海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第25話 VS マギー Ⅱ

 マリージョアにいられなくなったマシロとコーラルがマリンフォードに拠点を移してからというもの、センゴクは二人が島外に出ることを許さなかった。

 

「センゴクさん! 俺たち海賊を捕まえに行きたいです!」

 

「訓練ばっかじゃ身体がなまっちまうだろ! そろそろ実戦に行かせろよ!」

 

 マリンフォード内での生活に不自由はなかったが、海賊と戦う毎日に慣れてしまったマシロとコーラルは平穏な日々に物足りなさを感じてしまい、一週間と経たないうちにセンゴクに直談判して海賊討伐任務を求めた。

 天竜人であるコーラルはもちろん、たったひとりで海軍の戦力を倍増させているマシロも僅かな危険にさえ近付けてはいけない重要人物だ。

 二人の求めに対して不許可以外の答えを持ち合わせていないセンゴクは、しかし聞き分けが良いであろうマシロだけならばともかくコーラルがおとなしく従うわけがないと事前に察して妥協案を用意した。

 

「では元帥センゴクの名のもと大将白鼠に重要任務を与える! 大監獄インペルダウンに赴き、毎日二十人の囚人を捕獲! これを監獄が空になるまで続けろ!」

 

「はっ!」

 

「は? 囚人がマシロのもんになんのはいいけどなんで二十人ずつなんだよ? 時間かかんだろ」

 

 天竜人になっても大将は元帥の命令に従うものだと認識しているマシロは何も考えることなく命令に敬礼で返した。

 一方で生粋の天竜人のコーラルは元帥の命令であっても躊躇なく文句をつけた。

 

「コーラル宮、どんな形であれ監獄から囚人を出所させるには複雑な手続きと大量の公文書の作成が必要になります。二十人が無理なく対応できる限界です」

 

 頭が回るセンゴクは即興で人数制限の根拠をでっちあげた。

 

「はぁ? そんなの無理してでもやらせ……」

 

「コーラル」

 

 コーラルが喚き立てた際、彼女を無理に説得する必要はない。

 いつも一緒にいるマシロさえ納得させてしまえば後は勝手に抑え込んでくれるのだ。

 

「あーはいはいわーったよ! でも強いやつ優先な! それか能力者!」

 

「ええ、こちらで厳選いたしますのでご安心を」

 

 このような経緯でマシロとコーラルは囚人受け取り係に任命され、一年間はその任を解かれないはずであった。

 しかし、運が良いのか悪いのか、その仕事は初回で終わることになる。

 

「ぎゃははははは……は? あの二人は……!」

 

 移動に時間をかけたくないという理由で軍艦による送迎を断りシキの能力で飛行船に変えたラプラス号に乗ってインペルダウンへと空を飛んだマシロが見たものは、苦悶の表情で息絶えた無数の監獄職員の遺体と、下品な声で笑う返り血に染まった囚人たちであった。

 

「センゴクさん。インペルダウンで多数の囚人が脱獄。内部の状況不明。救援を送ってください」

 

「はっ? 待て、下手に動かず待機し……」

 

 電伝虫で上官であるセンゴクに簡潔な状況報告を済ませたマシロは通話を打ち切って囚人たちに勝負をしかけた。

 

「エアスラッシュ」

 

「斬波ぁ!」

 

 白ひげの地震はまだ内部に生存している職員が残されているかもしれない監獄を崩壊させてしまうため、マシロはシキの飛ぶ斬撃で見える範囲の囚人の首を落とさせた。

 それと同時に囚人たちが乗り込もうとしていた船も沈めさせておいた。

 

「あぁあああ! クイーン・マギーが!」

 

「いかん! 全員獄内に下がるガネ!」

 

「逃がすか!」

 

