天竜人が島の原住民を蹂躙する大会。
囚われの九蛇の美女。
そしてシルバーズ・レイリー。
かつてほぼ同じ要素が揃った場面でレイリーに苦い経験をさせられたソマーズは、同じ轍を踏むまいと一計を案じた。
「マシロがやられた! もうハンコックの捕獲はできねぇ! 海賊に奪われる前にぶっ殺せ! 世界一の美女を殺せたとなりゃその感動も世界一だぜ! 先着一名早い者勝ちだ!」
前回、九蛇海賊団の先々代船長シャクヤクを単身で殺害しようと赴いたソマーズはレイリーの妨害を受けて失敗した。
そこで今回は自分の手で殺すことにこだわらず、他の天竜人を煽ってハンコックの命を狙わせた。
「黄猿! レイリーを殺れ!」
「そういうわけなんで……しばらく付き合ってもらうよぉ〜」
「くっ……今の時代の大将か……!」
さらに海軍大将をレイリーに差し向けてやったのだから、さすがにもうハンコックは助からないだろうとソマーズは確信した。
「女帝の首はわちしが貰うえ!」
「目玉にナイフを突き立てて脳をかき混ぜてやるアマス!」
「細かく切り刻んで獣の餌にしてやるえ! どうせ捕まえてもわちしのものにはならんのだから!」
美しいものを汚す行為には背徳的な快感がある。
それを知っている天竜人たちは躍起になってハンコックに襲いかかった。
「ウルススショック!」
津波のように押し寄せる天竜人たちを蹴散らしたのは、くまが肉球で弾いて圧縮した空気を一気に解放することで生じる爆発的な衝撃波だ。
「ちっ、役立たずどもめ! もういい! 俺がやる!」
衝撃波を回避、あるいは防御できたのは神の騎士団だけで、他の天竜人は全滅した。
いなくなった同胞たちに悪態をつき、ソマーズは自分の手でハンコックを抹殺するために走り出した。
「くっ、そこをどけ!」
「貴様こそ失せろ」
「下々民が我らの前に立ち塞がるなど、頭が高いぞ……!」
「まさかの七武海おかわりとはな! ありがとよ! 今度こそ捕まえてコーラルとマシロの結婚祝いにしてやるぜ!」
シャムロック、軍子、キリンガムは三人がかりでくまに勝負をしかけた。
戦う前から戦意を喪失していたハンコックと異なり、精神的にも肉体的にも万全のくまが相手となると今使っている肉体では三人がかりでも勝利は厳しいのだが、ソマーズがハンコックを殺すまでの足止めには十分だ。
「五発なんて悠長なことは言わねぇ! 一発でお前の自慢の面をぐちゃぐちゃの挽き肉に変えてやらぁ!」
「姉様!」
「逃げて!」
マシロからまだ命令を受けていないサンダーソニアとマリーゴールドはソマーズの妨害が可能で、その身を盾にして愛する姉を守った。
「お前らはもう俺らの奴隷だろうが! 邪魔すんな!」
海楼石の手錠がつけられたままの二人は呆気なくソマーズに頭を叩き潰された。
飛び散った血と脳漿は一瞬だけハンコックを濡らして、間もなく他の身体の部位と一緒に遠くに落ちているボールに吸い込まれて消失した。
「あ……ああ……」
「無駄な時間稼ぎご苦労さん! そのせいで大事な肉親の死に顔が見れねぇんだからざまぁねぇな! ギハハハハハ!」
ソマーズはサンダーソニアとマリーゴールドの献身を無駄だと言って嘲笑いながら、ハンコックに棍棒を振り下ろした。
ハンコックは死を覚悟して瞼を強く閉じた。
「……?」
しかしいつまで経ってもハンコックが想像していた痛みはなく、やがて彼女は恐る恐るゆっくりと目を開いた。
そしてハンコックは運命の異性に出会った。
「誰だ!? なぜ棍棒が効かねぇ!?」
「ゴムだから!」
サンダーソニアとマリーゴールドが作った僅かな時間でハンコックとソマーズとの間に割り込み、棍棒を後頭部で受け止めたその少年、モンキー・D・ルフィは、ハンコックを安心させるように満面の笑顔を見せた。
「お前が誰かは知らねぇけど……あとは俺に任せろ! ゴムゴムの〜……」
「あああ畜生! この身体覇気使えねぇのかよおおお!」
