見た目は囚人であっても見聞色の覇気で伝わってくる薄汚い心の声はそれが天竜人であるとボア三姉妹に確信させるのに十分だった。
「メロメロメロウ!」
動揺で見聞色が乱れていたために忌み嫌う天竜人との遭遇を避けられなかったハンコックは即座に必殺の攻撃を放った。
海賊女帝ボア・ハンコックはメロメロの実の能力者で、彼女を美しいと感じた者を石化させる力を持っている。
上品に言えば恋を知ったばかりの少年が片思いの相手と話す際に緊張で固まってしまう現象に近く、下品に言えば性的興奮を感じた男性の大事な部分が硬直する現象と同質のそれは、いずれにしても標的がハンコックに対する邪心を抱いていることが発動条件となっている。
そのため自傷による痛みで邪心を打ち消したり、そもそもハンコックに対して魅力を感じなかったりすれば石化を防げるのだが、そのどちらも邪心の塊のような天竜人たちには難しいはずだった。
「な……なぜ効かぬ!?」
では今回ハンコックの石化光線を正面から浴びた神の騎士団に効果がなかったのはなぜか。
それはシンクロ中は精神と肉体との繋がりが希薄になるため、具体的には精神の方で性的興奮が生じてもそれによる生理現象が肉体に現れない状態だったためだ。
「ギハハハ! 新入りの予想通りだったな!」
ハンコックと交戦経験があるモモンガ中将が提出したメロメロの実の能力とその対処方法についての報告書を読んだマシロは、肉体に宿る本来の精神が睡眠状態となるシンクロ中ならばハンコックの能力を無効化できるという予想を立てていた。
能力の相性を考えて有利な対面を作ることは海賊トレーナーの必須技能なのだ。
「これで能力は封じた。後は単純な暴力勝負になるわけだが……なんかこいつら、妙に腰が引けてやがるな」
「まさか七武海ともあろう者が怯えているのか?」
「いや、能力の発動条件を満たすための演技だろう。油断するな」
ボア三姉妹が天竜人の奴隷だったことを知らない神の騎士団はまさかハンコックが本当に自分たちを恐れているとは思わず、わざと手加減して痛めつけようなどと考えることなく全力で制圧に動いた。
世界を制した王たちから受け継いだ血筋に秘められた力を鍛錬によって目覚めさせた神の騎士団は全員が実力者だ。
「ぅ……こんな……ことが……」
「ギハハハ……手間かけさせやがって」
神の騎士団が本来の肉体でない分だけ弱体化していても、精神的な問題でそれよりも弱体化の度合いが大きかったボア三姉妹はほとんど一方的に敗北した。
「拘束しろ」
「了解だ団長」
「ひっ……やめよ! それを近付けるでない!」
「やだ……やだあああああ!」
「やめてえええええ!」
抵抗する力を失って赤子のように泣き喚くボア三姉妹に能力者を脱力させる海楼石の手錠と爆弾付きの首輪がつけられた。
「ふっ……これで女帝を名乗っていたのだから滑稽だな。これからは家畜として身の程をわきまえよ」
男の身体を使っているが中身は女性天竜人のマンマイヤー・軍子宮は、同性への慈悲を一切持たずにハンコックの服を脱がせようとした。
「な……何をする!? やめよ!」
「家畜に服はいらないだろう?」
「ハハハ! お〜こわ! 女のイジメは陰湿でおっかねぇな!」
「イジメではない。躾だ」
「やめよ! 見るな! 見るなあああああ!」
キリンガムが囃し立てる前で軍子がハンコックのマントを剥がして投げ捨て、その下の服を引き裂いた。
「ん? これは……」
「はっ!? おいおいマジかよ!?」
露出したハンコックの背中にとあるものを発見して神の騎士たちが目を見開いた。
「ギハハハハハ! 面白すぎんだろ! お前とっくに俺たちの奴隷だったんじゃねぇか!」