 ラプラス号を誰にも奪われないよう海面ではなく高い外壁の上に着地させた後、慌てて引き返す残りの囚人を追ってそのままインペルダウン内に突入したマシロは途中で脱獄の首謀者とされる赤い鼻の女の頭を蹴り飛ばしたことに気付かなかった。

 

「固まっていてはいい的だガネ! 散らばれ!」

 

 迷路のようなインペルダウン内の構造を知っている囚人たちは散り散りに逃げて狙いを定めさせず、やがてマシロは敵を見失った。

 

「いったん止まれマシロ」

 

 闇雲に探し回っても不意打ちを受けるだけだと判断したコーラルが冷静にマシロの手を掴んで引き止めた。

 

「こうなっちまったらひとり追ったとこで他の奴に逃げられる。捕り物すんなら先に出口固めてからだ」

 

「……そうだね。コーラルの言う通りだ」

 

 頭に血がのぼっていても正しい意見を聞き入れられるだけの素直さがマシロにはあった。

 

「ニューゲート。出口を守れ」

 

「グラララ……俺の能力は建物内じゃ使いづれぇからな。了解だ」

 

 屋内戦闘に不向き、かつ単独で残しても誰にも負けないであろう白ひげをマシロは門番として残すことにした。

 

「他のみんなは……味方生存者の捜索と救助を最優先で。敵海賊は襲ってこない限り無理に倒さなくていい」

 

「「おや、海賊をお見逃しあそばされるとは珍しいですな。よろしいので?」」

 

「ああ。生存者の救助が完了次第、外壁に穴を開けて監獄ごと海に沈めるから」

 

「ジハハハハハ! 容赦ねぇな! 早めに脱獄しといて良かったぜ!」

 

「発見した味方生存者はレベルツーまで運べ。そこでマルコに応急処置をさせる」

 

 マシロは下僕だけをインペルダウンの下層に向かわせて、自分は護衛役のコーラルに加えて白ひげ海賊団の船医だったマルコと一緒に最上層からひとつ下のレベルツーで待機することにした。

 レベルスリー以下は暑かったり寒かったりで負傷者の治療に向いておらず、またマシロ自身が環境ダメージに耐えられない可能性があるためだ。

 

「あとブラメンコは遺体を……いや、いい。生きてる人を優先する」

 

 味方の遺体まで海に沈めてしまうのは不憫だと思ったマシロであったが、考えなければいけないのはまだ助けられる人だと思い直して頭を横に振った。

 

「最後に、救助活動は一時間で切り上げとする。みんな、行け!」

 

 マシロの命を受けてシャム、ブチ、パール、チュウ、チェスマーリモ、オオタチ、シキ、ブラメンコの八人からなる救助隊が出発した。

 

「こういう状況になると雑魚でも数揃えとく必要性を実感すんな」

 

「……だね」

 

 一日でも早く海賊をこの世から消し去るためにと海兵たちに捕まえた海賊のほとんどを貸し出していたマシロの手元に残されているのは最低限の人員だけだ。

 少し前であればもう少し残っていたのだが、それもしばらくはインペルダウンで囚人を引き取るだけで戦闘の機会はないはずだからと貸し出してきてしまった。

 たった八人で捜索をしても救出できる人数はたかが知れているだろうと覚悟してマシロは悔しそうに目を伏せた。

 

「そう落ち込むなよい」

 

 海賊でありながら比較的善良な白ひげ海賊団一番隊隊長マルコはマシロに慰めの言葉をかけた。

 

「あんたがいなきゃ囚人たちは脱獄してたんだ。それを防いだことが死んだ看守たちへの最大の報いだよい」

 

「え……」

 

 マルコの表情からそれが取り入るための心にもない甘言ではなく本心からの言葉だと感じて、マシロは唖然とした。

 

「脱獄が成功してた方が嬉しかったんじゃねぇの? お前も海賊だったんだから、海軍の失敗は好都合だろ」

 

 言葉を失ったマシロが抱いている疑問を察したコーラルが代わりに尋ねた。

 