心身共に鍛え抜いた末に至る境地こそが覇気であるため、心身が一致していないシンクロ状態での覇気の使用は不可能ではないが非常に難しく、少なくともソマーズは初めて使う身体で覇気を纏うことはできなかったようだ。
「ギガント・ライフル!」
「ドブレビバペッ!」
巨大化したルフィの回転する拳に殴られたソマーズの借り物の肉体はぐちゃぐちゃの挽き肉になり、聖地へと強制送還されて女ヶ島から消失した。
◯
乱入者によって人捕り大会は台無しにされ、マシロは怒り狂った天竜人たちによって奴隷に落とされた。
一歩間違えればそうなりかねない事態だったが、ハンコックはたとえ捕まえたとしても大会参加者のものにはならないことが確定していて、さらにその他の九蛇奴隷はブラメンコのポケットに入った状態でしっかりマリージョアに持ち帰られていたので、幸いにもマシロがそこまでの罰を受けることはなかった。
「だが神の従刃ともあろう者が任務に失敗しておきながらお咎めなしというのは認められない」
ただし、くまに敗れて戻ってきたシャムロックは、後になってマシロが天竜人たちに責められないようにと、目に見える形で失敗を清算させるための小さな罰をマシロに与えた。
「冥王、暴君、女帝。それと……小物ではあるが、麦わら帽子の小僧。我らを興冷めさせた罪深き四匹を捕獲、あるいは首を取るまで、コーラルとの婚姻は延期とする!」
「…………………………はい」
マシロは深く頭を下げて懲罰任務を承諾した。
「はあああああ!? おいてめぇ! 何勝手なこと言ってやがる!」
もちろんコーラルがそんな裁定に納得するはずもなく、今にも電撃を放ちそうな剣幕でシャムロックに怒鳴り散らした。
「コーラルとマシロの結婚は五老星のじい様たちの決定だ! いくらてめぇが神の騎士団の団長でコーラルたちの上司だっつっても、そこに口挟む権限はねぇだろ!」
「……まあ聞け」
コーラルの言い分は正論で、シャムロックとしても反論は難しい。
しかしシャムロックは幼い頃から神の騎士団に入りたいからと執拗に絡んできたコーラルのことをよく知っていて、そのおかげで彼女の扱い方を熟知していた。
「一度しかない結婚式が盛り上がらないのは嫌だろう? また別の機会にやり直す方がお前としても都合がいいんじゃないか?」
シャムロックから小声でそう言われたコーラルは怒りを沈めて悩み込んだ。
「そりゃ、まあ……いやでも、それだとマシロの身分が……」
「実際に延期になるのは結婚式だけだ。お前の言った通り、上の方々の決定が覆ることはない。婚姻の届け出が受理された時点でお前たちの婚姻は成立しているし、公的にはマシロは既に天竜人だ。そのことを他の天竜人たちには説明しない関係で聖地での扱いは厳しくなるかもしれないが、下界で権力を振るうことに問題はない。私が与えた任務を理由に当面はマリンフォードに拠点を置くのがいいだろう」
「…………………………わーったよ」
コーラルも納得したので結婚式は中断となり、来客の天竜人たちは引き出物の九蛇奴隷を受け取って解散した。
「さて、神の騎士団諸君。後片付けの時間だ」
他の天竜人がいなくなっても神の騎士団の面々と二人の従刃だけは会場に残っていた。
「片付けって、まさかこの会場をか?」
「なわけねぇだろソマーズ」
「ギハハ、冗談だキリンガム……片付けんのは当然、空っぽになった女ヶ島だよなぁ!」
結婚式が中断されても映像電伝虫による女ヶ島の戦況中継は続いている。
神の騎士団が倒された後、たとえ他人に譲渡しても捕獲した全ての人間に対する最上位の命令権限を有するマシロによって電伝虫で戦闘参加を命令された残存囚人兵が海軍の輸送船から出撃し、乱入者たちに襲いかかっていた。
しかしそれらも既にほとんどが倒されていて、今も戦っているのはボルサリーノと十人にも満たない雑兵だけだ。
「マシロ。バスターコールは?」
「昨日のうちに俺が出しておきました」
バスターコールとは中将五人を含む数千人の海兵と十隻の軍艦を動員して標的となった島を焼き尽くす破壊指令である。