ハンコックの背中に焼き付けられていたのは竜の蹄の紋章、すなわち天竜人の奴隷の証であった。
「ど~りで怯えてたわけだぜ! となるとこっちもか!?」
「あ゙っ!」
「ゔっ!」
ソマーズが棘付き棍棒をサンダーソニアとマリーゴールドの背中を叩きつけて服を破損させると、そこにもハンコックと同じ竜の蹄の紋章があった。
「……フィッシャー・タイガー襲撃の際に逃げ出した奴隷か。そうなると困ったことになったな」
「ギハハハ……ん? 何が困るんだよ団長?」
「逃げたからと言って奴隷が奴隷でなくなるわけではないように、逃げられたからと言って本来の所有者からこいつらの所有権が失われるわけではない。聖地に戻ったら所有者を探して返却しなければならなくなった」
「え〜〜〜〜〜! そりゃないぜ団長!」
目と舌を突き出して絶叫したソマーズにキリンガムと軍子が呆れ果てた。
「人の物をとったら泥棒だぞ、ソマーズ」
「なんだよキリンガム! お前だってこいつ欲しがってただろ!?」
「俺はコーラルとマシロの結婚祝いにするつもりだったんだ。俺自身が欲しかったわけじゃない」
「神が卑しい真似をするものではないぞ。潔く諦めろ」
キリンガムも軍子もシャムロックに異議を唱えるつもりはないと知り、ソマーズは肩を落とした。
「はぁ〜……仕方ねぇなぁ。ならせめて、連れ帰る前に少しだけこいつらで遊ばせてくれよ」
「内容による。何をするつもりだ?」
「それは……」
部下に息抜きを与えるのも団長の務めだと考えたシャムロックはソマーズの申し出を却下しなかった。
それからしばらくして、めぼしい獲物が捕り尽くされた主戦場で、誰も欲しがらなかったために残されていた老婆や若くても顔立ちが良くない女に拷問をしながら今回の余興の感想を話し合っていた一般天竜人たちのもとに、ボア三姉妹を捕縛した神の騎士団が凱旋した。
「ん……? あやつが乗っているのはまさか……」
「この大会の最高レア海賊! 海賊女帝アマス!」
「捕まえたのは誰だえ!? 今の姿じゃ見た目で区別がつかんえ!」
四つん這いにさせたボア三姉妹をウマ代わりにした神の騎士団に一般天竜人たちが群がり、ボア三姉妹は好奇と欲望の視線にその惨めな姿を晒した。
「大会の参加者たちよ! 私はフィガーランド家のシャムロックだ!」
「シャムロックかえ!」
「きゃー! さすがはガーリング様の息子アマス!」
「静かに! 私からこの三匹の奴隷に関する重大な話がある!」
喝采する天竜人たちにシャムロックはボア三姉妹が既に誰かの奴隷だった事実を公開した。
「なんと! 海賊女帝はあの事件で逃げ出した奴隷だったのかえ!」
「神の所有物となる栄誉を賜っておきながらなんと不敬な!」
「身の程を分からせねば! 今すぐ拷問を!」
「まぁ待て待て。誰かの所有物を勝手に壊すのはまずい……ってのがシャムロック団長のお考えだ」
上に神の騎士団が乗っていなければハンコックに物を投げつけていたであろう興奮状態の天竜人たちをソマーズが落ち着かせようとした。
マシロが捕獲した人間の欠損部位の再生については検証が不十分で、ラキューバの舌が治った一方でシキの足が治っていない事実があるため、どこまでハンコックを壊していいのか誰も分からないのだ。
「つーわけで! この余興の締めにいっちょこいつの尊厳を破壊してみようじゃねぇか! 身体を傷つけたら飼い主が怒るかもだが、心の傷なんて見た目に影響しねぇからなぁ!」
ソマーズの名案に天竜人たちから惜しみのない拍手喝采が浴びせられた。
「あの……なんの騒ぎですか?」
騒ぎを聞きつけたマシロはブラメンコの身体で様子を見に来た。