「エースの命がかかってたから戦争になっちまっただけで、俺もオヤジも本来は海軍に敵意なんて持ってねぇよい。それに、ここに捕まってるような連中が解放されたら、今度は俺たちが縄張りにしてた島を襲ってたかもしれねぇ」

 

 この大海賊時代において海軍に守ってもらえない世界政府非加盟の島々は自ら進んで海賊の縄張りにされることによって身を守っている。

 食料や金銭と引き換えに強力な海賊団から海賊旗を借りて、その威光によって他の海賊を追い返すのだ。

 

「海軍じゃなくて海賊に守られてる島……か」

 

 海賊に物資や金銭を供与した時点で海賊と同罪だ。

 少し前のマシロであればそう認識していたかもしれないが、海軍の内情を知った今は違う。

 海軍は慢性的な人手不足で、際限なく湧いてくる海賊の全てに対応できなかった。

 だから海軍の手が届かない島に生きる者たちは自衛のために海賊の縄張りにされることを甘んじて受け入れる他なかったのだ。

 その苦渋の選択を責めるほどマシロは徹底していない。

 

「これからは海兵として俺がしっかり守っていかないとな。これが終わったらそういう島の防衛に俺が捕まえた海賊を使えるように手配するよ」

 

「へへ……頼もしいよい」

 

 海軍が人手不足だったのはマシロが入隊する以前の話だ。

 もはや必要悪は必要ない。

 マシロの力で海賊の縄張りにされている島々を解放し、一刻も早く海賊に奪われている物資や金銭を本来あるべき場所に……すなわち世界政府に納めさせなければならない。

 

「俺が世界中の全部の島を世界政府に加盟させて、非加盟国の悲劇なんてものをなくしてやる!」

 

 不思議とそうすることが自分の使命だと思えてならないマシロは、そのためにも落ち込んでなどいないで早くインペルダウンの問題を解決してしまおうと前を向いて走り出した。

 

          ◯

 

「ハン……ニャバル……」

 

 血と内臓の破片を口から垂れ流しながら署長室からどうにか這い出たマゼランが見つけたものは、自分の後任にするならば他にいないと確信していた最も大切な部下の生首であった。

 クソ漏らし署長の座を狙いし者、念願叶いクソ山の頂に座す(笑)。

 石の床に傷をつけて書かれたその文章の奥には囚人たちが監獄職員たちの腹を裂いて引きずり出した人糞が山のように盛られていて、インペルダウン副署長ハンニャバルの生首はその上に乗せられていた。

 

「バカ者め……なぜ逃げなかった……」

 

 ハンニャバルの表情は死後に囚人たちの手で無理やり変えられたのか歪な笑顔で固まっていた。

 マゼランは手に汚物が付着することをいとわずにハンニャバルの生首を拾い上げて、その瞼を優しく指で閉じた。

 

「こんなになるまで……何かあれば俺に全責任を押し付けて逃げると……いつも言っていたくせに……」

 

 たとえ見ていなくてもハンニャバルは最後まで敵に背を向けず戦い抜いたのだとマゼランには分かった。

 

「……お前の犠牲、無駄にはしない」

 

 マギー玉によって内臓を焼かれたマゼランはもはや助からない。

 しかし死ぬ前に悪あがきができるだけの気力は今しがた部下から与えられた。

 

「誰ひとり……ここから出しはしない!」

 

 いつもは絶え間なく聞こえてくる拷問される囚人たちの悲鳴が消えていることから大規模な脱獄が起きていると推測したマゼランは、どれだけいるか分からない味方の生存者に心の中で謝りながら最終手段を行使することにした。

 

「地獄の審判」

 

 マゼランの身体からドクドクの実の能力で作り出せる最強の猛毒が分泌されようとしていた。

 無機物さえも侵すこの毒は能力者に共通する弱点の海水に触れるまで無限に浸透と拡散を続け、床も壁も一面を毒で染め上げ、やがてインペルダウン内にいる全ての生物を敵味方の区別なく被毒させてしまう。