大将だけが発令権限を有するそれは、少し前までは忙しい中将を五人も集めるのが大変なのであまり気軽に使えないものだったが、今では中将もしくは中将相当の囚人兵五人以上という規定に変わったおかげで頻回の発令に対応できるようになった。
「時間的にそろそろ……あ、ちょうど来たみたいですね」
中継映像に軍艦から飛び出して大会の乱入者たちに襲いかかる海兵と囚人兵の姿が映り込んだ。
「主戦力五名の陣容は?」
「はい団長、海兵からモモンガ中将、囚人兵から白ひげ海賊団のラクヨウ隊長とフォッサ隊長、元七武海のクロコダイル、そして元ロジャー海賊団のバレットです」
「よし。海軍中将を除いた四匹の指示出しは我々騎士が担当する」
わざわざ所有権の譲渡を行わなくても、携帯している小型電伝虫からの指示に従って戦えとマシロが命令すれば指示出しを神の騎士団に任せることが可能だ。
「ボールで捕まえなかった九蛇の子供の身柄は?」
「既に護送船は出発済みです。同乗している俺の仲間たちからの緊急連絡もないので、今のところ順調に航海中のはずです」
「現地にお前が使える肉体は残していないのか?」
「バスターコール到着後でも空中歩行で自力脱出可能なオオタチだけ残しています」
「ではシンクロしてお前も戦え。場合によっては先程与えた任務を達成してしまえ」
「はい!」
マシロはオオタチのボールを取り出して額にあてた。
意識を女ヶ島に飛ばして眠り状態になったマシロの身体が力なく倒れて、コーラルに受け止められた。
「団長、コーラルは?」
「最重要任務だ。マシロの肉体を守れ」
「了解! じゃあ団長たちの邪魔にならないように別の部屋で待機してっから!」
コーラルはマシロの肉体を抱えて式場の新郎新婦の控室に移動した。
「…………………………あっ」
そう、結婚式が中止になって不満と苛立ちを募らせているコーラルが。
「ここ……密室じゃん……」
あろうことか密室で。
「誰かに見られてる時はしちゃダメ……だっけ?」
よりによって意識のないマシロと。
「あはははは……あはははははははははは!」
二人きりに、なってしまったのである。
◯
「くま君! 撤退だ!」
降り注ぐ軍艦からの砲撃と同時に上陸してきた五人の猛者たちの顔ぶれを認識した瞬間、レイリーは全力で叫んだ。
「お〜……形勢逆転だねぇ。逃さないよぉ〜」
「くっ……」
くまと二人がかりでボルサリーノを追い詰めていたレイリーはくまがバレットにかかりきりになったことで劣勢に転じていた。
「クハハ……久しぶりだな、麦わらぁ」
「ワニ! うっ!」
「隙だらけだ……クロコダイル貴様、本当にこの程度のルーキーに敗れたのか?」
クロコダイルに注意を向けたルフィの胸の中心を背後からモモンガが剣で刺した。
見聞色の覇気が使える者ならば容易に対応できる初歩的な奇襲でも、まだ覇気を使えないルフィには有効だった。
「忠告しておくが、海兵……そいつを甘く見ない方がいい」
「何? くっ!?」
「そのお方は貴様程度が触れて良い存在ではない!」
このままではルフィが殺されると思ったハンコックがモモンガ中将に蹴りかかった。
恐ろしい天竜人が全員女ヶ島から追い出されたことでハンコックは最低限の戦う気力を取り戻していたのだ。
それでも精神的な疲労は抜けきっておらず、本来の実力と比べれば弱体化が著しいため、命中すればその部位を石に変えて粉砕するハンコックの凶悪な蹴撃をモモンガはかろうじて回避できた。
「はぁ……はぁ……あぶねぇ!」
モモンガはルフィに剣の切っ先を突き刺した時点で飛び退いたため、ルフィは致命傷を受けなかった。
「……男嫌いで有名な女帝を味方につけたか。それに暴君、冥王……羨ましいもんだぜ。俺の組織にはろくな人材が集まらなかったってのによぉ」
クロコダイルはアラバスタ王国で麦わらの一味との抗争に動員できたかつての自分の部下たちを思い出した。
優秀な人材も多少はいたが、オカマの拳法家を筆頭にイロモノの方が多かった。
