海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第20話 VS キリンガム Ⅱ

 コーラルの親族を名乗るキリンガムから唐突に勝負をしかけられたマシロは彼の能力で具現化された白い姿のモンキー・D・ルフィに酷く動揺した。

 ドリーやシキのようにマシロを追い詰めた敵は他にもいたが、マシロの能力自体を無効化するような敵はルフィ以外に存在しなかった。

 ルフィよりも強い海賊はこの海にいくらでもいるが、マシロにとってルフィよりも怖い海賊はいないのだ。

 

「さぁ! お前の自慢の戦力を見せて……ぇれ?」

 

 あまりにも怖かったせいでマシロはキリンガムが能力で作り出したという偽ルフィを倒すための最適解を即座に実行した。

 それはすなわち能力者本人の排除であった。

 

「き、金、じ……」

 

「げっ、首飛んでんのに喋ってら。気持ち悪っ」

 

 ボールから出たのと同時にキリンガムの首をつじぎりしたシキは、胴体から離れてもまだ喋っているキリンガムの頭部を縦に割った。

 

「うおおおおおい! そこまで! そこまでだ! これ殺し合いじゃねぇから!」

 

 割れたキリンガムの頭部から植物の種のように転がり落ちてきた小さな何かをイバラで覆いながらソマーズが叫んだ。

 

「えっ? あっ! ご、ごめんなさい!」

 

 それにより冷静さを取り戻したマシロはシキに追撃をやめさせ、頭を下げた。

 

「そ、その人死んで……」

 

「だいじょぶだマシロ。キリンはあれくらいなら死なねぇよ。昔コーラルのイタズラでミンチにしちゃった時もすぐ治ってたかんな」

 

「そう……なの?」

 

 斬首されても復活できるのはマシロの能力で捕獲した人間も同じなので、普通ならば信じがたいコーラルの話をマシロはあまり疑わなかった。

 

「あん時は十秒もかからず治ってたけど……ソマソマ! キリンまだ治んねぇの!?」

 

「しばらく無理だなこりゃ」

 

 ソマーズはキリンガムの肉体をミイラのようにイバラで包み、繋げた長いイバラで棺桶のように引きずってこの場を離れ始めた。

 

「でも死にはしねぇしムーマも残っからよ! この場はお偉い方たちがご覧になってるから、あの二体を相手にお前の婿の力を思う存分見せつけさせろよ!」

 

「五老星のじい様たちが?」

 

「ああ、そんなとこだ! 心証が良くなりゃそれだけお前らの婚姻の話もスムーズに進むだろうよ!」

 

「マジか! ならマシロ、ここはコーラルが……」

 

 五老星にマシロとの婚姻を承認させるためならばとメガシンカして自ら戦おうとするコーラルをマシロは腕で制した。

 

「あの麦わらのルフィがどこまで本物と同じなのか分からないけど、もしもゴムの性質もそのままならコーラルじゃ相性が悪い。しかもあの二体、見た感じ相当強いから……足手まといになりそうな他の奴らは出さないで、ニューゲートとシキの二人にやらせる」

 

 相対した二体の神に対してマシロは白ひげとシキを繰り出した。

 

「……ニューゲート」

 

「グラララ……この期に及んでお前と協力して戦うたぁ、人生何が起きるか分かんねぇもんだな」

 

「お、おう、そうだな……」

 

 昔と変わらずに接してくる白ひげと違ってシキは強烈な気まずさに襲われていた。

 マシロが海軍に所属して以来、捕獲済み海賊とそうでない野生の海賊を見分けるために用意された敗北者仕様の囚人服は、それを着ている姿を知人に見られるのが恥ずかしいのは当然として、知人が着ているのを見るのも気分が良いものではなかったのだ。

 

「……顔があけぇな。風邪か? 年なんだから体調管理には気ぃ遣えよ」

 

「爺さんが生娘みてぇな顔してんじゃねえよ! 気持ち悪ぃな!」

 

「お前ら! 無駄話してないで敵に集中しろ!」

 

「どいつもこいつも好き勝手言いやがって! 吹き飛ばすぞてめぇら!」

 

 言い争いを始めていつまで経っても戦闘を開始しないマシロたち。

 それに業を煮やすだけの知性があったのか、二体のムーマはこの場にいないキリンガムの指示なしで動き出した。

 