 

「それは檻ン中の俺も死ぬって分かっててやってんだよなぁ?」

 

 しかしマゼランがその毒を出すことはなかった。

 

「貴様……! シ……」

 

「切り捨て御免」

 

 目にも留まらぬ早業でマゼランの頭部を切り落とした、『雨』の異名を持つ男の名はシリュウ。

 インペルダウンの看守長でありながら自分の娯楽のために囚人を殺し過ぎて最下層レベルシックスに投獄されていた宣告猶予中の死刑囚だ。

 

「ゼハハハハハ! 見事に殺しやがったな! 仮にも同僚だった奴をよぉ!」

 

 遅れて姿を現した毛深い男は元王下七武海、『黒ひげ』マーシャル・D・ティーチだ。

 

「殺されるぐれぇならそりゃ殺すだろ」

 

「ゼハハハ! 違ぇねえ!」

 

 住人のほとんどがマシロに捕獲され、もぬけの殻に近い状態だったレベルシックスに残されていたシリュウとティーチ、そしてもうひとりの海賊は、解放したところで制御できずに牙を剥かれるかもしれないと恐れたマギーの指示により獄中に置き去りにされるはずだった。

 それを海軍大将という最大の脅威に対抗するために直通エレベーターでレベルシックスまで逃げ込んだギャルディーノが解き放ってしまったのだ。

 

「それより……やらねぇのか?」

 

「お前がよけりゃ今すぐにやるさ。いいんだな? 後から変更はできねぇぞ」

 

「これ以上の能力はそうそうねぇだろうよ。なんたってお前の仲間を皆殺しにした能力だ」

 

 悪魔の実は能力者が死ねば再び世界のどこかに出現し、それを食した誰かがその能力の継承者となる。

 それが能力者誕生の原則だが、実は悪魔の実を経由することなく能力を継承する方法もいくつか存在する。

 そのひとつをティーチは知っていて、それを実現するための能力も有していた。

 

「ゼハハハハハ! それも違ぇねえ! じゃあ……やるぞ!」

 

 この世界にドクドクの実の新たな能力者が誕生したのは、ティーチがマゼランの遺体に手を伸ばしてからすぐのことだった。

 

          ◯

 

「……えっ?」

 

 あのシルバーズ・レイリーと互角に戦えるシキがボールに強制送還されてきた。

 

「救助活動中止! 今すぐ脱出して、すぐにインペルダウンを沈めるぞ!」

 

 ほんの一瞬呆然としたマシロは、すぐにシキを倒せるほどの脅威がインペルダウン内にいるという事実を認めて獄内からの脱出に動き出した。

 

「マルコ! 鳥になって俺とコーラルを背中に乗せて出口まで空を飛べ!」

 

「了解だよい」

 

 トリトリの実モデル『不死鳥』の能力者であるマルコは飛行が可能だ。

 

「あの間抜けジジイのことだし、レベルファイブの凍土でうっかり足滑らせて頭打ったとかじゃねぇの?」

 

「そうだといいけど、そうじゃないかもしれない。確か一番下の階には七武海が二人もいたはずだし、普通に戦って負けてても全然不思議じゃない」

 

「……そうだな。マシロに万が一があっても困るしな」

 

 広範囲を飛び回れない壁と天井に囲まれた屋内環境による弱体化を考慮してもシキを倒せる者がいるならば最大限の警戒をするべきだ。

 最初にシキと戦った時の苦労を思い出したコーラルもマシロの考えに同意した。

 

「おら急げパイナップル! マシロをさっさと安全な場所に運ぶんだよ!」

 

「言われなくてもやって……」

 

 コーラルの暴言に辟易するマルコが急に目を見開いた。

 

「下から来るよい!」

 