「ギハハハ! おう新入り! 見ろよこの無様な元七武海を!」
俯いているせいでマシロからは顔が見えなくても七武海と言われればそれが誰であるかはすぐに分かった。
「海賊女帝! 捕まえてくれたんですね!」
「どわっ!? ちょっ、待てって!」
捕獲可能な状態だと判断したマシロは流れるようにハンコックへとボールを投げたが、ソマーズに棍棒ではじかれてしまった。
「えっ、どうして……」
「いきなり捕まえちまったら絶望感激減だろ! やるならちゃんとこの先自分らがどうなるか教えてやってからだ!」
なぜ妨害されたのか理解できないマシロにソマーズが怒鳴った。
ソマーズの言っていることをマシロはいまいち飲み込めなかったが、この場で一番立場が低いのはマシロなので何も言えず、おとなしく一歩引いて成り行きを見守ることにした。
「ギハハ……いいか? あいつはボルボルの実の能力者。あいつのボールに捕まった人間は死んでも生き返る不老不死の永久奴隷になる。良かったなぁ? 自慢の美貌が永久に続くぜ」
「永……久……」
お前は死んで楽になることさえできなくなると言外に示唆するソマーズの皮肉にボア三姉妹の絶望はますます深まった。
「嫌じゃ……嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!」
ハンコックはまるで幼い子供に戻ったかのように嫌だ嫌だと繰り返し、ついには涙と鼻水を垂らしながら絶叫する。
「天竜人の奴隷になど、もう二度となりとうない!」
「ギハハハハハハハハハハ! きったねぇ顔! 美人が台無しだぜ!」
腹から声を出してハンコックを嘲笑ったソマーズは、すんと火が消えるように突然落ち着いた。
「だがな、神ってのは祈られたら慈悲を与えたくなっちまうもんだ」
ソマーズは邪悪としか形容できない笑顔でハンコックを見下しながら提案する。
「お前の妹二人のうち片方だけ今すぐ殺してやるからよぉ! 土下座しながらどっちを殺してほしいか言ってみろよ! ギハハハハハ!」
ソマーズがやろうとしていることを聞いてマシロはひそかに頭を抱えた。
サンダーソニアとマリーゴールドはどちらも賞金首で、さらに悪魔の実の能力者という話だ。
他の雑兵よりも戦力としての価値が高く、さらに直接戦闘で使わなくても他の海賊の強化に使える能力者を無駄に殺害するのはマシロの感性では非常にもったいない行為なのでやめてほしいのだが、やはり立場の問題で黙っていることしかできなかった。
「姉様! マリーを選んで!」
「姉様! ソニア姉様を!」
海楼石の拘束で脱力している状態では自害もできず、サンダーソニアとマリーゴールドは互いを想って互いの死を望んだ。
「ソニア……マリー……」
「ギハハハ! こいつら自分が生き残りたいからって姉妹を売ろうとしてやがるぜ! 大した家族愛だな! ギハハハハハハハハハハ!」
大笑いするソマーズは二人の本心を知りながらわざと違うことを言った。
「で? どっちだ?」
「うう……うううううう!」
妹の死を望むことも、妹を天竜人の永久奴隷にすることも、どちらも選べないハンコックは唸るだけで意味のある言葉を発さなくなった。
「……それがてめぇの選択だな? なら……マシロ! その二人捕まえていいぜ!」
「……! はい!」
何も言わずに待っていたら好都合な展開になったので、ソマーズの気が変わる前にやらねばとマシロは即座にボールを投げてサンダーソニアとマリーゴールドを捕獲した。
海楼石で拘束された能力者で、しかも心が完全に折れているとなれば、瀕死でなくてもマシロの能力に抵抗できなかったのだ。
「ボア・サンダーソニア! ボア・マリーゴールド! ゲットだぜ!」
