ませてしまった。

 

「マ〜シ〜ロ〜! なんでコーラルに言わせねぇんだよ!」

 

「だって住宅街なのに声が大きかったから……」

 

「思い出したえ! 確かにシャルリアから聞いてたえ! よく来たえ!」

 

 天竜人以外を見下しているチャルロスは意外にもマシロに好意的だった。

 それというのも、海賊によって人質にされたチャルロスを助けたのはマシロであり、さらに非常に面白い能力を持っているとシャルリアから聞いていたためだ。

 

「お前の能力は聞いてるえ! 人間を主人の命令に逆らえない奴隷生物に変えるんだえ? しかも死んでも一日で生き返るんだえ?」

 

「海賊を、そのように変えます」

 

「むふー! わちしも欲しかったんだえ! 何匹かよこすえ!」

 

「おい! たとえマシロがまだ天竜人じゃなくても、マシロはコーラルの専属大将だ! 命令していいのはコーラルだけなんだよ!」

 

「うひぃっ!? わ、悪かったえ……」

 

「まあまあコーラル、いいじゃんか。ラプラスを回収するついでにシャボンディ諸島でいっぱい捕まえてきたんだから」

 

 ラプラス号を回収する際、マシロたちにはボルサリーノも同行しており、海賊の捕獲を手伝ってもらった。

 光の速さで海賊を倒せるボルサリーノのおかげで短時間の滞在でもシャボンディ諸島に居合わせた海賊を根絶やしにする勢いで捕獲作業は進み、残念ながら億超え賞金首はひとりもいなかったものの、数十人の賞金首を含めた五百人近い海賊をマリージョアへのお土産として確保できたのだ。

 

「……! いいのかえ!?」

 

「でもタダじゃないですよ。あなたのいらない奴隷と交換しましょう」

 

「するえ! するえ! 今いるこいつら全員いらんえ!」

 

 海賊ではないのに奴隷にされている哀れな人たちを助けてあげたいマシロ。

 どんな命令にも逆らわない不死身の奴隷生物が手に入るのならはした金で購入した奴隷なんて少しも惜しくないチャルロス。

 ここに二人の利害が一致して、人間交換が成立した。

 

「て、天竜人の奴隷になるくらいなら死んでや……」

 

「舌を噛むのは禁止だ。せっかく治ったんだから大切にしろよ」

 

 使う機会がなかったために思い入れがなく、今となっては戦力としても大した価値のない懸賞金一千万程度の弱小賞金首ラキューバもチャルロスのものになった。

 

「むふふ〜ん、楽しみだえ!」

 

 ヒトウマとなったラキューバに跨ったチャルロスが鼻水を撒き散らしながら品性のない笑みを浮かべた。

 

「こいつら使って何すんの?」

 

「いつもならもったいなくてできないことをいっぱいするんだえ!」

 

 チャルロスが何をするつもりなのかマシロには想像もできなかった。

 しかしチャルロスに譲渡した元海賊の奴隷生物たちが地獄すら生ぬるいと感じるような苦痛を与えられるのは間違いない。

 それをいい気味だと思わないのがマシロであり、だからと言って慈悲を与える気がないのもマシロであるが……天竜人の残虐趣味を助長してコーラルに続く第二の天竜人海賊を生み出すことだけは避けたかったので、マシロは奴隷生物の使い方に少しだけ口出しすることにした。

 

「チャルロス聖、こいつら海賊の一番面白い使い方、海賊バトルをご存知ですか?」

 

          ◯

 

「ん……? なんか騒がしいな」

 

 自分の屋敷で惰眠を貪っていた初老の男性天竜人シェパード・ソマーズ聖は、いつもは奴隷の悲鳴と天竜人の笑い声しか聞こえないはずのマリージョアに響き渡る大音量の声援で目を覚ました。

 

「なんだぁ? この人だかりはよぉ……」

 

 騒音の原因を探しに外出したソマーズは広場で何かを輪になって観戦している大勢の天竜人たちを発見した。

 

「キリンガム」

 

 ソマーズは人混みの中に知り合いの若い男性天竜人、リモシフ・キリンガム聖を見つけて声をかけた。

 

「ん? ああ、ソマーズか」

 

「何やってんだこれ?」

 

「海賊バトルだとさ」

 

「何だそりゃ?」

 

「見りゃ分かる」

 

 イバイバの実の能力者であるソマーズは地面から生やした長いイバラに乗って高所から人だかりの先を見た。

 

「ラキューバ! 刺し殺すだえ!」

 

「かわして殴り殺すえ!」

 

 そこでは奴隷らしき者たちが飼い主と思われる天竜人たちの指示に忠実に従って殺し合いを繰り広げていた。

 

「いや見ても分からんが?」

 

 ソマーズがイバラの上からキリンガムに言った。

 

「なんでだよ。見たまんまだっての。海賊同士を戦わせるから海賊バトルだ」

 

「ここまで盛り上がる理由が俺には分かんねぇのよ。別に奴隷同士で殺し合わせるなんて珍しかねえだろ」

 

「言っちゃあなんだがこれまでのそれは素人同士の格闘技の試合みてぇなもんだ。大抵の奴隷どもはやったことのない殺し合いで腰が引けるし、戦い慣れてる元海賊の奴隷だと一方的に相手殺して終わるしで、いまいち迫力ってもんがねぇ」

 

「あー、確かに前親子でやらせた時は手心加えて相手生き残らせようとするから殺し合いとしては成立してなかったな」

 

 ソマーズの趣味には触れずにキリンガムが話を進める。

 