 マルコが叫びながら急停止するのと同時に紫の液体が床を突き破って噴水のように噴き出してきた。

 

「大将白鼠ってのはどいつだ?」

 

 さらに紫の液体の流れに乗って飛び出してきた男がいた。

 それは新たにドクドクの実の能力者となったシリュウであった。

 

「まあ、全員殺せば関係ねぇか」

 

 シリュウは腹に力を入れて口から麻痺効果のあるどくガスを吐き出す体勢をとった。

 剣技のみでマゼランと並んでインペルダウン最強とされていたシリュウがマゼランの強さの大元だったドクドクの実の力を手に入れたのだ。

 その戦闘力を十全に発揮できれば大将の命にすら剣が届いて当然だろう。

 

「…………………………あっ」

 

 ただしそれは未来予想でしかなく、悪魔の実の能力を手に入れたばかりの今のシリュウにはあてはまらない。

 あの麦わらのルフィでさえも悪魔の実を食べてゴムの身体になってから当面の間はその柔軟性のせいでまっすぐにパンチを打てなくなっていた。

 シリュウも同じだ。

 ドクドクの実がもたらす最大の問題、すなわち万年下痢体質との付き合い方をシリュウはまだ確立していなかった。

 雨のシリュウ改め毒雨のシリュウ四十二歳は物心ついて以来初めての便失禁に目の前が真っ暗になり、硬直した。

 

「アイアンテール!」

 

「オングル!」

 

 その隙を突いてコーラルが剣でシリュウの首の動脈を断ち、マルコが鳥の足の鉤爪でシリュウの腹を引き裂いた。

 

「ゼハハハハハ! おいシリュウ! そろそろ終わったか!」

 

「行け! 監獄ボール!」

 

 正規の階段で下層から上層に上がってきたティーチが追いついてきたのはマシロがシリュウを捕獲したまさにその瞬間であった。

 

「知らない囚人、ゲットだぜ!」

 

「登場派手だったわりに雑魚だったな! ……で、お前はこいつの何だよ?」

 

「ん? ティーチじゃねぇかよい」

 

 気配を隠しもせずに大声を出して登場したのだから、ティーチの存在は当然マシロたちに認知されていた。

 

「お前、よく俺の前にその面出せたよい」

 

「ゼハハ……つれねぇこと言うなよマルコ隊長。俺たちは家族だろ」

 

 殺意をみなぎらせるマルコにティーチが冷や汗をかき始めた。

 マルコだけならば問題なく勝てる自信があるティーチは、不確定要素となる実力不明のマシロとコーラルの力量を見定めようと視線を送った。

 

「元七武海の奴か……ならシキのジジイを殺ったのはお前か?」

 

「コーラル! 全力で行こう!」

 

「おう! メガシンカ!」

 

 急成長したコーラルをひと目見ただけで最大級の脅威だと見抜いたティーチは真っ向勝負による勝利を諦めた。

 

「リベレイション!」

 

 ティーチはヤミヤミの実の能力者で、身体から展開する闇にあらゆるものを引きずり込み、また自由に放出する。

 レベルフォーで事前に闇の中に入れておいた囚人の血が混ざり込んで赤く染まった拷問用の煮えたぎる熱湯をマシロたちに向けて放出したティーチはそれを目眩ましにして逃げ出した。

 

「マルコ、まもる!」

 

「不死薊!」

 

 マルコが出した円形の炎の壁のおかげでマシロが熱湯を浴びることはなかったが、発生した蒸気によりティーチの姿を見失った。

 

「ゼハハハハ! じゃあなマルコ!」

 

 再び捕捉した時にはかなり遠ざかっていたティーチは上層への階段を目指しているようであった。

 

「あっ……お前、そっちに行ったら……」

 

 上で誰が待ち構えているか知っているマルコは見聞色の覇気を使うまでもなくこの先の展開を予見できた。

 

「うぎゃああああああああああ!」

 