「あ〜あ。お前がさっさと選ばねぇから、二人とも俺たちのもんになっちまったよ! 良かったな!」
「……」
もはやソマーズに何を言われてもハンコックは反応しなかった。
「ちっ……何か言えよつまんねぇな。おいマシロ! さっきの二人とこいつ使って、何か面白いことしてみせろ!」
「えっ」
生粋の天竜人と違って人間を見せ物にしても面白いと感じないマシロは、ソマーズの無茶振りに困り果てた末に、海軍のつる中将から受けた説教を思い出した。
「マシロ、コーラル宮とあんたがしてることは悪いことじゃあないけど、他人に見せるのは恥ずかしいことだよ。これまでは知らなかったから仕方ないとしても、今知っただろう? いい子だから、おやめ」
続けてマシロは先日の夜にコーラルとした行為を思い浮かべた。
その時のマシロとコーラルの姿は、例えるならば自分の尾を飲み込もうとする蛇のようになっていた。
そしてサンダーソニアとマリーゴールドはヘビヘビの実の能力者だ。
「二人とも出てこい!」
マシロは自分が体験したばかりの他人に見せたら恥ずかしい行為を天竜人たちが見ている前でボア三姉妹にもやらせようと考えた。
「三人で輪になって……ん?」
しかしマシロの考えが実行されることはなかった。
「彼岸刃鉈!」
「ぴぎゅっ!?」
指示を出し切るよりも早く誰かにブラメンコの肉体を両断され、次に目を開くとマシロは聖地の本来の肉体に意識が戻っていた。
「な……何が……」
「やべぇぞマシロ! あれ見ろ!」
隣を見れば取り乱した様子のコーラルが映像電伝虫によって投影されている女ヶ島の映像を指差していた。
「嘘っ……なんで!」
映像を見てマシロが小さく悲鳴を漏らした。
そこに映っていたのは女ヶ島にいるはずのない三人の乱入者。
元ロジャー海賊団副船長、シルバーズ・レイリー。
元王下七武海、バーソロミュー・くま。
そして最後のひとりこそ、マシロのトラウマにしてボルボルの実の天敵。
本来は黒髪だったはずなのに、シャボンディ諸島で見た白い姿を思い起こさせる老人のような白髪になった、モンキー・D・ルフィであった。
◯
襲われるから海軍に応戦しているだけで積極的に世界政府と敵対するつもりはない世間一般の海賊たちと異なり、世界政府の直接の打倒を目標に掲げる悪の組織が存在する。
革命軍を名乗るその勢力は天竜人の横暴によって生じた人々の世界政府への反感を糧として年々巨大化し、今や四皇の海賊団にも見劣りしないほどの戦力を抱えるようになっていた。
そんな革命軍の本部がある白い土の島バルティゴに、ある日大量の重傷者が流れ星のように降ってくるという奇妙な事件が起きた。
「何事だ!?」
「あっ、サボさん! 海賊です! 重傷の賞金首が多数、突然降ってきて……」
革命軍の兵士たちは降ってきたのが賞金首の海賊であるとすぐに気付き、それが救護するべき相手なのかすぐには判断できず、幹部を呼んで指示を仰ぐことにした。
そして呼ばれてきた革命軍参謀総長のサボという男は、海賊たちが倒れている地面が肉球の形に窪んでいるのを見て、それが誰によって引き起こされた事態なのか把握した。
「これは……くまさんの能力だ」
「くま……バーソロミュー・くま!? まさか七武海の!?」
七武海のくまは顔が印刷された子供服が販売されているほどに有名なので、革命軍の兵士たちはくまと言われてその顔を真っ先に思い浮かべた。
「ああ、最近入った奴らは知らないか。今はちょっと離れてるが、くまさんは元々革命軍の幹部だったんだ」
世間に海賊という悪党として認知されているバーソロミュー・くまが過去に革命軍として活動していたと知られても今さら彼の立場に影響はないため、サボがその事実を隠す理由はなかった。