「うるせぇんだよ! こっちは取り込み中だ!」

 

 攻撃のために伸ばされた二体のムーマの手をシキがはたいた。

 シキのフワフワの実は手で触れた生物以外のあらゆるものを自由に浮かび上がらせる能力であり、生物ではないムーマはその能力の対象範囲に含まれている。

 

「吹き飛べ!」

 

 まるで強風に吹き飛ばされたかのように二体のムーマがはるか上空へと飛んでいった。

 

「ニューゲート! 上空の敵に向かってじしん! 地面は揺らさないように!」

 

 マシロの指示で白ひげが宙へ拳を叩きつけると、大気にヒビが入ってその延長線上に強烈な振動が伝わった。

 

「ありゃ? キリンのくせにすげぇな! あいつら今ので平気なのかよ!」

 

 振動による攻撃はムーマたちの水の身体やゴムの身体に効果はいまひとつだった。

 

「ならニューゲート! じしんいっぱい! シキもエアスラッシュいっぱい!」

 

「斬波な! 勝手に変えんじゃねぇ!」

 

 白ひげの地震に加えてシキの飛ぶ斬撃までもがムーマたちに殺到した。

 斬撃に対して脆弱な麦わらのルフィの白い姿を模したムーマは数秒も耐えられずに細切れとなった。

 そして打撃も斬撃も無効化できる水の怪物は白ひげとシキがそれぞれの攻撃に乗せて放った悪魔の実の能力に効果がばつぐんとなる特殊な力によってその存在を消滅させられた。

 こうしてムーマ使いのキリンガムとの勝負にマシロは圧勝したのであった。

 

          ◯

 

「凄まじいな」

 

「ザザに加えてニカまで出てきた時には驚いたが……」

 

「老いたとはいえ白ひげと金獅子、ムーマではまるで相手にならんか」

 

「やはり四皇と呼ばれるような海賊は油断ならん」

 

「しかしどうする? これではまだ白鼠の能力の一端すら見えていまい」

 

 パンゲア城の一室に、映像電伝虫を使っているわけでもないのに不思議と屋外で行われた戦いの詳細な経過を把握している五人の老天竜人がいた。

 彼らこそが天竜人の中でも特に強大な権力を持ち、表向きは世界の頂点として認識されている世界最高権力者、五老星だ。

 

「近くにいるソマーズをけしかけてみるか? 残存している神の騎士団の中では古参の猛者だ。今のムーマよりは粘る……はずだ」

 

 意見を出したのは五老星の中では比較的若く見える男だ。

 世界の農務を統制する農務武神の役職を担うこの男はソマーズと同じシェパード家出身の天竜人、シェパード・十・ピーター聖である。

 

「他家の者を推薦しなかった時点で分かっているのだろう? その任務は貧乏くじ以外の何物でもないと」

 

 ピーターの気遣いに理解を示した額に大きなシミがある男の名はトップマン・ウォーキュリー聖。

 法を司る法務武神の役職を務め、この世界における悪人の公的な判断基準を定めてきた男だ。

 

「相手が白ひげと金獅子ではな……ソマーズどころか、ガーリングやシャムロックでも荷が重かろう」

 

 他の四人と異なりスーツではなくワノ国という国家の民が好んで着るワ服という服を着た、刀を持った禿頭の男がウォーキュリーに同意した。

 世界の金の流れを一手に管理する財務武神であるこの男の名はイーザンバロン・V・ナス寿郎聖という。

 

「あれらと戦いを成立させられるとなれば……海軍大将か?」

 

 四皇級の海賊と戦える政府側の人材として海軍大将を提案した杖をついている男の名はジェイガルシア・サターン聖。

 自身も優秀な科学者である彼は科学防衛武神の役職を担っている。

 

「赤犬と青キジはよせ。奴らが全力を出せばこの聖地は人が住めない地となってしまう」

 

 マグマのロギア系能力者である赤犬と氷のロギア系能力者である青キジを思い浮かべて眉をひそめたヒゲの長い男の名はマーカス・マーズ聖。

 環境武神の役職を持つマーズは聖地を暮らしやすい環境に保つことも仕事の内であった。

 

「ならば黄猿か?」

 