対して今のルフィの味方は七武海二人に冥王レイリーというのだから、さすがのクロコダイルも世の不公平を嘆かずにはいられない。
「サーブルス!」
クロコダイルのスナスナの実の能力によってすなあらしが吹き荒れ始めた。
「いでで! 見えねぇ!」
砂が目に入ってルフィはダメージを受けた。
「やめよクロコダイル!」
目を閉じて見聞色の覇気のみで周囲の状況を認知したハンコックが砂嵐を突破してクロコダイルに肉薄し、蹴り飛ばそうとした。
しかしハンコックの攻撃はクロコダイルに届かなかった。
「わりぃな嬢ちゃん」
「二人がかりであんたをやれって命令されちまったもんでな」
ハンコックを止めたのはフォッサとラクヨウだ。
この二人は白ひげ海賊団の隊長の中では弱い部類で、普段のハンコックが相手ならば瞬殺されかねないのだが、不調のハンコックに二人がかりであれば拮抗できるだけの力はある。
「貴様に石にされた部下たちの無念、ここで晴らさせてもらう!」
そこにモモンガも加勢に加わり、ハンコックはルフィを助けに行くことが困難になってしまった。
「クハハ……詰みだな麦わら。もう誰もてめぇに手を貸せねぇ」
レイリーも、くまも、ハンコックも手一杯となったところで、クロコダイルがルフィに勝負をしかけた。
ルフィにクロコダイルを倒した実績があるのは事実だが、それは仲間たちの助けがあって奇跡的に成立したものだ。
ルフィ単独ではまだクロコダイルに勝てるほどの力はない。
「シャウッ!」
さらにクロコダイルがロギア系であるのをいいことに、誤射を気にせずオオタチに憑依したマシロが周辺に散乱していた武器を拾って次々とルフィに投擲した。
ガープから徒手格闘全般ではなく投擲に絞って伸ばせと指導されたマシロは、廃棄された軍艦をサンドバッグ代わりにして殴打の訓練をするのが日課のガープや彼の教え子たちの真似をして、手持ち海賊のパールを的にした鉄球の投球練習を毎日するようになった。
練習を開始して日が浅いため腕力が劇的に向上したということはないものの、砲弾を素手で投げて海賊船を沈めるのが得意技のガープから正しい投球姿勢を教えられ、それを反復練習で身に染み込ませたマシロの投擲攻撃の威力は以前よりも確実に高まった。
そんなマシロが足りない腕力を覚醒したゾオン系能力者のオオタチの肉体で補えば……その攻撃力は億超え海賊の命すら脅かす。
「シャウッ! シャウッ!」
「うっ!」
マシロがなげつけた剣や矢などの凶器は高速かつ正確に飛来し、機関銃のように連射されるそれをルフィはついに避け損ねて膝を貫かれた。
武器を投擲する戦法で見事にルフィを追い詰めたマシロを見て、かつて多くの名のある賞金稼ぎを部下として集めていたクロコダイルの脳裏に現在の賞金稼ぎ界隈で最上位の実力者と目される『追剥』のジャン・アンゴの姿がよぎった。
偶然にもジャンが得意とする『妓配王』はマシロがしているように倒した敵の武器を奪って次の敵に投げつける技なのだ。
「手駒頼りの雑魚かと思えば、なかなかやりやがる」
いずれマシロの寝首をかこうとひそかに画策しているクロコダイルは、マシロがひと筋縄ではいかない相手だと知って心の中で舌打ちをした。
「なんにせよ、てめぇはここで終わりだ麦わら!」
クロコダイルの腕から突き出た三日月形の砂の刃がルフィの身体を通り抜けた。
砂の刃は命中した相手に切り傷を残さない代わりに体内の水分を根こそぎ奪い取る。
「ア゙……ア゙……」
干からびて骨と皮だけになったルフィが倒れた。
「クハハハハ!」
「シャウッ!」
「あぁ?」
油断するなクロコダイル、とマシロがオオタチ語で叫んだ。
「シャウッ! シャウシャウ! シャーウッ!」
そいつ絶対また立ち上がってくるから今すぐ確実にとどめをさせ、とマシロがオオタチ語でクロコダイルに命令した。
しかし人の言葉になっていなかったので命令は通らなかった。
「……?」
「シャウシャ! シャウシャシャシャウシャ!」
おバカ! 早くしないとまた姿を変えて復活しちゃうんだってば!