「言わんこっちゃないよい……」

 

 船員たちを息子と呼んで愛する白ひげが、家族である海賊団を裏切って仲間を害したティーチを許すはずがないのだ。

 

「マルコ、早く俺たちを上まで運べ。あいつが死ぬ前に捕獲しないと」

 

「……あんなのいるのかよい?」

 

 マルコとしてはティーチがマシロに捕獲されて生きながらえるのは気分が悪いことだ。

 

「お前らの内輪揉めなんて俺には関係ない。戦力になるなら捕まえるだけだ」

 

「……なら、せいぜいこき使ってやってくれよい」

 

 しかしマシロに命令されてしまえばマルコの意思は関係ない。

 マルコは再びマシロとコーラルを背中に乗せて白ひげとティーチの交戦地点まで急行した。

 

          ◯

 

 シキによって頭と身体を泣き別れさせられてもマギーは死んでいなかった。

 マギーはバラバラの実の能力者であり、自分の意思で身体を細かく分離してある程度の距離まで自在に飛ばし、またいつでも元通りに繋げることができる。

 この能力の強みは敵の攻撃で身体を切断されても自分の意思で分離した場合と同様に操ることも繋げることもできるという点にあり、切断という結果をもたらす攻撃であればロギア系の無敵性を突破してダメージを与えられる武装色の覇気を纏ったものであっても完全に無効化できるのだ。

 

「ニューゲート。出口を守れ」

 

 落ちた頭部をわざと身体に戻さず死んだふりを始めたマギーはマシロたちがいなくなった後でその場を離れるつもりだった。

 しかし背後に白ひげが陣取ってしまったせいで身動きが取れなくなり、脱出の機会が掴めないまま時間だけが浪費され、ついにマシロたちが戻ってきてしまった。

 

「あぁ!? こいつまで捕まえんのか!?」

 

「ニューゲートのそんなに嫌そうな顔初めて見た」

 

 ずっと白ひげの近くで気付かれないように息を潜め続けるという恐怖の時間で精神をすり減らしていたマギーは、海軍大将という弱いはずのない存在までもが増えたことで自暴自棄になり、無謀な行動に出た。

 白ひげに薙刀で斬り刻まれて痙攣するだけの肉塊となったティーチにマシロたち全員の注意が向いたその瞬間、マギーはナイフを持った手を身体から分離してマシロの脇腹に向かって飛ばしたのだ。

 

「いたっ! ……はぇ?」

 

 そしてそれは誰にも阻まれることなく進み、マシロの柔肌にナイフを突き刺した。

 

「マシロ!?」

 

「なんだこの手は!? どこから……」

 

 見聞色の覇気によって寝ている時でも敵襲を察知し反撃できる白ひげでさえもマギーの奇襲には気付けなかった。

 たとえ脅威を感じ取る見聞色の覇気を極めていたとしても、吸血のために近付いてくる虫けら程度をわざわざ脅威として察知するようなことはしない。

 白ひげにとってマギーは蚊にすら遠く及ばない存在だった。

 しかしマシロにとっては蜂だったのだ。

 

「ぐ……おおおおお!」

 

 さらにティーチが残された最後の力を振り絞って立ち上がり、暴れ出したことでますます場は荒れた。

 

「お前らマシロを守んぞ!」

 

 刃物で刺される痛みに慣れていなかったマシロは脂汗を流し、呼吸を荒くして青ざめた顔でうずくまってしまった。

 そんなマシロを絶対に守らなければならないコーラルたちが攻撃よりも防御に意識を切り替えたことでマギーとティーチは死地からの逃げ道を見出すことに成功した。

 

「な……逃げんなてめぇら!」

 

 負傷したマシロを放り出せないコーラルは怒鳴り散らすだけで逃げる敵を追いかけることができなかった。

 白ひげやマルコも同様だ。

 

「俺が応急処置をするよい!」

 