「奴ならば呼べば光の速さで飛んでくる」

 

「適任だな」

 

「ん?」

 

 光の能力者であるため移動にかける時間が少なく、他の二人と比べて能力による周辺環境への影響が少ない黄猿が五老星に呼びつけられてマシロの模擬戦相手に任命されそうになったその時、ナス寿郎はこの場に五老星以外の気配が増えたことにいち早く気付いた。

 

「ヌシアたちがやればいい」

 

「!?」

 

 部屋の奥の高所に設置された赤を基調として金の装飾が施された神聖な椅子にいつの間にか座っている者がいた。

 全身を黒い布で覆い隠したその者に五老星たちは一斉に跪いた。

 

「かしこまりました。ですが私の能力では聖地の地盤を崩してしまいますゆえ……ここは他の者に」

 

「かしこまりました。ですが私の能力では聖地を腐食毒で汚染してしまいますゆえ……ここは他の者に」

 

「かしこまりました。ですが私の能力では遠距離からの砲撃勝負となって先の焼き増しとなりますゆえ……ここは他の者に」

 

「かしこまりました」

 

「かしこまりました」

 

 筋の通る言い訳を述べて辞退できたのはピーター、サターン、マーズの三人で、残るウォーキュリーとナス寿郎は了承するしかなかった。

 

「行け、ウォーキュリー! ナス寿郎!」

 

「……は」

 

「……は」

 

 通常、城という場所には玉座があり、玉座に座る者こそが王である。

 このパンゲア城においてもそれは変わらない。

 玉座に座って表向きの世界の頂点とされる五老星を見下ろすその存在こそが世界の王。

 この世界の本当の頂点……すなわちチャンピオンだ。

 今ここに、チャンピオンのネロナ・イム聖がマシロに勝負をしかけてきた!

 

          ◯

 

「また何か出てきた……」

 

 突如として地面に描かれた魔法陣から飛び出してきた二体の巨大な怪物に対して、マシロはルフィのムーマが出てきた時ほど驚かなかった。

 ウォーキュリーが能力によって変身した刀のような牙を持つ巨大なイノシシに似た怪物の名は封豨。

 ナス寿郎が能力によって変身した骨でできたウマに似た怪物の名は馬骨。

 巨人族よりも巨大な二体はどちらもおどろおどろしい外見をしているが、もはやその程度では怯えないほどに旅で鍛えられたマシロの精神は強靭だった。

 

「あれもキリンガムさんのムーマってやつ?」

 

「たぶんそうじゃね? さっきのが瞬殺されたからおかわりしてきたんだろ。このままじゃ終わんねぇし、ちょっと手加減してやれば?」

 

「いや」

 

 突然人語を喋り始めた骨のウマにマシロたちはぎょっとした。

 

「むしろ手加減せずにできることを全て見せなさい」

 

「あとその二人に覇王色を使わないように命じてくれ」

 

「え……あぅ……」

 

 マシロは何を要求されているのか理解できず、助けを求めるように周囲を見回した。

 

「覇王色なしってのは了解した!」

 

 覇王色が何かを知らないマシロに代わって白ひげが話を引き継いだ。

 

「他に要求は!?」

 

「広範囲に影響を及ぼす攻撃はなしだ。建物ひとつ修復するにしても金がかかる」

 

「ジハハハ! 無茶言うな! んなこと言ったらニューゲートはろくに戦えねぇ!」

 

「こいつの言う通りだ! 周辺被害を気にするなら俺と戦うのはやめとけ!」

 

「ならばお互いに攻撃の回避はなしとしよう。順番に、交互に攻撃を加え合うのがルールだ」

 

「防御は?」

 

「構わん」

 

「……ってことだが、いいか? マシロ」

 

「え、あ、うん。それでいいよ」

 

 白ひげやシキを相手に攻撃を回避してはいけないルールなんて設定してしまって相手は大丈夫なのだろうかとマシロは心配したが、おそらく能力で作られたムーマなので最悪消し飛ばしても問題ないだろうと判断して相手の申し出を受けることにした。

 

「それじゃあ先手は……」

 

 ウマとイノシシが前脚を使って「おさきにどうぞ」と伝えてきた。

 巨大な怪物にしてはかわいらしい動作だなぁと思いながらマシロは手持ち海賊たちに指示を飛ばす。

 