「しかし何だって海賊をここに……しかもこいつら、あの麦わらの一味ですよ」
世間に対しては隠蔽されていても、情報収集に力を入れている革命軍は麦わらの一味が起こした事件の全てを把握している。
王下七武海クロコダイルの討伐も、世界政府所有の司法の島エニエス・ロビーを襲撃し壊滅させたことも、しっかり事実確認済みなのだ。
「海軍に引き渡して革命軍の活動資金にしろということでしょうか?」
麦わらの一味は革命軍の敵である世界政府に大きな被害を与えているが、海賊は所詮海賊だ。
敵の敵は味方であると安易に断じることはできなかった。
「いや、それならちゃんと殺してから飛ばすはずだ。この島を見た海賊が万が一逃げ出したら厄介だからな。だからこの海賊たちは世界政府に冤罪をかけられた被害者で、くまさんは誰か……おそらく海軍に追い詰められていた彼らを助けるためにここに送ったんだろう」
その結論に至ったサボはすぐに海賊たちの治療を指示した。
くまの能力による移動はワープではなく、実際に空を長時間飛んで移動している。
その間ずっと傷を放置されていた海賊たちは状態が酷く悪化していたが、海賊たちは不思議な力に守られているかのように失血死には至っておらず、駆けつけた医師によれば全員助かる見込みであった。
「じゃあ、後は頼むよ……ん?」
幹部という立場にあるサボは忙しく、医療班に海賊たちを託してすぐにその場を去ろうとした。
その時、サボは見聞色の覇気によって島に接近してくる複数の強い気配を捉えた。
「おーい、そこ離れとけ! 追加が来る!」
サボが着弾地点にいる者たちを移動させた直後、肉球の形をした窪みが追加された。
「はぁ……はぁ……サボか?」
「くまさん!」
そこに現れたのはくま本人と、彼に抱えられた十歳ほどの小さな女の子。
そして先に来た他の仲間たちよりも傷が深い、麦わらの一味の船長モンキー・D・ルフィであった。
「そいつは……うっ、頭が……」
今にも死にそうなルフィの姿を見た瞬間、サボは頭を抱えてうずくまった。
「あ……あ……うわあああああ!」
それからサボが絶叫して倒れたり、くまが飛ばしたはずの人間がひとり見当たらなかったりと大騒ぎになったのだが、最終的に全てが丸く収まった。
麦わらの一味は全員治療に成功し、記憶喪失で子供時代のことを忘れていたサボは記憶を取り戻してルフィの義兄弟であることが判明し、いなくなっていたシルバーズ・レイリーは飛ばされている途中で意識を取り戻してシャボンディ諸島に引き返していたことが確認された。
シャボンディ諸島に置き去りにしてきたルフィの麦わら帽子と麦わらの一味の船はレイリーがシャッキーと一緒に回収してバルティゴに届けてくれたので、ルフィが失ったものはひとつもなかったのだ。
「ありがとな! サボ! レイリー! 父ちゃんの仲間の奴ら!」
それについて律儀に礼を言ったルフィは、少し前に祖父ガープから革命軍のリーダーであるドラゴンが自分の父であることを聞いていたせいで、つい口を滑らせた。
「と……父ちゃん!?」
「ドラゴン総司令の、息子ぉ!?」
子供を人質にされればどれだけ強くてもまともな親は手も足も出せなくなる。
「ドラゴンさん! この話、事実ですか!?」
「……事実だ」
そのためこれまでは息子がいることを決して明かさなかったドラゴンも、もはや手遅れとルフィとの血縁関係を認め、麦わらの一味は革命軍から過剰と言えるほどの保護を受けることになった。
「ダメだ! 今のお前たちをこの島から出すわけにはいかない!」
「なんでダメなんだよサボ! 怪我はもう治ってるのに!」