 どれほどティーチが憎くても、死ねば自分たちや大切な家族の命をみちづれにするマシロを放置して追撃などできるはずがなかった。

 それからマルコの迅速な処置によりマシロの傷は問題なく回復したが、マシロは激痛のため動き回れそうになく、予定通りインペルダウン内に海水を流入させて内部の脱獄者たちを溺死させることになった。

 

「マルコ。さらに高みへ、大空に浮かび上がれ」

 

 強制送還直後でもテラスタルと名付けた能力シェアの能力提供側としての使用は可能だ。

 インペルダウンの外壁上に乗せておいたラプラス号までマルコの背に乗って移動した後、マシロは白ひげよりも飛行能力慣れしているであろうマルコにフワフワの実の能力を付与した。

 

「ニューゲート、じしんいっぱい」

 

 その力で浮遊船になったラプラス号の上からマシロは白ひげに複数回の攻撃を指示した。

 地震により外壁が破壊され大穴をあけられたインペルダウンに、こちらもまた地震の影響で生じた津波が押し寄せた。

 やがてインペルダウンが完全に水没したのを見届けたマシロは、インペルダウン内に置き去りにした仲間たちが魚人のチュウを除いて強制送還されたことで他の囚人たちも全滅したと判断し、海軍本部へと撤退したのであった。

 

          ◯

 

 マシロたちが去った後、インペルダウンにひとり残されたチュウはとある魚人と向き合っていた。

 

「チュッ♡ ジンベエさんよぉ……あんた、自分が何してんのか分かってんのか?」

 

 チュウが相対しているのは元王下七武海であるジンベエザメの魚人、『海侠』のジンベエだ。

 チュウとジンベエは同じ魚人島の出身で、さらに一時期は同じ海賊団に所属していた顔なじみであった。

 

「無論じゃ。わしぁ彼女に付いていくと決めた」

 

 ジンベエの背後には巨大なジンベエザメの群れがいて、その背中にマギーやギャルディーノ、ティーチを含めた多くの囚人を乗せていた。

 

「ゼハハハ! 頼もしいぜ。まさかお前ほどの男が仲間になってくれるとはな」

 

「黙れティーチ! 貴様の仲間になったつもりはないわ!」

 

 ティーチを怒鳴りつけたジンベエはその隣で身を縮めて存在感を消そうとしているマギーに視線を移した。

 

「ネフェルタリ・D・マギー。わしぁあんたの目的をギャルディーノから聞いた。天竜人の支配からこの世界を解放することじゃと」

 

 水責めから助けられておきながら今さら嘘だと言えるはずのないマギーは首を激しく縦に振った。

 

「わしもかつては天竜人の所業に怒りを燃やした身じゃ。力ではなく知恵と勇気で史上初のインペルダウンへの侵入を果たし、さらには囚人の解放を達成寸前までやり遂げたマギーに夢を見て何が悪い」

 

「変わっちまった……いや、昔に戻ったみてぇだな」

 

 政府の犬とも呼ばれる七武海の座に甘んじていたジンベエも、若い頃は倒した海兵に過剰な暴行を加えるような過激な海賊だった。

 その頃を思い出してジンベエが残虐な囚人を手助けしたことへの違和感を解消したチュウは、かつての頼れる仲間を明確なマシロの敵と認識して敵意をあらわにした。

 

「ジンベエ! そして脱獄囚ども! お前ら、いったい何なんだ!?」

 

 何だかんだと聞かれたら、答えてやるのがかつての仲間としての情けだ。

 

「わしらはデービー・バック・フリート! 伝説の海賊の名のもとに、この世界を天竜人から奪い取り! そして正統なる王家のマギーに返還する! そのための連合艦隊じゃ!」

 

 かくしてインペルダウンの囚人たちは世界に解き放たれた。

 罪なき人々がある日突然に海賊の襲撃で愛する者を失う、恐怖の大海賊時代はまだまだ続く!

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