「シキはウマにエアスラッシュ! ニューゲートは……えっと……」

 

 周辺への被害を抑えろと言われたマシロはニューゲートにじしんを使わせても大丈夫なのかと悩んだ。

 

「あの巨体で受け止めるってんならグラグラの能力を使っても問題ねぇ」

 

「じゃあそれで!」

 

 グラグラの能力を誰よりも知るニューゲートが言うなら大丈夫だろうと考えたマシロが攻撃許可を出した。

 

「斬波!」

 

「破空阿!」

 

「ゔっ」

 

「お゙お゙っ」

 

 首を切断されたナス寿郎のウマ頭が落ち、振動を正面から受け止めたウォーキュリーの牙が粉砕された。

 

「さすがだ……」

 

「だが次は……こちらの番だ」

 

 しかしナス寿郎とウォーキュリーは戦闘不能にならず、それどころか一瞬で受けた負傷を回復させた。

 

「ぬぅん!」

 

「ジハハハ! 来やがれ!」

 

 ナス寿郎の前脚による強烈なふみつけをシキは両腕で受け止めようとした。

 

「ちょっ、埋まっ……」

 

 足が剣になっているシキが踏ん張ろうとしたところ、上から踏みつけられた衝撃で剣が地面を貫いてしまい、身体が沈んで体勢を崩したシキは適切な防御ができなくなった。

 

「ギャアアアアア!」

 

 結果、踏みつけの威力を一切殺せなかったシキはその威力を肉体の耐久力だけで受け止めることになり、一撃目はどうにか耐えたが次は無理という程度のダメージを受けてしまった。

 

「ブモオオオオオ!」

 

「がはっ!?」

 

 白ひげは間抜けな失敗でダメージを受けたシキよりも酷い体たらくだ。

 体格差があっても昔ならば簡単に止められたはずのウォーキュリーの突進に力負けして、刀のような牙を腹に突き立てられてしまったのだ。

 

「嘘だろおい! 俺の投げた爆弾が直撃しても無傷だったお前が……!」

 

 シキの驚きの叫びを聞いたマシロとコーラルは敵対する海賊として戦った際の出来事だろうと思ったが、実際には味方として同じ船に乗っていた時の同士討ちであった。

 

「情けねえぞニューゲート!」

 

「ぐ……うるせぇ……血まみれのお前が言えたことか……」

 

「どっちも無様なんだよジジイども! マシロに恥かかしてんじゃねぇ!」

 

 コーラルの罵声にも今回ばかりは正当性があった。

 この模擬戦は平民であるマシロが天竜人として人の上に立つに足るかを見極めるためのものであり、無様を晒せば今後のマシロの扱いに悪い影響が及ぶに違いない。

 

「ここはコーラルがやっから、さっさと交代しやが……」

 

「大丈夫だよ、コーラル」

 

 それが分かっていながらマシロはバトルに参加しようとするコーラルに優しい言葉をかけて止めた。

 

「マシロ……でも、このままじゃ負けちまうよ。こいつらはメガシンカできねぇし、ダイマックスは片方だけだろ?」

 

「うん。だからまずは……戻れシキ!」

 

 マシロはシキをボールに一度戻し、そのボールを巨大化させて再び両手で投げた。

 

「ダイマックス!」

 

「ジハハハハハ……なんじゃこりゃ!?」

 

 初めてダイマックスしたシキは巨人になった自分に困惑していた。

 

「ほぅ……そのようなこともできるのか」

 

「だがコーラルは片方しかできないと言っていたな」

 

「そうさ! 今の俺がダイマックスさせられるのは一時間にひとりまで! だから……ニューゲートは別の方法で強くする!」

 

 マシロは手の中にクリスタルのような輝く外見のボールを作り出した。

 

「ニューゲート! 輝きを取り戻せ!」

 

 マシロが輝くボールを白ひげの頭の上に投げると、それが砕けてきらめく光の粒子となって白ひげに降り注いだ。

 光の粒子は白ひげの身体に付着すると再び結晶化してその全身を覆い隠し、次の瞬間に勢い良く弾けた。

 そして中から出てきた白ひげは頭上に奇妙なパイナップルのような果実の結晶像を乗せていて、身体の負傷箇所に青い炎が揺らめいていた。

 