「今のお前たちじゃ新世界には通用しないからだ!」
「何だと! だったら俺がどれだけ強くなったか見せてやる!」
異常な短期間で怪我が治ったルフィは航海を再開してシャボンディ諸島のその先、新世界と呼ばれるグランドラインの後半戦に挑みたいと訴えたが、今の麦わらの一味の実力では新世界に進めばすぐに死ぬことが明らかだったためサボは認めず、叩きのめしてバルティゴから出さなかった。
それを見ていたルフィの仲間たちは、既にマシロとの戦いで自分たちの弱さを自覚していたため、何も言わずにただ目を逸らすだけだった。
「エースが処刑される!? なら俺、助けに行くよ!」
「俺もだ! 行かせてくれドラゴンさん!」
「ダメだ。今のルフィの力では白ひげ海賊団と海軍との戦争に乱入したところで何もできん。サボも冷静になれ。我々革命軍が民衆の敵である海賊の処刑を止めるために軍事行動を起こすなどあってはならないことだ」
「彼の言う通りだルフィ君。白ひげが動くのであれば、弱い味方はいても邪魔にしかならない」
処刑されるエースを助けに行くのだとルフィとサボが一緒になって騒いだ際にはドラゴンとレイリーによって止められ、結果としてエースが死ぬこともなかったので事なきを得た。
「エースが海兵なんかになるもんか! あの新しい大将の能力で無理やりやらされてるに決まってる! あいつを倒して、今度こそエースを助けるんだ!」
「俺もルフィに賛成です。ルフィの仲間たちに同士討ちをさせたっていう、ボルボルの実の能力者……奴は危険です。時間を与えるほどに手がつけられなくなる。多少の危険を冒してでも、今すぐ刺しに行くべきだ」
その一方で新たな海軍大将、あの白ひげさえも手中に収めた白鼠を倒したいとルフィやサボが言い出した時には、ドラゴンもすぐには却下できなかった。
大将という立場で天竜人に仕えるマシロの存在が革命軍にとっても脅威であることは確かだったからだ。
「まずは……戦力分析だ」
革命軍は総力を結集してマシロのことを調べ尽くした。
「白鼠が捕獲した海賊の大半は他の海兵に譲渡され、その戦力を使って海軍はグランドライン前半の海賊駆逐作戦を進めているようだ」
マシロが手元に戦力を独占しないという情報は討伐を考えている革命軍にとっては朗報だった。
少なくともマシロに勝負をしかけた瞬間、蜂の巣を突いたように数万人単位の海賊が飛び出てくるということはないのだ。
「だが……白ひげだけは常に手元に置いている。白鼠と戦うということは、あの白ひげと戦うことと同義だ。さらに白鼠自身は極めて善良な性格で、まだ未確定情報だが海軍内の腐敗を取り除かせたという話や、マリージョアの天竜人たちを言いくるめて奴隷を解放させたという話まで出ている」
実際には海賊と内通するなどの汚職に手を染めた悪徳海兵の一斉処分を決めたのはセンゴク元帥で、マシロは直接関与していないどころか悪徳海兵の存在の認知すらしていなかったのだが、センゴクが出血を伴う組織の改革に踏み切れたのはマシロの加入で戦力に余裕ができたことが理由だったので、マシロのおかげと言っても過言ではない。
そしてマリージョアでの海賊以外の奴隷解放については間違いなくマシロの功績である。
「つまり?」
「革命軍が事を構えるべき相手ではない」
「……分かりました」
どれだけ考えても革命軍がマシロと事を構えるに足る理屈を用意できなかったサボは、歯を食いしばり、手を握りしめながらも、おとなしくドラゴンの意向に従った。
「だったら俺だけでやるよ!」
一方でサボと違って不満を飲み込む理由がないルフィは父であるドラゴンの決定に反抗した。