「だが今回俺の従妹と従妹の夫になるっていう下々民が連れてきた海賊奴隷どもはひと味違う。ボルボルの実とかいう悪魔の実の能力で奴隷生物に生まれ変わったあいつらは飼い主が指示を出せばよく躾けられた犬よりも忠実にそれを実行する。しかも飼い主がいちいち攻撃を指示しなきゃならねぇっていう手間な部分が自分も戦いの当事者だってことを意識させるもんだから、逆に没入感を高めてるみたいだ」

 

「あー、確かに殺しはやらせるよりやる方が楽しいもんな」

 

 ソマーズが納得したところで、ちょうど今行われていた海賊バトルの決着がついた。

 

「……戦闘不能! よってチャルロス聖の勝利!」

 

「よくやったえ! 褒美に今夜は残飯を食わせてやるえ!」

 

「ゴミめ! 生き返ったら生きたまま犬に食わせてやるえ!」

 

「ギハハハ……なんだ今死んだ奴生き返んのか?」

 

「俺たちと違ってその場で回復とはいかねぇみたいだが、だいたいひと晩経てば生き返るってよ。しかも不死にできる人数の上限もなしだ」

 

「ほーぅ、そいつはなかなか……御大の能力は別格として、お前の能力の足元くらいには迫りそうだな」

 

「いやぁ……悔しいが作れる戦力としちゃ向こうのが上だぜ。今審判やってるチビが足台にしてる奴をよく見てみろよ」

 

 ソマーズはキリンガムに言われた通り、海賊バトルの審判をしているマシロの足の下にいる囚人服姿の男を見た。

 それは『白ひげ』エドワード・ニューゲートだった。

 

「んー? なんだ、ただの四皇『白ひげ』じゃ……って白ひげえええええ!? ええええええええええ!?」

 

 ソマーズは驚きすぎて口から鋼の心臓を飛び出させていた。

 

「驚きすぎだろ……海軍が白ひげを捕らえたって報告は届いてたじゃねぇか」

 

「だからってあの白ひげがあんなことになってるとは思わねぇだろ! じゃあ何か!? あいつ、四皇を奴隷にしたってのか!?」

 

「不死身のおまけ付きでな」

 

 キリンガムが鋭い歯を見せて笑った。

 

「神の騎士団としちゃあ下々民に劣るってのは腹立たしいが、あいつはコーラルに婿入りして我がリモシフ家の一員になるから問題ねぇ」

 

「チクショ〜、あんな逸材ならシェパード家に欲しかったってのに! 白ひげを奴隷にできんなら海賊女帝もいけるはずだよな?」

 

「あぁ、昔お前が取り逃がしたっていう女のリベンジがしたいのか」

 

 元王下七武海の『海賊女帝』ボア・ハンコックは九蛇海賊団の現船長で、ソマーズは三十年以上前にその二代前の船長だった当時世界で一番美しいと言われた女海賊をなぶり殺す寸前で他の海賊に奪還された過去があり、今でも根に持っているのだ。

 

「なら今からでもうちの入婿と仲良くしとけよ。捕まえた海賊を俺たちが飼ってる海賊以外の奴隷と交換してくれるって話だからな」

 

「マジか……声かけてくる」

 

 ソマーズはイバラを操作してマシロに接近しようとした。

 しかしその動きは途中で止まった。

 

「……キリンガム」

 

「……ああ。俺にも指示が届いた」

 

 ソマーズが生やしたイバラに跳び乗り、そこから跳躍して身軽に群衆を乗り越えたキリンガムがマシロの目の前に着陸した。

 

「さぁ、次の試合は……わっ!」

 

「あっ、キリンだ」

 

「その略称はやめろ」

 

 コーラルは従兄のキリンガムのことを昔からキリンと省略して呼ぶ。

 愛称で呼ばれること自体は構わないが、イヌやブタのような畜生の種族名で呼ばれる奴隷が身近に多くいたキリンガムとしてはキリン呼ばわりだけは受け入れられないのだ。

 

「コーラルのお知り合いですか?」

 

「俺はリモシフ家のキリンガム。コーラルとは親族なんだ。だからお前がコーラルに婿入りするとなれば俺も当事者なわけで……お前が我がリモシフ家に相応しいか、見定めさせてもらうぜ!」

 

 キリンガムが勇ましく目的を告げたその瞬間、どこからともなく輪の形をした黒い炎が飛んできて、まるで後光のようにキリンガムの背中に装着された。

 

「俺はリュウリュウの実モデル『麒麟』の能力者! 悪夢を具現化する俺の力で呼び出すムーマと、お前の海賊奴隷! どっちが上か勝負だ!」

 

 夢具現化人間のキリンガムがマシロに勝負をしかけてきた!

 

「出てこい俺の怖いもの! アーンドお前の怖いもの!」

 

 ドンドットットと解放のドラムが鳴り響き、ドンチャンシャンシャンと雨乞いのリズムが鳴り渡る。

 そして出てきた立ち並ぶ屋敷よりも巨大な二体の怪物に天竜人たちが悲鳴をあげる。

 

「に、に……ニカだえ〜〜〜〜〜!」

 

「あっちはザザアマス〜〜〜〜〜!」

 

「キリンガムてめぇバカ野郎! そんなもん出されたら俺たちもこえぇじゃねぇか!」

 

 ゴムの身体を有する白き解放者、太陽の神ニカ。

 水の身体を有する多腕の女神、雨の神ザザ。

 悪夢から具現化された偽物とはいえ、それが神であると誰も疑えないほどに強烈な存在感を放つ二体のムーマがマシロの前に繰り出された。

 マシロとコーラル、二人の恋路を阻む神の試練はまだまだ続く!

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