誰にも伝わらない言葉でそう叫んだマシロの懸念に反して、まだ心臓が正常な鼓動を刻んでいるルフィがフォルムチェンジして立ち上がることはなかった。
「にょ〜〜〜〜〜!」
その代わりに別の者たちが立ち上がった。
「わしらはロジャーと同じ時代を生き抜いたかつての九蛇海賊団! この程度で屈すると思うでないわ〜〜〜〜〜!」
女ヶ島の老婆たちは若い頃にロジャー海賊団と交戦した経験もある当時の九蛇海賊団の船員だ。
肉体が老化で衰えていても精神の在り方は当時と変わらず、天竜人たちが独学で修めた拷問程度で心を折られる軟弱者はひとりもいなかった。
「行きなよ若造たち!」
「ここはわしらが引き受けるからさ!」
「レイリー! あんたも行きな! シャクヤク先々代船長が待ってんだろ!」
老婆たちの捨て身の突撃の処理に海軍勢力が要した時間は一分にも満たなかった。
一般人からすれば短すぎる時間だったが、くまやレイリーのような人外の強者にとっては十分だった。
「神……」
レイリーが口にした、おそらく技名の一部であろう「カム」という二文字が聞こえた時点でオオタチの肉体が粉砕され、近くにいたクロコダイルも戦闘不能になった。
さらにレイリーの本気の一撃の衝撃は他の戦場にも到達し、敵味方問わず居合わせた全員を怯ませた。
「今だくま君!」
肉球で自分を弾いてまるで瞬間移動のような速度で駆け回るくまが救助対象をバルティゴに飛ばしていく。
ルフィを飛ばし、妹たちが閉じ込められたボールを持ったハンコックを飛ばし、若くても天竜人の感性で顔立ちが良くないとされたために捕獲されなかった九蛇の筋肉質で屈強な女戦士たちを飛ばし、レイリーを飛ばし……そして九蛇の老婆たちを飛ばそうとしたところでくまはボルサリーノに蹴り飛ばされた。
「ぐぁっ!?」
「光の速度で蹴られるのは初めてかい? くまぁ〜」
「黄猿……」
「欲張るのもいい加減にしときなさいよ。守る相手は手に収まる範囲にしとかねぇと、いつか全部取りこぼすよぉ」
ボルサリーノはすぐには追撃せず、悠長に会話をしながら今にもレーザーを放ちそうな光り輝く指先をくまに向けた。
「暴君よ! わしらは捨て置け!」
ニョン婆の覚悟の叫びが聞こえた瞬間、くまが自分をバルティゴに飛ばし、誰もいなくなった虚空をレーザーが通り過ぎた。
「お〜、困るねぇ……逃げられちまったよぉ。どうしてくれるんだい? ご老人」
「どうもこうもないわ! わしは先々々代九蛇海賊団船長グロリオーサ! 海賊と海兵が目を合わせたにょならば、やることはひとつしかないじゃろう!」
九蛇の老戦士たちと世界政府の尖兵が衝突した。
アマゾン・リリーという海賊国家がこの世から消滅したのは、それからすぐのことだった。
◯
「海賊女帝に持ってかれた奴隷にシンクロして行き先探せねぇの?」
女ヶ島の戦いの顛末を聞いたコーラルからそのような提案をされて、マシロは首を横に振った。
「シンクロは手元にボールがないと無理なんだ。ボア・ハンコックはボールごと二人の妹を持ち去ったから。しかも麦わらのルフィが一緒ってなると、もしかしたらもうボールから解放されちゃってるかも」
そこまで険しい表情で説明していたマシロが打って変わって笑顔になった。
「でもコーラルの作戦は名案だよ。あいつらが俺たちから海賊を助けようとするなら、捕まえた海賊をボールから出しておいて、わざと連れて行かせればいいんだ。コーラルは天才だね」
「あははは! もっと褒めろ!」
「ああ! コーラルはいつだって最高だぜ!」
コーラルを全力でおだてて気を良くさせたところでマシロは懇願する。
「だから……そろそろ着替えていい?」
「は? ダメに決まってんだろ」
レイリーに敗れて目を覚ますと、結婚式のために他の神の騎士団の者たちが着ているような黒い高貴な正装を着ていたはずのマシロはなぜかコーラルが着ていた白いウェディングドレスに着替えさせられていた。
しかもウェディングドレスはところどころが破かれていて、本来は少なかったはずの肌の露出面積が異常なほど増量されていた。
「なんでダメなのさ!?」
「そりゃマシロはいろいろ悪さしたからな。まず余興で失敗してコーラルとの結婚式を延期にさせたろ」
コーラルが指を折ってマシロの失態を数えていく。
「それは海賊たちのせいで……」
「あと余興にかかりっきりで式の間ずっと結婚相手のコーラルを放置してたろ?」
明確に自分が悪かった事案を指摘されたマシロが口を閉ざした。
「んでこれが一番の悪さだ」
「あっ」
下着姿のコーラルがマシロを床に押し倒して上から覆いかぶさった。
「いつもは男のふりしてるくせに、そういうかっこさせるとコーラルと同じくらいかわいくなりやがって! 口ではいやいや言っときながら身体で誘惑してくるマシロが悪いんだかんな!」
「〜〜〜〜〜!」
それからマシロがウェディングドレスを脱げたのは激しく損壊されたドレスが自然と脱落してからのことだった。
想定外の邪魔者の出現で結婚式が延期になってしまったマシロとコーラル。
深く触れ合って互いの愛を再確認した末にめげることなく一日でも早い挙式を目指そうと誓いあった二人と、その誓いの大きな障害として立ちはだかる革命軍との因縁はまだまだ続く!