「これは……?」

 

「何だよそれ!? そんなのコーラルも見たことねぇんだけど!」

 

 当事者である白ひげだけではなく、長く一緒に旅をしていてもマシロのその力を一度も見たことがなかったコーラルも激しく動揺した。

 そんな二人にマシロは平坦な胸を張ってボルボルの実の新たな力を明かす。

 

「技名は決めてないけど、効果自体は単純だよ。捕獲した能力者の能力を一時的に他の人間に与える技さ」

 

 発動には付与したい能力を持った能力者をボールに入れた状態でマシロの体内に収納していなければならないため、白ひげ海賊団と戦う前の、手元に残していた悪魔の実の能力者がコーラルとシキとオオタチしかいなかった頃のマシロには使う機会がなかったのだ。

 

「今回ニューゲートに与えたのはトリトリの実モデル『フェニックス』の能力!」

 

「そうか……! こりゃあ、マルコの……!」

 

 捕獲した白ひげ海賊団や銀メダリストたちのほとんどを中将以下の海兵たちに譲渡して海賊討伐の戦力として有効活用している一方で、マルコを含めた汎用性が高くて便利な能力を持つ数人はマシロの手持ちとして残させてもらったのだ。

 ちなみにマルコの他には物を異空間に収納して持ち運べる魔法のポケットの能力者、ポケポケの実のブラメンコなどがいる。

 

「不死鳥の炎で今受けた傷はもちろん、老衰と病気でボロボロだった身体も少しは元気になる! だから、これからが四皇『白ひげ』の本当の力だぜ! だよな、ニューゲート!」

 

 マシロに発破をかけられたニューゲートは腹部を貫通したままの牙を意に介さないで笑い出した。

 

「グラララララ! ったりめえだ!」

 

「ぬ……ぅぁ……」

 

 活力を取り戻した白ひげを前に恐怖を抱いたウォーキュリーは後退しようとしたが、牙を筋肉で固められて身動きが取れない。

 

「ジハハハハハ! おいニューゲート! こいつら再生しやがるってんだから、そうなりゃやることはひとつだよな!」

 

「ああ! 勝ち筋はひとつ! 場外だ!」

 

 シキが普段以上の規模で大気を操り、渦巻かせながら獅子の顔を象らせたそれをナス寿郎に向けて発射した。

 

「ダイ獅子威し!」

 

「ぬおおおおおおおおおお!」

 

 渦を巻く大気にかき回されて全身を構成する骨を粉々にすり潰されたナス寿郎は、そのまま暴風に吹き飛ばされて聖地の空に広く散乱し、消えていった。

 それと同時に白ひげが病気で痩せ衰える前のように腕を太く隆起させて、久しぶりに関節の痛みを気にすることなく引き絞った拳を砲弾のように撃ち出してウォーキュリーの顔面に叩きつけた。

 

「破空阿!」

 

「ブモオオオオオオオオオオ!」

 

 ナス寿郎よりも肉体強度が高かったウォーキュリーは粉々にされることはなかったが、白ひげに突き刺していた牙が砕けて地面に繋ぎ止めるものがなくなったその身体は激しく回転しながら打ち上げられ、空の彼方に飛び去って星になった。

 

「やったぜ!」

 

「っしゃあ!」

 

 キリンガムが出したムーマだと思っている二体の怪物を消し飛ばしたマシロとコーラルは満面の笑顔でハイタッチをした。

 それと時を同じくしてパンゲア城では同僚たちの悲惨な状況に老人たちが頭を抱えているのだが、それを遠くから知る手段を持たないマシロとコーラルが彼らの苦悩に気付くことはなかった。

 

          ◯

 

「君がマシロだな。良く来てくれた」

 

「コーラルとの結婚ならもちろん認めるとも」

 

「そして天竜人の身分を与えることもな。普通は認めないが、君にはそれに見合った力も実績もあるのだから、当然の措置だ」

 

「はっ。感謝いたします」

 

 パンゲア城で五老星と面会したマシロは入室前の緊張が無駄になったと拍子抜けするほどに老人たちから歓迎された。

 後で問題にならないようにマシロとコーラルが同性であることも、マシロがコーラルを能力で捕まえてしまったことも伝えたが、五老星は少しも悩む様子を見せずにまるで事前に決まっていたかのように二人の婚姻を承認してくれたのであった。