「海賊であるお前が脅威となる海兵に先制攻撃をしかけたいと言うのなら、確かに我々革命軍が止める理由はない」
「じゃあ……」
「だが! 父親としては別だ! 息子が死ぬと分かっていて見過ごせるものか!」
このままではルフィがドラゴンに叩きのめされて、いよいよ取り返しがつかないほどに心を折られてしまう。
そんな未来を見聞色の覇気で予測したレイリーは親子喧嘩が始まる前に仲裁に動いた。
「ルフィ君。私が君に修行をつけよう」
「え? でも俺急がなきゃ……」
「何を急ぐ必要がある? ロジャーの息子……エース君は海軍に利用されこそすれど、殺されるわけではない」
レイリーは指を一本立ててルフィに見せた。
「一年だ。本当は二年欲しいところだが、一年あれば私は君に海軍大将から自力で逃げられるだけの力をつけさせてやれる」
ちなみに二年あれば大将を倒せるようにもしてやれるのだがね、とレイリーは小さく笑いながら付け足した。
「さて、どうするルフィ君? 今の君に選べる道は二つ。今すぐ白鼠に挑んでエース君の手で殺されるか、私に師事するかだ」
ゾロやサンジが仲間を傷付けさせられたように、今度はエースがルフィを殺すことになる。
その可能性を今になって知ったルフィは力なく握り拳をほどき、レイリーに頭を下げた。
「よろしくレイリー!」
「ルフィ、人に頼み事をするのなら丁寧な言葉で言うべきだ。それと師を呼び捨てというのは……」
「よろしくお願いします! レイリー!」
注意しても言葉遣いがいまいち改善しないルフィに頭を抱える真面目なドラゴンに同情しながら、レイリーは近くで微笑んでいるくまに目を向けた。
「くま君。君の能力で私とルフィ君をある島まで飛ばしてほしいのだが、頼めるかな?」
「構いませんが、俺の能力で飛ばせるのは俺が行ったことのある島だけです。行きたいのはどこの島です?」
「女ヶ島……アマゾン・リリーだ。可能か?」
「ああ、九蛇の……可能です」
「ついでにルフィ君の仲間もどこか修行できる島に飛ばしてやるのがいいだろう。ここにいては客人待遇で身体がなまる一方だからな」
レイリーの提案によりルフィの仲間たちもそれぞれの修行に適した島に送られた。
剣を折られた三刀流の剣士ゾロは初心にかえりたいと言うので故郷のシモツキ村に。
女性を傷つけないという信念を折られたコックのサンジは女性に合わせる顔がないと言うのでオカマしかいないカマバッカ王国に。
仲間になったばかりの新参者でありながら仲間の窮地に全く役に立てなかったと気に病む音楽家のブルックは昼夜問わずに大きな音を出しても大丈夫な場所で本来求められた役割である音楽を研鑽したいと言うので、既に滅亡して誰もいなくなったエレジアという島に。
それ以外は戦闘が本職ではない者、憶病でひとり旅を拒否する者、バルティゴに持ち込まれた麦わらの一味の船から離れられない者などであったため、バルティゴの外に出ることを望んだ三人が飛ばされた後はいよいよルフィの順番となった。
「じゃ、俺行くよ」
「ルフィを頼みます」
「ああ、任せてくれ」
くまはルフィとレイリーを女ヶ島へと飛ばした。
そしてその直後、革命軍の諜報部の者が駆け込んできた。
「大変です! 海軍の大艦隊が女ヶ島に向けて移動してるって情報が入りました!」
「何だと!?」
「二人を連れ戻しに行きます!」
それを聞いたくまはすぐに自分も女ヶ島へと飛んだ。
こうしていかなる運命のいたずらか、ルフィとレイリー、くまの三人は、人捕り大会の会場となった女ヶ島に突入することになったのであった。
想定外の第三勢力の介入によってますます混迷を極める人捕り大会は、もうちょっとだけ続く!