 

「コーラルからもお礼申し上げます」

 

 意外にも明確に目上の五老星に対しては相応の態度を取れるらしいコーラルは、珍しい敬語を使いながらマシロと一緒に深く頭を下げた。

 

「ただ……お聞きしたいのですが……」

 

「どうしたコーラル? 言ってみなさい」

 

「はい、その……他のお二方は?」

 

 マシロは知らないがコーラルは五老星が常に五人一緒に行動していることを知っていたため、ウォーキュリーとナス寿郎の不在に強い違和感を持っていた。

 

「……その、なんだ……仕事を頑張り過ぎて倒れてしまってな。いずれにしても不在を理由に後で婚姻の承認が取り消されることはないから、気にしなくていい」

 

「は、はぁ……かしこまりました」

 

 五老星が過労で倒れたという話に困惑を強めたコーラルの珍しい顔を横目に眺めながら、マシロは世界の頂点でありながら堕落せずしっかり働いている五老星に好感を抱いた。

 

「正式な婚礼の式典は後日手配するとしよう。しかしせっかくここに来たのだ。虚の玉座に誓いの言葉を捧げて行くといい」

 

「カラの玉座?」

 

「奥の高いとこにあるでけぇ椅子だ。この世界で一番偉い真の王様が座るための椅子だけど、五老星のじい様たちは五人いるから誰も座ってねぇ」

 

「左様。あの玉座は我ら天竜人の祖先である二十人の王たちが平等の証として設置したものだ」

 

「当初は二十の家に優劣はないと示すためのものであったが、今では世界各国の王たちにもその考えを広めるための象徴となっている。世界政府加盟国で新たに王位を得た者は誰もがあの玉座に誓いを立てる。加盟国の王同士は対等であり、争うことなく話し合いで問題を解決するとな」

 

「王ではなく夫婦となる君たちの場合は、互いの立場を尊重し、いつまでも支え合って共に生きることを誓うのが良いだろう」

 

 マシロとコーラルは互いに顔を見合わせて頷きあった。

 

「やらせてください」

 

「コーラルからも、お願いします」

 

 三人の五老星たちは満足げに頷き、マシロたちに指示を出して玉座の正面で跪かせた。

 

「新郎マシロ。君は隣にいるコーラルを、いついかなる時も妻として愛し、守り、支えることを誓うか?」

 

 ピーターがマシロに問いかけた。

 

「誓います」

 

 マシロはピーターの言葉に同意した。

 

「新婦コーラル。君は隣にいるマシロを、いついかなる時も夫として愛し、守り、支えることを誓うか?」

 

 マーズがコーラルに問いかけた。

 

「誓います」

 

 コーラルはマーズの言葉に同意した。

 

「新郎マシロ。新婦コーラル。ヌシアらは敬虔なる神の僕として、ムーにその力と才覚の全てを捧げることを誓うか?」

 

 虚の玉座に座る世界の王が跪いて床しか見えていないマシロとコーラルに問いかけた。

 

「誓います」

 

「誓い……ん?」

 

 流れで同意したマシロと違って誰もいないはずの玉座の方から聞こえてきた奇妙な内容の問いかけに引っかかりを覚えたコーラルは顔を上げて玉座を見上げたが、そこには誰も座っていなかった。

 

「ここに誓いは立てられた。今この瞬間より、マシロをリモシフ家の一員と認め、天竜人の地位を与える!」

 

 サターンの宣言を聞いたコーラルはマシロが正式に自分の夫になった事実に舞い上がり、先程の不可解なやり取りをすっかり忘れてしまった。

 かくして公的に夫婦として認められたマシロとコーラル。

 

「……ん? なんだこの変な……痣?」

 

「えっ? ほんとだ、いつできたんだろ。虫にでも刺されたのかな」

 

「良く分かんねぇけど気に入らねぇ! マシロにマーキングしていいのはコーラルだけだっての! 上書きしてやる!」

 

「あっ、こら、また歯形つける気だな! そっちがその気なら!」

 

 愛の巣に戻って早々に生産性のない夫婦の営みに没頭し始めた二人の幸せ新婚生活はまだまだ続く!

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